時代を越えてあの人に。~軍師は後に七人のチート家臣を仲間にします~
その男、相良裕太。
夜道を進む。真っ暗な道を飛ぶように進んでいく。誰ともはぐれないように。
そう考えていれば、いつの間にか自分の疲労なんて忘れてしまうものだった。俺の背中には、朝比奈泰能が乗っているが、その疲労でさえも忘れることが出来た。
まだ力尽きるなんて言葉は無い。俺は走り続けた。森の中を必死で。
「はぁはぁ・・・。」
少しづつ、息が苦しくなり始めていた。足の裏がズキズキと痛む。たまに目眩もし始める。
しかしそんな痛みに優しく振舞っていては、俺の命はいくつあっても足りなかった。
一益達は、更に先を進んでいた。最後尾と、遅れを取ってしまっている俺達はどうしてもペースを落としてはいけない場面だ。なんというか・・・。マラソン大会で目の前に居る選手を、どうしても抜きたくなる自分の闘争心と同じ感覚だ。
戦ってこんなに厳しいものなのだと、初めて確信した。
「止まれーー!!」
前方より、大声で一益が止まるように指示して叫ぶ。
数百人の一益軍は、その声で一斉に動きを止めた。
「兄さん、居るに?」
また前方から、大声で俺の事を呼ぶ声がする。
「はぁ・・・はぁ・・・。居るぞ。」
兵士達は道を開けてくれて、一益の目の前までたどり着くことが出来た。
少しの間、泰能を降ろして、一益との話に入る。
右方を見れば、まさに地獄の業火で焼かれている砦が一つ近くにある。
「見てみるに。あれが丸根砦や。」
地獄の業火目掛けて、一益は指を指す。あれが何度か聞いた丸根砦だそうだ。
全長およそ400メートル。少し先の方には城らしき灯が見えている。
「あの向こうの灯は・・・?」
俺は一益に尋ねると、アンティーク望遠鏡を服の裾から取り出して尋ねた方向を覘いて見ていた。
正体が分かったのか、覗き終えると、望遠鏡を小さくしまう。
「あれは大高城やね。末森城からの兵が攻めてるとかって話だに。信勝様もご無事だとええんやけど・・・。」
「あぁ、だから信勝はさっきずっと城に居なかったのか。信長の看病をしているのかと思っていたよ。」
「何を言ってるに!信長様の体調も大事やけど、課せられた任務だって大事なんだに。わっちだって、信長様のそばに居てあげたいんやで?でも、こうやって戦場に赴いて戦ってる。織田家は皆そうだに。信長様がうーんと大好きなんや。だから、主君が倒れた時の衝撃はバカデカいんよ・・・。」
彼女は唇を噛み締めて話した。彼女の瞳から、透明な粒が一滴零れ落ちていく。泣いているんだ。
黙って彼女を見ていた俺に、何かしてやれることは無かったのだろうか。少しの間、沈黙が続いた。
「・・・。何でもないに。とにかく、ここは丸根砦から少しでも多くの人を助け出さねばならんのや!気を取り直して、全力で行くに!野郎共!!!」
腰に掛けてある刀を抜き、月を串刺すように天に掲げた。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」
兵士達は高い雄叫びを上げて、一益と共に走り出した。
俺は慌てていた泰能を再び背中に乗せて、走り出す。
「戦法はいつも通り。分かってるだにね!?」
「えぇ、問題ありません。一益様の命令に従うだけですよ!」
走りながら、一益とその部下が会話を始める。どうやら、いつもの戦法を行うらしかった。
少し走ると、砦の真正面へ出た。そこは大きな高原が広がっており、今川軍と思われる勢力が大勢集まっていた。
「あれは・・・。雪斎様」
泰能が、初めて俺の背中から声を出した。前までずっと黙っていたのだが、ここになってようやく喋りだす。
「・・・。はて、何処の軍勢のお来しかな?」
女はそう言った。後ろから軍勢を見守り、指揮を取る一人の女。大きな軍配を持っていた。
「ほほぅ・・・。泰能ちゃんが言う所の雪斎様ってのはあの方やね?坊女とは思えないに。まるで一国の主みたい!」
坊女?確か、坊主からの坊女だから多分あれだよね、お坊さんの事言いたいんだよね?あれ?違うの?もしかして場所?某所?あれれ?
「ん・・・?泰能?どうしてその足軽如きの男に、高貴な姫君がおぶられているのだ?」
彼女から、一瞬殺意が沸いたのが分かった。やっぱり、俺の力は人の意を読み取る能力らしい。この状態でも、彼女の殺意を感じることが出来る。
「泰能ちゃんは此方の方でひっ捕らえましたに。それと同じく、鳴海城も落城させて頂きましたで。と、言う訳で貴方達は今、挟み撃ちのハチの巣状態なんですに。さて・・・、どう調理させていただきますかにぃ・・・?」
一益も、同じように殺意を込めて言葉を発する。二人の威圧が周りと比べ程にならないくらい凄く大きなものだった。身動きすら取れなくなる程。
「いや・・・私が・・・。」
泰能は、自分から降伏したのだと主張したいのだろう。しかし、泰能が言い出す前に一益が嘘の語録を並べて織田家が落城させたのだと言い張っていた。一益の本心は、泰能が今川に敵対されないように守ってあげているのだ。俺にはそう感じられた。でなければ、そのような物言いは言わず、この場で切り捨てているだろう。
「ならば、取り返すしかないな。我らの有望な家臣を!さて、織田の種子島の強さをここで見させてもらおうか!!」
雪斎がそう言うと、今川軍の兵士が此方にゆっくり向かってくる。そのうち、雪斎よりも前に出てくる。
「ひひひ、いいに。その勝負、承ったで!」
「その志、誠の物だと確信した上で掛からせてもらう!全軍、かかれー!!!」
雪斎の高い大声と共に、雄叫びを上げた今川軍は一斉に此方に向かってきた。
前方に、長槍を持った兵士達が大勢居て、素早く向かってくる。
しかしーーー
「さて、兄さん。言ってなかったやね。」
「え?何の話だ?」
この状況下で、一益は余裕そうに口を動かしている。
俺に言いたい事はなんだ・・・?
「わっちらの部隊、実は種子島専門部隊でね。刀を使える人はあんまりいないんに。」
「だから?」
「だから~。」
焦らして話を先延ばしにする一益のやり方。敵は一刻一刻と、此方に押し寄せて来ている。
「相良兄やんの刀の扱い方は聞いてるで。素人の癖して、戦いのスタイルはめちゃいいってに。おまけに、剣術も扱えるって事で。」
一益の種子島隊がの装填を完了し、火縄に火を付ける。
「防衛、頼んだに!!!」
一益が大声を出すと共に、手を前に突き出して種子島隊に放つ合図をした。
それと共に、ダダだダダダダ!!!一斉に放たれる種子島の音が空に響く。
今川軍の兵士達の前衛が、途端に倒れて、それにつまずいて転ぶ兵士も何人か居た。
「一旦退くだに~!!途中で弾の装填を忘れずに~!兄やん、殿は頼むで!」
「えええええ!!?」
一益は、殿を頼むと俺に言うと、種子島隊と共に後ろの方へ退いていく。
いつの間にか、背中に乗っていた重みも無くなっていた。軽かったので気付かなかったが、泰能が乗ってない!?あれ・・・。と思って、後ろを向いてみると一益に連れていかれる彼女の姿が。なんだよ、ビックリさせんなよ・・・。はぁ、人生の終わりか・・・。
「男一人で、まさか殿?ふふ。笑わせてくれる。我が軍がここまで馬鹿にされるとは・・・。その男を叩き斬り、織田のうつけ風情を滅ぼすまでに他ならぬ。」
「おい、ちょっと待てよ。」
正直に言わせてもらう。俺はその気持ちを胸に抱き、嫌みの様にバンバン言葉を投げかけてくる雪斎に一言歯車を掛けた。
「ちょっと待て!織田を馬鹿にしてんのはお前ら今川風情だろうが!!!」
怒鳴り声を出しながら、雪斎を睨みつけた。
「む?何をそこまで熱くなっている?私は飽くまで事実を言ったまで。それに、滅ぶのは織田家。今川の天下。もう天下は決められているのだよ。」
「織田は滅ばない!絶対に滅びやしない!そうやって後悔するのは今川家だ!犬の様に吠える事しか出来ない今川家に、尾張より先に進むことなんざ、一生出来ない!!断言してやる!!」
雪斎が反論してきた言葉に対して、怒りを投げかけて話を打ち返す。
そして、俺は刀に手を掛けてゆっくりと鞘から抜き取り、抜刀した。
「織田家の為なら俺はやる。お前らを、信長の所まで行かせねぇ!!」
刀の刃を雪斎の方に向けてそう叫んだ。
・・・。しばらく沈黙が続く。
大火事になっている丸根砦。その平原に一つの戦が舞い降りようとしていた。
一人の男が、大群に喧嘩を売ると言う、前代未聞の戦い。
戦国世界に飛ばされた一人の男の軍師として、織田家家臣としての話。
「戯け!全軍よ、今川の名を汚したその男を何があっても叩き斬るのだ!!!」
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」
今川軍が大声で雄叫びを上げる。でも、俺は怯まない。
だって、これは俺が売った戦の物語なのだから。
ー今川軍が、一斉に俺に向かって槍や刀を突き付けて来た。
いつしか、囲まれていた。周りを見渡せば、今にも刺してきそうな槍だらけ。
と、その瞬間槍が俺目掛けて刺し突っ走って来た。
グサッ。とあまり耳にしたくない効果音を、俺の耳は察知する。
「なんだと・・・?」
俺は、今川が一斉に刺してきた槍を、限界の体勢でしゃがみ、受け交わした。
運よく、俺の胸目掛けて全員刺してきたので、避けられてその槍は先頭の槍持ちの奴ら全員に刺さって、赤い液体が槍を巡って流れ垂れ落ちていた。
「へっ。」
そのまま、刀で槍を全て弾き返し、今川軍はそれに見ると、俺に恐れて何歩か後ろへ下がっていく。
「たぁあ!!!」
一人の男が、俺目掛けて刀を振るってきたので、右に受け交わし、不意打ちで斬りこみ、後ろから不意を付いてきた兵士に対しても、俺の斬りこんだ男を蹴り当てて、俺は次々に向かってきた敵を弾き返して斬りかかった。片っ端から斬りまくる。
シャキン、ガシャン、バサッ、と刃と刃がぶつかり合う音、兵士が倒れていく音、刀で深傷を負わせる音等、そこは血祭りの処刑場と化していた。
「思い返せば・・・、言ってなかったなぁ?」
俺の服全身は、今川軍の兵士達の血が飛び散っていて、赤黒く染まっていた。
雪斎も、俺の様な男を見た事が無かったのかそれともこのような血祭りな戦場を見た事が無かったのか、顔を真っ青にして動揺している。
「俺の名前。」
独り言を言うように話しながらも、次々に敵を斬り刻んでいく。
また一人、槍を持って斬りかかってくる。槍の刃を弾き返し、その槍を掴むと、勢いよく振り回して、串刺しの様に、目の前の敵を刺して、槍を手放してはまた刀で斬る。
「ま、まるで・・・理性を失った獅子か。まさに人の命を何とも思っていない男だ。」
「お前がよく言うぜ。」
俺が口ずさんだ頃には、雪斎の位置よりも後ろの方へ、兵士達は怯えて逃げていた。
もう、何十人も人を斬った。死体は其処ら中に転がっている。これを俺が一人で殺した・・・。殺したんだ。
「覚えておけ。俺の名前は相良裕太。織田信長に仕える家臣団の端くれ。だけどこれだけは言っておく。お前らの総大将じゃ俺には勝てない。何故なら……」
何故ならなんだと言うのだ。何故ならなんだ、しかしそれには理由があるだから俺はこう言った。
「天下を取るのは信長だからだあああああああああぁぁぁぁあ!!!!」
その大声は天まで届いたと思う。俺をここに葬った天使さん、心に決めたぜ。絶対に信長に天下を取らせてやるんだ!!
「ならばその天下・・・。私は貴方を支えてあげたい。」
何処からか、聞き覚えのある声がした。辺りには、草原広がっているので隠れ様にしても隠れる場所は一つも無い。 なら、何処から?
「む?何者だ」
雪斎が軍配を目掛けた先は俺。しかし、彼女が指したのは俺じゃない。
後ろには、一人槍を持って参陣仕った女の子が居る。いつぞや、俺に斬りつけて来た子。
「あの時の・・・!」
後ろを振り向き、そう声を出す。
「あの時は面目次第もございませんでした。まさか織田家の方だとは・・・。貴方は私の命の恩人・・・ですから。その借りを返しに来たまでです。」
「そうか。んじゃ、借りを返すって言うなら俺の家臣になってくれよ。今の俺じゃ、まだ俸禄は払えないけどいつか織田家の重臣にまで上り詰めて、信長の力になれるようになりたい。あの人の夢は俺の夢。だから、絶対に・・・。」
「・・・。当り前じゃないですか」
彼女はそう言った。当り前じゃないですかと。そうだよな。夢を叶えるってのは当たり前のことだもんな!頑張らないと。
「そうだな。夢を叶えるのは当たり前の事!だから頑張る!」
俺がそう言うと、彼女は首を振った。
「違います。貴方の家臣になる・・・と言っているのです。」
「え?」
俺が目をキョトンとさせて知慶の言葉を考え直していると、背後を取られた。今川の兵士が俺に斬りかかってくる。
それを察知した俺は体を下に下げた。智慶は俺の策が分かったようで、槍でそのまま顔面を突き刺して吹き飛ばした。
「流石智慶ちゃん。分かってるね!」
「なんで名前知ってるんですかあと人にちゃんじゅけするのはやめてください私そういうの苦手なので。」
高速で話す智慶。途中で噛まなかったか?気のせいかな・・・?顔を赤面にさせて少し身を引く。
男の人が怖いとか?男性恐怖症?え。
「で、そちらのお話し合いは終わったかな?」
気付けば、雪斎が刀を抜いていた。彼女自身も戦うらしい。
「確か貴方は太原雪斎。今川の重臣が何故ここに?」
前までとは違う。前までは、言葉数の少なかった智慶だった。今は面と向かって人と話し合えるくらいに成長していた。一日で変わるものなんですかこれ?
雪斎は高い声で大笑いした。
「はっはっは。お主こそ、殺し屋の身でありながら仕官するとは。頭が狂ったようだな。仲嶋智慶よ。」
「ふふふ。私は元々狂ってます。人殺しは皆狂ってます。貴方も狂っているのですよ。兵士を無駄にし、自らも恐怖を抱いてしまうような将。あの今川の名将と歌われた太原雪斎殿もお・ち・ぶ・れ・た・も・の・で・す・ね。」
女子同士の罵り合いって本当に怖いよね。どちらも目に殺意しかないんだけど・・・。
それに比べたら、一益はやっぱり良い奴だな。人は殺すけど味方は殺させない。だから彼奴は鉄砲なのか。
鉄砲と言うのは、まだこの時代呼ばれ方は種子島だった。少し先に進むと種子島から鉄砲と言うのが正式名称となる。
「まぁ、いいや。んじゃ、逃げますか」
と、俺がいうとざわざわと周りが騒ぎ始めた。どうやら、予想外の言葉が出てきたようで驚いているらしい。俺は刀を鞘にしまう。
「はは。逃げると言うのか。やはり雑魚だったのだな。見込み通りよ」
「んじゃその雑魚を取り逃す今川はもっと馬鹿な家だね~。人っ子一人殺せないんだもんな。そんな家に仕えてる兵士さん達も可哀想だな。」
煽った。出来る限りの事はした。俺はそう言うと、智慶の右手を掴んで走り出した。
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