時代を越えてあの人に。~軍師は後に七人のチート家臣を仲間にします~
平和への切り札。
「···?」
突然、背筋が凍る感覚に襲われる。
これまで何度も感じたことのある殺意の類いだ。その殺意を持った人間がこの近くにいるのか···。
目を瞑り精神を集中させる。これは何処から感じさせているのかとても気になった。
...どうやら一歩ずつ一歩ずつ、ゆっくりと此方に向かって来ている....?
「····ちょっと待て」
一番先頭に立っている俺が手を横に出すと、全員に止まる合図をする。
俺はそのまま前方に蠢く何かに目を細めて見つめた。
姿を見つめようとする度にこれまでに感じたことのない殺意のような威圧を強く感じ、感じ取ることさえ嫌になってしまう程であった。
「兄さん?」
一益もその何かに気付くと、両腰に掛けてある騎馬鉄砲を何時でも抜き出せるように準備する。
蠢く何かが、何かを捉える事の出来る位置に到達する頃には、全員刀を抜いて待機していた。
「・・・。織田家の方々ですね。」
裾を上に揚げ、止め布で抑える彼女。
ちょっとにこやかに笑っているところから、彼女が殺意を発しているようには思えなかったが、紛れもなく近づいてきたのは彼女だけ。そして不自然に刀を右手に持って居る所から彼女の物だとしか考えられないのだが・・・。
「そうだ・・・。」
一益が何か話そうとした瞬間、その場から彼女は一瞬にして消え失せた。
「!!」
殺意の矛先を向く。彼女は後ろに立っていた。
「一益、新助!!逃げろ!!」
某立ちしていた一益と新助が我を取り戻すと、俺の後ろの方へ走り出す。
なんでだかあの二人、一言もしゃべらないで行っちゃったんだけど・・・なんでだろうか。
そんな事を考えるうちに、俺は一つある事に気が付く。
「その家紋・・・?」
よく見ると、彼女の服には見た事のある家紋が刻み込まれていた。
「あら、気付きましたか・・・。自ら殿を務め、仲間を脱がし、敵の小隊まで暴くとは・・・。男子として格好いいですね。」
『足利二つ引両』の家紋。今川本家の家紋。ここまで来たら、お分かりでしょう皆さん。
「今川・・・義元。」
目の前に刀を持ち、此方を見つめている彼女。
「驚かされましたよ・・・。」
義元は美しい声でそう呟いた。この世界に、その音調が存在しないくらいに新鮮な声だった。
「うつけと呼ばれている信長。そんな彼女の策に嵌ってしまった私。人は見かけに寄らぬと言うことはこの事なのですね・・・。」
そう言うと彼女は笑い、一歩此方に進んで来る。
「奇襲・・・。まさかとは思いましたが・・・・。これは貴方の策ですね?」
問いかけを投げて来たのですが・・・。ちょっと待ってください。唐突過ぎて・・・。まぁ、言われてることは間違いないんだけど。
「あぁ、そうだよ。・・・何で分かったんだ?」
彼女はまた一歩、此方に向かって歩いて来る。雨降り続く中、今川の大将と織田の軍師は一対一。
「ふふ、女の勘ですよ・・・。」
その瞬間、彼女の居た場所の水が跳ねて、その雨水が俺に直撃した。
目の前から彼女は消えてる・・・?一体何処へ・・・?
そう思った直後、上からの殺気に気付く。上を見上げると、義元が手を前に出して刀を構え、今にも此方に向かって斬りかかってくる状態であった。
「くっそ・・・!」
シャキン!と鈍い鉄の音が辺りに響く。義元の刀と俺の刀がぶつかり合い、力の押し合いを始める。
彼女の力、殺気腰からも感じるこの気持ち悪い感覚・・・。彼女はこうやって人を威圧で押してきたんだな・・・。
と思いつつも俺が彼女を弾き返すと、彼女は反動で後ろに飛んで行った。がしかし、宙返りして自らの足で着地するとそのまま立ち上がる。
俺もその反動で後ろに転がっていきそうだったが、必死に地面に刀を刺すとその刺した力で反動を受け止めた。
「しかし、例え貴方がこの策を打ったとしても、結果は見えておりますよ。天下を取るのはこの私なのですから・・・。そこをどきなさい!!」
その場で刀を片腕で此方に向けると最後、大声で威嚇した。
彼女の声と共に、ドン!と大きな落雷が鳴り響いく。
俺の前に立っているのは紛れもない天下人だ・・・。と、改めて確信する。
「信長に討ち取られた戦国大名と侮れていたが・・・。これほどまで天に名を轟かせるほど影響力があって強いとはな・・・。」
地面に刺された刀を両手で持ち、それを前腰に寄り掛かると、小声で思った事を口にした。
「ただーし!それは違う!!」
俺は顔を上げて義元を見ると、大声でそう言い放った。
両手に持って居る地面に刺さった刀を力尽くで抜くと、一振りして土を払う。
「天下を取るのは・・・いや、取ることが出来るのは織田家当主の織田信長ただ一人だけだ!!
俺が大声でそう話すと、義元の時と同じくらいの大きさの落雷が鳴り響いた。
「お前はここでその殺意の思うがままに戦って、末に討ち取られるのは目に見えている!!だから・・・!」
次第に雨も強まっていき、全身ずぶ濡れの状態での会話に発展していく。
義元をジッと見つめ、今一番言いたいことを心の中で3回言うと、俺は大声でこう言った。
「だから・・・ここは退いてくれ!!」
雨降り続く中、義元はその言葉を聞くと刀を見つめて一度目を瞑る。
数秒の間、刀を見つめていた。何を考えていたのだろうか、俺には見当が付かないが、そりゃやっぱり最初に言われる言葉ってなるとこれだけだと思う。
「ふふふ・・・面白い事言いますね。これは何かの策ですか?」
彼女は少なくとも、小さな笑いで抑えると策かどうか、と問いかけてくる。
「あぁ、そうだ。策だよ。」
深呼吸すると、気持ちを落ち着かせるため天を見上げてこう言い放った。
「今川と織田が互いに攻め合わない為の・・・な。」
空は何時でもピカッと光り、ゴロゴロドーンと大きな音を立てる。
義元は腰に掛けていた鞘を左手で抑えると、右手に持っている刀を鞘の中へしまう。
彼女はどうやら、戦って付ける話ではないと感じたらしい。
「互いに攻め合わないと言うのは・・・。停戦ですか?もう一度言いますが、天下を取るのはこの私なのです。その為に西上する為に織田家を潰すと言うのは必然的な話。今川家に貴方の言葉を見込むメリットは何処にあるのでしょうか?」
義元は自分の野望を含め、停戦にメリットが無いと言う話をしてくれる。
確かに、それは正しい事。今川に何のメリットも無い。メリットも無ければ戦わない意味すらない。
メリットが無いから結ばない、戦う意味があるから戦う。正しい事なのだ。
しかし、俺には一つ切り札がある。
その切り札と言うのは・・・。
「義元、これから話す事を騙されたと思って聞いて欲しい。」
彼女を見詰めながら、俺は真剣な話を一つ始める。
その頃には、腰に掛かっている鞘を抜き出し、刀をしまっていた。
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