時代を越えてあの人に。~軍師は後に七人のチート家臣を仲間にします~
戦の始まりは前触れから。
しかし、その前に清州評定で最も大事だった話をしておこうと思う。
それは軍議が終わって色々と混乱している頃に、信長の一言で俺の背筋が凍るような事態に陥った話だ。
「ふむふむ。商業区と兵舎区の様々な意見や要望を聞くことができてよかった。さて、次は商業区の意見を聞きたいと思うのだが。」
「ちょっとお待ちくださいな。私から一人紹介したい方がおりますの。」
信長が閉めると言った後、長秀が言いたいことがあると言って話題を設ける。
一瞬、長秀が此方を見てウィンクした。あれ、俺に何か関係あるのかな?
「殿が家臣にしたいって言う子を連れてきたのよ。是非この場を使って皆に紹介したいのだけれど....いいかしら?」
「長秀、いつの間にそんなことを...。面白い。通せ」
信長が微笑んで言った。家臣達も、信長様を見て喜んでいる様子が伺えた。
しかし、俺にとっては鳥肌にしかならない事態に陥ることになってしまうのだった。
「いらっしゃい~。」
長秀が入っていいと許可をする。長秀が呼んだ人物は、足音と共にゆっくり近づいてきていたのが分かった。
そいつが入ってきた瞬間、俺の額が尋常じゃないほど汗を求めているのが分かった。
その縛った長い青髪のポニーテールには黄色のリボンが一つ着いていた。
両腕に鏝を着けており、一見重装に見えるその服装だったがよく考えてみれば動きやすいよう、軽くなっている。
刀を一本腰に掛けていた。刀と同じ腰巻きに、見えないようにピストルのような物が隠されているのをしているのは、俺と藤吉郎と利家だけだと思う。
そこには何故か恵美がいたんだ。
「え・・・?なんで恵美さんが・・・?」
俺の先に喋ったのは藤吉郎だった。彼女も驚いていたようだ。
恵美は家臣達の前へ出て、重臣たちの向き合っている丁度中心で座る。
「只今参上仕りました。城郷丹盆兵衛恵美でございます。」
恵美はそう言うと、頭を深く下げる。
「お主が恵美じゃな。面を上げよ。」
信長に言われるがまま、恵美は頭を元の体制に戻した。
信長は本当に嬉しそうに笑っていた。
「噂には聞いておった。種子島を使いこなせるようではないか。」
「い、いえ!それ程までではございません。」
「はは、何言っちゃってるんですさにぃ。恵美姉は私よりも種子島を上手く使いこなせますって。」
一益が自分の事の様に自慢気に話した。彼女の種子島能力は把握していないが、確かに皆が恵美の実力を保証するのは事実だと思う。俺もこの目で確かめている。
「それで恵美。お主に一つ問いたい事があるのじゃ。」
恵美は黙って信長の次の言葉を待っていた。
信長はそれを察していたため、少しニヤリと笑っている。
が、しかしその場の全員が信長の言いたいことを分かっているのだった。
「お主、儂の家臣にならぬか?」
しかし、彼女は即答することなく黙っている。信長の心情を疑っているのだろうか。
長い間沈黙が続いた。まるで信長の意地悪な腕試しみたいな状況だった。
「恐れながら申し上げますが。」
恵美は口を開くとそう言い放ち、肝心なところで止める。
信長は次の発言を待っていた。
「私は、仕官先に決めた方がいらっしゃるのです。」
「むむ。なんじゃと?」
信長が少し睨みきらせた。恵美をじっと見つめている。
「儂では不服と申すか。織田では不服と申すか。」
「あ、いえいえ!そういう訳ではございません。」
「では何だと言うのじゃ?」
イライラしてらっしゃる信長様。時間が止まったかのように思えます。
恵美は一度小さく深呼吸して話を続けた。
「実は、私の仕官先は織田家の方なのです。従って、私はこの中の方に従っており、その方は信長様に従っているお方なので、事実上は信長様の家臣という類に入ります。」
「ほほう・・・。面白い事をするではないか。益々気に入ったぞ。しかし儂の直轄でなくても良いのか?俸禄は弾むのだが・・・。」
「いえいえ。私はその方に一生従っていくことを決めました。一度そうなれば主君を守るのが私の役目。主君が守る方も私の守る者。信長様、よろしくお願い致します。」
・・・。沈黙が起きた。再度、恵美は信長に頭を下げる。
信長を重んじ、主君をも重んじ・・・。流石、出来た女の子だと何度も感じることが出来たシーンでした。
「くかか、是非に及ばずじゃ。分かった。織田家へ迎え入れるぞ。これから励め。」
「は、はい!有りがたき幸せにございます!」
恵美は嬉しそうな声でそう言うと、信長にお礼を言った。
ここまで魔王の信長と対等に渡り合える彼女は満点!本当に褒め称えてあげたいです。
と、ここで信長が疑問に思ったようだが、多分この場のほぼ全員が疑問に思っていたことを代表でこう話した。
「・・・それで、お主の仕官先は誰なのじゃ?」
恵美は裾を払うと、透き通る声でこう言った。
「相良裕太殿でございますよ。」
「えぇ!?」俺、藤吉郎、利家以外の全員が同時に同じことを言っているのに俺が乗れなかったことが一番悲しい。
あれ?というか今俺って言った?
「裕太よ。」
「え!?な、なんだ!?」
「なんだではない!言葉を慎め!」
「信盛、構わん。気にするな。儂が許した事じゃ。」
「も、申し訳ございません。」
信盛が俺を注意したが、信長はその言葉を跳ね返していった。
「まさか、無理矢理恵美を懐に入れた訳ではあるまいな?」
「いや、それに関しては絶対にないと言い切れる。俺も、女の子を襲うような事なんて絶対にしない!」
周りでは騒めぎがあったが、そんなことはいくらでもかき消せるレベルだった。
今はそんなことは関係ない。重要なのは真実を話す事なんだ。
「その言葉、偽りの無いものだと捉えて構わんな?」
「あぁ。」
信長は俺が嘘をついてないと信じてくれたらしく、そこで話を終わってくれた。
全員が元の位置に戻る。信長は、自分の座布団の上に座ると満足したのか「くかか」と笑ってた。
ここで、数分間信長の間で雑談が行われたのだが、それも終わると次は最後の居住区の話に移る。
「次は居住区のほうじゃが・・・。」
家臣達は周りを見渡した。「あれ?」という声を出す家臣も居る。
「浅野はどうした?」
そうだった。居住区担当は浅野長吉だったんだ。確かに、家臣達を見てみれば長吉の姿は無い。というと、最初から居なかったという事か?
でも、この時から気付いておくべきだった。とにかく風が吹き、外を見れば花が咲き乱れるこの状況を。
不覚にも、不運にも、それは次の瞬間訪れた。
「の、信長様!!!」
信長の名前を呼んだ彼女は、天井を開いて突然現れた。
全員が「うぉ!?」などの声を出して驚く。
「ん・・・。長吉ではないか!どうしたのじゃ。次は居住区の居住区の話を・・・」
「そんなこと、どうでもいいの!!」
長吉は大声で言い放った。その言葉で、周りは一斉に沈黙と化する。
それと共に長吉は、突然跪いた。そして、次の瞬間・・・。
「報告します!今川軍が、三河より侵攻を開始しました!!!敵兵およそ1万5000。先陣を切っているのは、今川の人質となっている松平家当主の松平元康と今川家重臣である、太原雪斎です!」
「なに!?今川が攻めて来ただと!?」
「それは誠ですか!?」
「ど、どうしよう!今川が来ちゃったよ~!?」
「昨日までは動きを見せていなかったですに!それなんに、何故・・。」
「一刻も、城の防御を固めるべきですぞ!」
「直ちに戦準備をしなければ!」
「遂に、今川も進軍を開始したか・・・。早かれ遅かれこうなる運命だったのじゃな。」
重臣も重臣で色々焦っているらしい。家臣も家臣で焦っていた。
しかし、此奴らだけは考えが違ってたみたい。
「おぉ!出世ですよ出世!名を上げるチャンスです!」
「好機・・・!」
「ちょ、お前らなぁ!!」
この中で一番冷静だったのは信長だったのかもしれない。彼女は地図を開き、一人で策を練り始めていた。
永禄三年。西暦に直せば1560年に該当する。そして四月だ。
日本三大奇襲と言われ、織田家と今川家が激闘し合った「桶狭間の戦い」が今此処に幕を開けるのだった。
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