勇者になれなかった俺は異世界で

倉田フラト

衝撃の事実と成長

「ソラ君~大丈夫かい?」

 寝室に運ばれ再び横になり、
 ポチは散歩してくると言って何処かへ行ってしまい
 ベッドで一人寂しく寝ていると片づけを終えたのであろう
 元気よくヘリムが入ってきた。

 何が楽しいのかルンルンと身軽にスキップしながら
 ベッドまで近寄り物凄く自然な感じでベッドの中に入ってきた。
 下から入り込みもぞもぞと動きながらピョコリと
 俺の隣から顔を出してきた。

「……大丈夫じゃない」

「ええ、大丈夫じゃないのかい?」

 本当に心配してくれているのならば
 仮にも弱っている人のベッドに楽しそうにしながら
 入ってきたりしないだろう……まぁ、ヘリムだから仕方が無いんだが。

「んで、何か用か?」

 何かがあったからこそ楽しそうにしているのだろう。
 そうじゃなければ只の変態だ。

「んとね~、聞きたい?」

「いや、別に良いけど」

 大体ヘリムの口から飛び出してくるのは
 ろくでもない事だらけなので、
 どうせ今回も何かろくでもないことを考え付いたのだろう。
 出来れば聞きたくないが断ってもどうせ勝手に喋りだすだろう。

「またまた、実はね」

 案の定ヘリムは俺の言葉を無視して
 俺の隣でニコニコと楽しそうにしながら口を開く。

「なんとね、
 あっちの世界に帰れるだけの魔力が溜まったのさ!」

「っ!……」

 意外にも今回は碌な事では無く物凄く重要な事だった。
 俺は一瞬だけ驚き喜びの声を上げようと思ったが、
 その喜びは一瞬の物だった。

「あれ、あまり喜ばないんだね」

 俺の反応を見て少し不満気にそう言ってきた。
 決して喜んでいない訳ではないが、
 そこまで喜べないと言うのも事実だ。

「嬉しいけどさ、約束は約束だ。
 この世界を救うまでは戻らない。
 ヤミ達に一日でも早く会いたいが約束は約束だ」

「そっかぁ……」

 正直に言ってもうこっちの世界に居る日数の方が
 ヤミ達の共に過ごした時間よりも明らかに多い。
 正確な時間が分からない為、どれ程の日数が経ったかは
 何となくでしか分からない。

 ヤミ達と共に過ごした日々は本当に僅かだったが、
 それでも俺にとっては物凄く充実して幸せで大切な日々だった。
 勿論、今の生活も悪くは無いが、
 異世界に来て初めての仲間達と過ごした日々には到底及ばない。

 一日でも早く、もう一度皆の声がききたい、姿が見たい……
 そういう気持ちは毎日心の奥底にある。
 本当は今すぐにでもヘリムに頼んで帰りたいが、
 この世界にも俺にとっては掛け替えのない仲間達がいる。

 ヘリムもその一人だ。
 そいつとの約束を果たさないのは
 俺の少ないプライドが許さない。

「ソラ君は本当に良い子だな~ほら、良い子良い子」

 ヘリムは寝ている俺の頭を撫でて来た。
 弱くなく強くなく丁度良い力加減で頭を撫でられ、
 子供扱いされているのだが、物凄く心地よくヘリムの手を受け入れてしまう。

「ソラ君、こんなタイミングでごめんね」

「ん、どうした?」

 突然の話題転換に驚き、ヘリムの方を向くと
 先ほどまでのだらしない顔はそこには無く、
 真剣な表情をしているヘリムがいた。
 表情は変わったが相変わらず手は俺の頭をなでていた。

「怒らないで聞いて欲しいんだ」

「うん」

「ソラ君の事を殺したのが
 王女だって言った事を覚えているかい?」

 俺の事を殺した人物。
 異世界に来た時に俺を半殺しにした人物。
 忘れるはずもないあのくそ王女。
 確りと覚えている。

「ああ、覚えてるぞ」

「その王女がソラ君の友達によって殺されたって事も覚えてるかい?」

 俺が死んだ後に王女の事を追いかけて
 仇を討ってくれたんだ。覚えている。

「ああ、勿論だ」

 俺の返事を確認すると、
 ヘリムはスゥーとゆっくり息を吸って吐き、

「実はね、王女は死んでいなかったんだよ」

「は?」

「それだけじゃない、ソラ君のクラスメイト達も全員生きている、
 君の嫌いなあの神も皆死んでなんて居なかったんだ」

「は?な、なに言ってんだよ、あの時エリルスが倒しただろ?
 ヘリムも見ていたんだろ?何言ってんだ……」

 余りにも唐突に衝撃的な事を告げられ、
 俺の頭は混乱していた。

「僕も、完全に騙されていたよ、
 気が付けなかった僕の責任だ、本当にごめんなさい」

 気が付けばヘリムの手は止まり代わりに震えていた。
 混乱している中でも一つだけはっきりと
 分かっている事を俺は発する。

「それは違うだろ、ヘリムは悪くない。
 それよりもどういうことなのか説明してくれないか?」

 実際に俺自身もクラスメイト達は
 エリルスのあの無慈悲な一撃で滅んだとばかり思っていた。
 魔王であるエリルスも疑いもしなかった。
 神であるヘリムすらも。

 誰も疑いもしなかったんだ。
 誰が悪いとかはそんなものは存在しない。

「う、うん。昨日、ソラ君達がお楽しみだったから
 隣の部屋に行って特にすることも無く、魔力が結構溜まっていたから
 少しあっちの世界を覗いてみたんだよ……
 そしたらね、死んだとばかり思っていたソラ君のクラスメイト達
 勇者一行が王女の下で再び魔王城を攻めていたんだよ」

「っ……本当なんだな?」

「うん……」

 くそったれ……全部無駄だった。
 あの戦いで死んだのは勇者でも神でも無く、
 勇者になれなかった俺なのか。
 最初からそれが目的の戦いだったのか?

 だとしたら俺はずっとあのショタ神の手の上で
 踊らされていただけなのか……っ!、あいつらは?!

「ヤミ達は!、あいつらは無事か?」

「う、うん。無事と言えば無事なんだけど……」

「どういう事なんだよ!」

 何だかはっきりと答えてくれない
 ヘリムに状況も状況で俺は苛立ちを覚え
 少し強めにそう言ってしまった。

「ヤミ達がね、魔王になってて、勇者一行とその仲間達を
 容赦なく蹂躙していたよ。あれは一方的で少し可哀そうだなって思ったよ」

「は?え、ああ、そう」

 予想していた展開とは全く異なり、
 俺は拍子抜けしてしまった。
 ヘリムに少し可哀そうと思わせるほどの容赦のなさ、
 ヤミ達は俺が死んでもヤミ達のようだ。

「あー、なんかもっと重たい展開かと思ったけど、
 それなら別にいいや、ほれ、ヘリムも元気出せって
 それでヤミ達がやられていたのならば、別だったが、
 逆なんだろう?なら、何も気にすることは無い寧ろ嬉しい」

 結果的にはヤミ達が俺の仇を取ろうとしているんだ。
 それも一方的な攻撃で、ふふ、言い様だなショタ神共。
 ヤミ達の成長も聞けて少し得した気分だ。
 まさか、魔王になるとはな……流石だ

「ありがとな、ヘリム。良い情報を。
 つか、覗けるなら言ってくれよ……初めて知ったぞ」

「え、ああ、うん。ごめんね」

 まさか礼を言われるとは思っていなかったのだろう。
 ありがとうと礼を言われて少し慌てるヘリムの事を間近で見て
 少し可愛いなと思ってしまった。

 ヤミ達も確りと生きて成長している。
 だったら俺も頑張って成長して行かなくては行けない。
 再会した時にはお互いに驚こうぜ。

「良い情報、本当にありがとな」

 今度は俺がヘリムの頭を撫でてやった。
 この情報だけでも俺はずっと頑張っていられる気がする。

「えへへ、」

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