異世界を追い出された俺は──元の世界でハーレム作りに勤しみます【凍結】

決事

デジャヴったら伏線要注意

考えておいてくださいね、という吹留の言葉を背に受けながら帰路に着いた。
一人になると途端に感傷的になってしまう。
端から紺色に染まっていく空を見上げ、噴き出してくるあの世界でのことを懸命に抑えつける。
そんな風に何も考えないようにしていた脳裏へ割り込んできたのは、元凶と言うのもなんだが、くだんの魔王の顔だ。
彼女に騙されたわけではないけれど、やはり美人とは関わり合いを持たないべき。
そんな教訓を学べたから、裏切り者と罵られ追いかけ回されたのも授業料……なんて思えない自分は。
深く暗い泥沼思考に浸っていると、自宅の玄関が見えてきた。
今、家の中には誰もいない。
閑散としたところにいてもこの気分は浮上しないだろう。
父と母が持つものと別の合鍵を取り出して鍵穴にあてがう。
さて、この後の行動選択肢は何があるのか。
靴を脱ぎ、蹴り飛ばしてから階段を上り、私室のドアノブを捻った。
三日前に召喚されたのも一人この部屋でダラダラしていた時だった。
もう召喚のための魔法陣が浮かんだりはしない。
あれらが一夜で見た夢ではなかったことを肯定するのは、俺が身につけていた薄汚れた一セットの服のみ。
服はタンスの奥にしまい込んだ。
いつか見つけた際に誰かに笑ってこんなこともあったんだぜと、物語の如く面白おかしく打ち明けられる日まで見ることはない。

「よく考えたらここ、あんま来たことないな……。え、俺なにする気でここにいるの?」
結局無難に、近所に威風堂々と立つモールの中にあるゲーセンを訪れた俺はぼーっと立ち尽くしていた。
長らく機械に触れていなかった者に、この大音量をかき鳴らす鋼鉄の物体は衝撃を与えた。
江戸の人たちが黒船に驚いた気持ちが味わえた気がする。
ま、まずはアーケードを見てみよう。
田舎者のようにキョロキョロ挙動不審な俺を遠巻きに見る人たちは極力気にせず、奥へと足を運ぶ。
俺と同じくらいの年頃、小さな子供、成人しているだろう男性。
夕方であることもてつだって、色んな年代の人が楽しんでいるようだ。
だが、くるりと足首を使って180°回転してゲーセンを出た。
「やることねえ」
所持金は幾らかある。
だがゲームに興味が沸かないのだ。
召喚される前からあまりやっていなかったし、全くそういうものに接しなくなったので余計に関心は薄れていったみたいだ。
ふうむ。
では、次は公園にでも行ってみるか。

モールからそれほど離れていないところにその公園はあった。
公園というのは語弊があるような休憩所。
ここにあるのを知っていたのではなく、今の家に引っ越してきて母さんたちが荷物整理をしている間、フラフラ歩いてたら見つけた。
設置されている石で出来た丸いオブジェに腰掛ける。
ハーレム作る以前の問題だよな、俺がこんな状態で。
ふー……。
漏れる息は虚しく途切れる。
吹っ切れるきっかけなんてそうそう転がってない。
自分から変われってどっかの偉人さんも言っているはずだ。
ここで、もうちょい心を落ち着けて、切り替えよう。
大きく伸びをして体を反らし、逆さになった頭の先に。
美人さんが。
「ぶわっ」
ひっくり返りそうになるのをなんとかもちこたえて座り直す。
彼女は俺の正面に回り込んで来て言った。
「元気、出して」
「あなた、誰です? 見ず知らずの他人ですよね。何でそんなこと。ありがとう、とは言っておきますが」
「お礼を欠かさないなんて紳士だね。……見ず知らずの他人じゃないから励ましたんだけど」
何故か既視感を覚えるその見た目に内心首を傾げながらさらに反論。
「覚えがない。あなたのような美人、見たことがあれば忘れない」
急に顔を背けた彼女は唐突に言った。
「あ、いえっと、帰る!」
ア○レちゃんも真っ青の素晴らしい走りであっという間に駆けて行った。

「な、なんだったんだ……」

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