勇者になれなかった俺は異世界で

倉田フラト

攻略開始

 翌日、目を覚ましてからダラダラと支度を済ませ、
 皆と合流して適当に朝食を出店で取ってからいよいよ
 目的地へ向けて出発した。
 ポチは獣状態になり半強制的に俺を上に乗せて出発した。

 ポチの心遣いは嬉しいのだが、
 少しぐらい歩かないと体力が付かないと言いたいところだったが、
 乗れ乗れとぐいぐい押してきて一言も口に出さず負けてしまった。
 やはり俺はモフモフには勝てないらしい。

「一応言っておくけどさ、イシア達は案内だけで良いからね?」

 移動中ずっと無言と言う程暇な事は無いので、
 何となくそんな事を言ってみた。
 イシア達には案内が終わればそこでお別れしても良いと思っている、
 態々同族たちと戦う必要などない。

「分かってますわよ……」

「兄貴と別れるのは寂しいっすけど、
 わかったっす」

 他の皆にも確りと確認を取り、
 絶対に手を出すなよとも忠告をしておいた。

「あの子には優しくして欲しいわ」

 会話が終わり、再び無言の時間の針が動き出そうとしていたが、
 イシアが最後に小さな声でそんな事を呟いたが、
 確りと俺の耳には聞こえていた。

 あの子と言うのは妖精族の王の事だ。
 前にも一度イシアが王の事をあの子と言っていたのを
 覚えているからこれは確実だ。
 あの子と呼べるほど親しい存在なのだろう。

「心配するな、妖精族の王とは話し合いで済ませるつもりだ。
 彼方から手出してこなければ何もしないさ」

「……」

 イシアはまさか自分の呟きが聞こえているとは
 思っていなかったのか、俺の発言に驚きを隠せない様子だったが、
 直ぐに表情は硬くなりその目は少し疑うように此方を見て来ていた。

「そんなに心配だったら付いてくるか?
 だが、その場合はイシアの安全の保障は出来ないからな、
 俺と一緒の所を見られただけでも裏切り者と呼ばれる可能性もある」

 別に付いてこなくても安全の保障が出来る訳でも無い。
 相手からすれば俺は敵でありその敵の横に
 味方であるイシアが立っていれば間違いなく裏切りだと
 判断されてイシアの立場が無くなってしまう。

 まぁ、良く分からないが、
 俺と一緒に来るのはお勧めは出来ない。

「付いていきますわよ」

 俺の思いとは裏腹にイシアは真剣な眼差しを此方に向け
 何の迷いもなくそう答えた。
 それは今まで見た事の無いような真剣な表情だった。
 そんなイシアに思わず呆気にとられた。

「っははは、余程大切なんだな。
 そこまで言わせる王とは期待できそうだ」

 部下的な存在かどうかは分からないが、
 下の者であるイシアにそこまで言わせる王なのだ。
 人獣の王とは違い部下に慕われる王。
 これは普通の会話が出来るのではないだろうか。

「私も行きます」

 リヤイはイシアが居るから一緒にいるのだから、
 その発言は予想出来ていた。

 それから暫く歩き、
 俺達の前には遂に人獣の国が現れた。

「あそこっすよ~」

 巨大な壁に囲まれ、壁のいたる所には穴が開いており、
 そこから人獣達が目を光らせて警備をしていた。
 中に入るには門を通る必要があるのだが、
 そこにも武装した人獣達が少なくても5、6人の姿が見える。

 巨大な壁の上にも数十名の人獣がおり、
 何やら大きな岩の様な物が置いてある。

「ありゃ、入るのは厳しそうだな。
 裏口とかって無いのか?」

「ありませんね、正面から行くしかないですよ」

「ははは、簡単に言ってくれるな」

 正面から行こうとしても確実に追い返される。
 裏口の様な物は一切無く、正面からしか入る事は出来ない。
 実力行使をしたら簡単に通れるだろうが、
 今回はエキサラやヘリムの力を使わないと決めている。

「此処は俺が頑張るしかないか……うん、ありがとな此処まで案内してくれて
 また何時か会った時はよろしくな」

「ういっす!」

「またどこかで」

「さようなら」

 もっと何か言うのかと思っていたが、
 流石は傭兵と言ったところか、
 別れ際もさっぱりとしている。
 三人は人獣の国ではない場所へと歩いてゆき、
 俺はその背中が消えるで見送った。

「さて」

「どうするんだい?僕がちゃちゃっと倒してこようか?」

「妾も行くのじゃ」

 見送りを終え、気持ちを切り替えて
 再び人獣の国の方を見て呟くと、
 待ってましたと言わんばかりにヘリムとエキサラが
 目を輝かしていた。

「いや、今回は俺に任せて欲しいんだ。
 ご主人様とヘリムには万が一の時の為に
 力を温存していて欲しいし、たぶんないと思うが、
 イシア達の事も守ってやって欲しい」

 最後まで俺の我が儘に付き合ってくれている二人には
 申し訳ないような気がするがこれは始めから決めていた事だ。

「むぅ、ケチなのじゃ……」

「分かったよ~でもどうするんだい?」

 聞き分けの良いヘリムとは違い、
 エキサラはあからさまに不満を露わにしているが、
 何だかんだ言って聞いてくれる良い子。

「ん、骸骨達にお願いするよ」

「おおー頭良いねソラ君」

「壁の中にいる兵と門兵と上の方に居る兵を倒してきてくれ、
 無抵抗な者は無力化するだけで構わない、頼めるか?」

「御身の御心のままに」

 虚無に問いかけるとその答えは直ぐに帰ってきた。
 突然突風が吹いたが、恐らく骸骨達が動き出した合図なのだろう。
 初めての戦闘だけど上手く行くのかな……ちょっと心配

「そういえば、あの骸骨達ってどこから仕入れてきたのじゃ?」

「んとね、前にアルデラって骸骨地下からやってきたでしょ、
 あの骸骨に頼んだらこの前の飯の礼として快く軍隊を作ってくれたんだよ」

 本当はヘリムの情報(嘘)だが、そんな事本人の前で言える訳も無い。

「いたのう、そんなやつ忘れてたのじゃ」

「居たっけ、僕は覚えてないな」

 可哀そうなアルデラ、想い人に忘れられているよ。
 まぁ、ヘリムだから無理もない事だけど。

「あっ、そういえば二人に伝える事があったんだ」

「何じゃ?」「ん、どうしたんだい?」

「実は――俺の力が戻ったみたいなんだよね」

 俺がそう発した瞬間、二人の表情が固まったが無理もない。
 神であるヘリムでさえ出来なかった事なのだから、
 エキサラは良く分からないが驚いているのだろう。

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