時代を越えてあの人に。~軍師は後に七人のチート家臣を仲間にします~
長良川を渡りて候。
 彼女達、仕事は早い。
「では川並衆の皆さん、聞いてください。まずですね、用意頂いた丸太千本程を筏に五本ずつのせて長良川を渡って貰います。間違いの無いように、私の弟を墨俣に配置しておりますので、後は川を下るだけでお願いしますよ!」
美濃一帯の図面を見せながら、藤吉郎は練った作戦を川並衆の者達に話始める。
「特に、墨俣は斉藤家の居城である稲葉山からもスッキリ見える範囲ですから、灯は必ず消して下さいね」
現在、夕刻を過ぎた頃。流石に夏であるため、まだ辺りは明るい。このまま川並衆が川を渡り終わったころには辺りはちょうど良い具合に暗くなっているだろうと予想した藤吉郎は、わざわざこの時間まで築城に必要な材料を協力して全て集めていた。だから彼女、本当に仕事だけは早いのだ。効率性を求める以上、やはり下準備にはヒートアップしてかからなければならない、それが彼女の考え方なのだ。
「問題は、明け方までに築城を完成させることが出来るか、だが……」
川並衆の頭領である、蜂須賀ころくが心配そうな目付きで地図を見つめていた。確かに、前代未聞の建築作業になるであろう。築城にはそれだけの労と時間が求められ、権力の象徴でもあるからだ。だが、そこにも藤吉郎の秘策があった。
「先程も言いましたが、明け方までに外観を完成させるのです。内装はすべて後回し! 城の骨組み、柱、瓦、城門、城壁、全てを作ってしまいます! 勿論、時間は掛けてはいられません。ですが、今回の目的は斉藤軍の指揮をどれだけ削るか、そして墨俣を織田家の拠点にすることが出来るのか、です! 今回だけは、面倒な事はすべて後回しに! 目先のやれることを優先していきましょう!」
藤吉郎は拳を握り締め、決心を新たにした。それに応える様に、ころくは川並衆へと迫る。
「よし、お前ら! この木下藤吉郎に掛けてやろうぜ! 全力でやってやろうぜ! 斉藤の馬鹿家に、川並衆の恐ろしさ、思い知らせるぞ!!」
ころくの言い放った言葉は、更に川並衆の心を熱く燃え上がらせ、奮い立たせた。
「おおおおお!!!」「打倒斉藤家!!」「川並衆の本気、みせてやらああ!」「いけいけころく! いけいけころく!」「ころく様ぁぁぁ! 一生ついていきます!!」
と、ころくに熱い声援が送られる。少々、違う意味での声援も送られていたような気もするが……いや、気のせいだろうか。そんなことはお構いなしに、藤吉郎は動き出し、早速筏に乗り込む。川並衆も後に続いた。
「いやー、実は船出するのって初めてなんですよね~!」
藤吉郎は胸を躍らせ、今か今かと出航の時を待っていた。そこまでたいそうな船では無いわけではあるが。
「まぁ任せな! この川並衆に全て任せておけば成功するってもんだ!」
ころくは誇らしげにそう言うと、胸を叩いて手柄話をするように表情がにこやかになっていた。
「……まぁ、船出の合図くらいは藤吉郎が出せ! ……うんうん、私は大人だからまたの機会に譲ってやるよ! だから、うん。うん、藤吉郎、た、頼んだぜ!」
そこには笑みが浮かばれていたが、ころくの本心は「……言いたいよぉ」である。そんな純粋な気持ちを知らない藤吉郎は、威勢よく返事をする。この時間帯に吹く生暖かい風が、また藤吉郎の気分を上げようとしていた。
「さて、それでは言わせていただきます!」
前置きの様に藤吉郎は口を開くと、深呼吸をした。その場は静まり返ると共に、期待に満ちている。一人の女子に、織田家の行く末を決める大きな作戦が任されていた……
「出航です!!」
それは彼女にとっての船出であり、始まりの合図である。縄で縛られていた筏が、徐々に動き始め、川の流れに乗って先に進んでいく。
▼尾張国 犬山城本丸
「面を上げよ、一益」
信長の御前の前に出された一益は、仰せのままに頭を上げて、信長と対面する。
「……信長様、今回の失態からの巻き返し、勿論、失態の件については……なかったことにしてもらえますに?」
先日、勝家と一益が言い争いを起こした際、一益はその失態を自重して自ら兵を挙げて西美濃へ侵攻した。そして見事に岩付城を落城させることに成功している。その功績と引き換えに、先の言い争いの件は無かったことにしてもらいたかったのだ。
「うむ、お主の言いたいことは良く分かっておる。勿論そのつもりじゃ。だが、今回お主を呼んだのは、そのようなくだらない話をする為ではない」
深刻そうな顔つきで、信長は御前の一益を見つめる。一益は信長からの言葉をジッと堪え、待った。
「一益、これよりお主は長島へ向かえ。北畠が何やら良からぬことを企てていると言う情報が、浅野から入った。この状況で下から北進されるのはまずい。それに、まだ長島の願正寺から、正式に家臣に下るという言葉を耳にはしていない。お主が説き伏せ、長島を守れ。して、長島はお主に任せる」
信長から新たな命令を頂いた一益は、表情には隠しながらも、微笑み、喜んでいた。
「わかりましたに。わっちにお任せください。必ずや、長島は」
そういって、一益は再び頭を下げ、御前を後にした。
「うむ」
一益が言った後、信長は満足そうに言った。
「さて、後はお猿さん次第ね」
隣に控えていた長秀が、先を見据えた様な顔で、扇子を仰ぎながら言った。
「猿は、やる。だから任せたのじゃ。出来なければ、斬る。それまでよ……」
信長もまた、全てを悟っているような言葉遣いで呟く。間もなく、日が暮れる……
※
流れに乗り、とても速い。藤吉郎が最初に思った長良川への思いはそこだった。現在長良川を超高速で流れております~。と。
「しかし、あんまり速いと川遊びもつまらねぇな!」
川の流れを見ながら、ころくは不思議とそう呟いた。
「ころくさんは、普段川へ?」
気になった藤吉郎が、暇そうなころくへ問い掛けた。ころくは、西の方を指さして口を開く。
「あぁ。木曽川でよくな。木曽川もまた、街道の近くにあるわけよ。また、織田家じゃなく斉藤家とか北畠家が良く使う道でな。見ていれば、二つの家がどういう中だかってのも、私ら馬鹿士豪にも分かるってもんよ」
単調に、早口で彼女は説明すると、呆れていた。それは何処か、斉藤家と北畠家だけでなく、日ノ本全ての家に呆れている様だった。
「ま、まぁ確かに……確かに、今はそうやって荒れてはおりますが、きっとそのうち、日ノ本に平和が訪れます! 日ノ本を血で染める時代は、この信長様の代で終わりになるのですから!」
得意げに藤吉郎は語る。
「当たりめぇだろ! じゃねぇと信長になんて手は貸さね……いや、違う違う。私は藤吉郎に手を貸してるんだ! 信長なんて関係ねぇ! ただ求められたから、手を貸しただけだから! 分かったな?」
正直な事をはっきりと言えないころくだから。だから、藤吉郎は日ノ本が好きだった。日ノ本を愛していた。世界を愛していた。日ノ本にはもっと沢山の人がいるのだと。関わり合っていくことが出来るのだ、と。それだけでも、彼女は嬉しかった。早く戦が絶えない日ノ本を救い、沢山の人と仲良くなりたい。誰にも語ったことが無い、彼女の夢。今日も実現するため、彼女は動く。そして戦う。
「あはは……ころくさんも素直じゃないですね~」
「な、なにが素直じゃないだ!? 素直だ、私は昔から素直っ子なんだよ!」
熱くなっている彼女に、藤吉郎もっと油を注ぐような言い方で煽る。当然のことに、ころくは藤吉郎の言葉を認めず、聞き入れない。
「……さて、まぁこんな茶番は止めにして」
「何が茶番だ! 振って来たのは藤吉郎、お前だぞ!」
「ははは、ごめんなさい。……ですが、そろそろ……」
笑って誤魔化した藤吉郎であったが、遠くの方を向くと、出航時のような真剣な顔付きに戻っていた。ころくも、ふざけるのは止めて、同じように遠くの方を見つめる。
「さて、そろそろだ。気を引き締めろよ、お前ら」
日は既に暮れている。辺りは朦朧として、あまり先は見えない。藤吉郎は、頭上を見上げ、空を見た。
「……あれ、一番星じゃないですか?」
藤吉郎が、指を指した方には、美しく、優しさのある光が一つ。
「……きっと、成功させて見せますから」
「お前らしくないな……神頼みか」
藤吉郎は両手を握り締め、星にお祈りをするように口ずさむ。ころくはそれを見て少し驚きながら言った。
「えぇ。失敗は許されませんから……絶対に、やり遂げて見せます……!」
彼女の堅い決心が、遂にその時を迎えようとしている。若くして、織田家の家臣団の一人として名を連ねる、木下藤吉郎。彼女の一番星が、夜を起こす。
「では川並衆の皆さん、聞いてください。まずですね、用意頂いた丸太千本程を筏に五本ずつのせて長良川を渡って貰います。間違いの無いように、私の弟を墨俣に配置しておりますので、後は川を下るだけでお願いしますよ!」
美濃一帯の図面を見せながら、藤吉郎は練った作戦を川並衆の者達に話始める。
「特に、墨俣は斉藤家の居城である稲葉山からもスッキリ見える範囲ですから、灯は必ず消して下さいね」
現在、夕刻を過ぎた頃。流石に夏であるため、まだ辺りは明るい。このまま川並衆が川を渡り終わったころには辺りはちょうど良い具合に暗くなっているだろうと予想した藤吉郎は、わざわざこの時間まで築城に必要な材料を協力して全て集めていた。だから彼女、本当に仕事だけは早いのだ。効率性を求める以上、やはり下準備にはヒートアップしてかからなければならない、それが彼女の考え方なのだ。
「問題は、明け方までに築城を完成させることが出来るか、だが……」
川並衆の頭領である、蜂須賀ころくが心配そうな目付きで地図を見つめていた。確かに、前代未聞の建築作業になるであろう。築城にはそれだけの労と時間が求められ、権力の象徴でもあるからだ。だが、そこにも藤吉郎の秘策があった。
「先程も言いましたが、明け方までに外観を完成させるのです。内装はすべて後回し! 城の骨組み、柱、瓦、城門、城壁、全てを作ってしまいます! 勿論、時間は掛けてはいられません。ですが、今回の目的は斉藤軍の指揮をどれだけ削るか、そして墨俣を織田家の拠点にすることが出来るのか、です! 今回だけは、面倒な事はすべて後回しに! 目先のやれることを優先していきましょう!」
藤吉郎は拳を握り締め、決心を新たにした。それに応える様に、ころくは川並衆へと迫る。
「よし、お前ら! この木下藤吉郎に掛けてやろうぜ! 全力でやってやろうぜ! 斉藤の馬鹿家に、川並衆の恐ろしさ、思い知らせるぞ!!」
ころくの言い放った言葉は、更に川並衆の心を熱く燃え上がらせ、奮い立たせた。
「おおおおお!!!」「打倒斉藤家!!」「川並衆の本気、みせてやらああ!」「いけいけころく! いけいけころく!」「ころく様ぁぁぁ! 一生ついていきます!!」
と、ころくに熱い声援が送られる。少々、違う意味での声援も送られていたような気もするが……いや、気のせいだろうか。そんなことはお構いなしに、藤吉郎は動き出し、早速筏に乗り込む。川並衆も後に続いた。
「いやー、実は船出するのって初めてなんですよね~!」
藤吉郎は胸を躍らせ、今か今かと出航の時を待っていた。そこまでたいそうな船では無いわけではあるが。
「まぁ任せな! この川並衆に全て任せておけば成功するってもんだ!」
ころくは誇らしげにそう言うと、胸を叩いて手柄話をするように表情がにこやかになっていた。
「……まぁ、船出の合図くらいは藤吉郎が出せ! ……うんうん、私は大人だからまたの機会に譲ってやるよ! だから、うん。うん、藤吉郎、た、頼んだぜ!」
そこには笑みが浮かばれていたが、ころくの本心は「……言いたいよぉ」である。そんな純粋な気持ちを知らない藤吉郎は、威勢よく返事をする。この時間帯に吹く生暖かい風が、また藤吉郎の気分を上げようとしていた。
「さて、それでは言わせていただきます!」
前置きの様に藤吉郎は口を開くと、深呼吸をした。その場は静まり返ると共に、期待に満ちている。一人の女子に、織田家の行く末を決める大きな作戦が任されていた……
「出航です!!」
それは彼女にとっての船出であり、始まりの合図である。縄で縛られていた筏が、徐々に動き始め、川の流れに乗って先に進んでいく。
▼尾張国 犬山城本丸
「面を上げよ、一益」
信長の御前の前に出された一益は、仰せのままに頭を上げて、信長と対面する。
「……信長様、今回の失態からの巻き返し、勿論、失態の件については……なかったことにしてもらえますに?」
先日、勝家と一益が言い争いを起こした際、一益はその失態を自重して自ら兵を挙げて西美濃へ侵攻した。そして見事に岩付城を落城させることに成功している。その功績と引き換えに、先の言い争いの件は無かったことにしてもらいたかったのだ。
「うむ、お主の言いたいことは良く分かっておる。勿論そのつもりじゃ。だが、今回お主を呼んだのは、そのようなくだらない話をする為ではない」
深刻そうな顔つきで、信長は御前の一益を見つめる。一益は信長からの言葉をジッと堪え、待った。
「一益、これよりお主は長島へ向かえ。北畠が何やら良からぬことを企てていると言う情報が、浅野から入った。この状況で下から北進されるのはまずい。それに、まだ長島の願正寺から、正式に家臣に下るという言葉を耳にはしていない。お主が説き伏せ、長島を守れ。して、長島はお主に任せる」
信長から新たな命令を頂いた一益は、表情には隠しながらも、微笑み、喜んでいた。
「わかりましたに。わっちにお任せください。必ずや、長島は」
そういって、一益は再び頭を下げ、御前を後にした。
「うむ」
一益が言った後、信長は満足そうに言った。
「さて、後はお猿さん次第ね」
隣に控えていた長秀が、先を見据えた様な顔で、扇子を仰ぎながら言った。
「猿は、やる。だから任せたのじゃ。出来なければ、斬る。それまでよ……」
信長もまた、全てを悟っているような言葉遣いで呟く。間もなく、日が暮れる……
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流れに乗り、とても速い。藤吉郎が最初に思った長良川への思いはそこだった。現在長良川を超高速で流れております~。と。
「しかし、あんまり速いと川遊びもつまらねぇな!」
川の流れを見ながら、ころくは不思議とそう呟いた。
「ころくさんは、普段川へ?」
気になった藤吉郎が、暇そうなころくへ問い掛けた。ころくは、西の方を指さして口を開く。
「あぁ。木曽川でよくな。木曽川もまた、街道の近くにあるわけよ。また、織田家じゃなく斉藤家とか北畠家が良く使う道でな。見ていれば、二つの家がどういう中だかってのも、私ら馬鹿士豪にも分かるってもんよ」
単調に、早口で彼女は説明すると、呆れていた。それは何処か、斉藤家と北畠家だけでなく、日ノ本全ての家に呆れている様だった。
「ま、まぁ確かに……確かに、今はそうやって荒れてはおりますが、きっとそのうち、日ノ本に平和が訪れます! 日ノ本を血で染める時代は、この信長様の代で終わりになるのですから!」
得意げに藤吉郎は語る。
「当たりめぇだろ! じゃねぇと信長になんて手は貸さね……いや、違う違う。私は藤吉郎に手を貸してるんだ! 信長なんて関係ねぇ! ただ求められたから、手を貸しただけだから! 分かったな?」
正直な事をはっきりと言えないころくだから。だから、藤吉郎は日ノ本が好きだった。日ノ本を愛していた。世界を愛していた。日ノ本にはもっと沢山の人がいるのだと。関わり合っていくことが出来るのだ、と。それだけでも、彼女は嬉しかった。早く戦が絶えない日ノ本を救い、沢山の人と仲良くなりたい。誰にも語ったことが無い、彼女の夢。今日も実現するため、彼女は動く。そして戦う。
「あはは……ころくさんも素直じゃないですね~」
「な、なにが素直じゃないだ!? 素直だ、私は昔から素直っ子なんだよ!」
熱くなっている彼女に、藤吉郎もっと油を注ぐような言い方で煽る。当然のことに、ころくは藤吉郎の言葉を認めず、聞き入れない。
「……さて、まぁこんな茶番は止めにして」
「何が茶番だ! 振って来たのは藤吉郎、お前だぞ!」
「ははは、ごめんなさい。……ですが、そろそろ……」
笑って誤魔化した藤吉郎であったが、遠くの方を向くと、出航時のような真剣な顔付きに戻っていた。ころくも、ふざけるのは止めて、同じように遠くの方を見つめる。
「さて、そろそろだ。気を引き締めろよ、お前ら」
日は既に暮れている。辺りは朦朧として、あまり先は見えない。藤吉郎は、頭上を見上げ、空を見た。
「……あれ、一番星じゃないですか?」
藤吉郎が、指を指した方には、美しく、優しさのある光が一つ。
「……きっと、成功させて見せますから」
「お前らしくないな……神頼みか」
藤吉郎は両手を握り締め、星にお祈りをするように口ずさむ。ころくはそれを見て少し驚きながら言った。
「えぇ。失敗は許されませんから……絶対に、やり遂げて見せます……!」
彼女の堅い決心が、遂にその時を迎えようとしている。若くして、織田家の家臣団の一人として名を連ねる、木下藤吉郎。彼女の一番星が、夜を起こす。
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