俺が転生した世界はどうやら男女比がおかしいらしい

めんたま

恵令奈さんとのデート 仁視点

「そんなに私に会いたかったのかなあ?ねえ仁くん?」

俺は今絶賛窮地に立たされている。
ある人物に追い詰められているのだ。由々しき事態である。その人物とは近藤恵令奈さん。年上の正に頼れるお姉さんといった美人さんである。
そんな人物に今俺は屈しそうだ。

「んん〜?」

うっ....こんな美人さんがニヤニヤしながらにじり寄ってくるこの現状に尻込みしてしまう。

「い、いや、そういうんじゃなくてですね!」

「じゃあどういうことなのかな?」

「えっと、周囲の視線に耐えられなかったので、早く来てくれないかなって....」

俺は何とかそう絞り出すことができた。
これでこの猛攻も終了を告げるはず!
そう考えたのだが、現実は甘くなかったようだ。

「なるほどなるほど。つまり、私を求めていたということだね?」

言い方が!確かにそうなんだけど....言い回しを変えるだけで違う意味に聞こえてしまう。

俺はこの時初めて、年上のお姉さんには敵わないのだと悟った。今まで同年代とばかり接してきたから(母さんは例外)俺主導で物事を進めてこられたのだが、ここにきて初めてはっきりと主導権を握られている気がする。

「.....そういう、ことです」

結局、こう言う選択肢しか俺には残されていなかった。

「そっか!....ふふ、そっかそっか」

俺の答えを聞いて、恵令奈さんは本当に嬉しそうに笑う。
俺はそれを見てこの人はこんな風に笑うんだなあと漠然と思っていた。
とても可愛いです。

「ほ、ほら周りの人に注目されちゃってますし行きましょう?」

このままではこの人の魅力に取り込まれそうな気がしたため俺はそれを誤魔化すように恵令奈さんを急かす。
俺はハーレムを作るのだ。取り込まれるのではなく、取り込む気概で行かなければ、作り得ない。

「ん、そうだね行こっか。...ふふ」

...今の笑みはどういう意味を孕んでいるのだろうか。本当にこの人には全て見透かされていそうだ。

...このままでは負けてしまう(?)ぞ俺。此処はこちらから攻めるべし!!
そうと決まれば。

「じゃあ、デートなんで手でも繋ぎましょうか。はい、どうぞ」

そう言って俺は慣れてる風に手を差し出す。
俺は受け身ではなく、こちらから積極的にいくことにしたのだ。
大体の女の子はこんな事をされれば顔を赤くするはず....!


「ん?あ、そうだね。はい」

しかし何ということだろう。恵令奈さんはさも当たり前のように俺の手を取りギュッと握り締め、余裕淡々といった雰囲気で歩き始めたのだ。

何だと!?

恵令奈さんの態度とは打って変わって、俺は内心焦っていた。

全く動じないじゃないか....。
まさか男性経験豊富だったとか....?まずい、似非モテ男の俺のテクニックでは、本物を陥落させる事なんてできないぞ。

だが、俺は諦めない。恵令奈さんのような素敵な女性を手放すなんて出来るはずがない。
次の手段へ出る事にした。

「どこに向かってるんですか、恵令奈さん?お昼前だから昼食ですか?」

俺は少し猫撫で声を意識しながらそう言い、それと同時に素早く恋人繋ぎに移行。
俺の攻めはそれでは終わらない。さらに恵令奈さんの方に幅を寄せ、ピタリと体をくっ付けた。
周囲で俺たちを興味深そうに見ていた女性達から悲鳴が上がるが、仕方ない。許してくれ。
前世ではこういう事は主に女性の方からやっていたイメージがあるが、こっちの世界では男性がこういう事をするととても喜ぶと昨日ネットで見た。
やってるこっちまで恥ずかしいが、背に腹は変えられまい。

ふ、ふふ....これは勝った。
貞操観念が違うこっちの世界で俺のような美少年にこんな事をされて正気を保っていられる女性など居るまい!
恐らく恵令奈さんは顔を真っ赤に染めてアウアウ言っているに違いない。

そう考えた俺は、ニヤニヤしながら俺より少しだけ背の高い恵令奈さんの顔を俺はそーっと覗き見る。


恵令奈さんは......




ーーーースマホをいじっていた。


.......。

....どうしてっ!!!
どうして美少年とのデート中に平然とスマホを弄られるんですか恵令奈さん!!
猛者ですかそうですか!

「そうそうお昼ご飯食べに行こうと思ってね。あ、此処の先に美味しいレストランがあるみたい。そこに行こっか」

昼食をとる場所をスマホで調べていたのか、恵令奈さんは爽やかな顔付きで俺の方に顔を向ける。

「ぬぐぐ......」

俺は思わず涙目になりながら恨みがましく睨んでしまう。
こんなに思い通りに行かなかった人は初めてだ!絶対このデート中に攻略してやる!

「....どしたの?そんな可愛い顔して」

....本当に!この人はっ!

俺はこの世界に来てから不自由をすることがあまりなかったため、調子に乗っていたのかもしれない。
俺はここにきて初めて大きな壁にぶち当たったのだと理解した。と同時に闘志を燃え上がらせる。絶対にこの人を篭絡して俺にメロメロにするのだ。俺は決意を新たにした。


勝負だ恵令奈さん!!



10分ほど歩いて恵令奈さんの言うレストランに着いた。名前は「ミュート」、チェーン店ではないみたいだ。
建っている場所も大通りとかではなく、そんなに人通りは多くない。穴場的な感じなのかな。

ちなみにここに来るまでに、体をスリスリしたり恵令奈さんの肩に頭を乗せてみたりしたけど反応はなかった。
なんだろうこの言いようのない悔しさは。

「いらっしゃいませ。お客様何名様でしょうか?」

「2人です」

男である俺が答えようとしたのだが、即座に恵令奈さんが答える。

「ではご案内致しますので少々お待ち下さい」

店内はシックな音楽が流れておりとても落ち着けそうな空間となっていた。
上品な木々で机や椅子は作られており、第一印象はオシャレだなあって感じ。

「お待たせしました。ご案内致します」

「はーい。じゃ行こっか仁くん」

...俺はこの人の余裕を崩すことが出来るのだろうか。
今も、俺が座る椅子を少し引いて座りやすくエスコートしてくれている。男の俺の役目なのに....。自信なくなっちゃうよ。

「...ありがとうございます」

少し落ち込んでしまった俺は先程までの元気がなくなってしまった。
ダメダメだなあ。せっかくのデートなのに。

「....もしかして体調悪かった?大丈夫?ごめんね、今日はご飯だけ食べて帰ろっか?」

恵令奈さんはこんな俺をとても心配してくれる。不安げな顔で俺の顔を覗き込む恵令奈さんを見てたら自分が如何に卑小な存在かを実感させられてしまう。
...優しすぎるでしょ、泣きそうだわ!

「...いえ、大丈夫です!!恵令奈さんとのデート楽しみにしてたのに、こんな所で帰るわけにはいかないですよっ」

もう恵令奈さんに勝つとかどうでもいいや。

俺だけこんなことを考えていたことが恥ずかしくてしょうがなくなってしまった。
俺は吹っ切れたのだ。それにそんなこと考えてたらデートを楽しめないし、勿体無いよね。

「そ、そう。じゃあ今日はいっぱい楽しもうね」

恵令奈さんは俺のすべてを包み込んでくれそうな笑顔をしている。
....素敵だなあ恵令奈さん。何事にも動じる事がなく、芯が通っている人のような気がする。そういう人は本当に強いのだ。

「はいっ」

俺は開き直った。
ニュー仁だ。飛ばしていくぜ。

その後レストランで美味しい昼食をとった俺たちは、恵令奈さんの車で空が暗くなるまでドライブを楽しんだ。
車なんて何処に!?って思ったんだけど、どうやら駅の近くに停めてあったみたいだった。
しかもとてもオシャレな車で、オープンカーに変形できるタイプのやつだった。リアルで見たのは初めてだったのでテンションが上がりっぱなしだったよ。

恵令奈さんとはドライブ中本当に色んなことを話した。恵令奈さんはある保険会社に勤めており、金髪を上司に怒られて茶髪に染めたこと。男性と遊んだことはたくさんあるけれど、結局付き合ったことは一度もないということ、これはちょっと嬉しかった。
逆に俺のことも色々話した。今高校生だっていう事とか、1ヶ月前の事故の事とか。事故の事を話した時恵令奈さんが驚いてしまって、また事故しかけたのは秘密のことだ。

ドライブ自体は、少し観光名所に寄ったり、隠れた絶景スポットに行ったりと本当に楽しく充実したものだった。普段行かない距離まで行ったからね。

オープンカーの形態で車を走らせている時、助手席でふと恵令奈さんを見てみたら一度目を奪われてしまったことがあった。
沈みかけた夕陽がまるで恵令奈さんを祝福するかのように爛々と照らし、そのなびく綺麗な長い茶髪が夕陽の光を反射してまるで女神みたいだった。
幻想的っていうのはああいった事を言うんだろうな。



あの瞬間を忘れることはないと思う。




「今日はありがとうございました」

「私もありがと。楽しかったよ〜」

暗い中 男を1人で帰らせられないということで、俺は恵令奈さんに家の前まで送ってもらった。そして今別れの挨拶と今日のお礼をしているところだ。

「お代も全部出してもらってすみません...」

「いいよいいよ、こんな美少年と遊べたんだよ?それくらい安いよー」

手をヒラヒラとさせてあっけらかんと言い放つ恵令奈さん。

「そうですか」

自然と笑顔が漏れ出てしまった。
この人の人柄に、在り方にとても惹かれてしまう。
そういえば、こんな素敵な人なのに何故一度も男性と付き合ったことがないのだろうか。
今度聞いてみようか。

「恵令奈さん」

「んっ?どしたの?」

「また、遊んでくれますか?」

俺はこの人の事をもっと知りたいと思った。
だからこそまたデートしたいのだ。

「ふふっ、いいよ〜。こんな美少年にお願いされちゃ断れないよね!」

ニカッと歯を見せながら笑う恵令奈さん。
車のヘッドライトが逆光になって鮮明に見えることはないけれど、とても愛らしい笑顔なんだろうなってことは分かる。


俺がこっちの世界で出会ったどの女性とも違うタイプの彼女は次はどんな時間を俺にプレゼントしてくれるのだろうか。
新しい何かを、くれる気がする。



そんな期待を胸に、今日のデートは終わりを告げた。


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