勇者になれなかった俺は異世界で

倉田フラト

潜入

「ソラ君それは本当なのかい?」

 ヘリムは未だに信じられないと言う顔をしながら
 若干震えた声でそう問いかけてきた。
 声が震えてしまう程驚いているのだろうか。

「ああ、詳しい事はこの戦いが終わったら話すつもりだけど
 一応軽く説明しとくと、昨日出会ったエクスマキナの女の目的と
 俺の目的が近かったから協力することになって、
 俺が協力する代わりに相手は力を取り戻させてくれたって感じ」

 ヘリムの拳が強く握られてプルプルと震えだした。
 そこまで驚愕を通り越して怒りに変わってしまったのだろうか。
 どちらにしろヘリムには詳しく説明する必要がありそうだ。
 初めからそうする予定だったけど。

「……僕以外の女の手で変わってしまうなんて
 少し――いやかなり悔しいよ……
 此処まで僕が悔しい思いをしたのは初めてだよ、
 今すぐにその女の事を滅茶苦茶に殺してしまいたい
 けど、ソラ君と協力関係ならそれは出来ないね……」

 どうやら本当にヘリムは怒っていたらしく、
 物凄い物騒な事を真剣な表情で発していた。
 だが、ヘリムの言葉を聞き今の気持ちが分からないことも無かった。
 神である自分が出来ないことを他の誰かにやられてしまった。
 それは確かに悔しい事だろう。

 俺だってそういう経験はある。
 運動会の徒競走で一位を取る気だったのが
 突然後ろの奴に抜かされて一位を取られる的な……
 ちょっと違うけど、これも悔しい経験だ。

 ……今思ったけどさエクスマキナって
 俺の知っている限りでは神様だったような気がするけど、
 この世界では違うのかな?

「僕にもっと力があれば……」

「いやいや、ヘリムは十分に力あるぞ。
 本当に、頼りになるし可愛いし優しいし。
 俺はこれ以上ヘリムに力を求めて欲しくないな」

 さらりと『可愛い』と言ったヘリムが喜びそうな
 単語を入れて機嫌を取る。別に嘘は付いていないので
 悪い事をしているわけではない。

「ズルいよソラ君……でもなんでだい?」

 やはりちょろい。
 ヘリムは若干頬を赤くしながら
 もぞもぞとしながらそう尋ねて来た。

 ヘリムに力を求めないで欲しい理由は幾つかある。
 これ以上強くなって暴れられたら世界が滅亡する危険性がある。
 というのも一つの理由だが、一番大きな理由は、

「俺がヘリムの事を守る事が出来なくなるだろ?」

 そう少しカッコつけて言ってみたものの、
 俺の役目がなくなって存在感薄くなるから
 それ以上強くなるなという事だ。

「ソラ君……」

 やはりヘリムはちょろいのだ。
 先程よりも頬を赤くして蕩けた表情をしている。

「のぉ、のぉ、妾の事も守ってくれるのじゃろ?」

 ずっと驚いた顔でミイラの様に固まっていたかと思えば、
 急に動き出してそんな事を言い出した。

「ご主人様は守らなくても死ぬことはないだろ!」

 少し酷いかも知れないが、
 エキサラは死んでも死なない化け物なので
 守らなくても死ぬことは無い。

「ぬぅ、それを言うならヘリムだって同じなのじゃ」

「え?」

「なんじゃ、知らなかったのかのう?
 ヘリムだけじゃないのじゃ、ポチも死なないのじゃ。
 妾の血液が入った料理を食べさせているからのう」

 初耳だぞ!
 ヘリムが前にエキサラに相談してみるとか言っていたが、
 こんな形で話しが通っていたとは知らなかったぞ。
 昨日魔眼でポチの体力が∞になっていた理由がそれが関係していたのか……
 あの豪華な食事にそんな秘密が隠されていたとは、
 美味しかったから気付かなかったぞ。

 通りでイシア達が居る時はエキサラが料理を作らなかったわけだ。
 これでちょっとした謎が解決したぞ。

「そうだったの!?」

『初耳だな』

 ヘリムもポチも知らなかった様だ。

「なんじゃ、知らなかったのかのう……
 まぁ、そういう事じゃ。ほれ、ソラよ妾の事を守るのじゃ」

「いやいや、そういう事って……
 まぁ、ご主人様を守るのが奴隷の役目だから
 絶対に最後まで見捨てたりしないからな」

「うむ!妾もソラの事を見捨てたりしないのじゃ」

「おう」

 只でさえ化け物のヘリムとポチがエキサラの力を授かっている。
 つまりここ居るのは死なない化け物共……絶対に相手にはしたくない。
 そんな事を考えていると、再び突風が襲ってきた。

「無力化完了しました」

 骸骨軍団の壁の無力化完了の報告だった。

「そうか、ありがとな。次の命令を出しても良いか?」

「はい、御身の御心のままに」

「壁に誰かが来ないか警戒する隊と俺達の護衛をする隊と
 人を探す隊にわかれて欲しい」

 折角壁を無力化したとしても、
 それがバレたりしたら霊体の骸骨達を使った意味がなくなる。
 何者かが壁に近付こうとしたら即無力化する隊。

 門を通り抜けたとしても血の気の多い人獣共は
 種族が違うと言うだけで襲ってくる可能性もあるので
 一応その護衛としての隊。

 そして、この戦いの本当の目的の人を探す隊だ。

「この子を見つけ次第報告してほしい。
 先程と同じように無抵抗の者は殺さずに無力化してくれ」

 ポケットからロケットペンダントを出して
 中身に入っている写真を宙に開いて見せた。

「はっ!」

 姿を確認した骸骨軍団の一部が三度突風をたてた。

「さて、俺達も行くとするか」

「うむ」「うん!」『ああ』

 門に近付くと無残にも関節が良からぬ方向に曲がっている
 門兵達の死体がごろごろと転がっていた。
 見えもしない敵に抗った結果がこれなのだろう。
 意外と残酷な殺し方をするんだな……骸骨達よ。

 門を潜るとそこには今までの国とは違い、
 全然賑わっておらず数名が小さな出店にいる位だ。
 すれ違う人獣達はこちらを怪しい目で見ているが、
 手を出して来ることは無かった。

「それにしても男しかいないな」

「そうじゃのう」

 結構門から離れたがそれでもすれ違うのは男の人獣だけ。
 ふと、建物の窓に視線をずらすと、
 そこには小さな耳をはやした子供がキラキラと目を輝かして
 此方を見て来ていた。

 そんな子供の後ろで大人の女人獣が
 寂しそうな目で此方を見て来ていた。

「?」

「どうしたの?」

「んー、何だかこの国の雰囲気は好きになれないな」

 一体此方に何を訴えかけて来ているのかは分からないが、
 女人獣の寂しそうな目を見てそんな気持ちになった。

「何となくだけどそれわかるね」

「さっさと王の所に行って終わらして来るか」

「そうだね、さっさと殺しに行こう!」

「……うん」

 テンション高く物騒な事を言うんじゃないよ……
 それから暫く歩いて俺達は大きな建物の前に辿り着いた。
 他の建物とは全く違い此処だけ無駄に立派な造りになっていた。

「此処か」

「んじゃ」

「さて、どんな面なのか拝むとしますか」

 入り口に門兵が4人いたが、
 俺が手を出す前に骸骨達が一瞬で無力化してしまった。
 抵抗した者には無残な死を与えて。
 そんな死体達の事を越えて俺達は足を踏み入れた。

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