勇者になれなかった俺は異世界で

倉田フラト

ヴェラの部屋とソラ

 長い机の上にあった料理はほぼ完食しており、
 皆お腹を膨らませつつも楽しそうに話していた。

 そんな光景を穏やかな気持ちで眺めていると突然、
 服の袖を引っ張られた。

 何だ?と思い、
 袖を引っ張られた方を見ると、
 そこには頭をふらふら揺らして今にも寝そうなヤミがいた。

「……ます……た……」

「おい、大丈夫か?」

 無理もないか、幾ら俺とヤミが一心同体って言っても、
 流石に睡魔まで一緒じゃないしな。
 それに、ヤミは見た目的にまだ幼い。
 本当の年齢は知らないが。

「……ん………」

「大丈夫じゃなさそうだな。
 はぁ、仕方ない。」

 今にも眠りそうなヤミを見て、
 おんぶして部屋まで連れて行こうと考え、
 行動に移そうとしたが次は逆の袖を引っ張れた。

「何だ?ノイ……ってお前もかよ!」

「うぅ……」

「はぁ、餓鬼だな……。」

 俺は仕方なく、
 ノイも部屋に連れていくことにした。

 さて、どうやって連れて行こうか
 ……片手に一人ずつか?
 いや、流石にヤミ達が小さいからってそれは無理があるか、
 俺バランス感覚悪いし。

 まぁ、身体強化を使えば別だが。
 ん~どうしたものか……。
 スラに頼むって手もあるけど、
 ローズと物凄く楽しそうに話しているからな……

 俺がそんな事を思っていると、
 タイミング良くライラが話しかけてきた。

「主人よ!この飲み物美味しいぞ!
 主人も飲んでみろ!」

 ライラはそう言ってコップ一杯に注いだ紫色の飲み物を渡してきた。
 俺が受け取ろうか迷っているとライラはグイグイと此方に寄ってきて
 無理やりコップの中に入っている飲み物を飲ませようとしてきた。

「やめ、やめろ――ってお前酒くさっ!」

 俺はてっきりジュースか何かだと思っていたが、
 ライラから漂ってくる酒の匂いと良く見るとライラが
 若干赤くなっている事によってその飲み物は酒だとわかった。

 俺はまだ未成年なので勿論酒に手は出さない。
 まぁ、この世界では余りそういう法律的なのは存在しないが。

 じゃあ、なんで飲まないかって?
 それはな、この世界に来る前に学校の授業で自分のアルコールの
 強さをテストした時に俺はアルコールに物凄く弱い事がわかったからだ。

「お前酔っ払ってるだろ。
 少し落ち着け。」

「何を言っている主人!
 私は何時も通りだぞ。」

「……確かにお前は何時も通りだな。
 うるさい所とか。」

「何だと!?」

「まぁ、まぁ、落ちつけ。
 余り酔っ払いに頼みたくないんだけどな、
 ヤミとノイを部屋まで運ぶのを手伝ってくれないか?」

「うむ、良いぞ!」

 俺はヤミの事をおんぶして、
 ノイの事はライラにおんぶしてもらった。
 ライラはノイの事をおんぶしようと、
 ノイに近付いた際に何もない所で転んでしまったが、
 本人は何事も無かった様にしていたので、
 触れないようにした。

 そして、部屋から出る時に一応
 一言言ってから部屋を出た。

「なぁ、主人はあの者達の中で誰が一番好きなんだ?」

 部屋を出て直ぐにライラが変な事を言いだした。

「あの者達の中っていったいどの者達の事だよ。」

「あの勇者達だ。」

「結達か。」

 ライラがどっちの意味の好きで質問して来ているのかはわからないが、
 俺は結達の事は恋愛対象として見てないので
 友達として好きの方で答えることにした。

「皆友達としては最高の奴等なんだけどな……
 でもやっぱり、昔から一緒に遊んだりしている奈央が一番友達として
 好きかな。あっ、後トモも。」

「主人は意地悪だな。」

 ライラは若干頬を膨らませてそう言ってきた。
 だが、意地悪も何も、本当に結達の事は恋愛対象として
 見て居ないから言いようがない。

「まあ、いいや。
 次の質問!主人は私の事をどう思っている?」

「ん~。」

「ん?ん?好きって??」

「いや、まだ何も言ってねえよ。」

 本当に元気の良いやつだ。
 しかも、酔っ払っても何時もとあまり変わらないし
 ……もしかして、此奴は常に酔っ払っているのか?

「素直じゃないな、
 好きって言ったら楽になるぞ?
 ほらほら。」

 ライラは意地悪そうにそう言って居るが、
 実際は言葉だけで何もしてこない。

「はぁ、一体何がしたいんだが
 ……まぁ、好きだぞ。お前の事もヤミ達の事も。」

「……一瞬ドキッっとしたが、
 やっぱり……本当に主人は意地悪だな――っと、着いたな。」

 ライラと話している内にいつの間にかに
 宿変わりの無駄に豪華の部屋の前に着いていた。
 俺とライラは早速部屋の中に入り、
 無駄に大きくて豪華なベッドに二人を寝かせて、静かに部屋を出た。

「「……」」

 部屋を出て再び宴をやっている部屋に戻ろうとしているが
 ……非常に気まずい。
 話す事が無くなってずっとム無言のままだ。

 何か良い話題は無いか……

 俺はそんな事を思っていると、ふと、とある事を思い出した。

 それは、スキル伝承の事だ。
 俺はこのスキルはライラに使おうと思っている。
 特に深い理由は無いが、ライラなら寿命は無いし、
 何だかんだ言って強いし、信頼も出来る。

 そうだ、スキルの事を話そう。

「なぁ、ライラ。」

「何だ、主人よ。」

「もし、もしもだぞ。俺が死ぬとする。
 まぁ、俺は人間だ。
 何時かは寿命が来て死ぬだろうがな
 ……だが、俺が言いたいのはそういう死ではなく。
 殺されたり事故にあったりして死ぬ方の死だ。」

「突然どうした物騒だぞ。」

「ライラも知っているとは思うが、
 ヤミは俺のスキルで生み出した存在で俺と一心同体だ。
 つまり、スキルの持ち主である俺が死ぬと、
 強制的にヤミも死ぬ事になるんだ。
 そこでだ、俺に考え――いや、お前に頼みがあるんだ。」

「頼み?何だ?
 主人の頼みなら何でもきくが。」

「そうか、俺の頼みは――俺が死んだらヤミの事を頼む。
 これが俺の頼みだ。」

「うむ、別に良いぞ。
 まぁ、主人が死ぬなんて事は私が許さないけどな。
 でも、どうするんだ?主人が死んでしまったら如何する事も出来ないのだろう?」

「ああ、それはこれから説明する――」

・・

 俺は簡単にスキル伝承について説明した。
 説明を聞いたライラは何やら凄く関心していた。

「流石私の主人だ。
 仲間の為だけに一回しか使えないスキルを使うなんて!」

「そうか?スキルを仲間の為に使うなんて当たり前じゃないか?」

「うおっ!主人!かっこいいぞ!!」

 何だこいつ。


 そんな会話をしつつ、
 宴をやっている部屋に戻ると、
 信じられない光景が映りこんだ。それは――

「料理が復活している……だと……」

 机の上にあった料理は確かにほぼ完食していたはずだ
 ……なのにどうして元通り、いや、それ以上に増えてるんだ!?

「あ~おかえり~
 ローズとヴェラがまだまだ足りないって言って沢山の料理を作ってくれたよ~
 早く食べよ~」

「……嘘だろ……」

「やった!主人、食べるぞ!!」

 若干絶望している俺とは別にライラはとても嬉しそうにそう言い、
 俺の手を引っ張り無理やり料理の元まで連れていかれた――

・・

 あの地獄の大量の料理を皆で平らげて、
 皆のお腹は限界に達していた。
 かおる達はお腹を膨らませて少し辛そうにしていた。

 俺も結構食べたけどあいつ等はほぼ強制的に
 魔王達に料理を進められて断り切れず全部食べてたからな
 ……気の毒に……それに比べて此奴等の腹はどうなっているんだ。

 ライラとスラは結達以上に食べていたくせに大してお腹も膨れてなく、
 辛そうでもない寧ろまだまだ食べたりないみたいな表情を浮かべている。

 魔王達も凄いがこんな身近にこんな化け物が居たなんて
 今まで気付かなかったな。
 怖い怖い

 俺がそんな事を思いながらまだまだ食べたりないみたいな
 表情を浮かべているライラとスラの事を横目で見ていると、
 突然ライラが大きな皿を持って立ち上がった。

 おい……まさか!!

「おかわりだ!!」

 あああああ!!言っちゃったよこの子。
 また沢山の料理が来たらどうするんだ!
 やめてくれ!

「おお、まだ食い足りないか。
 実は私もそう思っていたが、今回はもう時間が無いんだ。
 また今度沢山作ってやるから今日は我慢してくれ。」

 俺が絶望しているとヴェラがそう答えた。
 俺はこの時、初めて魔王が天使に見えた……。

「うーむ、なら仕方居ない。
 よし、また今度だ。」

 はぁ、良かった。でも、時間が無いってどういう事だ?
 ……ああ、そう言えば今日の夜にアイが帰って来るから遊ぶんだっけ。
 ってもうそんな時間なのか、あっと言う間だな。

 俺はそんな事を思いながら、
 地獄の宴から解放されボケーとしていた。

「ソラ、そろそろ行くぞ。」

 ヴェラにそう言われ、
 俺は我に返り、スラとライラに軽く一言いってからヴェラの元へ向かった。
 ヴェラの元に行くと、早速集合場所に行くぞ。
 と言われ、ヴェラの後に続いて俺はこの部屋から素早く出た。

 ちなみに、宴の片付けは準備の時とは違うメンバーの
 グウィンとメルキアがやるらしい。

「ここだ。」

 ヴェラについて歩くこと数分、
 ヴェラと俺は一つの部屋の前で止まった。

「この部屋の中が集合場所なのか?」

「ああ、そうだ。
 ちなみに此処は私の部屋だからあまり散らかさないでくれよ。」

「!!」

 ヴェラの部屋か、一体どんな部屋なんだろう。
 何時もは男っぽく、ツンツンしているヴェラも
 一応女の子だから実は可愛い部屋だったりして――

「――お邪魔します……」

 俺はワクワクしながらヴェラの部屋に入るとそこには、
 可愛らしい女の子らしい部屋――ではなく、
 そこには、物騒な部屋が広がっていた。
 壁には沢山の強そうな武器が飾ってあり、
 彼方此方に防具が飾ってあったり……。

 知ってた。知ってたけどな、
 せめてもう少しマシな部屋にしてくれよ。
 まるで防具屋みたいな部屋じゃないか。
 まぁ、ヴェラらしい部屋だけど。

「どうした?」

「いや、別に。
 ヴェラらしい部屋だなって思っていただけだ。」

「どういう意味だ?……まぁ、良い。
 中で寛いでいてくれもう少ししたら来るはずだ。」

「わかった。」

 寛ぐって言ってもな……
 部屋の彼方此方に武器とか落ちてるし寛ごうにも寛がないだろ
 ……仕方ない、唯一片付いているベッドの上で寛いてるか。



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