勇者になれなかった俺は異世界で

倉田フラト

プチ作戦会議

「ちょ、ちょっと待てい!」

「……何だ?トイレか?
 トイレなら家の中にあるだろ」

 驚く事にポチが何の合図も無しに扉に手を掛け
 堂々と家の中に入ろうとし、俺は慌てて止めに入った。
 分かっていた事だが世間知らずのポチは
 何故止められたのか分かっていない様で、
 扉に手を掛けながら首を傾げ恍けた事を言っている。

「トイレとかじゃなくてだな、
 他人の家にお邪魔する時は最低限ノックぐらいした方が良いだろ」

「むぅ、この前は堂々と入ったんだが不味かったのか。
 道理で驚かれた訳だ。勉強になったぞ」

「……それは良かった」

 納得したポチは一旦扉から手を放して
 軽めに拳を作りコンコンとノックをした。
 実を言うとこのノックする瞬間も俺はハラハラしていた。
 ポチの事だから力加減を考えずにノックして
 ちゃっかり扉をぶち壊してしまうのではないかと心配だったのだ。

 だが、流石にそこまでお莫迦さんでは無かったようで
 しっかり力加減を考えてから扉を叩き、
 俺は、ホっと胸を撫でおろした。
 ノックして間もなく扉越しから此方にやってくる音が聞こえ始め、

「はいはい~、何方ですか?」

 エクスなんたらの彼女の声が聞こえて来た。

「我だ――」

「はい、今開けますね」

 我だだけで扉を開けるなんて少し不用心すぎる気もするが、
 序列一位の彼女には用心なんて必要ないのだろう。

「あっ、ソラ=バーゼルドさんも来てくれたのですね!
 寝込んでいるって聞いてましたが、お体はもう大丈夫なのですか?」

 彼女、ロウォイは扉を開け此方の姿を確認すると
 直ぐに体調の事を気にかけてくれた。
 この世界にもこんなに優しい人がいる事に少し感激しつつ
 あのケモナーの田中が惚れても可笑しくないなと思った瞬間だった。

「大丈夫、恥ずかしい話だが二日間も寝込んでたからね
 今さっき食事も取った所だから元気一杯って感じだ」

「それは良かったです!ささ、中へどうぞ」

 ニッコリと笑顔を浮かべて家の中へ案内される。

「お邪魔します」

「お、お邪魔する」

 俺の後に続いてポチも慌てた様子で復唱する。
 この前に不慮の事故で壊れてしまったテーブルは
 何事も無かったかのように直っており、
 驚いた表情を浮かべていると、

「ああ、そういえば、テーブル壊しましたよね?」

「っ……ごめんなさい」

 思わずドキリとしてしまったが、
 変に誤魔化しても仕方が無い事なので
 素直にペコリと頭を下げて謝った。

「ふふふ、気にしてませんよ。
 力の制御が上手く出来なかったのでしょう?
 それに、ソラ=バーゼルドさんは倒れた私を
 ポチさんに頼んで寝室まで運んでくれたじゃないですか、それでお相子です」

「は、はぁ……ありがとうございます」

 流石はエクスマキナさんだ、すべてお見通しだ。
 それにしてもこの人は人が良すぎなのではないか。
 そんな事を思っていると直ったテーブルに案内され、
 前回同様に椅子に座った。

「どうぞ」

「どうも」

 飲み物を出されたが、先ほど一生分と思うぐらい
 飲み食いしたので前回の様に飲み干したりはしない。
 三人が席に着き、本題に入る前に俺はとある事を思い出した。

「さっきも少し出たけど、ロウォイは体大丈夫なの?」

 先程は流してしまったが、
 寝込んでいたのは俺だけではなくロウォイも同じなのだ。
 ポチの話からして一日程度で治ったらしいが、

「ええ、大丈夫ですよ。只の魔力切れですから」

「そう、良かった」

「では、早速ですが本題に入りましょうか」

 本題、それは大賢者田中を救う事だ。
 此方はもう報酬を受け取っているので此方もしっかりと 
 頼まれた事を達成しなくてはいけない。

「改めて、ソラ=バーゼルドさん
 どうか私の夫、田中をお救い下さい」

「おう、任せろ。前受けした以上しっかり達成してやる!
 ……それと、ソラ=バーゼルドは止めて欲しい」

 先ほどからソラ=バーゼルドと呼ばれ、
 何だかムズムズとしてしまう、せめてソラと簡単に呼んで欲しい。

「ソラ=コウリさん?ソラ=マッルシュークさん?」

「……普通にソラで良いよ」

「分かりました、ではソラさんと」

 何の悪気も感じない笑みを浮かべそういってくる彼女に、
 敬称はいらないなんて言えなかった。

「では、軽く作戦会議でもしましょうか」

 両手を軽くポフと合わせてそう提案された。

「作戦を立てたりするのは苦手だ……」

「作戦など要らないだろ」

 俺とポチは何方かと言うの直感で動いてしまうので
 作戦を立てたりするのは苦手なのだ。

「そうなのですか……でも一応立てましょう。
 大丈夫ですよ、私が考えるので、
 お二人はそれに意見を出してくれるだけで」

「なるほど……」

 それから軽く小一時間程、
 ロウォイが提案した作戦に意見を加えたりし、
 本当に軽めの作戦が決まった。
 決まったと言ってもこれは仮の中の仮作戦で
 例えるならまだ箇条書きの状態だ。

「では、作戦結構は三年後の罪人公開日という事で……良いですね?」

「……はい」

「うむ」

 小一時間話してたったこれだけの作戦――否、日程が決まっただけだった。
 流石にロウォイさんに申し訳なく思ってしまったが、
 ロウォイさんもロウォイさんで、とんでもない作戦ばかり提案してきたのだ。
 例えば、国ごと潰したり、国民を人質にしたり……と悪役の様な事ばかりだった。

 実際、俺達がやろうとしているのは、
 確実に良い事では無く犯罪に近いなのだろうが。

「では、今日はお疲れさまでした。
 宿までお送りしましょうか?」

「いや、良いですよ、大した距離じゃないんで」

「そうですか、ではまた、会いましょう」

「また」

 俺とポチはロウォイに見送られながら家を後にした。
 再び手を繋ぎ人混みの中を揉まれながら歩き、
 宿に帰り俺はベッドに腰を下ろし考え事をしていた。
 三年後……罪人公開日、それはジブお姉ちゃんとの約束の日なのだ。
 ちゃんと別れもしておらず、犯罪に巻き込まれ消えると言う形だったため、
 何とも言えない気持ちになっている。

「どうしたものか……」

「何がだ?」

「しっかり別れを告げるべきか
 このまま姿を消すべきかって悩んでる」

 このまま姿を見せない方がこれからの事を考えると良い、
 だが、三年間も育ててくれた為、礼の一つぐらい言っておきたい。

「そんなもの姿を消した方が良いに決まってるだろ、
 もう一度あって変な感情を抱いたらどうするんだ」

「……そういうもんかなぁ」

「まぁ、まだ時間はあるのだろう?
 ゆっくり考えるといいさ」

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