時代を越えてあの人に。~軍師は後に七人のチート家臣を仲間にします~

芒菫

奇襲。


ー桶狭間 義元本陣
雨止まず、降り続けること、命の恵み。
昔の時代の雨って言うのは、どのように思われていたのだろうか。
今でも疑問に思うが、この陣ではそのような事お構いなくであったのだ。

「百姓の方々も、私たちの進軍を心待ちにしていたとは・・・。嬉しい限りですね。」

兵士の様子を笑顔で見歩きながら義元は言った。

「そうでございますな。これで今川の天下もマジかだと言うことが証明されたと同じでござる。」

「このまま天下を取り、室町の幕府を引き継いだ新たな幕府を開く。ようやく私の理想の国を・・・!」

義元は曇天に荒れたの空を見上げる。雨は降り止まない。
・・・今川義元は桶狭間に陣取りをしていた。
総勢およそ6000。
各部隊に分散しているというのが事実、当初いた二万の兵力も、今義元自身の直轄である部隊の兵数は6000。6000を有していた。
分散している部隊はと言うと、大高城の援軍や、尾張侵攻の大軍勢は、今川で手柄を挙げると言う目的の元、それぞれ行動していた。
まぁ、義元の兵数でも十分多いんだけどね。
それにしても、尾張の領民達はとても気が利く。
近くの村の百姓達が、今川万歳と宴の準備をしてくれていて、その歓迎に手厚くもてなわされた。
兵士達はこれでもか、と言う程の領の酒を喰らい、酔い干しており、改めて今川の影響力を把握することが出来たと言える。
ただし、油断は禁物。ここは戦場。何が起きるかは分からない。
その為、義元は大好きな酒を一口も口にしていなかった。天下を手中に治める前の一我慢、と言ったところなのだろう。

・・・義元は近くに兵士達を見て回ると、そのまま立ち尽くして耳を済ませた。
・・・。何かが跳ねた。
そんな音がした。義元は首を傾けるとさらに耳を澄ます。
何だろうか。馬の足音?
雪斎殿が此方に向かっているという伝令は来ていた。となれば、この馬の足音と言うのは雪斎殿の軍勢の物なのだろうか。
生憎敵では無いのだろう。急いで向かって来ている訳では無い速度で向かって来ていたからだ。
しかし、作者自身もそうであったのだが、読者の皆様も疑問が湧くだろう。
何故義元は耳を澄ますと遠くの物の音を聞き取ることが出来るのか。
それは、義元が一つ特殊な能力を持っているからだ。
見ての通り、分かると思う。耳を澄ます、空気で伝わる、空気の質感と言うものがあるが、大まかに言えば、風の速度が関係したりもする。
義元は、風で物音を聞き分ける事の出来る能力を持ち合わせていた。その能力の名を、人々は『風の礼』、『風の保護礼』と呼んでいた。
この世界で言う能力は、大昔より伝わる長い歴史を持つものだとか。
能力を得ると言うのは殆どが生まれつきだと言う。それは家柄が関係しているでは無いとか。
各地方ごとに一人以上は居ると言う、操るのが極めて困難な精練術。
時に攻撃を有し、時に防御を得とし、時に敵の動きを察知したりと、多様的に用いることが出来る為、大名家は喉から手が出るほど欲しがる人材、逸材なのだそう。
噂によれば、武田家の山本勘助であったり、上杉家の宇佐美定満がそれぞれ能力を持ち合わせているそうだ。
あ、織田家には誰も居ないそうですよ~。
と、言うように今川義元もその能力を持っていた。

「雨ながら酒に溺れる故の事・・・少々休み、雪斎殿の到着を待つとしましょうか。」

そう言うと、義元は義元の居陣に向かって歩き始めた。

ー桶狭間、山の上

某戦国ゲームの音楽が欲しくなる場面だった。
俺達は、山の上より今川軍の本陣を見降ろす状態になって、信長と勝家は辺りの警戒態勢に入っていた。

「お主等・・・。音を立てる出ないぞ・・・。」

そう慎重に話す信長には、今川義元の有する風の保護礼の存在を知っていた。
現在、この場に居る織田の兵は1500程。
森、佐々部隊とは分裂して行動中。彼女達は約4000の兵を率いて鳴海城に入り、そこより進軍。
佐久間、信勝部隊約3000は末森城にて今川軍の追撃作戦に追われており、まさか今川も真上の山に織田兵が伏兵しているとは思いもしないであろう。
勿論、俺が今川の兵士だったとしてもしないと思う。
先程、鳴海城からここへ、久々に新助が姿を現した。
鳴海城は特に標的にされる事無く守り抜けたようで、新助も嬉しそうにそう語っていた。
さて、これでも一万弱しか居ない織田軍に対して今川軍は二万もの兵数を有しており、到底勝てるものではない。しかも、日本一最弱の兵と言われる尾張兵が一万。
少なくとも、これが織田家でなければ今の段階よりももっと前で降伏の書状を書いているところなのだろう。
しかし、織田家と来たら・・・・。全員やる気なんですもの!

「見ての通りやね。義元の本陣で間違いないに!流石兄やんと猿ちゃん。大手柄やね!」

久々に登場って感じの雰囲気ではないが、一益がアンティーク望遠鏡を使って、今川本家の家紋「足利二つ引両」を見つけるとそう話した。

「となれば・・・奇襲こそ一利の道じゃのぅ。浅野は戻ったか。」

小声で信長が言うが、浅野長吉はまだ戻っていなかった。周りが首を振ると、今度は勝家に話を振る。

「ふむ・・・。勝家よ、騎馬と鉄砲は用意出来たか?」

信長は勝家の方を向くとその場で跪いて勝家は頭を下げた。

「いつでも奇襲の出来る状態です。殿の御決断次第です!」

勝家は小声でそう言うと、空気も感じさせない動きで浅野が戻って来た。

「信長様、今がチャンスかと。どこぞの部隊が、義元の陣へ少しずつ向かって来ております。電光石火の奇襲で颯爽と決着をつけ、如何に早く降伏をさせられるかが重要ですね。」

信長は顎に手を当てると、何やら考えごとをしている様子が伺えた。
しかし、すぐに顔を上げると、信長は立ち上がり、馬に乗る。
手を大きく上に振り、兵士全員を立ち上がらせた。

「時は来た・・・。」

激しい雷と共に、雨に打たれる俺達を、まさに軍配が上がったかの如く、さっきよりも勢い強く振り始めていく。
信長は腰に掛けてある刀を抜くと、大声で・・・。

「突撃!!!!!」

信長が、目の前にある急な崖を電光石火で降りていくのを追い抜くように、兵士達も崖を勢いよく下り始めた。




「時代を越えてあの人に。~軍師は後に七人のチート家臣を仲間にします~」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「歴史」の人気作品

コメント

コメントを書く