時代を越えてあの人に。~軍師は後に七人のチート家臣を仲間にします~
綺麗な酒と汚い酒。
「…なにやら外が騒がしくないかしら?」
それに気づいたとき、外は墨俣建築の真っ最中。斎藤龍興は布団から抜け出して立ち上がり、襖を開けて寝室を出る。彼女は基本、稲葉山の天守で寝宿をしているため、遠くはすぐに確認出来る位置に居た。
「……うん?」
だが、稲葉山からの風景はいつもとは違っていた。
―霧で覆いかぶされている。白く、濃い。そっとじゃ晴れないくらいに、濃い霧である。まさに大蛇が空を覆っていると言わんばかりに。流石にここまで白い物を見てしまうと、眠れるものも眠れない、とそう思った龍興はそのまま酒を取り出し、盃に注いだ。酒が盃に流れる音は、この不安と緊張を見事に緩和させてくらいに響きが良い。いくら聞いても、この音だけは一日で欠かせない。透き通ったその色も、この天下と同じくらいに透き通っている。
「そうだったわ……私も、いつしか天下を……なんて願っていたわね」
それを眺めながら、竜興はかつての志を思い浮かべていた。あの頃はまだ、姉上も母上も……。
「龍興は、生まれきっての天才子ですよ」
そう言ってくれた、母・道三も今ではこの世には存在しない。姉上の手によって、謀反に会い、そのまま姉上自ら殺めてしまった。私は、あんなにも仲の良かった姉上と母上が何故仲違いしてしまったのか、不思議で残酷で仕方が無かった。考えるだけで、胸が痛み、手足に痺れが走った。だから、考えないようにしていたのに……。
「……駄目ね……私も……」
今日の酒は、悲しみの酒。龍興にとって、決して思い出したくない酒が、目の前にあった。それを一気に飲み干し、自分の無力さを痛感する。彼女もまた、悩みを抱えて、生きることに行き詰っていた……。
「……そう言えば、この霧……早く晴れないかしら……青空を拝みたいわね……」
嫌な事を忘れたい、そう思う少女は全く別の事を頭に浮かべて、話の路線を変えようと試みた。
「……重治に聞けば……分かるかしらね」
……そして、重治は。
「これだけ霧が濃いとは思いましたが、やはり好都合でしたね」
長良川の畔で、藤吉郎たちがせっせと進める築城作業を眺めながらつぶやいた。霧を出現させたのは、彼女……と言ってしまえば、彼女が霧を操っているような言い方になってしまう。彼女は数日、数週間の天候を読むことが出来る。今回の霧も、彼女が予想していたものであった。
彼女は、墨俣築城が藤吉郎の番に回って来る時期までも読み当て、これまで墨俣築城を熟そうとしてきた者達は悉ことごとく叩き潰してきた。それは、何故なのか。
「何故なのでしょう。聞き覚えすらないのに、何故か惹かれる彼女の姿と名前。木下藤吉郎……彼女は一体、どんな人物なのでしょうか……?」
彼女もまた、藤吉郎の存在に惹かれた一人である。一体何処で知ったのか、重治は彼女の名に覚えがあり、そして好意が湧いた。聞いた事もない、ただ織田家の出世頭とささやかれる一人であるだけの、無名の武将であるのに……。
「……とは言え、これで良かったのでしょう。私は何故、彼女達に手を貸したのか。一体何がしたかったのか……自問自答になるのは確実ですが、やはり織田家の天下を期待しているのか、それとも斉藤家にとっての強敵を試しているのか……」
彼女は、自分に考えさせるような話し方で、今思っている全ての事を口に出して言った。例え、彼女が何者でも……後の藤吉郎達の運命には全く関係ないはず……無いはずだった。
この後、藤吉郎と重治は面と向かって一対一で、世の秩序を語り合う日が訪れるのかも知れない。ここからは、まだ私にも分からない話であり、何処の誰にも予想できない話である。
なぜならそれは、これより未来の話だから―
竹中重治は、長良川から吹かれる生暖かい風に当たりながら、稲葉山に向かって一歩一歩踏みしめ、進む。
それに気づいたとき、外は墨俣建築の真っ最中。斎藤龍興は布団から抜け出して立ち上がり、襖を開けて寝室を出る。彼女は基本、稲葉山の天守で寝宿をしているため、遠くはすぐに確認出来る位置に居た。
「……うん?」
だが、稲葉山からの風景はいつもとは違っていた。
―霧で覆いかぶされている。白く、濃い。そっとじゃ晴れないくらいに、濃い霧である。まさに大蛇が空を覆っていると言わんばかりに。流石にここまで白い物を見てしまうと、眠れるものも眠れない、とそう思った龍興はそのまま酒を取り出し、盃に注いだ。酒が盃に流れる音は、この不安と緊張を見事に緩和させてくらいに響きが良い。いくら聞いても、この音だけは一日で欠かせない。透き通ったその色も、この天下と同じくらいに透き通っている。
「そうだったわ……私も、いつしか天下を……なんて願っていたわね」
それを眺めながら、竜興はかつての志を思い浮かべていた。あの頃はまだ、姉上も母上も……。
「龍興は、生まれきっての天才子ですよ」
そう言ってくれた、母・道三も今ではこの世には存在しない。姉上の手によって、謀反に会い、そのまま姉上自ら殺めてしまった。私は、あんなにも仲の良かった姉上と母上が何故仲違いしてしまったのか、不思議で残酷で仕方が無かった。考えるだけで、胸が痛み、手足に痺れが走った。だから、考えないようにしていたのに……。
「……駄目ね……私も……」
今日の酒は、悲しみの酒。龍興にとって、決して思い出したくない酒が、目の前にあった。それを一気に飲み干し、自分の無力さを痛感する。彼女もまた、悩みを抱えて、生きることに行き詰っていた……。
「……そう言えば、この霧……早く晴れないかしら……青空を拝みたいわね……」
嫌な事を忘れたい、そう思う少女は全く別の事を頭に浮かべて、話の路線を変えようと試みた。
「……重治に聞けば……分かるかしらね」
……そして、重治は。
「これだけ霧が濃いとは思いましたが、やはり好都合でしたね」
長良川の畔で、藤吉郎たちがせっせと進める築城作業を眺めながらつぶやいた。霧を出現させたのは、彼女……と言ってしまえば、彼女が霧を操っているような言い方になってしまう。彼女は数日、数週間の天候を読むことが出来る。今回の霧も、彼女が予想していたものであった。
彼女は、墨俣築城が藤吉郎の番に回って来る時期までも読み当て、これまで墨俣築城を熟そうとしてきた者達は悉ことごとく叩き潰してきた。それは、何故なのか。
「何故なのでしょう。聞き覚えすらないのに、何故か惹かれる彼女の姿と名前。木下藤吉郎……彼女は一体、どんな人物なのでしょうか……?」
彼女もまた、藤吉郎の存在に惹かれた一人である。一体何処で知ったのか、重治は彼女の名に覚えがあり、そして好意が湧いた。聞いた事もない、ただ織田家の出世頭とささやかれる一人であるだけの、無名の武将であるのに……。
「……とは言え、これで良かったのでしょう。私は何故、彼女達に手を貸したのか。一体何がしたかったのか……自問自答になるのは確実ですが、やはり織田家の天下を期待しているのか、それとも斉藤家にとっての強敵を試しているのか……」
彼女は、自分に考えさせるような話し方で、今思っている全ての事を口に出して言った。例え、彼女が何者でも……後の藤吉郎達の運命には全く関係ないはず……無いはずだった。
この後、藤吉郎と重治は面と向かって一対一で、世の秩序を語り合う日が訪れるのかも知れない。ここからは、まだ私にも分からない話であり、何処の誰にも予想できない話である。
なぜならそれは、これより未来の話だから―
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