勇者になれなかった俺は異世界で

倉田フラト

お嫁さん

「ふぅ……」

 何だか良く分からないが、
 エキサラは昔ヘリムに命を救われていたらしく、
 何やらその話で盛り上がり、話が分からない俺は全く話に入っていけなく、
 只々ボケーと二人の会話を聞いていた。

「あの時は本当に死ぬかと思ったのじゃ、
 敵国の城内にあるベッドが思いの外心地よくてのう……
 つい寝てしまってのう気が付いたら捕まっていたのじゃ。」

「ははは、ご主人様って面白いね!」

 はははは、まったくドジだな~
 ……いや、まじで何してんのエキサラ
 敵国の城内でしかもベッドで寝るって絶対アホでしょ。

「まさかベッド寝てただけで永久封印されるとは
 思ってもいなかったのじゃ。」

「晒し者にされなかっただけましだね~」

「うむ、晒し者になんかされたら
 お嫁にいけなくなってしまうからのう。」

「お嫁さんか~僕もお嫁に行きたいな。
 どうだいソラ君、僕を貰ってくれないかい?」

 二人の世界に入って会話をしているのかと思っていたが、
 確り俺の存在の事を覚えていたらしく急にそんな事を言って来た。

 急すぎてビックリしたな……
 つか、お嫁に貰ってくれないとか言ってるけど、
 俺ってヘリムのものだろ?

「貰うも何も死んだ時から俺の魂はヘリムの物だろ。」

「む?」

「あ」

 しまった。
 余計な事を言ってしまったな。

 エキサラにはまだ俺が転生したと言う事を教えて居ない。
 今の発言だと確実に俺が一度死んだという事が分かってしまう。 

 やばいな急だったから頭回らなかったな。
 どうするべきか、誤魔化すか?
 いや、どのみち聞かれたら教える予定だったから
 別に誤魔化さないでも良いか……な?

 俺がそんな事を考えている中
 ヘリムは「キャー僕の将来はもう決まったも同然だね!」
 と一人で騒いでいた。

「むむむむ!!!ずるいのじゃ!
 妾もソラの嫁になる予定なのじゃ!」

「へ?」

「おお、ご主人様もなるのかい!
 良いね、僕は一夫多妻でも構わないよ!」

 予想外の反応に驚き
 思わず声に出してしまった。
 そして短い溜息をソッとつく。

 良かった……のなかな?
 教えるタイミングを失った様な気もするけど、
 まぁ、いいや。

「うむ、妾たち話が合うのう。」

「うん、これからも仲良くやっていけそうだね。」

「くははははは」「はははははは」

 まるで酔っ払いの様に笑い散らす二人を
 横目で見つつ、今度は長い溜息をついた。

「さて、」

 再び二人だけの世界に入って盛り上がっている中、
 俺は空になった食器を片付けようと思い立ち上がった。
 相変わらずの高級そうな食器、割らない様に慎重に運ぶ。
 一遍に運ぼうとはせず、何度も往復する。
 少し時間が掛かるが一番安全な方法。

 俺が空になった食器を運び始めても、
 ヘリムとエキサラの二人は気が付いていないのか、
 何の反応も示すことなく会話を続けていた。

 そんな二人を横目で見ながら
 俺は心の中で、婆さん同士の会話みたいに長いな……
 と、呟いた。

 強ち間違っていないのかもしれない、
 エキサラは400歳越え、
 ヘリムの年齢はエキサラの発言で
 確実に400歳越えをしているという事が分かった。 

 実際に二人とも婆さんクラスなのだ。
 二人とも年齢が近い同士何かと話が合うのだろう。
 最初は警戒していたエキサラは
 笑顔を浮かべながら楽しそうに話している。

 ヘリムは初めからニコニコと
 顔がうるさい程で、今も変わっていない。

「よいしょ。二人とも――」

 何度か往復し、そろそろ二人に手伝ってもらおうかと思ったが、
 二人が物凄く楽しそうに話していた為、
 俺は言葉を飲み込み淡々と片付けを続けた。

 ある程度の片付けが終わり、
 後は料理が残っている食器のみがテーブルに並んでいる。
 流石にまだ料理が残っている食器はまだ食べる可能性が
 あるので片づけない。

 後の片付けは二人に任せて、
 俺は魔法の練習でも始めるか。

 一応一言いってから練習に行こうとしたが、
 どうせ言っても二人だけの世界に入っている二人には
 聞こえないだろうから何も言わずに外に向う事にした。

「凄いな。」

 外に出てヘリムの魔法によって破壊され、
 焼野原になりヘリムの魔法によってもとに戻った
 場所を見渡してそんな事を呟いた。

 本当に元通りになってるんだよな……
 もともとがどうなっていたか詳しく見て居なかったら分からないが、
 凄いな、俺も何時かあんな魔法使える様になるのだろうか。
 ……まだ一つの魔法も極めていない俺には到底無理か。

 あんな魔法使えるなら世界を救うならヘリムだけで
 十分じゃないかと思ってしまう。
 まぁ、十分じゃないから俺なんだろうな……
 俺に何が出来るんだろうか。

「はぁ、頑張ろう。」

 体の底からぐわっと魔力を出し、
 イメージに沿って流し込む……

「あぁー、やっぱ上手くいかないな。」

 どうしてもイメージが崩れてしまう。
 一つに集中するともう一つが疎かになる。

 くそっー、何時になったら極められるんだ……
 もう一回だ。

 やはり、そんな簡単には出来る訳無く、
 今日も一度も成功することなく、終わった。
 何の進歩も無く、手応えも無い。

 コツを掴めればきっとやりやすいんだろうけど、
 そのコツが掴めないんだよな……
 取り敢えず、コツを掴めるまで毎日コツコツと練習するか。

「ん~~~」

 薄暗くなった空目がけて思いっきり背を伸ばし、
 今日の疲れを実感する。
 疲れた時ほど、背を伸ばすと気持ち良いものだ。
 今日は特に気持ちが良い。

 まぁ、朝からあんな事があったんだ。
 疲れない方がおかしいか。
 今日はさっさと寝るか。

 そんな事を思いながら
 玄関から家の中に入った。  

「おかえりなのじゃ。」

「あれ、ヘリムは?」

 練習を終えリビングに戻ると
 そこには椅子に座って飲み物を飲んでいるエキサラの姿があったが、
 ヘリムの姿が何処にも見えなかった。

「風呂じゃ。」

「ああ、風呂ね。」

 てっきり帰ったとかとんでもない事言いだしそうで怖かったけど
 風呂か……良かった。

「上がって来たら次は俺が入っても良いか?」

「うむ、別に良いのじゃが……」

 何やらニマニマといやらしい笑みを浮かべながら
 良からぬ事を考えていそうなエキサラ。
 そんな顔を見て恐る恐る続きを尋ねる。

「……じゃが?」

「ソラよ、お主ヘリムの浸かったお湯で楽しむ気じゃろ?」

「はっ?」

 何を考えているかと思ったら、
 こんなバカみたいな事を考えていたのか!
 つか、エキサラってこんな事言う奴だっけ?
 ヘリムと話して毒されたのか?

「いや、待つのじゃ。
 此処は妾が先に入った方が良いのかのう?
 妾とヘリムが浸かったお湯で――」

「おい、ご主人様。
 それ以上言ったら怒るからな。」

 一人で盛り上がっているエキサラに
 少し低めの声でそう警告すると、
 ピタリと止まった。

「む、むぅ……ちとからかっらだけなのじゃ。」

 しょんぼりと下を向き、
 何やらこっちが申し訳ない気持ちになる。

 そんなにキツイ言い方してないんだけどな、
 そこまで落ち込むのか……
 一応謝っておこう。後後怖いからな。

「あー、何かごめんな。
 そんな落ち込むとは思わなかった。」

「む?落ち込んでなどいないのじゃ。」

「はっ?」

「ちと、からかってやっただけなのじゃ。」

「なっ!」

 ケロっとした表情でそう言い放たれ、
 怒りが爆発しそうになったが、
 夜が怖いので大きく深呼吸をし鎮めた。

「はぁ、ご主人様は一体何をしたいんだ。」

「ん~ソラをからかったら面白いって聞いてのう。
 ついやってみたくなったのじゃ。」

 ヘリム《あの》野郎か!
 くそったれ、後でお仕置きしてやる。

「ヘリムの言う事をそう簡単に信じるな。」

「む~、でも確かに面白かったのじゃ!」

 楽しそうにそう言い、
 飲み物をグビグビと飲み干し、
 ドンっと勢い良くテーブルにコップを叩きつけた。

「どした?」

 怒ったような仕草をされ、
 戸惑いつつも聞いてみた。

 エキサラは無言で何もない空間から、
 オレンジジュース見たいな物を取り出し、
 空になったコップに入れ、

「ほれ、飲むのじゃ。」

 そう言って渡してきた。

「あ、ありがとう。」

 さっそく飲もうと思ったが、
 ある事に気が付き中途した。

 まて、これって間接キスじゃないのか?
 ……いや、間接キスとか今更気にすることじゃないよな。
 エキサラに彼方此方喰われて、普通に口とかも何度かあるし。
 ……気にしない気にしない。

――ゴクゴク

 味は本当にオレンジジュースだ。
 若干濃い気もするが、普通にオレンジジュースと言われたら信じる程だ。

 この世界にもあるんだな。
 名前は違うかもしれないけど。

「ソラよ、お主は異世界人なのかのう?」

「いきなりだな、ヘリムから聞いたのか?」

 いきなり聞かれ、少し驚いたが、
 慌てる事は無くコップを静かにテーブルに置きそう答えた。
 質問を質問で返すのは余り良い事では無いが、
 一応確認しておきたかった事なので仕方ない。

「いや、ヘリムからは何も聞いていないのじゃ。
 何となくじゃがそう思ったのじゃ、妾の勘ってやつじゃ。」

 恐るべし婆さんの勘。
 その通りだ。
 ヘリムとの会話で何か違和感でも掴んだのか?
 まぁ、何にしろ凄いなエキサラ。

「そっか、ああ。
 俺は異世界人って奴だ。」

 始め方聞かれたら教えようと思っていた事なので、
 誤魔化す事無く正直に答えた。
 エキサラは表情をピクリとも動かさず何時も通りの顔をし、
 大して驚いてはいないようだ。

「うむ、やはり妾はの勘は凄いのう。」

「何も言わないのか?
 てっきり軽蔑されるかと思ったんだが。」

 軽蔑まで行かないが、
 多少のそういう反応があってもおかしくないと思っていた為、
 あまりにも無反応でそれどころか自分の事を褒めてる姿を見て、
 思わず聞いてしまった。 

「む?軽蔑などしないのじゃ。
 寧ろ正直に答えてくれて妾は嬉しいのじゃ。」

「嬉しいか……」

「うむ。今度で良いから異世界の話を妾に聞かせてくれないかのう?」

「あ、ああ。いいよ。」

 流石ご主人様だ。
 軽蔑するどころか更に仲を深めようとしてくる。

「やったのじゃ!楽しみ――」

 はしゃぎだしたかと思えば、
 いきなり暗くなり、申し訳なさそうに此方を見て来る。

「どしたんだ?」

「妾が聞こうとしている事は、
 ソラにとっては辛い事じゃないのかのう。」

 辛い事?
 ……ああ、そう言う事。
 今の俺の姿からして転移では無く転生と判断したのか、

 転生、つまり死んで生まれ変わったと言う事。
 エキサラの言う異世界の話と言うのは前世の話。
 エキサラは、俺が嫌な事を思い出したり、
 切なくなったりするかも知れない可能性があると言う事に気が付き、
 気を遣ってくれたのだろう。

「全然問題ないぞ。
 寧ろ聞いてくれよ。俺の自慢できる仲間達の事を。」

 全然問題とは言い過ぎか。
 話すと会いたくなってしまうからな。

「おお、そうかのう。
 じゃあ今度是非聞かせて欲しいのじゃ!」

「おう、楽しみにしとけよ。」

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