勇者になれなかった俺は異世界で

倉田フラト

豪華な料理

 それからまずどの魔法に絞るかを決めていたのだが、
 なかなか決められずにいるとエキサラがとある魔法を進めて来たので
 取り敢えずその魔法を極めてみる事にした。

 光造リヒトクリエイト
 光を操って色んな武器などを創り出す魔法。

 エキサラ曰く、この魔法を極めれば最強になれる。
 と言う。
 何を根拠に言っているのかは分からない。
 でも魔力が尽きない限り無限に武器を創り出せる
 と言うのは確かに強いかもしれない。

 例えば腕ごと吹っ飛ばされたとして、
 エキサラの力で腕は復活するが武器までは復活しない。
 そこでこの光創だ。
 腕が復活して相手が驚いている内に創り出した武器でグサリと。

 ……そんな上手く行くわけないけど。

 エキサラが言っていた通りに魔法をイメージし、
 そのイメージに沿って魔力を操りイメージを魔法として具現化する。
 実際にやってみるとかなり難しい。

 イメージまでは簡単に出来るが、
 魔力を操ると言うのが難しい。

「妄想は得意なんだけどな。」

「初めは難しいのじゃ、練習あるのみじゃ。」

 相変わらずのにやけずらのエキサラはそう言うと、
 俺に見せびらかす様にスペルを唱えず魔法を発動した。
 一二回では無く、色々の魔法をポンポンと。

 凄くイラつくが我慢だ。
 どうせ無視し続けたらその内やめるだろう。

 そう思い無視を続けていたのだが、
 止めるどころか徐々にエスカレートして行き、
 わざわざ目の前まで来て魔法を見せびらかして来た。

 流石に我慢できなくなった俺は丁度いい位置にある
 エキサラのおでこにデコピンをかました。

 ふぎぅ!と意味の分からない声を出して
 ふらふらと後退った。

「な、何をするのじゃ!」

「それはこっちのセリフだ。
 人が真面目に練習してるのにご主人様は……」

 おかげで気が散ってイメージすらままにならなかったぞ。
 くそったれ。

「う、うるさいのじゃ!
 少し位自慢したって良いじゃろ!
 今まで誰にも褒め――っ
 何か言ってくれても良かったのじゃぞ!」

 逆ギレを始めたエキサラ。
 普段の俺なら此処で何か言い返してるが、
 何故か今は言い返す気が起きなかった。

「そっか。」

 エキサラは途中で言うのを止めていたが、
 俺には伝わった。

 今まで誰にも……か。
 400年間も生きて来て誰にも褒めてもらえない。
 普通なら何か凄い事とか成し遂げたら褒めて欲しいものだけど、
 エキサラは誰からも褒めらてもらえなかった……
 エキサラの過去は知らないが、誰からも褒めてもらえないってかなり辛いよな。
 何度も俺に褒めるのじゃ!とか言ってたのは誰かに褒めて欲しかったのか。

「ご主人様は凄いよ。」

「むえ?そ、その通りじゃ妾は凄いのじゃ!」

 褒められて驚いたのか動揺し、
 何時もならうむ、と言うはずなのにむえ?と何とも言えない
 情けない声を出した。

「あぁ、ご主人様は凄い。」

「もっと褒めるのじゃ!」

「ご主人様は凄いよ。本当に。
 俺なんて足元にも及ばない。
 可愛いし、強いし、優しいし、これで料理が出来たら
 完璧な美少女だよ。
 こんな俺を拾ってくれて普通……とは言えないが、
 奴隷の様な扱いはしないでくれる。本当にご主人様は優しい。」

「……そんなに褒められたら照れるのじゃ。」

 エキサラはボソリと小声でそう言い、
 顔を隠しながら家の中に入って行ってしまった。

「何か最近のエキサラ可愛いな……」

 そんな事を呟き、俺は再びイメージを始めた。

 エキサラが家の中に戻り少し寂しくなった気がするが、
 一人になり集中しやすくなり俺は早くスペル無しで
 魔法が使える様に只管イメージを続けた。

 何度も何度も妄想をして、
 ほんの少しであるが魔力を操れるようになった。
 体の奥からぐわっと出してそれをイメージに沿って型に流し込む。

 ぐわっと魔力を出す所までは何とか出来る様になったが、
 イメージに沿って型に流し込むと言うのが難しい。

 魔力をぐわっと出すだけで精一杯なのに
 更にそこから操ってイメージに沿って流し込む何て無理だろ……

 何度も何度もやってみるが、
 どうしてもうまく行かない。
 魔力を操れたと思ったらイメージが消えてしまったり、
 イメージが途中で変わってしまったり、
 魔力が途中で消えたり……

「はぁ……」

 今日はここらへんでやめるか。
 そんな一日や二日で出来るものではなさそうだしな。
 暗くなってきたし丁度良いな。

 只管練習を続けて気付かない内に結構時間が経った様で
 辺りは薄暗くなっていた。
 その場で「疲れたー!!」と言いながら大きく伸び、
 空腹からか若干フラフラしながら家の中に入った。

「随分の熱心なのじゃ。」

「うおっ!」

 家の中に入り、リビングの扉を開けると目の前に仁王立ちしたエキサラがいて、
 予想外な出来事で俺は結構驚きその場に尻もちを着いてしまった。

「何をそんなに驚いているのじゃ。」

「何でこんなところに立ってるんだよ……」

 まさかずっと此処に立ってたのか
 ……まさか流石のエキサラでもそんなバカみたいな事しないよな。

「ほれ、立つのじゃ。」

 そう言って尻もちを着いている俺に手を差し伸べてきた。
 無言で手を取るのは何だが気が引けるので一応礼を言う事にした。

「ありがとう。」

「うむ。」 

「で、何でこんな所に立ってたんだ?
 まさかずっと立ってたのか?」

「いや、準備が終わってからだからのう、
 ちと前からじゃ。」

 そうか、やっぱ流石のエキサラでもそこまでバカじゃないか。
 良かった良かった……って準備?

「準備って何の準備だ?」

「うむ、喜ぶが良い!!」

 そう言ってエキサラは俺の目の前から横にずれ、
 俺の目の前には豪華な料理が並んでいた。
 テーブルの上に隙間なく置かれた料理はどれを見ても涎がたれそうな程美味しそうだ。
 こんがりと焼け、程よい焦げ具合の大きな肉。
 その肉の周りには色鮮やかな野菜達。

 見ただけで柔らかいと分かるふわふわの卵焼き。
 金色のスープに様々な野菜が入っているスープ。
 ほくほくとした大きな魚
 大量のマヨネーズ……他にも色々な料理がある。 

「どうじゃ!妾の初手料理じゃ!
 光栄に思うと良いのじゃ!」

「おぉおおぉお……おお?」

 そう言えばエキサラって料理出来ないんじゃなかったか?
 何処かから買って来たのか……いや、初手料理って言っていたしな。
 まさか初めて料理をして此処まで出来たとでも言うのか!?

「料理……出来ないんじゃなかったのか?」

「うむ、出来なかったのじゃ。
 今回が初めてだったがのう、意外と出来るものじゃ。」

「凄いな……」

 これが才能ってやつか……
 はぁ、本当に凄いなエキサラさん。
 でも何でこんなに豪華なんだ?
 今日は何かの記念日か何かなのかな?

 そんな事が気になり、
 誇らしげな顔をしているエキサラに聞いてみた。

「今日は何かの記念日なのか?」

「む?」

 エキサラは一瞬悩んだが、直ぐにはっとなり
 「そうじゃのう、」と前置きをして、

「今日は妾の愛しのソラが妾の事を沢山褒めてくれて
 物凄く嬉しかった記念すべき日じゃ!」

「……なんだよそれ。」

 物凄い明るい笑みでそう言い放つエキサラ。
 余りにも率直に言われ何だか照れくさくなり下を向く俺。

「どうしたのじゃ?
 お腹痛いのかのう?」

 そんな俺を心配そうにわざわざ顔を覗き込んで来た。
 若干赤くなった顔を見られ、急いで顔を手で隠して誤魔化す。

「大丈夫だ。只……只お腹が空いただけだ。」

「うむ、じゃあ早速喰うとしようかのう!」

「おう!」

 二人で仲良く椅子に向かい合って座り、
 エキサラの初手料理を美味しく頂いた。

・・・・

 料理を作れる様になったエキサラは、
 毎朝昼晩と毎日料理を作ってくれるようになった。
 毎日豪華な料理を食べれて幸せだが、
 朝まで豪華な料理を出されたら少し胃が重たくなる。

 朝は普通に卵焼きとかで良い。
 何て言えないよな……

 言えない理由は沢山あるが、
 一番の理由はエキサラが物凄く楽しそうに料理をしているからだ。
 楽しそうに料理をしているエキサラを見ると、
 和やかな気持ちになりずっと見守っていたいと思う様になり、
 どうしても言いだす事が出来ない。

 少しきついが、
 朝から豪華な料理を食べれると思えば結構楽……な気がする。

 朝起きて豪華な料理を食べて魔法の練習をして、
 豪華な料理を食べてまた魔法の練習をして、
 豪華な料理を食べて寝る。

 そんな幸せな毎日を送り
 俺は徐々に魔力を操れるようになってきた。
 イメージに沿って魔力を流し込むまでは行かないが、
 魔力を流し込むというのは出来る様になった。
 あとはイメージに沿って流し込むだけだが、これがなかなか上手く行かない。
 だがコツは何となく掴んでいるので後少しで何とかなりそうだ。

 そんな感じに順調に進んで行ったが、
 事件が起きてしまった。
 それは――

「久しぶりだね。」

 真っ白な空間にポツリ立つ一人の少女がそう言った。

「……凄く久しぶりな気がする。」

 この感じ本当に久しぶりだな。

「この前は本当に助かった。
 ありがとな。」

「頭撫でてよ。」

 そう言って俺の方へ近づき、
 頭を突き出して来た。
 俺は少し戸惑いつつも優しくヘリムの頭を撫でた。

「えへへ……そのままずっと撫でていて欲しいな。」

「ずっとは無理だが、お前には世話になりまくってるからな、
 満足するまでは撫でててやる。」

「えへへありがとう。
 ソラ君、やっと君の近くまで来れたよ。」

「えっ?」

 本当か?でもヘリムらしい姿なんて見てないぞ?

「あとほんの少しで本当に君のもとに行けるよ。」

「おお、そうなのか。
 それは楽しみだな。」

「うん、楽しみに待っていてくれよ。
 本当であればソラ君の事を僕が買って色々としたかったんだけど
 間に合わなくてね、どうしようかと考えていると
 今のソラ君の主人、エキサラがソラ君の事を買ってくれて本当に助かったよ。
 あの子とも色々と話したいな――おっと、ちょっと早いけど時間だ。
 本当に次こそ夢の中じゃなくて現実で合おうね。」

「ああ。」

コメント

  • アン・コ・ロモチ

    新婚生活の様な生活。
    …だが…、3歳だ…。
    なんでも出来るものすごい少女。
    …だが…、3歳だ…。

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