時代を越えてあの人に。~軍師は後に七人のチート家臣を仲間にします~
川中島の戦い (二) 勘助の決断。
「御館様 この勘助、御館様にお暇を頂きたく」
彼女は微笑みを浮かべると、晴信の前で別れを言い切った。
「…勘助。あんた自分で何を言っているか分かってるのかい?」
跪く勘助を上から冷淡な目線で見つめる晴信は決して優しいとは言えない声を張った。戦場を見ていた俺が、この空気の異変に気付いたのはこの頃。
「はい 今回ばかりはこの勘助めによる最大の失態。策士、策に溺れると言うのはこういう事。このまま景虎と相まみえるつもりにございます」
虎の面前で、平気な顔でそう言い張る勘助を俺は見ていた。いつ何時も、晴信を恐れないその勘助の姿を。
「······な」
晴信が誰にも聞こえない小さな声で何か呟いた気がする。彼女は俯いた。
「···ふざけるな」
今度ははっきり聞こえる様、声に出す。罵倒するように晴信の口が動く。
「ふざけるな!命を粗末にするんじゃないよ馬鹿者!!…誰もあんたを責めちゃ居ないんだ。勘助、あんたはよくやってくれたさ。人生、誰しも必ず失敗する。そこから学ぶことが出来るから、次は成功出来るんじゃないか。為せば成る。だがそれを為そうとせねば···成らぬ。成る業を成し得たいのなら、ここで死んじゃいけんのさね。だから勘助―」
「私はもう、決め申した!!!」
必死に説得し、勘助を引き戻そうと翻弄する晴信。しかしそれでも勘助は大声で自分の意思を主張する。
「私はもう決め申した。御館形様、どうかお暇を···」
晴信の必死な説得も効果がなく、勘助は自分がここで散ることを許して頂ける様に必死に頭を下げてその念を押す。
しかし、それでも晴信の答えはノー。彼女は横に首を振って勘助の気持ちを聞き入れなかった。
「(一体何があってこんなことになってるんだ……?)」
状況が分からなかった俺は、何故勘助が晴信に改まって立ち膝をしているのか疑問だった。一体全体何があってこんなことになってる?勘助もお暇って言ってたけど…てかお暇ってどういう意味?
「そうでございますか……」
しかし戦場は混沌としている。このような会話をしている状況では無かった。流石にそこまで止められてしまった勘助は、言い返す術も無く、立ち上がる。
「…勘助」
シケた顔をしている勘助は、晴信を見る気もせず、戦場の方へとゆっくり進んでいく。
「…勘助!聞いてるのかい!!」
「御屋形様。お恥ずかしながら」
しかめっ面で勘助を呼んだ晴信に申し訳なさそうに何か言い出そうとすると、彼女は自分の馬に突然乗り込む。
「この勘助、御屋形様のご命令に背かせさせて頂きまする!!」
澄んだ顔で晴信に言うと、彼女は馬をムチで叩き、真っ直ぐに走り出させる。
晴信の陣を勢い良く駆けていくその馬は、いつしか戦場の中に紛れて見えなくなっていった。
晴信は、椅子から力が抜けた様に落ちると、アングリしてその場に膝を付けて真っ直ぐ見つめていた。景虎に見透かされた状態の時とは全く違う様子だった。本当に大事な友を亡くした時に、人が見せる悲しい顔。
「…確かに策に生きる策士は、策に死ぬのが運命。でも、勘助。あんたが死ぬ意味が何処にあるんだい……? なんで…お前まで…私を……置いて逝くんだい?」
この時、武田本陣に居た兵士達は何度も晴信の本性を見ていた。決して晴信だけが強い女子ではないと言うこと、彼女だってか弱い一人の女の子だ。女の子はいつだって自分に強くあろうとする。だが、それは絶対に間違いだ。
「うぅ… かんすけぇ……」
彼女の瞳から、一滴の雫が零れ落ちる。
「…ぐすっ」
一滴、また一滴。彼女は涙で自分の顔を濡らしていた。
「どうして…どうして……」
…一人の女子が、膝を付いて泣いていた。
それは一人の将ではなく、一人の女子として。
それは一人の将に向けてではなく、一人の友に向けて。
彼女は微笑みを浮かべると、晴信の前で別れを言い切った。
「…勘助。あんた自分で何を言っているか分かってるのかい?」
跪く勘助を上から冷淡な目線で見つめる晴信は決して優しいとは言えない声を張った。戦場を見ていた俺が、この空気の異変に気付いたのはこの頃。
「はい 今回ばかりはこの勘助めによる最大の失態。策士、策に溺れると言うのはこういう事。このまま景虎と相まみえるつもりにございます」
虎の面前で、平気な顔でそう言い張る勘助を俺は見ていた。いつ何時も、晴信を恐れないその勘助の姿を。
「······な」
晴信が誰にも聞こえない小さな声で何か呟いた気がする。彼女は俯いた。
「···ふざけるな」
今度ははっきり聞こえる様、声に出す。罵倒するように晴信の口が動く。
「ふざけるな!命を粗末にするんじゃないよ馬鹿者!!…誰もあんたを責めちゃ居ないんだ。勘助、あんたはよくやってくれたさ。人生、誰しも必ず失敗する。そこから学ぶことが出来るから、次は成功出来るんじゃないか。為せば成る。だがそれを為そうとせねば···成らぬ。成る業を成し得たいのなら、ここで死んじゃいけんのさね。だから勘助―」
「私はもう、決め申した!!!」
必死に説得し、勘助を引き戻そうと翻弄する晴信。しかしそれでも勘助は大声で自分の意思を主張する。
「私はもう決め申した。御館形様、どうかお暇を···」
晴信の必死な説得も効果がなく、勘助は自分がここで散ることを許して頂ける様に必死に頭を下げてその念を押す。
しかし、それでも晴信の答えはノー。彼女は横に首を振って勘助の気持ちを聞き入れなかった。
「(一体何があってこんなことになってるんだ……?)」
状況が分からなかった俺は、何故勘助が晴信に改まって立ち膝をしているのか疑問だった。一体全体何があってこんなことになってる?勘助もお暇って言ってたけど…てかお暇ってどういう意味?
「そうでございますか……」
しかし戦場は混沌としている。このような会話をしている状況では無かった。流石にそこまで止められてしまった勘助は、言い返す術も無く、立ち上がる。
「…勘助」
シケた顔をしている勘助は、晴信を見る気もせず、戦場の方へとゆっくり進んでいく。
「…勘助!聞いてるのかい!!」
「御屋形様。お恥ずかしながら」
しかめっ面で勘助を呼んだ晴信に申し訳なさそうに何か言い出そうとすると、彼女は自分の馬に突然乗り込む。
「この勘助、御屋形様のご命令に背かせさせて頂きまする!!」
澄んだ顔で晴信に言うと、彼女は馬をムチで叩き、真っ直ぐに走り出させる。
晴信の陣を勢い良く駆けていくその馬は、いつしか戦場の中に紛れて見えなくなっていった。
晴信は、椅子から力が抜けた様に落ちると、アングリしてその場に膝を付けて真っ直ぐ見つめていた。景虎に見透かされた状態の時とは全く違う様子だった。本当に大事な友を亡くした時に、人が見せる悲しい顔。
「…確かに策に生きる策士は、策に死ぬのが運命。でも、勘助。あんたが死ぬ意味が何処にあるんだい……? なんで…お前まで…私を……置いて逝くんだい?」
この時、武田本陣に居た兵士達は何度も晴信の本性を見ていた。決して晴信だけが強い女子ではないと言うこと、彼女だってか弱い一人の女の子だ。女の子はいつだって自分に強くあろうとする。だが、それは絶対に間違いだ。
「うぅ… かんすけぇ……」
彼女の瞳から、一滴の雫が零れ落ちる。
「…ぐすっ」
一滴、また一滴。彼女は涙で自分の顔を濡らしていた。
「どうして…どうして……」
…一人の女子が、膝を付いて泣いていた。
それは一人の将ではなく、一人の女子として。
それは一人の将に向けてではなく、一人の友に向けて。
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