時代を越えてあの人に。~軍師は後に七人のチート家臣を仲間にします~
川中島の戦い (三) “こんな妹でごめんなさい”
―今現在、武田の本陣では勘助が景虎って言うロリっ子を単騎で討ち取ると、特攻。
逆に前線では、晴信の妹である信繁と重臣の昌景が起死回生を試みて、奮闘中。
また、高坂正信と馬場信春の率いる別動隊一万も、妻女山を下り、此方に向かっていた。
―さて、昌景。お願いします。
「はっ。行くぞ皆!武田の騎馬隊の恐ろしさ、越後の臆病者達に知らしめるぞ!!!」
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
前線の先手大将、武田信繁。幼名を次郎と言って、晴信の妹である。彼女も甲斐源氏の血筋で、父親である武田信虎の勇ましい血筋を引いている訳であるが、戦場では決して強引に押す事は考えず、地の利を生かした戦い方をした。前も説明したが、彼女は後に「真の副将」の異名を持ち、後世にまで名を残す。その彼女の補佐として現在、先手副大将として最強の騎馬隊「赤備え」を率いる猛将、山県昌景。この二人の指揮のコンビネーションは抜群で、未だ破られたことのない。武田と言えば当主・晴信。そして次に浮かぶのはこの二人とまで、後の世の中に言われる程。
「景虎の首は何処だァ!!!」
馬を巧みに操り、槍を片手で振り回して敵を斬り裂くと、次々に雑兵を狩っていく昌景。
その後ろに続いて、次々に武田の騎馬隊が乗り出していく姿があった。
しかし、敵を倒せばまた右より敵が湧き、倒せばまた湧くの繰り返し。これではいつまで経っても景虎の陣にまで押し込む事が出来ない。
対する長尾家がとっている戦術は、今回の秘策である「車懸かり」と言うもの。乱戦に持ち込んで、最後に旗本同士の決戦へと持ち込む作戦。旗本も何も、昌景と信繁は旗本以上の武田家臣であるので、そこに関しては何とも言えないが。
これが一向に進めない原因となっていた。
「武田の陣、まるで円を作って全く隙を生み出さず、大将の姿すら見させないとは…。これは一体、陣形なんだか戦術何だか分かりませんね…」
とにかく、状況が状況だった。景虎の位置すら分からず、弓で狙い撃とうとしても、狙えない。また、敵の勢いも強い為、隙が生まれず、背後からも叩くことが出来なかった。
「一体、どうすれば良い?このまま戦って消耗し続けるのは私達… なにか打開策…...…ッ!!」
自分が口に出していた言葉を、信繁はもう一度思い返した。
“大将の姿すら見させない”
大将の姿を見させない、と言うことは大将の居場所をばらさせないと言うこと。ならば、それは何に繋がるか…?感づいてしまった信繁は、少し蒼褪めた顔で戦場を見据えた。
「もしかすると、姉上の本陣が狙われているの……?」
―気付いた頃には、遅かった。
「獲物に喰らい付こうと前線を広げ、挙げ句の果てに側面を取られるようでは... 武田の武士は所詮その程度のようだな......」
長槍を地面に叩き突け、馬上から厳しい目付きでジッと信繁を見つめた。
前線ばかりを気にしていた武田。旗本が守っていると思っていた側面にいつの間にか長尾軍が押し寄せ、三方より包囲されていた。
兵士達が止めようとしても、彼女は兵士を気にせず此方に進んで来る。
「二度も不覚を!?一体···一体どうして!?」
一度目は勘助、二度目は信繁と、二度も武田の不意を付いた長尾景虎。偶然なのか、それとも本当に分かっていてぶつかって来ているのか。信繁には分からなかった。
「どうしてもなにも、私はただお主らの動きをずっと見ていただけだ。それ以外に何もしておらぬ。そう、ただ見ていただけ······」
信繁はこの時、初めて自分は長尾景虎よりも劣っている存在なのだと気付いた。
この場に立っているだけで、震え、凍え、口を動かし話すことさえ不可能になっていく。彼女が一歩、また一歩と馬を此方に近づけて来ると、その威圧に押され、頭を下げることしか出来なくなる。と言うよりも、体が勝手に動く。どうして...なんで...。
「なが...お...かげ...とら...」
「···我は毘沙門天の化身であるぞ。口を慎むがよい。武田の血筋の者」
···なにも考えられなくなるほど、自我が保てなくなっていく。いつしか気が遠くなり、目眩がした。痛い、頭が。痛い痛い痛い。なんで···どうして···一体なにが...。
「最後に言い残すことは」
景虎は、腰に掛けてある刀を抜くと刃先を見つめ、信繁に呟いた。それは細やかに死を助長させる声。
「あね...上」
「姉上...こんな妹で......ごめん...なさい」
景虎、日の光で輝く刀を振り下ろそうとする。
信繁は目を瞑って自分の死を―
「····あああああああ!!!!」
···刀を下ろしかけた瞬間、遠くの方から男の大声が響いた。
「どこだあああああ!!!!!かんすけえええええええ!!!!」
その声の矛先は、勘助。
武田の軍師である、山本勘助の名前だ。
「んだぁに!?なんだあの男!刀を振り回しながら馬を駆けてるぞ!」
長尾軍の兵士が驚いて言った。
「···男だと?男の殆どは足軽階級だろう?何故馬に乗っている?」
今にも刀を振り落とそうとしていた景虎が、その手を止めて男を見る。
それと同時に信繁は、少しだけ正気を取り戻して顔をゆっくりあげ、騒ぎになっている方に目線を送った。
「相良...さん」
馬を乗りこなし、勢いよく駆け巡るのは織田家の使者、相良裕太。
まるで狂った獅子のように戦場を駆け回るその姿を見ていた長尾軍の兵士たちは、暴れ馬でも現れたのかと、興味津々に集まってくる。
「...邪魔だあああああああああ!!!!!」
しかし、必死に勘助を探している俺には兵士たちが邪魔で仕方がなかった。
力振り絞り、勢いを使ってその場に嵐を起こすかの如く大暴れして、兵士たちを退けていった。
「暴れる獅子は、死をご所望のようだ...」
景虎は勢いよく向かって来る俺を“暴れる獅子”し、冷淡な口調で言うと、手を合わせて空を見上げた。
「···いざ、雌雄を決さん!」
「邪魔だあああああああああ!!!!!」
俺は勢いに乗って景虎に刀を縦に振り翳すと、景虎は刀を横に向けて俺の攻撃を防ごうとする。
ジジジジジジ....と、鉄同士が弾き合う鈍い音がその場一帯に響く。そのまま景虎は刀を弾くと俺も馬を止めさせ、その場に留まる。
「...毘沙門天のお導きより。お主はいつか斬らねばならぬ」
すると、此方に刀を先を向けて睨み付ける景虎が一声。
「...まさか勘助の本命の景虎に、俺が先に出会えちまうとは...。だが俺はお前を探しにきたんじゃねぇ。ここにいる武田の兵士達は俺が守る。毘沙門天のお導きかなんだが知らないが、都市伝説関係なら一旦事務所通してからにして貰おうか」
その景虎に、武田の兵士を殺さないように願い出るのは至難の業。第一敵方に殺さないでなんて願い出る事は馬鹿げている。だから、俺が道を作るんだ。皆の逃げ道を作るんだ。
「面白い。逃げれるものなら落ち延びろ!!大口を叩くのならば、この私に致命傷を負わせてみろ!!」
「···次郎」
「···」
意識の遠くなっていて朦朧としている次郎を呼び戻すように、俺は声を掛けると体を崩して座りこんでいる彼女と同じ目線の辺りまで体を下げると、次郎の肩を掴んだ。
「...このまま皆を逃がすように指示した。俺が道を開く。お前も助ける。お前がこの戦で死ぬって言う運命も、俺が変えて見せる。だから死ぬな」
「...知ってたの、ですね」
俺は頷くと彼女の抱き締め、右手で頭を撫でる。
「晴信から聞いた。まさか晴信がそんな能力を持ってるとは思わなかったけど、どうやらそれに近い能力を俺も持ってるみたいだし。だから安心して、任せてくれ。ここからは俺と晴信の戦だから」
その温もりからなのか、彼女はずっと底で堪えていた涙をポロポロと流し出す。
「うっ...くぅっ...ぐすっ......さがらざん.......武田を......私を......」
“助けて”
俺はひっ、と満面の笑みで次郎に笑うと、彼女は涙を流しながら細やかに微笑んで目を閉じた。
逆に前線では、晴信の妹である信繁と重臣の昌景が起死回生を試みて、奮闘中。
また、高坂正信と馬場信春の率いる別動隊一万も、妻女山を下り、此方に向かっていた。
―さて、昌景。お願いします。
「はっ。行くぞ皆!武田の騎馬隊の恐ろしさ、越後の臆病者達に知らしめるぞ!!!」
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
前線の先手大将、武田信繁。幼名を次郎と言って、晴信の妹である。彼女も甲斐源氏の血筋で、父親である武田信虎の勇ましい血筋を引いている訳であるが、戦場では決して強引に押す事は考えず、地の利を生かした戦い方をした。前も説明したが、彼女は後に「真の副将」の異名を持ち、後世にまで名を残す。その彼女の補佐として現在、先手副大将として最強の騎馬隊「赤備え」を率いる猛将、山県昌景。この二人の指揮のコンビネーションは抜群で、未だ破られたことのない。武田と言えば当主・晴信。そして次に浮かぶのはこの二人とまで、後の世の中に言われる程。
「景虎の首は何処だァ!!!」
馬を巧みに操り、槍を片手で振り回して敵を斬り裂くと、次々に雑兵を狩っていく昌景。
その後ろに続いて、次々に武田の騎馬隊が乗り出していく姿があった。
しかし、敵を倒せばまた右より敵が湧き、倒せばまた湧くの繰り返し。これではいつまで経っても景虎の陣にまで押し込む事が出来ない。
対する長尾家がとっている戦術は、今回の秘策である「車懸かり」と言うもの。乱戦に持ち込んで、最後に旗本同士の決戦へと持ち込む作戦。旗本も何も、昌景と信繁は旗本以上の武田家臣であるので、そこに関しては何とも言えないが。
これが一向に進めない原因となっていた。
「武田の陣、まるで円を作って全く隙を生み出さず、大将の姿すら見させないとは…。これは一体、陣形なんだか戦術何だか分かりませんね…」
とにかく、状況が状況だった。景虎の位置すら分からず、弓で狙い撃とうとしても、狙えない。また、敵の勢いも強い為、隙が生まれず、背後からも叩くことが出来なかった。
「一体、どうすれば良い?このまま戦って消耗し続けるのは私達… なにか打開策…...…ッ!!」
自分が口に出していた言葉を、信繁はもう一度思い返した。
“大将の姿すら見させない”
大将の姿を見させない、と言うことは大将の居場所をばらさせないと言うこと。ならば、それは何に繋がるか…?感づいてしまった信繁は、少し蒼褪めた顔で戦場を見据えた。
「もしかすると、姉上の本陣が狙われているの……?」
―気付いた頃には、遅かった。
「獲物に喰らい付こうと前線を広げ、挙げ句の果てに側面を取られるようでは... 武田の武士は所詮その程度のようだな......」
長槍を地面に叩き突け、馬上から厳しい目付きでジッと信繁を見つめた。
前線ばかりを気にしていた武田。旗本が守っていると思っていた側面にいつの間にか長尾軍が押し寄せ、三方より包囲されていた。
兵士達が止めようとしても、彼女は兵士を気にせず此方に進んで来る。
「二度も不覚を!?一体···一体どうして!?」
一度目は勘助、二度目は信繁と、二度も武田の不意を付いた長尾景虎。偶然なのか、それとも本当に分かっていてぶつかって来ているのか。信繁には分からなかった。
「どうしてもなにも、私はただお主らの動きをずっと見ていただけだ。それ以外に何もしておらぬ。そう、ただ見ていただけ······」
信繁はこの時、初めて自分は長尾景虎よりも劣っている存在なのだと気付いた。
この場に立っているだけで、震え、凍え、口を動かし話すことさえ不可能になっていく。彼女が一歩、また一歩と馬を此方に近づけて来ると、その威圧に押され、頭を下げることしか出来なくなる。と言うよりも、体が勝手に動く。どうして...なんで...。
「なが...お...かげ...とら...」
「···我は毘沙門天の化身であるぞ。口を慎むがよい。武田の血筋の者」
···なにも考えられなくなるほど、自我が保てなくなっていく。いつしか気が遠くなり、目眩がした。痛い、頭が。痛い痛い痛い。なんで···どうして···一体なにが...。
「最後に言い残すことは」
景虎は、腰に掛けてある刀を抜くと刃先を見つめ、信繁に呟いた。それは細やかに死を助長させる声。
「あね...上」
「姉上...こんな妹で......ごめん...なさい」
景虎、日の光で輝く刀を振り下ろそうとする。
信繁は目を瞑って自分の死を―
「····あああああああ!!!!」
···刀を下ろしかけた瞬間、遠くの方から男の大声が響いた。
「どこだあああああ!!!!!かんすけえええええええ!!!!」
その声の矛先は、勘助。
武田の軍師である、山本勘助の名前だ。
「んだぁに!?なんだあの男!刀を振り回しながら馬を駆けてるぞ!」
長尾軍の兵士が驚いて言った。
「···男だと?男の殆どは足軽階級だろう?何故馬に乗っている?」
今にも刀を振り落とそうとしていた景虎が、その手を止めて男を見る。
それと同時に信繁は、少しだけ正気を取り戻して顔をゆっくりあげ、騒ぎになっている方に目線を送った。
「相良...さん」
馬を乗りこなし、勢いよく駆け巡るのは織田家の使者、相良裕太。
まるで狂った獅子のように戦場を駆け回るその姿を見ていた長尾軍の兵士たちは、暴れ馬でも現れたのかと、興味津々に集まってくる。
「...邪魔だあああああああああ!!!!!」
しかし、必死に勘助を探している俺には兵士たちが邪魔で仕方がなかった。
力振り絞り、勢いを使ってその場に嵐を起こすかの如く大暴れして、兵士たちを退けていった。
「暴れる獅子は、死をご所望のようだ...」
景虎は勢いよく向かって来る俺を“暴れる獅子”し、冷淡な口調で言うと、手を合わせて空を見上げた。
「···いざ、雌雄を決さん!」
「邪魔だあああああああああ!!!!!」
俺は勢いに乗って景虎に刀を縦に振り翳すと、景虎は刀を横に向けて俺の攻撃を防ごうとする。
ジジジジジジ....と、鉄同士が弾き合う鈍い音がその場一帯に響く。そのまま景虎は刀を弾くと俺も馬を止めさせ、その場に留まる。
「...毘沙門天のお導きより。お主はいつか斬らねばならぬ」
すると、此方に刀を先を向けて睨み付ける景虎が一声。
「...まさか勘助の本命の景虎に、俺が先に出会えちまうとは...。だが俺はお前を探しにきたんじゃねぇ。ここにいる武田の兵士達は俺が守る。毘沙門天のお導きかなんだが知らないが、都市伝説関係なら一旦事務所通してからにして貰おうか」
その景虎に、武田の兵士を殺さないように願い出るのは至難の業。第一敵方に殺さないでなんて願い出る事は馬鹿げている。だから、俺が道を作るんだ。皆の逃げ道を作るんだ。
「面白い。逃げれるものなら落ち延びろ!!大口を叩くのならば、この私に致命傷を負わせてみろ!!」
「···次郎」
「···」
意識の遠くなっていて朦朧としている次郎を呼び戻すように、俺は声を掛けると体を崩して座りこんでいる彼女と同じ目線の辺りまで体を下げると、次郎の肩を掴んだ。
「...このまま皆を逃がすように指示した。俺が道を開く。お前も助ける。お前がこの戦で死ぬって言う運命も、俺が変えて見せる。だから死ぬな」
「...知ってたの、ですね」
俺は頷くと彼女の抱き締め、右手で頭を撫でる。
「晴信から聞いた。まさか晴信がそんな能力を持ってるとは思わなかったけど、どうやらそれに近い能力を俺も持ってるみたいだし。だから安心して、任せてくれ。ここからは俺と晴信の戦だから」
その温もりからなのか、彼女はずっと底で堪えていた涙をポロポロと流し出す。
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