勇者になれなかった俺は異世界で

倉田フラト

アイとソラ

 ベッドの上で寛ぎながらアイの事を待っていると、
 何やらヴェラが彼方此方に落ちている武器を一ヵ所に集め始めた。
 俺は一体何をしようとしているのか分からず、
 不思議そうにその光景を眺めていた。

 一ヵ所に集め終わると次はその武器を丁寧に並べ始めた。

 一体何をしてるんだ?武器の整理でもしてんのか、
 いや、だとしたら普通床に並べたり何てしないよな
 ……まさか武器を並べて俺に見せつけて自慢してんのか?
 確かにどれも強そうでかっこいいけど……くそ!羨ましいっ!!

「おい、どれが一番いいと思う?」

 俺が羨ましそうに武器を見ているとヴェラがそう言ってきた。

「ん~どれも良いように見えるけどな~」

 俺はそう呟き床に並べてある武器を端から見ていった。
 派手な模様が入った長剣、
 お金持ちが持ってそうな黄金の剣、
 竜の鱗が付いて全体がチクチクしている使い難そうだが凄く強そうな大剣……

 ん?何だあの武器は

 一つだけ場違いな感じの武器があるぞ。

 どれも強そうで立派な武器が並ぶ中、
 一つだけ場違いな感じの武器が並んでいた。

 その武器は短剣で今にも崩れそうな程ボロボロになっており
 見た感じでもその短剣ではもう何も斬ることが出来ない
 という事が伝わってくる。

 だが、俺は何故かその武器に興味を持った。
 理由はわからない。
 だが、何となくその武器に心が引きつけられる様な気がした。

 気が付くと俺は、無意識にベッドから離れ、
 そのボロボロの短剣の前に立っていた。

「あ?その武器が良いと思うのか?」

 短剣の前に立つ俺にヴェラはそう聞いてきた。

「いや、他の武器の方が良いと思うんだが
 ……何故だかこの短剣に心が引きつけられるような気がするんだ。」

「ほぉ、流石はソラだな。」

「え?」

 ヴェラが言った『流石』の意味が分からず、
 何のことか考えていると、
 ヴェラが徐に床に置いてある派手な模様が入った長剣を持ち、
 此方に向けてきた。

「っ!?」

「おいおい、そんな警戒するな。
 別にソラを傷つけるつもりはない。」

「いきなりそんな物騒な物向けられたら警戒するだろ。
 ……で、何がしたいんだよ。」

「そこのボロボロの短剣を構えてくれ。」

 このボロボロの短剣を構えろだと?
 少し触っただけで崩れそうだぞ……大丈夫なのかよ。

 俺はそんな事を思いつつ、恐る恐る短剣を手に取って見た。
 何とか短剣が崩れる事無く、手に取ることが出来、
 そのままゆっくりとヴェラに言われた通り構えた。

「よし、じゃあ、
 今から斬りかかる。」

「ああ――はっ?何言って、
 ちょっと待てええ」

 こんなボロボロの短剣でヴェラの一撃を防ぐこと何て到底無理だ。
 だけど、この距離じゃ避けきることは出来ない
 ……仕方ない耐えてくれよ短剣!!

 俺はそう心の中で叫びつつ目を瞑ってヴェラの一撃を受けた――だが、
 一向に衝撃も痛みも襲ってこなかった。

「?」

「驚いたか?
 そこ短剣は全ての攻撃を無効化するという恐ろしい武器だ。」

「攻撃を無効化……最強じゃねえか!」

「その一部だけを聞けば最強かも知れないがその武器には欠点が幾つかある。
 まず、その短剣は見てわかると思うが攻撃することが出来ない。
 そして、その武器を持った者は呪われる。」

「そうか、攻撃出来ないのか。
 でも防御だけだったら最強だ――って待ってよ!
 おい、ヴェラ!今何て言った!!」

「ん?その武器を持った者は呪われるって言ったぞ。」

「おい!!何で先に言わなかったんだよ!!
 ふざけんな!」

 呪いって何だよ!
 畜生!まさか、この短剣を手放したら即死とか言わないだろうな……

「まぁ、落ち着け。呪いって言っても大したもんじゃない。
 只その短剣は手にした者の心に入り込むってだけだ。」

 何だ、即死とかじゃなくて良かった。
 でも心に入り込むってどういう事だ?

「心に入り込むってどういう意味なんだ?
 しかも、何で俺が呪いに掛るんだよ、
 ヴェラだってさっき触ってなかったか?」

 確かにヴェラは武器を床に並べるときに触っていたはずだ……
 なのに何故俺だけが呪いに掛るんだよ。

「何だ、見てなかったのか?
 私はこの武器を他の武器と武器の間に挟んでいたぞ?」

「――なっ!」

「それと、心に入り込むって言うのはそのままだ。
 その短剣を手から離すと短剣が自ら入り込んでいくぞ。」

 短剣が自ら入り込んでくるだと?
 意味がわからない。

 エリルスの記憶にもこの短剣の事は何も無いしな
 ……取り敢えず手から離してみるか。

「うおっ!?」

 ヴェラが言ってた通りに短剣を手から話すと、
 短剣は途中まで床目がけて落下していったが、
 突然、止まり剣先を此方に向けて飛んできた。

 たが、短剣は俺の体に刺さることは無く、
 あろうことか短剣は俺の体の中に入ってきた。
 何とも言えない感覚が体を遅い俺は身震いした。

「な、何だよこれっ!
 体の中入ったぞ!?」

「ああ、そうだな。」

「そうだなって、これどうすんだよ!
 ずっと体の中に入ったままか?」

「確か心でその短剣をイメージすると具現化するはずだ。」

 心であのボロボロの短剣をイメージか……

「うぉお」

 心の中で強くあの短剣をイメージすると本当に短剣が具現化して
 目の前に現れた。

 そして、その短剣を手に取り、
 再び手から離すとさっきと同じように短剣は此方に飛んできて
 何とも言えな感覚に襲われた。
 何だか癖になりそうだ。

「これは呪いと言うべきなのだろうか。」

「ああ、確かにその程度は呪いとは呼べないな。
 ちなみに、此処には無いが武器庫には持ち主以外が触っただけで
 即死とか盲目とか色々な効果の呪いの武器があるぞ。」

「うわぁ、要らねえ……」

 そう言えばヴェラ俺に流石とか言ってたよな
 ……それってもしかしなくても俺が呪いの武器を当てたからなのか?

――コンコン

 そんな事を考えていると部屋の扉がノックされた。

「やっと来たか。」

 ヴェラはそう呟き扉の方へ向かい、
 ゆっくりと扉を開けた。
 扉の向こう側に居たのは、
 少し暗い赤色の髪で片目を隠していてするどい眼つきの女悪魔――アイだ。

「おお、ソラ!久しぶりだな!」

 部屋の中に入ってきて早々アイは俺の事を見つけ、
 元気よくそう言ってきた。

「久しぶりアイ――先輩」

 俺は普通にアイと呼ぼうとしたが
 何故か途中で躊躇してしまい先輩を付けた。
 まぁ、一応学校の先輩だったし、
 アイ先輩って呼んでも違和感はないだろう。

「いやー、この前は驚いた。
 ソラが学園から消えて少ししたら突然、
 俺の目の前にヴェラさんが現れてさー」

 アイは床の上に座り何やら楽しそうに語りだした。
 俺はそれを軽く聞きながらたまに相槌をうったりしていた。

「まぁ、思い出話はここまでとして、
 実はな俺はソラにお礼がしたいんだ。」

「お礼?」

「ああ、ソラは俺の事をヴェラさんに紹介してくれた。
 俺は感謝してもし切れないんだ!
 だから少しでもソラの役に立ちたいと思ってヴェラさんの教えの元、
 ソラの手を作ったんだ。」

 手を作っただと……ああ、この左の事か。
 アイが作ったのか、まぁ、ヴェラの教えの元なら安心出来るな。
 このヴェラが作ってくれたやつも凄いピッタリだし。

「おお、ありがとう。」

 お礼を言うと、アイは早速作った物を取り出し、俺に渡してきた。
 見た目は、ヴェラが作ってくれたやつと余り変わりは無かったが、
 唯一変わっている所は、血液のような赤い線が緑色に変わっている所だけだ。

 うん?見た目は余り変わってないな……でも装備してみないと分からないよな。

 俺は装備する為に服を脱ぎ、ヴェラが作ってくれたやつを取ろうとしたが、ビクともしなかった。

 何だこれ。どうなってんだ?

「ああ、忘れた。それは私のスキルが無ければ取れないぞ。」

 戸惑っている俺を見て、ヴェラはそう言って、俺に近付き左肩に手を置くと眩い光が発生し、光が収まると同時に左肩、腕、手の全てが取れ床に落ちた。

 そして、ヴェラはアイが作ったやつを俺に近付かせ、
 何かを唱えると、再び眩い光が発生し、
 光が収まると同時にアイが作った左肩、腕、手が完全に体の一部になった。

「おお、これは……。」

 ……特に変わってなかった。
 いや、変わっているのかも知れないが俺には分からなかった。

「どうだ?ヴェラさんと俺の傑作だぞ!」

「お、おお。何だかみなぎってくるぞ!」

 俺は取り敢えず適当な事を言ってアイを誤魔化すことにした。

「おお、良かった。
 これで少しは役に立てたな……よし、渡したい物も渡したし、
 遊ぼう!いいですよねヴェラさん!」

「ああ、ソラにもしっかり遊ぶと言っておいた。」

「やった!」


 悪魔の遊びという物は恐ろしい。鬼ごっこ的な事をする事になったのだが、鬼は本物の剣をぶんぶん振り回して追いかけて来たりする……恐ろしい。

・・

「あぁ……気持ち悪い。」

 俺は食後に鬼ごっこ的な遊びをしばらくし、
 鬼みたいなアイに追いかけ続けられて吐きそうになっていた。

「なぁ、もう夜も遅いしやめないか?」

 気分が悪くなった俺はそろそろ横になりたいと思い、
 アイにそう提案してみた。

「んーそうだな。俺も久しぶりに燥いだしそろそろ終わりにしようか。」

 アイはそう言って手に持っていた剣を収めた。
 そして、アイは大きく欠伸をしながら、ベッドに向ってダイブした。

 おいおい、ここはヴェラの部屋なのにそんな事して怒られないのか?

「おい、寝るならまず服を着替えろ。」

「え?」

 俺はヴェラがあり得ない事を言ったので驚いて思わず声を出してしまった。
 あの何時もはオラオラしているヴェラが何故だか優しい!
 こんなの誰だって驚くだろう。

「どうした、ソラ。もしかして寝たいのか?
 なら、お前も着替えろ。」

「い、いや俺は良い。」

「そうか……残念だ。」

 え?何なのこの子。
 何時もはあんなにオラオラしてるのに、
 一体何があったんだ?

 いや、そもそも皆の前ではオラオラを演じてるだけであって、
 素はこんなんなのか?こっちのヴェラも良いが、
 何時ものヴェラの方がヴェラらしいって言うか……。ん~悩ましい。

「うおっ!?」

 俺がそんな事を考えていると、
 アイが目の前で何の躊躇いも無く自分の服を脱ぎだしていた。

「じゃあ、俺は部屋に戻るから。
 今日はありがとな。」

 目の前で服を脱いでいるアイから目を逸らし、
 扉に向って歩きながらそう言った。 

「ああ、また明日。」「俺は明日もいるから遊びに来いよー」

「ああ。」

 明日もいるって
 ……他の悪魔達は皆仕事してるのにお前は遊んでて良いのかよ。
 まぁ、魔王の権限があれば許されるのか。
 魔王様素敵。

 俺はそんな事を思いつつ部屋を後にした。

「そういえば、
 これ一体何が変わったんだろうな。」

 俺は自分の左手を目の前に持ってきて、ボソッっと呟いた。
 そして、手を開いたり閉じたり、肩を回したりしたが、
 やはり、今までのヴェラが作ってくれたやつとの変わりが分からなった。

 ん~、何が変わったんだろうな……たぶんアレだな。
 前よりも俺の気持ちが強ければ強いほど力を与えてくれる
 ようになったんだな。

 たぶん。

 まぁ、これに関しては使ってみないとわからないよな
 ……それよりも――

 俺は心のなかでボロい短剣をイメージして目の前に具現化した。

 この短剣、一体どうしたものか。
 捨てようにも捨てれないしな。

 別に悪さはしないけど、
 何か自分の心の中に得体のしれない物が入り込んでるっていうのも
 気持ち悪いし……

 はぁ、どうにもならない事を何時までも言ってても意味ないよな
 ……まぁ、防御に関しては最強だし使えると言えば使えるしな……

「おっと。」

 俺がそんな事を考えているうちに無駄に豪華な部屋の前に着いていた。
 扉の前に立っていても中から物音すら聞こえてこなかったので
 俺は皆もう寝て居るのか。

 と考え、扉をゆっくりと開けた。

 すると案の定、部屋の中は明かりが消えていて、
 窓から差し込む僅かな光に照らされながら皆、
 大きなベッドの上で寝て居た。

 俺はてっきり、男女一緒のベッドで寝るのは女性陣に嫌がられ、
 男性陣は床で寝て居るもんだと思っていたが、
 そんな事は無く、皆仲良く一つのベッドの上で寝て居た。

 まぁ、こんだけ大きいベッドだもの男女が一緒に寝ても気にしないか
 ……俺も寝るか。

 そう思い、軽く寝る準備をしてベッドに近付くと

「ますた、いまかえったの。」

 ヤミが体を起こして、
 此方をジーと見つめてそう言った。

「悪い、起こしたか?」

「けっこうまえからおきてた」

 結構前から起きてたのか、
 まぁ、皆よりも早めに寝てたしな。
 俺もあんな時間に寝たらこんな夜中位に起きちゃうな。

「そっか。」

「ますた、いまからねるの?」

「ああ、そのつもりだけど。」

「そっか、じゃあいっしょにねよ」

「俺は良いけど、寝れるのか?」

 さっき起きたばかりなのにそんな直ぐに寝れるもんなのか?

「ますたといっしょならだいじょうぶ」

「……そうか。」

 俺はそう言って大きなベッドの空いているスペースに入った。
 すると、ヤミが俺の横にスルっと入って来た。

「近いぞ。」

 ヤミは俺に物凄く密着してきた。
 それはもう鼻息が掛かるほど近くに。

「だいじょうぶ」

「いや、俺が大丈夫じゃないから。」

「……ますた、わたしのこときらいなの?」

「いや、そういうわけじゃ……」

 嫌いって訳じゃないんだよ、
 ただ、近すぎるのもちょっと色々と不味い。
 しかも、抱き着いて来るし、普段は余り気にならないが、
 こう密着されると柔らかい物が当たったりして……

 そんな事を思っている間もヤミは不満そうに頬を膨らませて此方を見て来ていた。

「あー、わかったよ。
 そのままでいいよ」

 何が分かったのか自分でも良く分からないが、
 何となく分かったと言ってしまった。

「うん、おやすみ。」

「ああ、おやすみ。」

 ……ああ、寝難い。

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