勇者になれなかった俺は異世界で

倉田フラト

ポチとの戦闘

 ポチとの約束をした後、暫くは腕をがぶがぶとされ、
 ポチのお腹が十分に満たされ俺とポチは別れた。
 城に戻り何事もなかったかの様に風呂に入ってから
 寝室に向かうと先にヘリムがベッドに入っていた。

「おかえりー」

「おう、ただいま。
 エキサラはどうしたの?」

 城に入ってから寝室に来るまでエキサラと一度も出会わなかったため、
 少し不思議に思い寝転がっているヘリムに聞いてみた。

「んとね、ご主人様は食料が切れそうなのじゃ~って言って
 どこかに行っちゃったよ~」

「食料調達って事か」

 流石のエキサラでも食料は無限には持っていないらしい。
 普通な面もあって少し安心した。

「ところでソラ君。」

「ん~」

 俺は少しヘリムと距離を開けてベッドに入った。

「さっき見てたんだけど、友達出来たんだね~」

「と、友達って言えるのか?」

 ヘリムにはバレてしまったようだ。
 しかし俺は大して慌ててもしなかった。
 ヘリムにバレルのは想定していた事だからだ。

「友達じゃないの?」

「友達というか……んー何だろうな。」

 ポチと俺は一体どういう仲といえば良いのだろうか
 俺が身を削る事でポチは力を貸してくれるという協力関係にある仲?
 そんな感じなのかな。

「まぁ、何にせよポチにはこれから結構お世話になると思うから
 友達ぐらいにはなっておきたいかな。」

「そう、その時は僕にも紹介してくれよ。
 でも、もしそのいぬっころが君の望まない様な事をするのであれば
 僕が黙ってないからね、例えソラ君の友達だろうと殺すよ。」

 此方を向きながらニコリと笑いながらそう言ってきた。
 笑顔でさらりと物騒な事を言ってくるので恐怖が
 より一層増す。

「お、おう。」

 ヘリムって本当に平然と物騒な事言っちゃうよな。
 でもそれも俺のことを思ってくれて言ってくれてるんだろうけど……
 もうすこし他人の事を大切にしてほしいな。
 まぁ、言っても無駄だろうから言わないけど。

「なぁ、ヘリム。」

 俺は少し気になっていた事を
 ヘリムなら知っていると思って質問することにした。

「ん~?」

「フェンリルって狼じゃないのか?」

「んー大きな狼の姿をした怪物って所かな~
 僕もそういうのは良くわからないな。」

「そっか、まぁ、狼ってことでいいよね。」

「うん、そうだね。」

 神様もそういってるんだフェンリルは狼ってことで。

 翌日、朝食を済ませ俺は早速ポチの下に向かった。
 朝目が覚めた時にはエキサラは既に帰って来ていて、
 俺とポチの事がばれない様にヘリムに上手いこと言ってもらい、
 俺は勢いよく城から飛び出した。

 約束の場所に向かうと既にポチがいて、
 退屈そうに体を丸め欠伸をしていた。

「待ったかな?」

『遅すぎる。ストレスで近くの村襲いに行こうかと思ってた所だ』

「駄目、それ絶対だめだからな」

 近くの村って言ったら
 この前爺といったエルフの村しかない。
 あの村には今度エキサラ達と再び行く予定だから
 絶対にダメだ、もしエルフが全滅してたら
 エキサラが何をしでかすか……

 そういえば爺の姿見てないけど
 どこにいったのだろう。

『さて、始めるとするか』

「あれ、俺はてっきり朝食として身を削らないと
 いけないかと思ってたんだけど……」

『喰わんぞ、我は夜だけしか』

「へぇ、ダイエットでもしてるのか?」

 一日一食のダイエットは痩せる人もいれば
 太るという人もいる。
 俺だったら一日一食だと餓死しちゃうね。

『我がダイエットしてるように見えるのか?』

 牙を少し出して唸りながら威嚇してくる。

「違うのか、じゃあなんで一日一食なの?」

『それは勿論、太るからに決まっているだろ』

「あ、そうなの」

 結局はダイエットみたいなもんじゃないか。
 なんて言ったら本気で噛み殺されそうなので
 心の奥深くにしまっておく。

「じゃあ、始めようか!――と、その前に」

『何だ?』

 リミッター解除状態の俺は自分で言うのもなんだが、
 かなり強い……と思う、だから下手したら
 ポチの事を殺してしまうかもしれない。

「もし俺がリミッター解除状態を制御出来ていなかったら
 本気で俺の事を殺してくれ。」

 まぁ、一回や二回で制御できるとは思ってないけど。
 何回は死ぬ覚悟はできてる。
 何十回、何百回死のうと俺は諦めない。

『我は最初から本気でヤルともりなのだが?』

 そういって此方を見てくるポチの眼を見た俺は
 心臓を鷲掴みにされた様な錯覚をした。
 殺気ではない圧。

「そりゃ、良かった。」

『ああ、では行くぞ?』

「あ、ちょっと待ってね。」

 俺は急いで普通の短剣をイメージして
 魔力を操り具現化した。
 慣れたものでこの魔法も一瞬で使えるようになった。
 まぁ、短剣に限るけど。

「よし、準備完了」

『行くぞ――っ!』

 ほんの刹那、瞬きをした瞬間目の前にいたはずのポチは消えており、
 代わりに物凄い風が俺の体を襲い、思わず後ずさってしまう。
 体が物凄く軽くなりまるで無重力にでもいるかのような感覚に襲われ、
 急いでポチの姿を確認しようと周囲を見渡そうとしたが、

「っ――ぁ?」

 目に入ってきたのはポチではなく、
 首から上がなくなった自分の体だった。
 理解が追い付かないまま切断された頭は地面に落ち、
 一瞬のブラックアウトを挟み、俺の頭は復活した。

「――っはああ!何だよそれ!」

『頭頂くぞ』

 気が付けばポチは俺の真横にいて、
 先程地面に落ちた頭をパクリと喰らった。

「夜しか食べないんじゃなかったのか?」

『これは戦いで得た戦利品のおやつだ』

 おやつは別腹ってことか。

『それより、少し手加減した方が良いか?
 このままじゃソラは手も足も出――』

「いや、このままで良い。」

 確かに圧倒的な力の差がある。
 俺がポチに傷一つでも負わせることが出来たら
 それはきっと奇跡だろう。
 まったく勝負にはならない。
 そんな事は分かっている。

 だからと言って手加減はしてほしくない
 圧倒的な力に一矢報いてやりたい。 
 今の俺は最強に弱い。だがリミッター解除した俺は最強に強い。

 圧倒的な力の差があるポチを相手に、
 本気で戦い、殺され、喰われる。
 何度も何度ども立ち上がり殺される。
 だが、それを繰り返して行くうちに何時かはポチに報いてやる。

 その時のポチの気持ちはどんなものになるのだろうか。
 強者が負ける瞬間の気持ちを考えるだけで
 俺は思わずニヤケてしまう。

「圧倒的な力を前にしていた方が興奮するだろ?」

『ほう、面白いなソラ――っ!』

 再び短剣を具現化して俺は飛び掛かって来た
 ポチに応戦する。
 ポチの爪と短剣がぶつかり合い、
 擦りあう事なく俺の短剣は砕け、
 そのまま勢いに乗った爪で体は切断された。

「――っはあああ!まだまだあああ!」

・・・・

「……」

 もう何十回殺されたのだろうか、
 もしかしたら数百回殺されているのかも知れない、
 未だに手も足も出ずに只々殺されるだけ、
 だけど俺は知らぬ間にそれを楽しんでいた。

 何度も死に生き返っても
 傷一つ付けることが出来ない。
 ポチの動きを観察して学習し反撃しようと試みるが、
 毎回毎回同じ殺し方はしてこない為ポチの動きを読んでも意味がない。
 遊ばれている。が、それが楽しくて仕方がない。

『何を笑っているんだ?遂に壊れてしまったのか。
 今日はもうやめにした方がよさそうだな』

 ポチにそう言われて初めて自分が笑っている事に気が付いた。
 壊れているという訳ではない、 
 只々楽しくて頬が緩んでしまうのだ。

「大丈夫だ、只楽しくて仕方がないんだ」

『昔戦った狂人を思い出すな。
 まぁ、ソラが言うのならば大丈夫なのだろう、行くぞ』

 それからも俺は何度も殺された。
 風に斬られ、頭を砕かれ、内部から破壊され、

「あぁ……」

 心臓をくり抜かれ、大木の下敷きにされ、
 真っ二つに引き千切られ

「あぁ……」

 爪で切り裂かれまくり、踏みにじられ、
 魔法で焼かれ、凍らされ、爆発され、

「あぁ……ああ……楽しいなァ」

 殺されるたび高まっていく謎の楽しさが
 遂に最高潮に達した。
 もっと、お前の強さを見せてくれ、
 もっと、もっと俺を楽しまさせてくれ、
 もっと、もっと、もっと――

 体が冷たく、力は抜けほぼ無気力な状態で立ち
 何故かは分からないが体が勝手に動き出す。

『ぬっ!?』

 気が付けば俺は襲い掛かって来る
 ポチの鋭い爪をひらりと避けていた。
 避けられるとは思っていなかったであろうポチは
 驚いた様な声を上げた。

『リミッター解除か』

「ハッハ、もっと楽しませてくれよォ」

 自分の声だがこれは俺ではない。
 俺はこんな狂人の様な喋りかたはしない。
 体が乗っ取られているかのようだ。
 お前は一体誰なんだ?

「身体強――」

『ふんっ』

 身体強化リインフォースメント・ボディを使おうとしていた俺ではない俺の頭が
 綺麗に宙を舞い、視界が一回転しブラックアウトした。

「あ、あ……」

 直ぐに復活した俺はその場に倒れこんでしまった。
 リミッター解除状態の影響だろうか、
 体が物凄く重たく指先一つ動かすことすら困難だ。

『今日はここまでの様だな』

「あぁ……この前リミッター解除した時は
 こんな感じにならなかったんだけどな」

『リミッター解除は危険だからな、
 なんとも無い時もあるが時には死ぬことだってある
 それぐらいで済んでるだけ幸せだぞ』

 倒れこんでいる俺の横に来て
 伏せながらそういってきた。

「そうなのか……指一本動かせない状態だけど俺は幸せなのか。
 ……これ、何時まで続くんだろうな。」

 このまま動けない状態が続くと非常に困ってしまう。
 遅くなりすぎると流石にエキサラに気づかれてしまいそうだ。

『ソラの治癒力があっても丸一日は掛かるだろうな。』

「ま、丸一日……」

 頭が飛んでも直ぐに復活するという
 エキサラの力をもっても丸一日掛かってしまう。
 俺は改めてリミッター解除の恐ろしさを悟った。

『我が家まで送り届けてやろう』

「え、良いの?」

『ああ、ソラと戦っている間に食べたおやつのせいで
 腹が膨れてしまってな、もう今日は何も食べれそうにないし、
 これはおやつのお礼だと思ってくれ。』

「お、おやつね……じゃあ、お願いしようか――」

 俺はとある事を思い出した。
 何度もポチに殺されているため執事服がボロボロになっているのだ。
 このまま城に帰ると間違いなくエキサラに何か言われてしまう。
 今の服装のまま帰るのは非常にまずい。

『どうした?』

「いや、今の俺の服装ってすっごいボロボロだろ?」

『ああ』

「このまま帰ると非常にまずいんだよね」

『何か替えの服は無いのか?』

「無い――あっ、」

 確か光造リヒトクリエイトは武器などを生み出すってエキサラが言ってたよな、
 などってことはもしかしたら服も可能なんじゃないか!?
 俺はそう思い、さっそく執事服をイメージして魔力を操作し具現化した。
 すると案の定、服も可能な様で倒れている俺の上に執事服が落ちてきた。

『む、服出てきたな』

「うん、出てきたね。
 でもこれどうやって着たらいいんだろう」

『それなら我に任せろ』

 そう言ってポチは起き上がり、
 突然ポチが光に包まれ、
 光が収まると共にそこには裸の子が立っていた。

「っ――!」

 裸の子には性器などは付いておらず、
 男女の区別が出来ないが、
 顔立ちが非常に可愛らしく女の子の様にも見える。
 だが、これは女の子などではなくポチなのだ。

 女の子の頭にはポチに生えていたと同じ形の耳が生えていた。
 瞳の色もポチと同じ色だ。

「どうした、言っとくが我に性別なの無いからな、
 期待したって無駄だぞ」

「いや、期待してないけど……普通に話せるんだな」

 ポチは頭の中に直接話しかけてくるのではなく、
 今回は普通に話しかけてきた。

「ああ、これはこの姿になった時だけだ。」

「へぇ、そうなんだ」

「ほれ、服脱がすぞ」

「うん、頼んだ」

 動けない俺の体を魔法で強制的に起き上がらされ、
 ポチの手は気が付けば獣の手になっており、
 執事服を乱暴に引き千切られた

「ひぃ!」

 あっという間に素っ裸にされてしまい、
 思わず声を出してしまった。

「何だ情けない声を出すな」

「もっと優しくしろよ!
 びっくりしただろ!」

「そうか、そうか。それはすまなかった」

 謝る気など微塵もないようだ。
 そのままもくもくと執事服を着せられ、
 あっという間に俺は新品の執事服姿になった。

『ふぅ』

 着替えさせてくれたポチはフェンリルの姿に戻っていた。

「ありがとな」

『ああ、では行くぞ』

 そういってフェンリルは俺の事を加え、
 ひょいと上に飛ばし自分の背中に乗せた。

『どこに行けば良い?』

「上の方に城があるんだけど分かるか?」

『ああ』

「そこまでお願い」

『分かった。』

 モフモフの毛に包まれながら俺はポチに運ばれていく。

「勇者になれなかった俺は異世界で」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く