従妹に懐かれすぎてる件

きり抹茶

四月十二日「従妹と勘違い」

 西日が眩しくなってきた頃。
 退屈な講義を終え、帰途に着くと既に家にいた彩音から「おかえり」と挨拶される。お互いの新学期が始まってからまだ数日しか経っていないが、恐らくこれからもこんな生活が続いていくのだろう。

「ただいま。……制服にシワが付くから早く着替えなよ」

 気になったので注意する。
 だが俺も高校生の時、母親に同じように注意されていたので人の事は言えないけどね。
 少々の罪悪感を覚えながら、ベッドに寝転がる彩音をそれとなく見てみた。
 スカートの裾が捲れており柔らかそうな太ももが丸出しになっている。余りにも無防備過ぎて心配になるな……。

「後でするから大丈夫……。それよりゆうにぃに相談があるんだけど」
「相談……?」

 軽やかに起き上がった彩音と目が合う。俺に相談をしてくるなんて珍しい。何か深刻な事でもあったのだろうか……。

「あのね……こんな事、人に聞くのは恥ずかしいんだけど……」

 頬を染め上げてもじもじと話す彩音。なんだろう……俺が引き受けちゃいけないような相談に思えてきたのだが。

「私ね、ずっとハードを使ってたんだけど、一昨日ぐらいに挿れたらすっごく痛い時があって……。もう血が出るんじゃないかーってくらい痛かったんだよね……」

 待て。ちょっと何言ってるんだこの子は。それ、俺に聞いて大丈夫な奴なのか……?

「それでソフトの方が良いのかなって思ってるの。でも挿れる前にさせば痛くないのかもしれないけど……」
「彩音……。そ、そういうのは俺じゃなくて友達に聞いてみるのが……でも逆に恥ずかしいか……」

 彩音もそういった悩みが出てくる年頃になったのか……。少し寂しいけれど大人に成長している証なんだよな。なら俺としては出来る限りのアドバイスをしてあげたい。この手の知識に関しては豊富ではないが俺は現役の男子大学生だ。か弱い女子高生の彩音に正しい性の知識を教えることくらい容易いはず……。

「彩音! 俺は行為自体を否定するつもりは無いが、保健体育的な観点で言えば……」
「ゆうにぃ…………何言ってるの?」

 きょとんと首を傾げる彩音。うむ、少し周りくどい言い方になってしまったか……。

「ごめん。ならはっきり言おう――」
「待って、勘違いしてない? 私、ハードかソフトかどっちが良いって聞いただけなんだけど」
「おぅ、だからそれ以前の話として……」
「コンタクトレンズの話なんだけど」

 …………はい?
 コンタクト…………ですか?

「え……? じゃあ……」
「ゆうにぃが何と勘違いしたのかは分からないけど、私はコンタクトの話しかしてないよ?」
「ぬ、ぬぅおぉぉうぅわぁぁぁああ!?」

 マジかよすっげぇ普通の話じゃねぇかよ!
 なのに俺はなんて勘違いをしていたんだ。彩音もそういう年頃とか……危ない妄想までする所だったじゃないか。

「というか彩音、恥ずかしそうに言うなよ。紛らわしいだろうが」
「だって人に聞くほどでもないから恥ずかしいじゃん。それよりゆうにぃは何と勘違いしたの?」

 真っ直ぐで素直な目で見つめられる。勘が鈍いのか、本当に純粋な心の持ち主なのか定かではないが、彩音は俺の下衆な思考に全く気付いていないようだった。不幸中の幸いというヤツか……。

「ごめん! それだけは言えないんだ。彩音には綺麗で可愛く育ってもらいたいから……許してくれ!」
「うーん、なんかよく分からないけどありがと、ゆうにぃ!」

 純度百パーセントな彩音の笑顔。俺はこの子の笑顔を守るために生きていこう。そして、彼女の清い心を汚してしまいそうになった事を全力で反省したい。


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「で、結局ハードとソフトどっちが良いと思う?」
「痛いならソフトを試してみれば良いんじゃないか? というか眼科に行った方が早いだろ」

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