勇者になれなかった俺は異世界で

倉田フラト

終わりとソラ

 外から戻り、俺はこっそりと部屋の中に戻ると、
 皆はまだベッドの上で気持ちよさそうに寝て居た。

 流石にまだ寝てるか。
 日が出て来たと言っても、まだ夜が明けたばかりだしな
 寝てて当然か。

 何時も早起きしてるスラなら起きてそうだったけどな
 ……って、あれ?一人居なくなって無いか?

 ベッドの上には結、かおる、凛、奈央、トモ、
 ゴリラ、ヤミ、スラ、ノイの9名しか居なかった。

 やっぱり居ないぞ、あのうるさい奴ライラ
 何処に行ったんだ?
 あいつも目が覚めて気分転換に何処か行ったのか?

「おい。」

「っ!」

 突然、後ろからこの世の者とは思えない程の低い声が聞こえて、
 俺は思わずビクッ!としてしまった。

 恐る恐る振り返ってみるとそこには、
 物凄く不機嫌そうなライラが扉の前で仁王立ちしていた。

「うわっ!ってライラか……てっきり化け物かと思った。」

 見るからにライラが不機嫌そうにしていたが、
 俺はそんな事を気にしないで思ったことを口にした。

「ふむ、主人よ。私が非常に機嫌が悪いって事が分からない訳ではないだろう?
 それなのにどうして主人は、
 さらに私の機嫌を悪くしようとしてるのかな?」

 ライラは眉毛をピクピクさせながら、
 寝て居る者に気を遣ってか声を殺してそう言ってきた。

 いや、そんなつもりは無いんだがな。
 そもそも、突然後ろからこの世の者とは思えないような低い声で
 『おい』何て言うから悪いんだろ。

 とか言ったら更に機嫌を損ねかねないな……

「それはすまなかったな。」

 取り敢えず軽く謝り、
 結達を起こしたら悪いので場所を移動することにした。


 場所を移して俺は再び魔王城の外に来ていた。
 ここに来る間も俺の後ろを不機嫌そうに歩く度に
 ドンドンと力を込めて地面を踏み付け歩いていた。

「なぁ、何でそんなにご機嫌斜め何だ?」

「別に、起きたら主人が居なくて寂しかったとかじゃ無いんだからな。」

 え?何この子、何時からツンデレちゃんになったんだ?
 つか、え?気持ちわる。

「ごめん、無理。」

「なっ、おかしいな。
 この前主人の友達が主人はツンデレが好きだと聞いたんだが……」

 おい、誰だライラに変な事吹き込んだ奴!!
 まぁ、何となく予想はつくがな。どうせ、あのロリコンだろうな。
 つか、俺ツンデレ好きじゃ無いし……

「余りあいつらの話を信じるな。
 ……で、本当の理由は何だ?」

 まさか、ツンデレを演じる為だけに不機嫌になってた訳……ないよな?

「いや、さっき言っただろ?」

「は?何、ツンデレを演じる為だったのか?」

「いやいや、そんな事一言も言ってないぞ。」

「え?じゃあ何だ?」

「だから、目が覚めたら主人が居なくて寂しかったんだって!!」

「そ、そうか……」

 ええ……本当に此奴のキャラ安定しないな
 ……寂しかったって
 ……何かストレートに言われると少し照れくさいな
 ……やばい、何て言ったら良いのか分からない。
 取り敢えず謝ってみるか。

「ごめん?」

「何で疑問形何だ?……主人よ、私は本気で言っているのだぞ?
 はぁ、主人の事を探しても全然見つからないし、
 諦めて部屋に戻ったら普通にいるし……もしかして、浮気か?」

 そうか、だからライラは部屋に居なかったのか
 ……可愛い奴だな……それにしても浮気って何だよ。

「あほか。散歩してただけだ」

「本当か?」

「ああ。」

「本当に本当か?」

「ああ。」

「本当に本当に本当なのか?」

「ああ……」

「本当に本当に本当に――」

 ああ――っ!!何回聞けば気がすむんだよ!!
 面倒くさい奴だな。
 無理矢理にでも話題を変えてやるっ。

「なぁ、この前の話覚えてるか?」

「本当に――何だ、この前の話だと?」

 ライラは覚えてないのか頭をひねったり体をくねくねさせていた。
 そして――

「ああっ!!思い出したぞ!アレだろ……
 えーと……」

「覚えてないなら無理なくても良いぞ。」

「いや、覚えてるぞ。
 確か……スキルを伝承、何ちゃらだろ!」

「何ちゃらって何だよ。
 でも、まぁ、その通りだ。」

「あれ?でも、前は主人が死ぬ時に伝承するって
 言ってなかったか?まさか――っ!?」

 ライラは慌てて俺に抱きついて来て
 『ダメだ!許さんぞ!!』と言ってきた。
 早とちりだ。

「おい、落ち着けっ!」

 俺は無理矢理ライラの事を体から引き離した。

「確かにあの時はそう言った。」

「やっぱり――っ!!」

「保険としてだ。相手は神だぞ?
 何があるか分からない。
 万が一の事を考えて戦いが始まる前にお前に伝承した方が
 安全だと判断しただけだ。」

「保険……」

「そうだ。」

「そういう事なら……」

「分かってくれたか。
 じゃあ、早速スキルを伝承するから余り動くなよ。」

「わかった。」

 俺はライラの頭に手をポンと置いて、
 心の中で闇魔法をライラに伝承するイメージをした。
 すると、ライラの頭の上に置いてある手から眩い光が出て、
 数秒で光が消えた。

「完了したのかな……一応確認するか。」

 俺は魔眼を発動させ、ライラの事を見た。

=================================
ライラ=ドラゴニカ

Lv∞
89,889,000,000/89,889,000,000
99,819,000,000/99,819,000,000
スキル
闇魔法:LvMAX
=================================

 おっ、しっかりスキルの所に追加されてるな
 ……一応俺のも見てみるか。

=============
スキル・魔法
魔眼:LvMAX
身体強化:LvMAX
重力操作:LvMAX
狂気:LvMAX
配偶:LvMAX
転移:LvMAX
絶対防御:LvMAX
爆発:LvMAX
伝承:LvMAX
殺気:LvMAX
=============

 よし、俺のステータスからは消えてるな。

「無事完了した。」

「ふむ?良く分からないが、終わったのか」

「ああ。あと、この事はヤミには言わないでくれ。」

「ん?どうしてだ?」

「何と無くだが、ヤミにこの事は言わない方がいいと思うんだ
 ……何と無くだが。」

「何と無くか。わかった。
 この事は二人だけの秘密にしよう。」

「ああ。」

 二人だけの秘密って言ってもな……
 俺は常にあのヘリムとかいう野郎に監視されてんだよな……

「……眠っ。帰るか。」

「うむ、では私が布団になってやろう」

「やめてくれ」

 いつの間にかに機嫌を直したライラと下らない話をしながら部屋に戻った。

・・・・

「……ん」

 ライラにスキルを伝承した後、
 部屋に戻り直ぐに寝て再び目を覚まし
 周りを見渡した。

「あれ?」

 誰も居ない。
 一体どこに行ったんだ……まぁ、いいや。
 その内戻ってくるだろうし、
 やることも無いし、ゴロゴロしてようか。

――ドオォオンッ!

「っ!?」

 突然の轟音と振動が俺――魔王城を襲って来た。
 俺は状況を確認する為に窓から外の様子を見た。
 すると、そこには――

「な――っ!!」

 空中で結界を破壊しようとスキルを撃ち込んでいる神共がいた。
 地上には、シルエット的に人間――勇者達だろうか。
 地上からも結界を破壊しようとスキルを撃ち込んでいた。

 おいおい!!どういう事だっ!?
 やっぱりあの糞野郎が言っていた事は嘘だったのか!!――あっ。

 俺は外の様子を見ていたとある事に気が付いた。

「……おいおい、まじかよ。」

 俺がアイと遊び終わった時、夜が明けて日が出て来る時間だった
 ……なのに今、外を見たら丁度日が出てきていた。
 つまり――

「寝すぎた――っ?!」

 おいおい、まじかよ。
 幾らアイと遊んで疲れてたからって言ってもほぼ一日寝るって
 ……俺、凄いな。

 つか、起こしてくれても良くないかっ!!

 俺はそんな事を思いながら急いで戦いの準備を済また。
 そして、走って外まで行くのは面倒臭いと思い、
 転移を使って魔王城の入口付近に転移した。

「うおぅ!?」

 転移した先には、かおるがいた。
 かおるの目の前に転移してしまった為、
 危うくキスしてしまう所だった。

「かおる?こんな所で何をしている?」

「俺達後衛は、基本的に魔王城の中で治療をしたり
 入ってきた敵を倒すだけなんだ。
 つまり、戦いが始まったらずっと魔王城の中に居なくてはならないんだ。
 だから、今の内に外の空気を吸っておこうかなって。」

「なるほど。色々大変だろうが頑張れよ。」

「おう、お前も死なない程度に頑張れよ。」

「ああ――」

 俺はそう言ってかおるに背を向け、
 軽く手を上げ、前衛のエリルス達と合流する為に歩き出した。

「あっ。」

 数歩歩き、俺はかおるに聞きたい事を思い出した。
 その事を聞くためにかおるの方を向いた。

「どうした?」

「お前って言うか、お前等全員に対しての質問何だけどさ、
 本当に後悔してないか?」

 俺の質問を聞いたかおるは、
 ふっ、と軽く笑った。

「俺――いや、俺達は後悔なんてしてないさ。」

「本当にか?魔王を倒したら元の世界に帰れるかもしれないんだぞ?」

「はっ、そんな訳無いだろ。
 そんな都合の良い話ある訳が無い。
 まさか、お前信じてるのか?」

「いや、信じてない。」

「だろ?だったら魔王を倒す必要なんて無いし、
 寧ろそんな嘘を吹き込んだ挙句
 ソラを殺そうとした奴の事の方を倒したいね。」

 そうだな……俺は良い友に恵まれているな。

「そうか、だったら一緒に憎き女王に復讐しようぜ。」

「おう!」

 俺は再びかおるに背を向けて歩き出した。


「一体どこにいるんだ?」

 暫く歩いたが全くエリルス達の姿が見当たらない。
 こうなるんだったら、さっきかおるに聞いておけば良かったな、
 と後悔しつつも俺は歩き続けた。

・・

「おっ、やっと見つけた!」

 魔王城からかなり離れた位置にエリルス達を発見した。
 グウィン、ヴェラ、エリルス、ウィルライア、メリキア、
 スラ、ライラ、ヤミ、ノイ、
 という順番に横一列に並んでいた。

 魔王であるローズがその場に居ないのは、
 恐らく後衛に回って回復役をやる為だろう。

 此方の戦力的に回復役そんなにいらないだろ……
 幾ら回復が得意な魔王だからっていっても、
 一応魔王なんだから前線で戦ってほしい。

「あ~ソラ~遅かったね~」

 此方に気が付いたエリルスが緊張感の無い声を出しながら手を
 ヒラヒラと振ってきた。

「遅かったね~じゃねえ。
 誰か起こしに来てくれも良かっただろ!」

「あはは~我が行っても良かったけど~
 その場の勢いで襲っちゃってたかもよ~」

 襲うって……是非――おっと、
 今はそんな事を考えている場合じゃなかった。

「今の戦況は?」

 俺がエリルスの元まで行くと、
 他の魔王達が気を利かせて横にずれてくれた。
 俺は空いた場所に入り、隣のエリルスにそう聞いた。

「戦況か~見ての通りだよ~」

 神共と勇者達と兵士達は頑張って結界を壊そうとしているが、 
 ヒビ一つはいっていなかった。

 見ての通りか……

「あの結界が破られるのは一体何日掛かるんだろうか。」

「ん~あの調子だと数年だろうね~」

 数年!?おいおい、嘘だろ?

「数年も待たなければいけないのかよ……」

「いや~その必要は無いよ~あれ見てみな~」

 エリルスはそう言って神共が群がっている中の一点を指さした。
 その方向を見ると――白い翼を生やした青髪の少年――あのショタ神がいた。

「久しぶりだな……」

 ショタ神がスキルを発動させ結界を殴ると、
 大きくヒビがはいった。

「あれがソラの復讐したい神様だよね~」

「ああ……」

「ソラ~殺気出し過ぎだよ~」

 また知らぬ間に殺気を出していたらしい。
 俺は大きく深呼吸をして殺気を収めた。

「すまん。」

「まぁ~仕方ないよね~」

「大魔王様、そろそろ結界が破壊されます。」

 ヴェラがそう言った。
 確かに結界全体にヒビがはいり、
 そろそろ破壊されそうだ。

「そっか~」

 エリルスはそう言って、ふぅ~と息を吐いた。
 そして――

「じゃあ、破壊される前に我が破壊するとしよう。」

 冷酷な声でそう言い徐に手のひらを空中の神共に向けた。

「消えろ――」

 そう呟いた瞬間――エリルスの手のひらに漆黒の球が現れ、
 勢い良く神共のいる空中に飛んで行った。

「おい、今のって――っ!!」

「問題ない。我が結界を張ったから此方に被害は無い。」

 死爆発――エリルスの記憶に在る理不尽な力のスキルの一つ。
 名前の通り、死の爆発が起きる。

 詳しく言えば、先ほどエリルスが放った漆黒の球は対象に当たると爆発し、
 その爆発や爆風に髪でも巻き込まれるだけで、その生物は死ぬ。

 そんな物撃ち込んだら、あのショタ神まで死んじゃうだろ!!
 いや、死ぬのは良いんだけどさ、さめて俺にやらせてくれっ!

――ドオオオオンッ

 エリルスの放った漆黒の弾が結界に当たり、大爆発を起こした。
 案の定、その場には生命が消え去っていた。

 空中にいた神共は消滅した。
 地上に居た勇者や兵士達は爆風に巻き込まれて死体と化していた。

 あっけない……俺の復讐する相手の内一人が一撃で……
 それにクラスメイト達も戦う事すら無いまま死亡……

 ふと、エリルスの方を見ると、 
 流石にやり過ぎたと思っているのか、
 下を向いて申し訳なさそうにしていた。

「……おい、エリルス。」

「はい~……」

「何か言う事は?」

「……ごめんなさい~」

 エリルスはそう言って土下座してきた。

 おいおい、大魔王様が魔王達の前で土下座何てしていいのかよ。
 グウィンとかが黙ってなさそうだけどな。

「大魔王様、流石にやり過ぎです。」「相手が可哀そうです……」
「流石大魔王様だ、容赦ない。」「ははは……」

 俺がそんな事を思っていたが、
 魔王達も流石に今回はエリルスに味方はしなかった。

「はぁ、終わったことは仕方ない……」

「許してくれるの~!!」


 こうして、リザリル王国、神とソラ、
 魔王軍の戦いは両軍多大な被害を受けながらも、
 ソラと魔王軍の勝利で終わった。

 それもたった一人の悪魔――いや、大魔王によって呆気なく幕を閉じた。

・・

 それから数日後、俺は結達とジュリデという街に買い物に来ていた
 ゴリラは先日ナナリア村に帰ったので、
 今日は久しぶりにクラスメイト親友達と買い物だ。

「本当に久しぶりですね~」

「だな~」

 あの戦いの後、
 結達にもしっかりとエリルスが全てやったという事を嫌味っぽく伝えたが、
 『流石大魔王!』とか言ってきて大して驚いたりもしなった。

 それよりも――

「お前等、よくクラスメイトが死んだって言うのに楽しそうできるよな。
 俺は大魔王の加護があるからそういう感情が薄くなってきてるが。」

「だって、あいつ等俺の親友を殺そうとしていたんだぞ?
 そんな奴等知るか。」

「「同感」」「その通りだな。」「ああ。」

 皆トモが言った事と同じような事を思っているらしい。

「うわぁ、ひでぇ。」

「そんな事より何か食べましょう!お腹すきました!!」

「お、丁度俺もお腹空いていた!流石委員長だな!」

「委員長は関係ないだろ。」

 それにしても……あのヘリムとか言う野郎が万が一の事を考えて
 スキルを伝承しろとか言ってたけど、
 特に何も起きなかったな。神
 共が攻めて来る日は合ってたけどな……

――ドンッ!

「おっと、すまない。」

 俺がそんなことを考えていると突然全身を
 ローブで纏った人物にぶつかられた。

 相手は軽く謝ってそのまま歩き始めた。

「何だあいつ、大して混んでも無いのにぶつかるなんて。
 あんなローブ纏ってるから視界が悪いのか?」

「まった――くっ!!」

 突然俺の腹部に激痛が走った。
 余りの痛みにその場に倒れこんでしまった。

 くっそ、何が起きたんだ……血?

 俺の腹部からは血がドバドバと出ていた。

 痛てぇ……さっきぶつかってきた奴の仕業か……

「おい!ソラしっかりしろ!何があった――っ!?
 結、今すぐスキルを使って治療しろ!
 トモ達はさっきソラにぶつかった奴を捕まえてこい!」

「はい!」「「「わかった」」」

 流石奈央だ。
 誰よりも早く俺の元にかけつけてくれるとはな……

「どうだ?」

「おかしいです!傷は塞がったのに全然体力が回復しません!
 それどころか段々衰弱していってます。」

「どういう事だ?」

「恐らく体内に毒が……」

「どうすれば治るんだ!?お前じゃ治せないのか?」

「……無理です。」

「なっ――くそ!」

 ああ……やばい、目の前が真っ暗になってきた
 ……まじかよ、俺、こんなダサい死に方するのかよ。

 まだ復讐も終わってないのに、
 くそっ!……ごめんな、ヤミ、ライラ、スラ、ノイ、
 せめてお前等に別れの言葉位言いたかったな。

 ライラにスキル伝承させといて良かった……

「お……、ソ…しっ…りしろ!」

「ソ……ん!」

 やばい……声も聞こえなくなってきた。
 もう、どこにも力が入らない……
 せめて、こいつらに――

「ご……めん、おま…は…き…ろ」

「何……て?お……な!」

「………ん!」





『――お疲れさま』




「勇者になれなかった俺は異世界で」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く