勇者になれなかった俺は異世界で

倉田フラト

からかい甲斐がある

「……何だかなぁ」

 ふかふかのベッドで目が覚めてからの最初の一言がそれだった。
 勿論その原因は二度目の謎の夢である。

「朝から浮かない顔だな、怖い夢でも見たのか?」

「昨日言ってた夢の続きだ」

「ああ、それか。特に害がある訳ではないのだろう?

「そうなんけどさ……」

 ベッドから出て背筋を伸ばし洗面所に向かいながら
 そんな会話をポチと交わす。
 確かに害がある訳では無いが気になって仕方が無い。
 あの場所、あの二人組、ゾンビ擬き、知らないものだらけだ。

「うぅ、冷たっ」

 冷水で勢いよく顔を洗い目を覚ます。
 背が低いと台を踏まないと行けないので面倒だ。
 軽く寝ぐせを直し色々と身支度を済ます。

「ソラがうなされて居たら殺してでも起こしてやるから安心しろ」

 洗面所から出て行くとポチがそんな事を言ってきた。
 夢で異変が起きると俺がうなされるという事は既に分かっている。
 別に苦しくてうなされる訳ではないのだが……

「……安心できるのかそれ?」

「ああ、安心して我に提供するが良い」

「はははは……一応善意として受け取っておくよ」

 つまり結局のところ俺を食べたいだけじゃないか。
 何の悪気も無いような笑みを浮かべているポチに
 そんな事言えるはずも無く心の中にしまっておく。

「さてと、ポチは準備出来てるか?」

「ああ、問題ないぞ」

「じゃあ、行くか」

 ポチと一緒に部屋を出て隣の部屋をノックして二人を呼ぶ。
 毎度同様のやり取りをして鍵を開けてもらう。
 そして数分後二人の準備が完了して宿を出て軽く朝食を済ませ拠点に向かう。
 当然ポチはもふもふになりその上に俺が乗る形だ。

「ソラよ、勿論暇じゃな?」

「ん、そりゃそうだけど?どうした」

 ポチの上でほげーとしながら風景を見ていると
 エキサラがそう尋ねて来た。

「だったら今、前に言った騎乗を覚えてみるのじゃ。
 ソラがポチに乗ってのう、うははは~いって敵を倒していくやつじゃ」

「楽しそうだねぇ」

「それは良い暇つぶしになりそうだ。
 どうだポチ、やるか?」

『ああ、構わない』

 俺はポチの上に乗っているだけなので
 丁度良い暇つぶしになると思ったが、
 俺の事を乗せ居ているポチはそこまで暇ではないと思い
 尋ねてみたがどうやら問題はないらしい。

「よし、ご主人様よやり方を教えてくれ」

「うむ、魔法なんてイメージすればどうにかなるのじゃ、
 ポチは既にソラにだけは心を開いて居るからのう、
 後はソラの魔力をポチに流し込むのをイメージするのじゃ」

「イメージか」

 ポチに魔力を流し込むイメージ。
 既に魔力は簡単に操れるようになっているので
 後はポチに流し込むだけだ。

 まずはポチをイメージする。
 ポチと言えばどんな悩み事でも消し去ってしまうモフモフ。
 つまりポチはモフモフなのだ。
 俺は日頃からお世話になっているモフモフをイメージする。

 モフモフの毛を一本一本イメージしてそこに魔力を流し込む。
 その瞬間、ポチのあらゆる思考が流れ込んでくる。 

『ほう、これは良いな。
 ソラの考えが伝わって来るぞ』

「おお、ポチもそうなのか。
 これで戦闘もスムーズになるな」

 騎乗を使っている間に限られてしまうが
 お互いの思考が分かっていれば一々会話せずに済み、
 作戦を思い浮かべるだけで連携が取れるのだ。

「なんじゃ?もう成功したのかのう?」

「ああ、すっごい簡単だったぞ」

「何と……それほど信頼し合っているのじゃのう。
 少し妬けるのじゃ」

「凄いねぇ、僕もソラ君に騎乗したいな」

 ヘリムが何だか言っているが安定の無視だ。
 エキサラが言うにはポチが俺の事を相当信頼してくれているらしく、
 一発で成功したらしい、勿論俺もポチの事は信用している。

「ちなみに、ずっと騎乗していても問題はないか?」

「互いの魔力を消費し続けるぐらいじゃのう」

「そっか、なら問題なさそうだな」

 ポチの魔力は化け物級だ。
 取り敢えず最初だから家に着くまでやってみるか。

『そうだな』

「っ!」

 ポチに思考が伝わるという事に慣れていない為
 少し驚いてしまい、何だか悔しくなり
 ポチにもやり返してやろうと思考を探りとても良いのを見つけた。

 なぁ、ポチ。前にも言ったが甘えたいならもっと甘えて良いんだぞぉ?

 前に魔眼で見たときにもサラッと触れた事だが、
 どうやらポチは本格的に甘えたいらしい。

『なっ……卑怯だぞソラ!
 勝手に思考を読むな、あああああああああ
 騎乗なんてしなければ良かったぞ!』

 ポチが体を左右に振ったりして嫌がっているが、
 騎乗を使っている為俺が落ちる事は無い。
 ポチが今まで以上に慌てふためくのを見れて非常に満足し、
 同時に意地悪な笑みが零れる。

「何か楽しそうだね」

 俺の表情の変化に気が付いたヘリムがそう言ってきた。

「ん~楽しいよ、ポチって意外とからかい甲斐があるんだよ」

『ソラよ……覚えてろ、絶対許さないからな』

 少しからかい過ぎたようでポチが若干お怒りだ。
 これは完全防御でも付けて居なければ只じゃ済まなそうだ。
 それからも少しずつだがポチをからかい続け、
 楽しみながら家に向かい、気が付けばエルフの村に着いており、
 軽く会釈をしながら通過し、何だか懐かしく感じる家である城に着いた。

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