俺が転生した世界はどうやら男女比がおかしいらしい

めんたま

単閑話 とある女子高生

ガタンガタン...
ガタンガタン...

眠い...。

電車が線路を走るお馴染みの音をBGMに今日も私は座席に座りながらウトウトする。
最近朝の電車の時間を早めたため授業中の居眠りが増えた気がする。

ダラシなくなったなあ。まあ、うちの高校に男子はいないから別にダラシなくても大丈夫なんだけど。

そう、何を隠そう私の高校は女子校だ。亡者の掃き溜めみたいな所だよ、女臭い。女子校なんて需要がないものを誰が考案したんだろうか。いや、私が通ってる時点で需要はあるんだけど。男子とお近づきになれないというのはかなりのストレスを蓄積する主因となってしまうんだよねぇ。

なぜ私が女子校なんてものに通うことになったのかというと、ぶっちゃけ行きたかった高校に落ちたからだ。行きたかった高校っていうのは春蘭高校のこと。私は、中学生の早い段階から志望校は春蘭高校と決めていたのだ。主な理由としては、やはり男が挙げられる。なんでもかなりイケメンの生徒会長がいるという噂を聞いたのだ。どうしても春蘭に行きたくなった私は猛勉強をした。けれど、届かなかったのだ。あそこ偏差値高いんだよね。結果、滑り止めとして受けた今の高校に通っているというわけだ。

当初はかなり落胆したものだ。春蘭を夢見て共に受験勉強をし、共に落ちた友人と合格発表の時悔しくて悲しくて号泣したのを鮮明に覚えている。
最初の1年は正に抜け殻のように日々を過ごしたもんだよ。希望を失った人間ってのはああなるんだね。世界の色が褪せて、感情の起伏が乏しくなっていたと思う。それくらい私にとって男というのは日々を生きる糧だったのだ。幸いにも同じ電車に春蘭高校の生徒が乗るため、駅で男子生徒を見かけることが多かったのが私の命を繋いでいた。まあ男の子はみんな男性専用車両に乗るから駅のホームでしか目の保養にはならないんだけど。

そんな私に訪れた転機は忘れもしない今年の4月。気持ち良いくらい晴れ渡った日だった。あの日は委員会の仕事がありいつもより早い時間に乗ったのだ。私は心の中で委員会に文句を愚痴りながら電車に乗り込み、定位置に座った。それからしばらくして、人が多く乗り込む駅に着いた。私は陰鬱になりそうな心を無理やり奥底に沈め、目を瞑った。人が一気に流れ込む気配がした。女の汗の臭いが体にまとわりつく。この瞬間が私はとても嫌いだった。

ああ不快。小蝿が近くを飛び回っていることに感じるのと似たような感情を覚える。正に同族嫌悪というやつか。私も小蝿と差して変わらないのだ。

私は顔をしかめた。
私の高校の最寄り駅に着く迄の間、この空間に居続けなければいけないのか。
心が重りをつけられたように沈む。

はあ.....

私が溜息をつこうとした瞬間、


「ッ!?」


....なに?この香り。

私の嗅覚が、女とは明らかに違う芳醇な匂いを捉えた。

.....かぐわしい。甘く、何故か少し切なくなってしまう極上の香りが私の心を、その日の空のように晴れ渡らせる。

...男だ。これは男の匂いだ。

私は確信した。男を欲し続けてきた私が間違えるはずはない。
一般車両に男が乗り込むとは、幸運な日もあったものだ。私は委員会に感謝を捧げた。

この魅惑の香りを放つ発生源は何処に...?

私は目を開き辺りを探ろうとする。

が、目を開け真っ先に視界に飛び込んできたのは、夢にまで出たあの春蘭高校の男子制服。間違いない。

〜ッ!!目の前だ!!

グッと小さく拳を握る。天は私を見放しては
いなかったようだ。

男が、私が座るちょうど目の前につり革を掴み立っている。

ふ、ふふ。よしいよいよ次はご尊顔を拝見させてもらおうか。
イケメンなら尚良しだ。
今夜のオカズ決定。

私は心臓をバクバクさせながら、そ〜っとバレないように視線を上に移行させる。

私の視線がシャツの襟を捉える。

ふぅ...。
よしよし。
も、もうちょっとで見え.....





ーーーーーーその瞬間、時が止まった。







........あぇ?

私の脳が再び起動したのはそれからどれくらい経った頃だっただろうか。

比喩ではなく、私の脳があまりの衝撃により動作を放棄したのだ。
ありえない、私の脳がそう言っている。

そう、ありえないのだ。こんな...こんな。
私の語彙力では表現できない。

ベースは黒色で先だけ銀色の艶々の髪、正に黄金比率と言わんばかりの配置の顔のパーツはそれぞれが芸術作品と見紛うほどの美しさ。それらが互いに調和し、あり得ないほどの美が顕現している。


.....天使?


その言葉しか出てこない。反則だ。理不尽だ。ルール違反だ。常識を逸脱している。

私は天使から視線を外すことが出来なかった。外したくなかったのではない、外そうとしても、外せないのだ。まるで視線に質量ができ、それをガッチリ掴まれてしまったみたいに。

やばい、私ガン見だ。
こんなに見つめたらさすがに気付かれちゃうよ。

早く、視線を外さなければ。
なのに、金縛りにかかったみたいに私の眼球は動かない。

早く、早く!

焦る私だが現実は非情で。


パチッ


天使とばっちり目が合ってしまった。


「あっ....」

しかも声を出してしまった。

ヤバイ!ヤバイよ!何見てんだよブスって怒られる!?もしかして警察に通報!?ヤバイヤバイヤバイ!

冷や汗が止まらない。
私はビクビクしながら天使の視線を受け止めるしかできなかった。

しかし私は次の天使の行動に、目を見張った。



ニコッ



ーーーーーー笑ったのだ。

それも少し目を細めて、とても優しげに。


私の脳は、再び時を止めた。


それからの事はあまり覚えていない。
呆然としながら学校に行き、友達に話しかけられてから初めて正常に戻った。
学校に行くまでの間、天使の笑顔が脳にこびりついて離れないのだ。
それぐらい衝撃的で、美しかった。


私は次の日から朝の電車の時間を早めた。
もちろん天使を見るためだ。

天使は、いた。
しかもまた私の目の前に。

テンション爆上がりです。
どうやら、天使の定位置は私の定位置のちょうど目の前みたいだ。
こんなに幸せなことがあるだろうか?

その次の日も、また次の日も私は天使に出会った。
私はいつも不躾に見てしまうんだけど、天使はいつも笑顔でそれに応えてくれる。

私は天使の名前も、声も、性格も、何もかも分からないけれど。
天使の笑顔が優しくて、カッコよくて、最高なんだってことは誰よりも知ってる。

天使は一体どんな人で、どんな生活をして、どんな人生を歩んできたのか。それらを知りたい気持ちは確かにあるけれど、私は現状の天使との関係が大好きで。心地良い「今」を手放したくない。「今」をもう少し堪能したら、話しかけてみてもいいかもしれない。
それまでは、どうかこのままで。



あ、ほら天使がまたこの車両に乗り込んできて私の前に立った。
今日もあの笑顔を見せてくれるのだろうか。
楽しみすぎて私まで笑顔になっちゃうよ。



ーーーー私の世界は、明るく彩っている。



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