勇者になれなかった俺は異世界で

倉田フラト

大体始まりは訪問者

 無事魔力の操作も出来た事だしこの調子で
 リミッター解除状態の制御もやってしまおうと思ったが、
 思いの外エクスカリバーを具現化しただけで魔力を使い果たしたらしく、
 俺はフラフラとしてしまっていた。

「嘘、俺の魔力少なすぎ……」

「まぁ、あれだけ強力な武器を生み出しちゃったんだもの……
 そうなるのも仕方がないよ。」

 ヘリムはそう言ってエクスカリバーを片手で持ち、
 肩で支えもう片方の手で俺の事をまるで赤子の様にひょいと持ち上げ、
 エクスカリバーと同じように肩に置かれ俺の体はくの字になった。

「今日も大人しくしてようね。」

「あぁ……」

 女に軽く持ち上げられ複雑な気持ちになったが、
 身長的にも仕方ない事だ。と自分に言い聞かせた。

 ヘリムはてくてくと歩き家の中に入り
 俺とエクスカリバーをリビングまで連れて行き
 俺は椅子に座らされエクスカリバーはテーブルの上に置かれた。

「なんじゃそれ。」

 リビングにいたエキサラが不思議そうにそう言い、

「何ってソラ君だよ。」

「いや、ソラの事位しってるのじゃ。
 その置いてある物騒な物はなんじゃと聞いておるのじゃ。」

「あ、こっちね!
 これはねソラ君が魔力で生み出したエクスカリバー
 って言う武器らしいよ。」

「ほへー触っても良いかのう?」

「あぁ。」

 興味津々そうにテーブルに近付き恐る恐るエクスカリバーに
 手を伸ばしゆっくりと触れる。
 触れた瞬間、エキサラの表情が一瞬で固くなった。

「なんじゃ……これは武器と呼べるのかのう。」

「ふふふ、そうだね。武器と言うより兵器だね。」

「兵器……」

 二人は触れただけで何かが分かるようだが、
 生憎俺にはそんな能力は無いので
 何となく凄い武器、流石エクスカリバーなんだなとしか思わない。

 それにしても兵器か。
 あのエキサラの表情が一瞬で変わったって事は相当凄いんだな。
 何時か使える様になるとヘリムは言っていたけど、
 兵器を使いこなせる自信なんて無いぞ。

「ふむ、これほど強力な物を生み出して
 ソラはまた魔力を切らしてしまったのかのう。」

「ははは、まぁな。」

 仕方ないな奴だという目で見られ、
 俺からは乾いた笑い声が飛び出た。

「今日も妾が手厚く看病してやろう。
 それにしても、もう武器を生み出す事が出来たとはのう……
 正直驚きじゃ。」

「ああ、俺も驚いたよ。」

 正直言って最低でも後一か月位は掛かると言う事は
 覚悟していたが、意外と数日で出来てしまった。
 女騎士のおかげで。

「妾の知らない所で何か
 特別な練習でもしていたのかのう?」

「いや、そう言う訳じゃないらしい。
 昨日の件で俺の魔力がゼロになったから感覚が掴みやすくなった
 的な事をヘリムが言ってた。」

「うん、その通り。」

 ヘリムはうんうんと首を縦にふりながらそう言った。

「なるほどのう、そう言う訳かのう。
 本当はソラの事を傷つけたあのゴミの仲間を全員
 殺しに行こうかと思っていたけど結果としてソラの為になっていたのじゃから
 今回は許すのじゃ。」

「……」

 平然と恐ろしい事をしようとしていたと言う事を語られ、
 俺は何も言う事が出来なかった。

 恐ろしい……気持ちはありがたい気がするけど、
 そこまでやる必要あるのか?
 実際俺自身は無傷だし単に魔力が全部吸われただけだし。

「ふふふ、ご主人様とはやっぱり気が合うね。
 実は僕もそう思ってたけど、今は別に良いかなって思ってるんだ。」

「ひぃい。」

 ダメだこいつ等、
 平然と恐ろしい事いいやがる。
 ……俺もあんな感じだったのかな。

・・・・

「ほれ、口を開けるのじゃ。」

「いや、いいって。」

「ソラ君、言う事聞いて置いた方が身のためだと思うよ?
 ほら、口あけなよ。」

 魔力が再びゼロになった俺はご飯の時間まで
 ボケーとしながらダラダラと時間を過ごし、
 夕飯の時間になり、俺は二人に追い詰められていた。

 昨日、魔力がゼロになった時は自分でご飯を食べていたが、
 何故だか今日は自分でご飯を食べると言う事が許されずに
 エキサラとヘリムに食べさせられると言う良く分からない状況になっていた。

 俺は昨日は自分で食べれたからいいと何度も
 断っているのだが、二人ともぐいぐいと来、
 最終的にはヘリムに脅され俺は仕方なく口を開いた。

モグモグ

「美味しいかのう?」

「ああ、凄く美味しい。」

 例え何時もと違う食べ方になったとしても、
 エキサラの作る料理の味は変わらず何時も通り物凄く美味しい。

「ほら、次はこれだよ。」

「……美味しい。」

「うむ、次は――」

 その後もエキサラ、ヘリムと言う順で何度もループし、
 テーブルの上の料理が無くなるまでそれは続き、
 無くなった頃には俺のお腹は膨らみはちきれそうになっていた。

「うぅ……流石にもう無理……」

「む?今から追加で料理を作ってこようかと思っていたのじゃが……」

「ん~流石にソラ君のお腹が心配だからもう良いんじゃないかな?」

 じゃあ、こんな腹になるまで食べさせるなよ。
 と俺は心のなかで強く思った。

「むぅ、それもそうじゃな。
 じゃあ、今日も話しを聞かせて貰おうかのう。」

「うん、いいよ!」

 二人は楽しそうに話しながら
 片付けをはじめ、俺はまた少し申し訳ない気持ちになりながら
 その光景を見ていた。

 二日連続で何もしないで只々見てるって言うのも
 楽だけど物凄く申し訳なくなって辛いな。
 明日の片付けは俺一人でやるか。

 明日はあまり魔力を使わなさそうな短剣とかを
 イメージして練習してみるか。
 それで成功したら次はリミッター解除の練習だ。

「よし、行こうか。」

「うおっ?!」

「うむ。」

 何時の間にかに片付けが終わり、
 俺はヘリムにひょいと持ち上げられ寝室まで連れていかれ、
 昨日と同じような形で寝かされた。

「今日はソラ君の恥ずかしい話をしようと思うよ。」

「おぉ!楽しみなのじゃ!」

「いや、待てやめろ。」

 恥ずかしい事に思い当たる事は無いが、
 何となく止めて置いた方が良いと思い、

「まずはソラ君のアレについて詳しく話そうか。」

「おい、待て!!!」

「大きさはね――」

「やめろおおおおおおおお!!」

 俺の叫びは無視され、
 この後俺は物凄く恥ずかしい思いをしながら
 ベッドに顔を疼くめてヘリムの事を恨んだ。

・・・・

 地獄の様な一夜を過ごし、
 翌日俺は朝食を終えエキサラ達に
 「今日の片付けは俺一人でやらしてくれ」
 と言うと、ごちゃごちゃと色々言われたが、最終的には了承してくれた。

 慎重かつ迅速に片づけを終わらせ、
 早速外に向おうと玄関まで行くと
 見計らった様なタイミングで扉がノックされた。

「ソラ、頼んだのじゃ~」

「僕も行くよ」

 貴族や女騎士の事がある為、
 此処に来る奴に碌な奴は居ないと思い込んでいる俺は
 若干出て行くのに気が引けたが、ヘリムも一緒に来てくれると言う事で
 安全面は確保され、安心しつつ俺は恐る恐る扉を開けた。

 扉を開けた先には三人組が立っていた。
 目の前に立っている 
 主な色が金色で構成され申訳程度に黒と緑のラインが入った
 全身鎧を付けた物凄くゴツイ体型の男。

 兜を外し腕と横っ腹で押さえる形で支えている。
 唯一露出している顔は見た目とのギャップが凄い程の
 爽やかなイケメンだ。

 その横には豚を擬人化したかのような
 化け物が立っていた。
 豚鼻に口からはダラダラと涎が垂れ目は白目を向いている。
 はち切れそうなほど育ったお腹にあう服が無いのだろうか、
 上半身は裸で、その代わりにチェーンの様な物を体中に巻いている。
 明らかに人ではない。

 そして後ろで少し二人と距離を取って
 黒いフード付きローブを着込み、
 手には銀色のガントレットを付け、
 フードを被り顔にはお面を付けていて
 性別や種族すら判断出来ない謎の人物が立っていた。

 シンプルなお面で目と口の部分だけが穴が空いていたが、
 その奥には何やら得体の知れない物を感じる。
 この中で一人だけ明らかに雰囲気が違う。
 一番危険な人物だ。

「やぁ、単刀直入に聞くけど
 此処に調査に来た騎士はどうしたのかな?」

 ギャップイケメンが爽やかな声でそう尋ねて来た。
 爽やかな声だがそれとは裏腹に目は鋭く
 此方の事を睨みつけて来ていた。

 俺は騎士と言われて直ぐにピンと来たが
 面倒事には巻き込まれたくないので顔には一切出さずに
 白を切ることにした。

「騎士?何の事ですか?」

 あまりムカつくイケメンには敬語を使いたくないが、
 状況的に仕方がない。

 俺は平然を装って白を切ったが、

「ソンナハズナイ!!」

 ギャップの隣にいる豚が声を荒げた。
 非常に聞き取り難い声だが、
 何とか聞き取ることが出来た。

「こらこら落ち着きなさい。
 ふむ、白を切るつもりですか。
 実はこの子は、」

 そういって豚の頭の上に手を置き、
 なでなでと撫で始めた。

「この子は、とっても鼻が利くんですよ。」

「へぇー、そうなんですか。
 それがどうしたんですか?」

 おい、やばいぞ。
 これ完全にバレてるっぽい!

 と思っていたが、冷静に。

「ん~まだ白を切るつもりですか……
 はぁ、仕方ない。」

 イケメンは兜を被り、
 物凄い速さで俺の襟をつかみ、
 家から出され地面に叩きつけられた。

「もう一度聞きますよ?」

 先ほどの爽やかなイケメンは何処に行ったのか。
 と思う程物凄く低い声で俺に警告をしてきた。

 鎧野郎は俺の背中をグリグリと踏みつけてきているが、
 体を喰いちぎられるのと比べればちっとも痛くない。

 踏み付けられながらチラリとヘリムの方を向くと、
 今にも飛び掛かりそうな態勢をしていたので、
 俺は透かさず首を横に振った。
 倒れている為非常に小さい振りになったが、
 ヘリムには伝わったらしく、縦に頷いてくれた。

 俺が何故ヘリムの助けを断ったかと言うと、
 只、イケメンがムカつくからだ。
 と言うのは冗談で、今の俺がどこまで通用するのか
 と言う事が知りたかったからだ。

「此処に来た騎士はどうしたのですか?」

 短剣をイメージして、イメージに魔力を流し込む。
 エクスカリバーとは違って物凄くやりやすい。

「さぁな」

「そうですか、仕方ありません――体に直接聞くしかありませんね。」

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