勇者になれなかった俺は異世界で

倉田フラト

君のパンツ。

「っ――」

 あれ?

 怯えたような表情で此方を見てきている
 エキサラに声を掛けようと思ったが、
 声が出ない。

 口を開くことは出来るが、
 肝心の声が微かにも出ない。

「その様な力……を見せられたらのう
 妾も本気の力を見せつけてやりたくなるじゃないかのう……」

 おいおい、それは約束と違うじゃないか……
 でもそれもそれで最高に楽しいな。

「ソラが悪いのじゃ……妾はもう我慢できないのじゃ。
 ソラが悪いのじゃ。」

 エキサラの赤い瞳が輝きだし、
 体には赤い稲妻が走り、
 額には不気味な紋章が浮かびだしていた。
 長く美しい黒髪にも赤い稲妻が走り、
 髪の毛一本一本がまるで意志を持っているかのように蠢き出す。

 物凄い圧が襲ってくるが、
 身体強化リインフォースメント・ボディを使っている今の俺には関係無い。

「ソラァ――ッ!!」

 リミッターを解除したエキサラは狂ったかのように、
 殺意をむき出しにして襲ってきた。

「ッ」

 あり得ない速さで襲ってくるエキサラを避けようとしたが、
 まるで脳と体が切断されているかの様に体がピクリとも動いてくれない。

 おいおいっ!このままじゃ絶対殺されるぞ。
 何してんだよ俺!動けよおおお!

 エキサラの鋭い爪が俺の目玉を抉り抜く
 ほんの刹那。
 俺の中で黒い感情が動き出す。

 今まではコントロール出来ていたエキサラに対する殺意が
 溢れだし、俺を蝕んで行く。
 エキサラを殺したいと言う殺意だけが俺の体を支配し動かす。

 気が付けば俺は右手でエキサラの腕を掴み、
 左手で肘を掴みそのまま思いっきり力を入れ腕をへし折り、
 その折れた腕を振り回し地面に叩きつけた。

「う゛!」

 体が勝手に動きやったことだが、
 俺は物凄い快感を得ていた。

 腕を折ったときの感覚、
 エキサラを地面に叩きつけた時の声
 その全てが快感と化していた。

 だが、足りない。
 もっともっとエキサラを痛めつけて殺したい。
 という殺意が溢れだし、
 俺の体は快感を求め倒れているエキサラの上にまたがり
 首に手をやりきつく締めた。

「く……」

 苦しそうにするエキサラを見て俺は更に力をこめる。
 流石のエキサラもやられっ放しと言う訳にはいかず、
 抵抗を試みるがそれは全て俺の重力操作グラビティ・コントロールによって抑えられていた。

 首を絞め続けるとエキサラの頬の紋章が徐々に薄くなり、
 稲妻も弱くなっていき

「何……じゃ……そ、力……」

 完全にリミッター解除状態が切れて、
 元のエキサラになった瞬間締め付けに耐えられなくなった
 エキサラの首がグチャリと生々しい音を立て、
 真っ赤な血しぶきを上げ潰れた。

「くっははははは!!」

 エキサラが死んだことを確認すると、
 俺は狂ったように笑い始め、徐々に殺意が消えていき、
 笑いも止まり気持ちも落ち着き元の状態に戻った。

「あ……俺は……」

 何て事をしてしまったんだ……
 エキサラを殺してしまった……

 元の状態に戻った俺は、
 幾らリミッター解除状態だからと言って、
 エキサラを殺してしまったという罪悪感を感じ。
 只々後悔していた。

 あの時断っておけば……

 だが、そんな俺とは裏腹に何時も通りの口調で

「見事じゃ、完敗じゃのう。」

 復活したエキサラがそう話しかけてきた。

「ご、ご主人……」

「何じゃ?そんな変な顔をして。
 どうしたのじゃ。」

「ごめん、なさい。」

「む?何故謝るのじゃ。」 

 エキサラは死なないからと言って
 殺して良い訳ではない。
 だからせめて謝っておこう。

「殺して……ごめん。」

「む!」

 エキサラは何やら面白い顔をして
 そう言い、ムニャリとにやけ出した。

「おお、ソラよ。そんな顔を出来るのかのう!
 もっと見せてくれないかのう!」

 上に乗っかている俺を押し倒し、
 エキサラは俺の両手を押えジロジロと顔を見てきた。

 こいつ……人が真面目に言ってるのにっ!!

「まぁ、殺されたのは正直に言って驚いたのじゃ。
 じゃが、別に謝る事じゃないのじゃ。
 ソラは妾よりも上だった、それだけの事じゃ。」

「そんな……俺は――」

 俺は弱い。

 そう言いたかった。
 だが、言えずに俺は言葉を飲み込んでしまった。
 ここで弱いと本当に言ってしまっていいのだろうか。

 身体強化や重力操作は本来であれば使えないスキルだ。
 だがそれが何故だが使えてしまった。
 リミッター解除が原因だろうが。

 それらのスキルを使えば俺は強い。
 スキルを使わなければ只の雑魚だ。

 そんな俺にエキサラは負けてしまった。
 幾らスキルを使って……殺したとはいえ、
 弱い何て言っていいのだろうか。
 もし、そう言ったら逆にエキサラの事を傷つけてしまうのではないか。

 そう思い、俺は――

「俺は、強くは無い。
 あの力は偽物だよ。」

「偽物?」

「ああ、あの力は……何というか、
 俺の物じゃないんだ。授かったと言うか何と言うか。
 まぁ、兎に角、あの力は俺の物じゃない。」

 あの力はエリルスに貰ったようなものだ。
 加護が無ければあんなスキル一生手に入れる事は出来なかっただろう。

「む、そうなのかのう……
 あとで詳しく聞こうと思っていたのじゃが……。」

「ごめん……。」

「うむ、仕方がないのう。
 それはそうと貴重な体験が出来た事じゃ、妾は満足したのじゃ!」

 そう言って俺の上から起き上がり、
 仁王立ちした。
 下から見上げるエキサラは何処か楽しげな表情をしていた。
 そんな表情よりも俺はある所に目を引かれてしまっていた。

「ピンクか……」

「む?何の話じゃ?」

「ん、何でもない。」

「そうかのう、では帰るとするかのう。」

「そうだな。」

「そして今晩はお楽しみの時間じゃ!」

「嘘だろ……」

 今晩、また地獄がやってくる。
 逃げたい。

・・・・

 身体強化リインフォースメント・ボディ重力操作グラビティ・コントロール……
 あれは確かに俺が使っていたスキルだ。
 あくまで使っていた。だ、今の俺にはそんな力など無い。

 転生して俺のステータスやスキルは初期状態になった。
 それなのにどうして俺はまだあのスキルを使えるんだ?
 いや、俺が使ったといっても勝手にだが。

 リミッターを解除した事が原因だとは思うのだが……
 もしかしてリミッターを解除した事によって、
 俺に秘められた力が――何て事ある訳ないか。

 分からない、
 また分からない事だらけだ。

「はぁ。」

 俺は大きなため息を吐いた。
 このため息には二つの意味がある。
 一つ目はスキルの事。
 そしてもう一つが、これから起こるであろう地獄の事だ。

 俺は今寝室のベッドで奴隷の首輪の力を使われ
 動けなくされた状態でベッドの上に寝かされ放置されている。

 放置プレイはあまり好きじゃないけど
 これから起こる事に比べたらマシかな。
 つか、何で俺放置されてんだろう。

 帰ってきて軽く料理をして夕飯をつくり、
 食べ終わり俺は風呂に入って、
 上がると直ぐにエキサラに寝室に連れていかれて、

「此処で大人しく待っているのじゃ!」

 と若干キレ気味でそう言い俺を動けなくして……
 今に至る。

 何でキレていたのかは分からない。
 だが、一つだけ分かる事がある。
 それは、今晩俺は確実に死ぬ。
 いや、死ぬなんてそんな生易しい物ではないな。
 例えるなら、数時間足の小指をぶつけ続けるって位酷い目に合う。

「うぅ……」

 想像しただけで痛いな小指ぶつけ続けるって……
 それに比べたら今から俺が受けるであろう地獄は意外と楽かも……はぁ。

「待たせたのう。」

 地獄がやって来た。
 俺はそう思い覚悟を決めた。

「出来れば優しくしてくれたら嬉しんだが。」

「何を言っておるのじゃ、
 もうソラには痛みなど余り感じないハズじゃ。」

 エキサラが動けない俺の上に乗って来た。
 そして、人差し指でいやらしく体を撫でまして来る。

「……それはそうだけどさ。」

 くすぐったいな……確かに痛みは余り感じなくなったけどさ、
 自分の体が喰われるんだぜ……かなりショッキングだぞ。

「なぁ、ソラよ。
 妾は今日久しぶりに殺されたのじゃ。」

「ごめん。」

「別に気にしてないのじゃ……気にしてないのじゃ。」

 エキサラは口でそう言いながら
 俺の腕に喰らいついた。
 それも何時もよりも乱暴に。

「ちょっご主人様?」

「……」

 言葉の代わりに返ってきたのは
 更に乱暴に喰らいつく。と言う返事だった。

 そして俺は確信した。

 完全に怒ってる……
 と。

「ご主人様……」

「別に怒ってなどないのじゃ!」

 まだ怒ってるなど言ってないんだが……
 なんて言ったら更に怒らせるので心の中にしまい込んだ。

 そしてそれと同時に俺は今晩は寝かせて貰えないと悟ったのであった。

「所でソラよ、リミッター解除はどうじゃった?」

「いきなりだな……そう言うのはムシャムシャを止めてから聞いて欲しいのだが。」

「フンじゃ。」

「はははは」

 何があっても喰う事を止めない様だ。
 怒るのか喋るのかどちらかにしてほしい。
 正直に言って何て言っているか聞きにくい。
 それに自分の体の一部がムシャグチャとされながら喋られると
 かなりキツイ。

「そうだな、最初はコントール出来て中々楽しい感じだったんだが、
 途中から全くコントロール出来なくなって殺意だけで体が動かされて……
 ご主人様まで殺して……最悪だった。」

「そうかのう……妾からして見れば物凄く楽しそうに
 殺しに掛かってきていたがのう。」

 あら、俺ってそんな楽しそうにしてたのかよ。
 殺しを楽しむって相当やばいぞ俺。
 やっぱり簡単に強くなろうなんて考えはやめた方が良いな。
 コツコツと強くなった方が確実だしな。
 リミッター解除は本当にヤバイ時だけにしよう。

「今度からは本当にヤバイ時だけ使うようにするよ。」

「ふーん、そうかのう。」

「ああ。」

 物凄く適当な返事を返されたが、俺は気にせず続ける。

「所でご主人様、何時まで俺を喰らうつもりなんだ?」

 この会話している間もずっとエキサラは
 俺の体を彼方此方と喰いまわっている。

「本当であればこの前の晩の予定じゃったが、
 誰かさんが寝てしまってのう……」

 ああ、あの時か……
 別に寝て時に喰らえば良かっただろ……その方が俺も助かるし。

「寝てるときに喰らえば良かっただろ。」

「妾がそんな酷い事すると思うかのう……」

 いや、どちらかと言えば今の方が酷いと思うんだが。

 一部を喰らい、復活したらまた他の一部を喰らい……
 それの繰り返しだ。

 だが、此処で変な事を言ったら更にエキサラを怒らしかねない……

「そうだよな、ご主人様はそんな事しないよな。
 はは、はははは。」

「くはははは、そうじゃそうじゃ!」

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