時代を越えてあの人に。~軍師は後に七人のチート家臣を仲間にします~

芒菫

甘い誘惑と静かで冷たい声。


「案外早く終わったなぁ」

両手を後頭部に当てると、体を少し後ろに倒して背伸びをする。
縁側で日光を浴びながら背伸びする気楽な時間は、俺にとっては暑いよりも優雅な時間であった。

「しかし、信長様も元康様も尋常じゃないくらいに怖かったです。正直に、心臓が止まりそうで...」

藤吉郎はガクブルと震えながらそう話した。しかし、あの二人の会話のどこから恐怖の要素が生まれるのだろうか。怯える藤吉郎に何でなのか尋ねてみる。

「でも、どこから怖い要素なんて出てくるんだよ?」

日光に当たりながらも、彼女はブルブルと震えて止まない。

「そそ、それは...いってはいけないのですが...信長様も元康様も、どちらも人間には見えませんでした。信長様の威厳は魔王のようで、元康様は、裏腹に闇を抱えるも、表に出さない狸のようで....」

このように、異名の由来になっていくのはこういうことが関係しているのかもしれない。人が見えたそのままの相手を、言葉で表現する。難しくも分かりやすく面白い。

「まぁ、俺からしたら総合的に評価すると信長は人だね」

俺はそう言って体を床に下ろして腕を首に持っていき、枕代わりにする。

「大体顔見りゃなに考えてるか分かるし、戦だって、非道な戦いはしない。それに、彼奴にだって感情があってそれを表情に出している。考え方だって同然だろ。そんなやつに魔王なんて異名は寧ろ言い過ぎだと思うけどね」

「相良殿は、私とは正反対で人の目を見る力があるのですねぇ....私の見解ですから、聞き流して構いませんけど」

彼女はそう言ってため息をついた。暖かい光が俺の顔へ直接浴びせる。次第に意識が遠退くほどに眠気を誘い始めた。

「織田は、当主がうつけである分、家臣もうつけである・・・か」

聞いたことのない声が近くで聞こえた。冷淡で俺を罵るように。
目を少し開いて空を見上げた。先ほどと変わらず、青く広がる空、そして暖かい太陽が照っていた。

「これはこれは松平の方、無礼を働いてしまい申し訳ありません~」

藤吉郎は声の持ち主に気付くと、即座に床に正座をすると、謝罪しては頭を下げる。

「貴様に言ってるわけではない。私はそこに寝転ぶ若輩の男に言っているのだ」

と、静かで冷たい声を張って俺のこと話すと、彼女は睨み付けるように俺を見たようだ。
冷たく殺意の入った目線を感じることができた。

「・・・そうか。悪かったな松平の方。あんたらの有能当主さんとうちの無能うつけ殿の会合が速く終わったせいで、この時間の日光に弱い俺は眠くなっちまったよ。すまねぇな」

と、有能と無能の部分を強調して話すと、彼女の反応を待った。

「有能と無能・・・ですか。少なくとも、我らの松平家が服従のような形で結んだ同盟の盟主です。うつけ殿と言っても、信長様は義元をお討ちになっておりますから。無能ではないと思いますよ」

また、藤吉郎側の方からもう一人女の子がこちらに向かってくる。
甘い誘惑に包まれた声。それこそが凶器であるかのように誘ってくる。その癖、きっと松平の重臣辺りだろう。肝が座ってて、まさに勇将のようだ。

「お初にお目にかかります相良様。わたくし酒井佐衛門尉忠次さかいさえもんのじょうただつぐですわ。松平家の家老です。どうぞ、お召しりおきを」

礼儀正しく華やかしい彼女は、酒井忠次であった。
酒井忠次とは、徳川四天王筆頭、また徳川十六神将としても名高い徳川の宿老である。家康の父である、広忠より仕え、広忠死後も家康の下で数多くの功績を立て、真の副将の異名を持っている。それほどまでに、判断に長けて冷静で物事を理解出来、常に徳川の行く末を案じた。ただし、後々起きる大きなお家騒動にも関わってくる人物でもあった。

「・・・どうして来たのだ、忠次。けじめを」

「けじめをつけるのは織田家じゃないはずよ、忠勝。貴方は知らなすぎる。この方は、桶狭間の戦いで、奇襲の策を切り出し、義元の首を討ったあの相良様ですわ」

驚いた顔で、横になっている俺の顔を見つめる忠勝。時間が止まったように動かなかった。

「さ・・・が・・・ら・・・だ・・・と・・・」

「え、うんそうだけど・・・」

もう一度驚いた顔でこちらを見つめると、次の瞬間「えええええええ!!」という声と共に、彼女は驚いて力が抜けたようにその場にお尻から倒れる。

「ささささささ・・・あ、あの相良様でござるか!?およおよ・・・」

ピョンピョンバタバタと手で必死に表現しようとしている忠勝だが、一体なにがしたいのか分からない。

「先程のご無礼、まこと申し訳ござらぬ。相良様を女子だと思っておったわけでして....まさか男だとは」

「はっはっは、良いってことよ。ただーし、男だって女の世界に出ていけないって法則はないからな。浅井も伊達も、男が当主だろ?そう言うことだってなきにしもあらずだぜ。とりあえず、宜しくな!」

俺は親指を立てて笑うと、忠勝は頭を深く下げてもう一度謝罪する。なんでこんなに態度が変わったのか、少し疑問に思ったが、次の言葉ではっきりわかった。

「本当に申し訳ない。宜しくなど、勿体ないお言葉を...実はそれがし、桶狭間の後に相良様のことを耳にしまして。目標としていたのです。そのように勇猛果敢な武士になりたい、と!」

彼女は嬉しそうにそう話した。

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