勇者になれなかった俺は異世界で

倉田フラト

 エキサラの指示通りにテキパキと動き、
 家具を設置したりして無事内装は完成した。
 正直に言って俺は必要なかった。

 最初は良かったものの、
 途中から爺とヘリムが競うかの様に
 物凄い速さで家具を設置し始め、それからあっと言う間に内装が出来上がった。
 その速さについて行き指示を出しているエキサラも凄いが、
 ヘリムの速さに付いていけている爺も凄い。

 家具一つ置いてなかった寂しい城内には、
 見違えるほど様々な家具などが置かれていた。
 床には高そうな赤色の絨毯が敷かれ、
 入口付近には剣をかかげたりしている騎士の置物が置かれ
 壁にはエキサラが昔に描いた自分の似顔絵が飾られている。

 正直に言おう、エキサラは絵が下手だ。
 エキサラは自分の似顔絵と言い張っているが、
 俺には顔の皮膚が剥がれた化け物にしか見えない。

 上からは豪華なシャンデリアがぶら下がっている。
 色々な宝石が埋め込んであるらしく赤や緑や青と
 キラキラ輝いている。

 無駄に高そうだ。

 二階に続く階段にも赤い絨毯が敷かれている。
 階段を少し上がるとT字路になっており右と左で別れている。
 右に行くと物置や厨房などがあるらしい。
 左には沢山の部屋があり、さらに進むと階段があって
 三階に上がる事が出来、三階には謁見の間の様な所があるらしい。

 俺が直接二階や三階に行った訳では無いので、
 本当かどうかは分からない。
 二階と三階はヘリムと爺が目にも留まらぬ速さで
 終わらしてしまった為俺が行くことは無かった。

 何を思って競い合いを始めたのか……謎だ。
 爺とヘリムは頑張り過ぎたせいか、
 二人とも床の上でぐったりとしている。
 何とも無い俺とエキサラは階段に座ってそんな二人の事を見ていた。

「ソラよ、さっき端でコソコソとやっていた様じゃが
 何をしていたのじゃ……もしかしのう……」

 エキサラはそう言って少し顔を赤くした。

「その……アレだったら言わなくてもいいのじゃぞ。」

 アレとは一体何のことなんだろうか。
 何となく予想は付くが、もしエキサラの言うアレをしていたとしたら
 言っても言わなくても結局は同じじゃないか。

「ちょっと前の事を思い出したりしていただけ。」

「なんじゃ。」

 エキサラはあからさまにがっくしとしていた。
 一体何を期待していたのか……

「内容を聞いてもよいかのう?」

「良いけど大した話じゃないぞ。」

 俺にとっては物凄く大した事だが、
 エキサラにとっては何の面白みもない話になるだろう。
 それにしても……

 切り替えが早いと言ったら良いのか
 エキサラの表情がコロコロと変わって、
 見ていて少し楽しい。

「とある魔王にもらった剣の事を思い出して、
 その剣を今俺が持っているって事を思い出しただけだ。」

「むぅ?ちと意味が分からないのじゃ。
 その魔王というのは転生する前のソラの事じゃろ?
 なのに何故その頃もらった武器を今もっているのじゃ?」

 当たり前の質問だ。
 これは俺の説明の仕方が悪かった。

「剣には呪いが掛かっていてな、
 その剣に呪われてしまって転生しても呪いは消えていないんだ。」

「恐ろしいのう……ちなみにどんな呪いなのかのう。」

「こんな感じ。」

 ボロボロの短剣をイメージして、 
 心の中から短剣を取り出した。

「むむ、光造リヒトクリエイトの様にも見得るのじゃが、
 それが呪いなのかのう?」

 確かにエキサラの言う通り傍から見ればそう思うだろう。
 だが、誰が何と言おうとこれは呪いだ。

「ああ、ちなみに離すと――」

「む!?」

 短剣が体に吸い込まれていくのを見て
 エキサラは立ち上がり驚きを隠せないでいた。

「驚いた?」

「うむ、今まで一度も見た事ない呪いじゃ……
 ちなみにさっきの短剣には何か特別な力があるのかのう?」

 流石エキサラだ。

「ああ、攻撃を全て無効化するって感じかな。」

「なんと!それが本当なら凄いのう……」

「本当だからな、今度みせてやる。」

「うむ、楽しみにしてるのじゃ。」

・・・・

「そうじゃ、ソラよ下に降りて挨拶をして来てくれないかのう。」

「挨拶?」

「うむ、この城から少し下った所に小さな町があるのじゃ。
 そこにちと引っ越してきたと挨拶をのう。」

「挨拶か……」

 少し面倒臭い気もするが、
 久しぶりの外出という事もあり素直に行くことにした。

「分かった行ってくるよ。」

「うむ……」

 俺が行くと言うとエキサラは何故か
 下を向いて何かを考えだした。

「……色々考えたのじゃが、
 ソラ一人で行かせるわけにはいかないのじゃ。
 爺と一緒に行くのじゃ。良いかのう爺。」

「問題無い。」

 先程までぐったりと倒れ込んでいたが、
 エキサラが声を掛けるとズバッと起き上がり
 何事も無かったかのように平然と返答した。

 何故俺を一人で行かせてくれないのか。
 理由としては、俺の種族の問題と奴隷と言う事、
 二つほど考えられるが、まぁ何方でもいいだろう。
 俺自身一人で行くのは少し心細かったからな。

「それじゃ、気を付けて行ってくるのじゃ。」

「ソラ君、次こそ何かあったら直ぐ僕が行くから安心してね。」

「ああ、行ってくる。」

 俺はエキサラと床で寝ながら手を振って来る二人に背を向け
 城を後にした。

 城は少し高い位置に建てられており、
 下にあるらしい村に行くには森の中にある
 一本道を下りなければならない。
 近いようで遠い。

 その一本道を俺と爺は黙々と下りていく。
 会話が無く沈黙が続き非常に気まずい感じだ。
 話しかけようとしても話題が出て来ない以前に、
 爺から話しかけて来るなという感じがビンビンと伝わって来る。

「お前は人間だったな?」

「っ!」

 最初に沈黙を破ったのは意外な事に爺だった。
 俺は突然の事に驚きビクリと体を震わせてしまった。
 恥ずかしい。

「そうだよ。」

 何のために質問だったのかは分からないが
 一応正直に答えて置いた。

「……なら、俺の背中から離れるなよ。」

「?ああ……」

 いまいち爺の言っている事が理解できない。
 だが、爺は未だに得体の知れない恐ろしい存在なので、
 俺は爺の言葉に従い、ローブの背中を軽く掴み離れない様にした。

・・・・

 爺とソラが城から出て行き時間が経つと、
 ヘリムがゆっくりと立ち上がり、エキサラの横に腰を下ろした。

「いやぁ、驚いたね。」

「む?何のことじゃ?」

 ヘリムの突然の発言の意味を理解出来ずに、
 エキサラ首を傾げた。

「ん、ご主人様が爺って呼んでる奴の事だよ。」

「ふむ、爺の事かのう。」

 エキサラは爺が今までヘリムと競いほぼ同格に
 渡り合っていた事についてかと思ったが、
 あれは実際ヘリムが力を抜いているだけであって
 本来で在れば神などと渡り合えるはずがない。
 そんな事はエキサラも知っていた。

 だが、それ以外に驚く場面が無い。
 エキサラが困惑していると、

「怨念の塊って嘘だったんだね。
 いやー、驚いたよ。
 ご主人様が平然に嘘を付いていて気付く事が出来たかったけど、
 さっき競ってみてやっと分かったよ。」

「むむ……」

「いくら僕が手を抜いていたからといっても
 怨念があそこまで付いて来れるはずない、
 奴の種族は――」

「流石じゃのう。」

 ヘリムの言葉を遮る様にエキサラは大きな声をだした。

「この事はソラには言わないでくれないかのう?」

「どうしてだい?」

「実を言うとな、爺の正体を隠していた理由はのう、
 ソラにドッキリを仕掛けたかったのじゃ。」

「ふーん、なるほどね。」

 エキサラの言うドッキリの内容をヘリムは知らない。
 だが、ヘリムにとっては内容などどうでもいいのだ。

「まぁ、僕としては嘘は良くないと思うけど、
 それがソラ君の為というのなら仕方ないね。
 ご主人様がどんなドッキリを仕掛けるかは興味ないけど、
 もしそれでソラ君の事を傷つけでもしたらご主人様でも許さないからね。」

 ドッキリで傷つけるなんて微塵も思っていたかったが、 
 ヘリムに睨まれ、エキサラは心臓を鷲掴みにされる感覚に陥り、肝に命じた。

 何があってもソラを守るのじゃ。

「分かったのじゃ。
 ソラの事は傷つけない、寧ろ守るのじゃ。
 あっ、でものうソラを強くする為に傷つける事は許してくれないかのう。」

「うん、それなら別に良いよ。ソラ君が自ら望むことならね。
 僕もソラ君から大切な者を奪いたくない、
 これからも仲良く暮らしていける事を祈ってるよ。」

「うむ、妾もじゃ。」

「話は変わるけどさ、料理の作りかたを教えてくれないかい?」

「う、うむ。良いのじゃ!じゃあ作りながらソラの事をもっと教えてくれないかのう。」

「うん、いいよ~」

・・・・

 爺の背中のローブに握って暫く歩き、
 気が付くと村の入口に着いた。
 一本道が自然豊かだったのと同様に村も自然豊かだ。
 入口には木をそのまま利用した門がある。
 木と木の間を利用して板を掛けて門を作っているのだ。

 板には何やら文字が書いてあるのだが、
 生憎勉強不足で読むことが出来ない。

 門を潜るとやはり中も自然豊かで、
 全ての家が自然に生えている木をそのまま利用して建てられている。
 ある家は巨大な木の枝に建ててあり、
 またある家は木と木の間に挟まる様に建っている。

 村の中央にはたき火があり、その周りには
 動物の皮や肉などが置いてある。

 村の広さは大した事無く、
 本当に小さな村という感じだ。

 小さな村に入り、俺は爺の後をついて行く。
 周りをチラチラと見ると、村人がチラホラいるが、
 どれも耳が尖っていて此方の事を軽蔑した様な目で見てきている。
 いや、此方と言うよりは俺の事をだ。

 耳が尖っていて森の中に住んでいる種族は
 間違いなくエルフだ。
 序列は9位。

 当然最下位の人間かけ離れた存在だ。
 エルフにとっては人間は奴隷と言う物でしかない。
 つまりこの視線は奴隷と言う物を見る目だ。

 そんな事を思っていると、
 家の中から一人の男エルフと首輪を付けられ
 四足歩行を強いられている人間の奴隷が出て来た。

 エルフの方は結構良さそうな服を着ているが、
 当然ながら奴隷の人間の方には布切れの様な服。
 首輪に繋がっているリードを引っ張り無理矢理歩かせ、
 まるで俺に見せびらかしてくるかのように、
 エルフは横目で俺の事を見ながらニヤニヤと。

 思わず目を背ける。
 悔しいが今の俺にはどうする事も出来ない。
 只々見て見ぬふりをするだけ。
 そんな自分が憎い。

 思わずローブを握っている手に力が入る。
 それを感じとったのか、爺は足を止め、
 斜め後ろに手を伸ばし無言で頭をポンポンとしてくれた。

 ありがとう。
 おかげで気持ちが落ち着いたよ。

「此処の長は誰だ?」

 俺の頭から手を離し、
 爺は少し大き目の声を出した。

「はい、私です。」

 そういって出て来たのはイケメンエルフさん。
 金髪のショートで、顔立ちはスッキリとしており、
 身長もそこそこの大きさだ。

「お前か、随分と若い長だな。」

「はは、そう見えますか、嬉しい限りです。
 ですが、こう見えても軽く90は超えてます。」

「ふっ、やはり若造じゃないか。」

 俺からしてみれば90でも凄いと思うんだが、
 爺にとっては若造なのか。
 流石はエキサラの元執事、次元が違うぜ。

「それで、要件はなんでしょうか?
 もしよろしければ家の中で話しませんか?」

「いや、それは遠慮する。
 長居しては此奴が可哀そうだからな。」

「あぅ、」

 そういって爺は再び俺の頭をぽんぽんとしてきた。
 俺は予想外のポンポンで思わず変な声を出してしまった。

「そうですよね、同族があんな扱いを受けて居たら
 私も耐えられないと思います。
 では、迅速に終わらせましょうか。」

「ああ、要件は簡単だ。
 俺達は先程、あの上にある城に引っ越して来た者だ。
 今日はその挨拶に来た。」

「なるほど、あの城にですか……」

 イケメンエルフはそう言って少し悩んだ様子を見せた。

「あの城に居た化け物はどうしたのですか?」

 化け物?
 一体何のことだ。

「あぁ、奴なら始末したから問題ない。」

 どうやら爺は化け物の事をしっているようだ。
 序列9位のエルフが化け物と言っている奴の事を
 爺は始末出来る。
 つまり、少なくとも爺はエルフよりも強い。

「はは、冗談を……ってそんな感じじゃないですね。
 信じ難い事ですが、事実あの城に引っ越して来たと言うのならば、
 信じざる得ないですね。」

「ああ、俺達の挨拶はこれ位にする。
 後日改めて城の主と共に訪れる予定だが問題ないか?」

「はい、その時は歓迎会を開きますよ。」

 そう言ったイケメンエルフの事を
 何故か爺は鼻で笑い、村を後にした。

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