時代を越えてあの人に。~軍師は後に七人のチート家臣を仲間にします~

芒菫

長良川の畔にて。

 命辛々逃げ出して、織田軍はなんとか長良川にまで逃げ出すことが出来た。特に霧が濃く、前が見えなかった先程までの状況とは一変して、現在は前も後ろもハッキリと見える快晴の天気へと変化している。とはいえ、兵士達は甚大な疲弊をしてしまった。まさか斉藤軍が策の為に連敗をし続けていたとは思いもしなかった。せっかく美濃の深くにまで立ち入っていたのに、これでは全て振出しに戻ることになってしまう。
 長良川を挟んで向こう岸を見てみれば、信盛の隊が墨俣に城を建築している姿が見えた。今は特に問題は無さそうで、其方についてはホッとしたが、やはり今回の作戦を失敗してしまった為に、兵達の士気低下は逃れられない。

「これでは全て振出しに戻ってしまうわね……私の作戦が未熟過ぎた……信長様、本当に申し訳ありませんでした。今回ばかりは潔く腹を斬らせていただきます」

 普段は敬語を使って話さない長秀が、改まっていた。自分の立てた作戦が失敗してしまったのだ、酷く落ち込んで反省をしているのだろう。
 ……反省だと?長秀は今何と言った?腹を斬ると言ったのか?

「馬鹿者! 何を言うか!! 作戦が失敗したところで、わしは怒ってはおらぬ。作戦を決行させたのはわしじゃ。罪を背負うべき存在はわしなのじゃ。長秀が思い詰めて潔く腹を斬ろうなどと考えるな! それに、大事なのはそこではない。如何にして兵の士気を戻し美濃を盗るか、じゃ。無駄な事を考えるでない!」

 信長は頭から湯気を立てる様に大声で怒鳴り、長秀を叱った。それに応えたようで、長秀の瞳には微かだがウルウルと震えていた。慎重で面白くて、それでも冷静な長秀が見せた事の無い一面だった。

「信長様も、本当にお優しいよね」

 遠くからその様子を見つめていた恵美が、隣で槍の手入れをしている泰能に不愛想な声で言った。

「城郷殿は信長様に妬いておられるのか?」

 しかし、それにもあまり興味の無い泰能は適当に返せばいいと言う思いで恵美に返事を返した。

「してないわよ! それと、私のことは城郷殿じゃなくて恵美で呼びなさいって、いつも言ってるじゃない!」

 軽く自分をコケにするような言い方で返してきた泰能に頬を膨らませて、恵美は強い口調で言い張った。

「良いでは無いか、城郷殿で。私は軽はずみな呼び方が嫌いでな。やはり主従関係はハッキリさせておいた方が良いと思うのだ。それに、やはり敬意のある言葉を使って相手の名前を呼んだ方が常に失礼な物言いをしなくて済む」

 話を深く掘り進めるように泰能は言うと、再び槍の手入れの方に戻ってしまった。どうしても言い返されて後味の悪い恵美は不機嫌ながらも信長達の行動を伺うようにさっきの体勢に戻った。

「それにしても……智慶は何処に行ったのかしら」

 長良川を見つめながら、少しだけ気遣うように恵美は呟いた。

▼美濃国 西美濃
 一方その頃、別動隊として西美濃方面へ向かっていた滝川一益率いる種子島隊集団は……

「おらおら! やるだにやるだに! もーっとやるだに! わっちら織田家の最強の種子島集団が本気でお前らを殺しにかかったらどうなるか……トラウマとしてねじ込んで貰えるように、ぎったぎたのげちょんげちょんにしてやるでえええ!!!」

「一益様、言っている事が一面の中ボスみたいですよ。フラグ建築は止してください」
 いきりだって猛烈にはしゃいでいた一益に歯止めを掛けるよう、家臣の秀唱は棒読みで言った。

「フラグってなんだに? もしや、天下一品の最強料理だにか!?」

 目をキラキラさせて、目の前の敵の事では無く、大好きな食べ物のことについて喰い付いてくる。

「はぁ……あのだな一益様……」

 呆れたような顔で秀唱は言った。

「一益様! 敵の抵抗が激しくなってきました。一旦撤退いたしますか?」

 一益の家臣の一人が駆け付けると、現在の戦場の状況報告をしていく。一益は腕を組んで考えた。

「さて、どうするだにか。このまま退いても問題なさそうなんやけどね」

「とは言え、一益様が本気で種子島を運搬したために、敵も相当焦っていると思われる。やはり、このまま攻め続けることが得策だと思う。第一、一益様が信長様と変な約束をしてしまったからこの事態になってしまったのだからな。ですから、このまま岩付城を攻め落とし、手柄にすることが大事かと」

 別に今此処で退いても状況も変わらなければ、特に凄い事もない。となればやはりこのまま本気で攻めを行って、城を落とした方が絶対に良い。此処をとる事で、西美濃からの援軍がほぼなくなり、一層美濃攻めがしやすくなるだろう。

「まぁ、そうだにね~。特に信長様の方からも連絡とか無いし、このまま攻めるのが得策なのかもしれないだにね~」

 最終的に一益も秀唱の策に乗り、このまま攻めを続けることになった。
さて、この岩付城。美濃と尾張に広がる濃尾平野から遠く離れた場所、西美濃の方に位置する。盆地に建てられたこの城、城主は遠山景任とうやまかげとう。この岩付の地域の豪族で、斉藤家家臣の一人である。

「くっそ、何故我々が尾張の雑魚兵によってたがって攻められなければならない!! ふざけるなああああ!!!」

 実はこの景任、現在長森で信長達がボコボコにやられたという情報を知っていた。今回見事に手を出さず、正解だったと思っていた直後に、一益率いる別動隊に追われることとなり、このようにキレ気味の最中、戦っていた。

「弾を込めろ! 種子島を構えろ! 目の前にいる敵を粉砕するまで今日は帰らないだによ! 飯も食わせないだに! 勿論、わっちも食べないだに! 燃やしたりなんだりしていいだにから、この城を全速力で落とすだによ!!!」

「つ、ついに一益様が断食を宣言した!? こ、これは革命なのか!? 夢では無いのか……!? 恐ろしい……恐ろしすぎる!!」

 秀唱はこの状況では無く、一益が断食宣言したことに驚いた腰を抜かした。

「何言ってるだに、秀唱!! いいから早く攻撃の指示を!」

「……了解しました。第一部隊、種子島を構えろ! 第二部隊は第一部隊が発砲し次第、ただちに前へ出て種子島の用意。第三部隊と第四部隊は、いつでも発砲できるようにしておけ」

 秀唱の陣頭な指揮により、種子島部隊は無駄なく瞬時に行う。第一部隊が右膝みぎひざを地面に付けて、種子島を構える体制をとる。桶狭間の時は、一益の部隊には刀や槍を使える兵士は極僅かで、攻撃手段が遠距離攻撃の種子島しかなかったが、現在は近接戦闘員も相当な数を配備させて貰っている。おかげでスムーズにそして有利に戦いを運ぶことが出来た。この戦場で織田軍の指揮を取るのは、後に「退くも滝川、進も滝川」の異名を持つ事となる者。この頃は織田家の重臣でありながらも、そこまで影響力は強い訳では無かったが指揮に長け、調略も素晴らしく、織田家の中では最強クラスの家臣であった。
―名を滝川一益。

「はーっくしょん! うぅ……誰かに噂された気がするだに……」

「一益様……こんな大事な時にくしゃみで? もっと緊張感を持ってくだされ。此処は戦場なんですからよ」

 また呆れた顔で一益に物言いをする秀唱。一益も頬を膨らませて顔を赤くすると、やはり怒っている様だった。次第に秀唱もその顔に心が折れて……

「はぁ……分かった、分かった、分かりましたよ!! 一益様の好きにしてくれて結構です。ただしもう私はどうなっても責任を取りませんからな」

 すると、一益の顔は次第に笑顔へと変わっていく。

「うむうむ、その通りだに! 私の好きにさせてもらうだに。なんて言ったって、指揮官なんやからに! さ、やったるで!」

 そういうと、一益は種子島部隊の方へ向かって進んでいく。彼女も自分の腰に掛けてある種子島の一丁を抜き出して、第一部隊の指揮に付いた。

「……わっちが合図したら、皆撃つんだによ……!」

 一益の言葉に皆頷いたのか、種子島の火縄に火を付けて合図したかのように見せた。一益も弾込めを行い、火ばさみに火縄を挟めて火ばさみを引く。

「……はぁ。織田軍の前衛部隊、直ちに撤退しろ!!」

 仕方なく、と思った秀唱は馬を出して前線に居る味方の兵士達に撤退命令を下した。生憎、深追いをする前の段階であったため、後方を見て火縄銃を擁しているのだなと分かった織田軍の兵士達は、弾が当たらないように後ろに下がりながら左右に逃げていく。

「流石出来る子、秀唱。分かってくれたんだにね……それじゃあ思う存分……」

 一益は火縄銃をしっかりと握り締めて、火縄に火を付けた。そして、此方に向かってくる斉藤軍の兵士にしっかりと狙いを定める。

「……撃て!」

一発の爆音の後、一段階遅れて一斉に揃った種子島の銃声が織田軍の陣の一帯に響く。

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