勇者になれなかった俺は異世界で

倉田フラト

出発

 あれから城に戻り、アルデラは「力を使いすぎて眠い」
 と言って再び地下に戻って寝てしまった。
 寝すぎだろと思ったが正直に言ってもう用済みなので
 そんな事はどうでも良いのだ。

 アルデラと別れた後はポチの城内をぶらつき
 夜が明けるまで時間を潰した。

「おはよ~、体はもう大丈夫なのかい?」

「ああ、バッチリ回復した」

 エントランスでポチと遊んでいると
 朝になり目が覚めたヘリムがやってきた。
 寝起きという事もあり寝ぐせが付いており
 まだ少し眠たいのであろう目をショボショボとさせていた。

「良かった!でも、無理はしないでね。
 何かあったら直ぐ僕に言うんだよ」

「おう、ありがとな。
 それよりもその寝ぐせ直してこい」

「んん……本当だ。
 ちょっと直して来るね~」

 自分の寝ぐせに気が付いていなかったらしく、
 自分の頭をポンポンと触り髪の毛の位置を確認して
 寝ぐせに触れた途端、先ほどまで眠そうにしていた目を見開き
 少し恥ずかしそうにしながらこの場を後にした。

 そんなヘリムと入れ違いにエキサラがエントランスにやってきた
 ヘリムと同様にエキサラも寝ぐせが酷く、
 まだ寝ぼけているのか涎まで垂らしてしまっている始末だ。

「くははは……」

「……」

 どうやら本気で寝ぼけているらしい。
 階段の上から此方を見下ろし笑いだしてしまった。
 何時もはエキサラ達の方が早く起きている為
 こういった光景は見れないのだが早起きしたお陰で
 普段よりも一層ボケたご主人様の姿を見ることが出来た。

 何時もこうなのか?
 そんな疑問を抱きながらまだ寝ぼけているエキサラに近付き、

「はい、ご主人様、洗面所はこっちですよ~」

「うぅ?」

 寝ぼけているご主人様の両肩を背中から押し、
 俺はポチと共に洗面所に押して連れて行った。

「ん?」

 扉を開けるとそこにはヘリムが丁度、
 上半身だけ服を脱ぎ髪をとかしているところだった。
 幸い、まだ下着を身に着けていた為そこまで焦りはしなかったものの
 あまり目に入らない様にエキサラの後ろ髪を眺めなら

「ご主人様がまだ寝ぼけてるっぽいから
 色々とやってあげてくれ」

「ん~わかったよ、ソラ君にもやってあげるかい?」

「いや、遠慮しておく」

 髪の長い女子は兎も角、
 俺はそんな寝ぐせとか気にしない。 
 あまりにも酷かったら直すが、
 少しならそのまま出歩くタイプだ。

 扉を閉め、俺とポチは再びエントランスまでやってきた。
 先ほどから何故ここにいるかと言うと
 大した理由ではないが、此処の絨毯がもこもこしていて
 心地が良いのだ、幸いにもこの世界では家の中は土足厳禁の為、
 玄関で靴を脱いでくれるため絨毯がそこまで汚れる事は無いので
 たとえエントランスでもゴロゴロ出来るのだ。

「ポチには勝てないがこの絨毯も中々だな」

『ふっ、確かに心地よいな』

 それから人獣と妖精族達が起きて、 
 何故かエントランスに顔を出して料理作ってきます!
 とか言って厨房へと消えて行った。
 これで全員起床した。

「なぁ、ポチ」

『どうした』

「今、この瞬間にもあの骸骨達って近くに居るんだよな?」

 あの大賢者様の軍なのだから
 居ると言う事は分かっているが、どうしても気になってしまう。
 居るなら居るで済むが居なかったらそれはそれは大変。

『ソラの軍なのだから、命令を出せば分かる事だろ』

「あ、そっか。そうだったね」

 このアンデットの軍勢の指揮権は俺にある。
 つまり、俺が何か命令すればその通りに動いてくれる。

「アンデット達よ、お前達は飯とか必要なのか?」

 この場にいるかどうか確認するのが目的の為、
 姿を見せてもらう必要は無く、何等かの質疑応答せえ出来れば良い。
 適当にそれらしい質問をすると、

「いえ、必要ありません。御身の心遣いに感謝を」

「そ、そうか」

 聞きなれない言葉遣いで即答され
 むずむずする感じに襲われた。

『いる様だな』

「そうだね、いる様だ」

 存在確認が終わり再び絨毯とポチのモフモフを堪能する。
 これから忙しくなるため、たっぷりと休息を取っておく。

「人獣の王ってどんな感じなのかな」

 ふと、そんな事を思った。
 血の気が多い種族の為、恐らく、確実に怖い見た目だろう。
 そんな感じがする。

『さぁな、低族共に興味は無い
 見た目がアレなら、我に言ってくれ
 顔を嚙み砕いて怖くなくしてやるから』

「……あ、ありがとう」

 そんな事をしたら確実に
 もっともっと怖くなってしまうよ、ポチ君。
 だが、まぁ奴のやっている事を知っている俺からしたら
 寧ろそれ位してやっても良いと思ってしまう。

 例え殺す羽目になったとしても、
 俺はそう簡単に殺すつもりはない。

「ソラ君~朝食の時間だよ!」

「おお、ソラよ、体はもう大丈夫なのじゃな!」

 階段の上からそう叫んできた。
 今度こそご主人様のお目覚めの様だ。
 二人とも寝ぐせは直っておりいつも通りの髪型だった。
 エキサラの涎もしっかり消えてきた。

「ああ、大丈夫だ。行くぞポチ」

 昨日同様に皆で朝食を頂いた。
 豪華では無いが昨日と同様にこれ位が丁度良い。
 食事中に聞いた話なのだが、
 イシア達は昨日の昼飯も夕飯も作ってくれていたらしい。

 物凄く有り難く、申し訳ない事をした。
 俺の分は全部ポチの腹に入ったらしい。

「さて、皆、今日こそ出発したいと思う。
 昨日の遅れを取り戻したいから直ぐに出発したい、
 片付けが終わり、身支度がすんだら外に集合してほしい」

「分かった」「了解っす」「分かりました」
「分かったわ」「はい」「了解じゃ」「うん」

 全員の声が帰って来た。
 俺の指示通り食事の片付けを終わらし、
 身支度をするために一旦解散した。
 俺とポチに身支度は無いため早速外に向かい、
 太陽の光と自然の香りを味わっていた。

 それからたったの数分で皆が外に集合した。
 本来なら今すぐに出発したいのだが、

「皆に一応言っておきたい事がある」

「なんだい、ソラ君」

 俺が言っておきたい事とはアンデット達の事だ。
 あちらについていきなり現れたら驚きのパレードになってしまう。
 敵国では迅速に行きたい為、そういう事は先に伝えておきたい。

「アンデット達よ、姿を見せてくれ」

「「「「「はっ!」」」」」

 スゥ、と俺の背後にアンデット達が姿を現した。
 エキサラとヘリムを除き、皆が目を見開き驚いていた。

「ア、アンデット……」

「大丈夫だ、こいつ等は俺達の味方だ。
 俺が指示を出さない限りは何もしない」

「流石兄貴っすね……」

「もう十分だ、姿を消してくれ」

「「「「「はっ!」」」」」

 何時までも驚いた顔をしているオルディ達に一声かけて
 道案内を兼ねて先頭に立たせ
 俺達は人獣の国に向けて出発した

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