勇者になれなかった俺は異世界で

倉田フラト

解放

「情報ありがとうなイシア」

「……」

 確りと嘘偽りない真実の情報を教えてくれた彼女に
 礼を言ったが顔を歪め複雑そうな表情をして
 なにやら考えている様だ。

「……私たちはこの後どうなるのかしら、
 私はどうなってもいいけど、
 生き残った皆は傭兵としてこの戦いに
 参戦していただけだから見逃して欲しいわ」

 彼女の言っている事は事実の様だ。
 真っ直ぐに此方の目を見つめ真剣にそう言ってきた。
 俺は最初から解放するつもりだったので、
 何の迷いも無しに答えを出すことが出来る。

「心配するな、初めから解放するつもりだ」

「!!」

 彼女の顔を見れば今の感情が分かるほどの
 とても眩しい笑みを浮かべ、目を見開いてパァっとしていた
 それほど仲間の事を大切にしているという事だろう。
 妖精族は憎いはずだが彼女の笑みを見ていると
 何だか拍子抜けしてしまい抱いていた憎悪など忘れてしまう。

「ありがとう、ありがとう!」

 礼を言いながら何度も何度も頭を下げるイシア。
 敵に頭を下げているというのは屈辱的な事では無いのだろうか。
 頭を下げる事に抵抗が無いのは恐らく仲間思いなのだからだろう。
 彼女とは別の出会い方をしていれば良い仲間になれたのかも知れない。

「聞きたい情報は聞けたし、戻るぞ」

「そうだね~」

 イシアから情報を聞いているだけでも結構な時間が経っており、
 少しだけだがポチ達の事が心配になってきた。
 あの二人に限ってはなんて事は無いと思うが、
 俺が心配しているのは捕虜達の方だ。
 ポチ達が捕虜達の事を虐めていないか非常に心配なのだ。

 どうも俺の周りには血の気が多い者達しか現れない。
 戦闘の時は非常に頼もしいのだが、
 日常に支障を来すのは遠慮してほしいものだ。

「ほれ、イシア、そんな残念な面してたら
 俺が何かしたんじゃないかって疑わられるから
 さっさと泣き止んで行くぞ」

「うん……」

 それから数分間彼女は部屋の端の方で小さく啜り泣き、
 その間俺はヘリムに戦闘の時の話をして、
 少しだけ盛り上がったりしていた。

「よし、泣き止んだな」

「ええ、もう大丈夫よ」

 まだ若干目が赤いが先ほどよりは大分ましになった。
 部屋から出て行き余り口を開かないず沈黙のまま
 捕虜達がいる所へと戻ってきた。

「やっと来たかのう……暇じゃ」

『遅いぞ』

 不満そうな声でそんな事を戻って来て早々言われた。
 エキサラに限ってはポチの横で余暇に大の字になって
 まるで幼い子供の様にゴロゴロとしている。

「ごめんごめん、ご主人様よ、そんな硬い床でゴロゴロするより
 ポチの上でゴロゴロしていた方が気持ち良いぞ」

「うむ、妾もそうしたかったのじゃが……
 ポチがのう、嫌じゃと言って乗せてくれないのじゃ」

 上半身だけ起き上がらし頬をプクリと膨らませ、
 不満の眼差しで此方を見て来たが、
 俺に言われても困るのだが。
 それにしても、ポチも乗せてやれば良いのに……

「なんだポチ、ご主人様の事嫌いなのか?」

『あぁ、我はソラ以外心を許すつもりは無いぞ』

「そっか」

 何だか嬉しい気持ち半分、
 仲間としてエキサラ達にも心を許して欲しいと言う気持ちが半分で
 少し素直に喜べない自分がいる。
 ポチが俺に心を許してくれているのは契約の関係もあるのだろう。
 だが、ポチのモフモフ感を独り占め出来るのは正直に言って嬉しい。

「何じゃ、ポチは何と言っているのじゃ」

「んー、まだ親しくないからあまり乗せたくないんだとさ
 自分の上に誰かが乗るってのは色々と不安なんだよ」

「むぅ、それなら仕方が無いのう……」

 此処でポチが言っていたことを正直に伝えてしまうと、
 エキサラが拗ねてしまうかポチの事を虐めてしまうかも知れない為、
 言葉をオブラートに包みそれっぽく伝えた。

「さて」

 エキサラ達から視線を横にずらし捕虜達の方を見渡し、
 気持ちを切り替えて本題に移る。
 横に居るイシアの目が若干赤い事に気が付いた捕虜達から
 不審な目で見られている事に気が付き俺は急いで誤解を解く。

「心配するな、彼女には何もしていないぞ」

 そんな事を言っても絶対に信じてはくれないのは
 分かり切っていた事なので俺は彼女自身に説明を求めた。

「えぇ、ソラ君は何もしてないわ
 私が勝手に泣いただけよ」

「!!」

 イシアがそう口にした瞬間、捕虜達が騒めきだした。
 特に彼女の同じ種族の妖精族たちが信じられない物を見ているかのような
 そんな目で此方を見て来ていた。

「あのイシア様が……名前を……」

「信じられない……」

 などと言った声が彼方此方でチラホラほ飛び交ってきた。
 妖精王直属大精霊術師団長が敵であるはずの俺の名前を口にした事が
 無理も無いがよほど衝撃的な事だったのだろう。

「今の通り、俺は何もしてないからな」

 もう一度そう宣言して無実アピールをする。
 それから彼女にも捕虜達の下へ戻ってもらい、本題にはいる。

「まずは、尋問に協力してくれてありがとう。
 お陰で知りたかった情報が手に入った。
 言い方が悪いかも知れないが、もうお前達には用は無い。
 帰ってくれても構わないが、少し頼みたいことがあるから数人残ってほしい」

 あっさりと解放される事を知った捕虜達は
 拍子抜けした様な顔をしていた。
 数人残す理由は人獣の王の位置を知る為だ。
 正確な位置は分からなくても国位は分かるだろう。

「あ、一応悪さしないかどうか外まで見送るからな」

 外に出て再び攻めてくるなど流石にそこまで
 愚かな事はしないと思うが一応だ。
 それに、逆にエルフ達に襲われる可能性も無いとは言いきれない。
 もう此処での戦いは終わったことだし出来れば無事に帰したい。

「ほれ、さっさと動け」

 一向に動こうとしない捕虜達にそう言って、
 俺は捕虜達が拘束されていることを思い出し、ゆっくりと近づいた。
 短剣をイメージして具現化すると、怯えた目で見られた。
 勘違いされているが無理もない事の為、
 気にはせずに目の前の捕虜縄の様な物を切り裂いた。

「っ!……ありがとうございます」

 短剣を具現化した理由が分かった捕虜達は
 安心した様でふぅと胸をなでおろした。
 次々と捕虜の縄を切り裂いていった。
 途中からヘリムが協力してくれたが、ポチとエキサラは協力してくれなかった。

 ポチは獣だから少し無理がある為仕方が無いが、
 エキサラは「暇なのじゃ~」とかふざけた事を言いながら
 床でゴロゴロを再開していた。

 全員の縄を切り裂き終わり、
 暫く離れた位置で彼らの動きを観察していると、
 二つのグループに分かれだした。
 一つは大人数でもう一つは五人のグループだ。

 どのクラスにもいそうな余り物グループ、
 ではなく、恐らく俺が残ってくれと頼んだ為の数人だろう。
 そのグループの中にはイシアの姿もあった。
 妖精王直属大精霊術師団長ならさっさと帰った方が良いような
 そんな気がするのだが、残ってくれるのは正直有り難い。

「よし、決まったようだな」

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品