勇者になれなかった俺は異世界で

倉田フラト

追い詰め

 城に着くと早速女子二人が風呂に入りたいと言い出し、
 風の様に風呂場へと姿をくらました。
 そういうところはしっかりと女子やってるなぁと少し感心。
 実を言うと風呂好きな俺も入りたかったのだが、
 流石にあの二人と風呂に入る勇気はない。

 取り残された俺とポチは騎乗を解除して城の外に出ていた。
 本来なら城に帰るのは良き同様に丸一日程掛かる予定だったが、
 帰りは足手まといが居ない為結構な速度を出して戻ってきたのだ。
 その為、まだ日が落ちてはおらず外での行動はまだ可能なのだ。

『何をするんだ?』

「ちょっとサボり気味だった体力作りをやろうかなって」

 幾ら力が戻ったとしても、
 その力に耐えられるだけの器が無ければ意味が無いのだ。
 それは先日に経験して嫌と言う程身に染みているのだ。
 たかだか敵一体を倒すだけだったのにその代償に二日も寝込む。
 仕方が無いとは割り切っているが自分が情けない。

『ほぉ、良い心がけだ。では我は見守るとしよう』

「あー、ちょっとお願いがあるんだけど」

『何だ?』

「ポチって自分の体重を重たくしたり出来る?」

『問題ない』

「じゃあ結構重めにして欲しい」

 腹筋や腕立て伏せと言った基礎のトレーニングも勿論大切なのだろうが、
 今回はそんな甘いトレーニングは抜きにして
 最初っから自分を追い詰めて行こうと思っている。

「身体強化――っと」

 行き成りスキルを発動させ、早速自分を追い込む。
 そして、

「じゃ持ち上げるよ」

 ポチの体を全力で持ち上げる。
 スキルを使用した状態だが、流石はポチと言ったところか
 少しでも力を抜こうならば即座に押しつぶされてしまいそうだ。
 ウェイトリフティングの知識は無いが、それらしく頭上に持ち上げる。

「くっ……結構くるなこれ」

『何だ?もっと重くして欲しいのか、良かろう』

「ちょ!――ぐぅうぅうう!!」

 ポチが意地悪そうな声で更に体重を重くし、
 俺は死に物狂いで負けるかと耐える。

『どうだ?』

「ポチ……意外とSの血もあるんだな」

『何を言う、ソラの為を思ってやっているのだろう』

「はは……有り難い事ですね」

 俺の頭上では優雅に欠伸をしているポチ。
 その下では今にも目玉だ飛び出そうな程踏ん張っている俺。
 歪みに歪んでいるこの表情は誰かに見せられるものではない。

「さ、て」

 このまま頭上に持ち上げているだけでもかなり
 肉体を追い詰めているが、さらに追い詰める。
 決してMっ気があるとかそういう訳ではない。
 これは強くなるためにやっていることだ。

『おお、頑張るな』

 一歩一歩ゆっくりとだが前身する。
 踏み出すたびに地面が足を吞み込むが
 そんなものに負けていてはポチのSっ気が再び沸騰してしまうので、
 負けじと足を進める。

 彼是数メートルは歩いただろう。
 それだけでも手足の限界が来ており
 生まれたての小鹿を遥かに超える程ブルブルと震えていた。

『辛そうだな』

「あ、あ……もう少し、頑張る」

 昔聞いた事だが体が限界だと悲鳴を上げてそこで止めてしまうと駄目で、
 そこから一秒でも良いから踏ん張れば効果的だと。
 嘘か本当かは分からないが今だからこそ言える事がある。
 それを言い出した奴はとんだ鬼畜野郎で確かに正しいと。

「ふんぁあああああ!」

 最後の力を振り絞り全力で走り出した。
 と言ってもかなり遅い走りで、
 羽毛が宙を舞ってから地に落ちると同等のスピードだ。

「あ、と一歩ぉおおお!」

 最後の一歩を進んだ途端にポチの体重が無になり、
 俺は限界だった俺は仰向けの状態で倒れ込み、
 その上に体重が無くなったポチが舞い降りる。

『お疲れ、ご褒美だ』

「あ、ああ、ありがと」

 ポチのモフモフからヒンヤリとする冷気が
 ふわふわと漂い疲れ切った体を癒してくれる。
 息切れしていたのも気が付けば落ち着いており、
 此処でも流石ポチだと感激する。

「ソラ君~お風呂良いよ……って何してたんだい?」

 お風呂上がりの神の髪が濡れて少し色っぽいヘリムが家から出て来て
 汗だくでばてている俺の事を見て驚いた様だ。

「ちょっと自分を追い詰めてた――って服着ろ痴女」

 バスタオルを体に巻いただけの余りにも無防備な恰好。
 確かに此処は他人が来るという事は滅多にないが、
 バスタオル一枚で外に来るのは痴女と疑われても仕方が無い。

「ふ~ん、ソラ君そんな事言うんだ……」

「そんな恰好して外に来るからヘリムが悪い」

「だったら確認してみる?僕はまだ誰にも体を許したことは無いよ」

 そういってヘリムは徐々に俺の顔へと接近してくる。
 バスタオル一枚を纏っているだけのヘリム、当然下着は付けていない。
 このままヘリムが接近し顔の上まで来てしまえばそこは真っ赤な花畑になる。
 そうなってしまえばもう色々と終わりだ。

「……ごめん!俺が悪かった」

「うん、分かれば宜しい。ほら、お風呂入っておいで、
 僕とご主人様でおいしいご飯作っておくから」

「うん、行こポチ」

『ああ』

 なんとか危機を回避し一安心しながら
 俺はポチと一緒に風呂場へと向かった。

「あぁ……」

 やっぱり風呂は良いものだ。
 全身の疲れが抜けていく様だ。
 ポチも気持ちよさそうにプカプカと浮いている。

『明日もさっきのやるのか?』

「勿論やるさ、一日やっただけじゃ意味ないからな」

『良い心がけだ、では我も頑張るとしよう』

 一体何を頑張ると言うのだろうか。
 気になるが何となく予想は着いており、
 その予想が当たってしまうのが怖いためあえて聞かないでおく。
 それから久しぶりの風呂の為暫くの間湯に浸り、
 ぽかぽかになってから上がり、久々に豪華料理をおいしく頂いた。

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