勇者になれなかった俺は異世界で

倉田フラト

五年とスラ

「よいしょっと……こいつで最後だな」

 ルネガ王国の付近を颯爽と駆け巡り、
 ゴブリンやスライム、一般的に弱小モンスターを次々と
 狩っていく行く男の姿があり。

 軽めの装備を身に着け長剣を手に持ち、
 慣れた手つきで確実に弱点を狙い、一撃で仕留めて行く。
 その男の姿を見れば誰でもわかるが、彼は冒険者なのである。
 短髪で綺麗な茶髪の厳つい顔つきだが、
 それでも彼は歴としたAランクの冒険者なのだ。

 他人から見ればどこからどう見ても、
 駆け出しの冒険者の様にしか見えない恰好だが、
 戦い方を見れば分かる人には分かる。彼は熟練者だと。

「帰るとするか」

 頼まれていた依頼を終わらせて彼は長剣を振り
 こびり付いたモンスターの血を払い鞘に納め
 ネルガ王国へと足を進めた。
 王国へ入ると真っ直ぐ彼が向かうのは冒険者ギルドだ。
 依頼達成の報告と受付嬢との約束がある為だ。

 冒険者ギルドの外観は五年前と変わっておらず
 相変わらず立派な意志煉瓦造りの建物だ。
 唯一変化があるのは看板の『ようこそ』と言う文字が
 五年前よりも手書きで可愛く書かれている所だ。

 建物の中に足を踏み入れると、
 まだ昼にもなっていないにも関わらずに
 酒場はある程度の老若男女問わずにガハハハと賑わっていた。
 この光景を見慣れている彼は驚きはせず
 すこし羨ましそうに眺めながら受付嬢の待つカウンターへと向かった。

「あっ、もう帰ってきたのですね」

 褐色で腰まで届いてあるだろう長く鮮やかな黒髪、
 優しげな目をして耳が尖っている闇精霊人の彼女が。
 彼に向かって少し驚いた表情でそう発した。

「あぁ、これでもAランクだからな」

「ははは……すいませんね、
 Aランクにこんな低ランクの依頼をわざわざ受けてもらって……」

「これはSランクに昇格しちゃったりしないかぁ~?」

「しませんよ!」

 二人の会話からとても親しい仲なのだと分かる。
 これでもAランクの彼には妻が居る為、
 彼自身にはそういった感情は無いのだろうが、
 美人の異性と話している所を妻に見られでもしたら
 彼は酷い目にあるだろう。

 二人はそんな会話を楽し気にしながら
 依頼達成の処理を済ませ、
 もう一つの目的を果たすために行動する。

「これで依頼完了ですね!何時もありがとうございます。
 本日はこれからあそこに行くのでしたよね?」

「ああ、そうだ。呼んできてもらっても良いか?」

「はい、少々お待ちください」

 そう言い残し彼女はカウンターの奥へと足を進ませて
 もう一人の受付嬢の名前を呼ぶ

「スラさん~約束のお時間ですよ!」

「分かりました!」

 名前を呼ばれて元気よくカウンターの奥から出てきたのは
 綺麗な橙色のロングヘアで若干垂れ目の完璧なプロポーションの少女。
 受付嬢の制服を着て可憐な姿でやって来た。
 彼女の名前、そして容姿、それはあのスラと完璧に一致する。

 そう、彼女はソラのペットである、あのスライムのスラだ。
 ソラが死に皆それぞれの道を歩む中彼女は、
 ソラが何時か帰って来るという事を知り
 その日まで馴染みのあるこのルネガ王国で待つことし、
 暇つぶしがてら昔お世話になった冒険者ギルドで働いているのだ。

 そしてそんなスラを迎えに来ているのは
 当然ソラとも面識がある人物。

「結構早かったですね――ゴリラさん」

「慣れってもんだ。それに今日は大事な日だからよ」

 ゴリエヴィチ=ラーマディウデヌ。
 略してゴリラ、彼はソラの死の影響から
 世界を変えたいと厨二さながらの事を思いつき
 初心に戻って鍛えなおすと言って妻と一緒にこのルネガ王国にやってきたのだ。

「そうですね……行きましょうか」

「おう、そうだなってその制服のままは不味いだろ」

「あっ、着替えてきますね」

 制服を汚す訳には行かないのでスラは着替える為急いで
 カウンターの奥へと姿を消した。

「ゴリラさん、本当は私も行きたいのですが
 毎年どうしても無理なので、どうか私の分もよろしくお願いします」

「任せてください、確りと伝えておきます
 しっかしなぁ、羨ましいなソラはこんな美人なリーゼさんにまで
 気にかけてもらえるなんてな」

「ふふふ、何だかあの子を見てると
 私まで楽しくなって来たんですよね」

「確かに、あいつは毎日あり得ない事ばかりやらかすからな」

「えぇ、冒険者になって直ぐに契約もしないで
 スライム――スラさんを連れて来た時はもうびっくりしましたよ」

「っな、契約してなかったのか!ハジメテシッタ!!」

「それに、亡くなった事にも驚かされましたし、
 その後にスラさんが人間の姿でやってきたり……
 あの子は本当に面白い子ですよ」

 色々と新鮮な話をしていると、
 五年前と同じ服装、
 貴族が着ているような白く所何処に橙色のラインが入ったコートを着た
 スラがカウンターの奥から戻って来た。

「何を楽し気に話していたのですか?」

「ん、いや、大人の話さ。よし行くぞ」

「気になりますが……まぁ、行きましょうか」

「では、お二人共お気をつけて」

 二人は冒険者ギルドを後にして
 ソラの墓場がある迷宮へと向かった。

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