勇者になれなかった俺は異世界で

倉田フラト

対神

 食事が終わり片付けなどある程度の事を済ませた
 俺はいつも通りに誰よりも先にベッドに入る。
 誰よりもと言ってもポチと一緒行動しているため
 正確にはポチと一緒にエキサラ達よりも早くベッドに入る。

 最近になってポチは三日に一度程度のペースで
 擬人化して一緒にベッドに入り皆と寝る。
 今日はその三日に一度の擬人化日だ。
 大人体系ではないポチが一人ぐらいベッドに入ろうと
 狭くなることは無いのでヘリム達も気にする様子は見せなかった。

 ちなみに、今その二人はと言うと、
 エキサラは風呂に入っており、
 ヘリムは――

「ソ~ラ君!ちょっと良いかい?」

 先ほどの興奮がまだ抜けきっていないのだろうか、
 何やらおかしなテンションで寝室へと入って来た。

「どした?」

 この後は寝るだけなので特に用事が無く
 断る理由もないので大人しく要件を聞く。

「僕達にとっては結構重要な話をしようと思ってね」

 ヘリムはそう口にしてゆっくりと此方に歩み寄り
 ベッドに腰を下ろした。

「重要」

 ヘリムが言う僕達が一体どの範囲を指すのか、
 もし俺とヘリムの二人だけを指しているのならば
 この話はかなり重要な物だ。

「うん、気になるかい?」

「気になる」

「ソラ君、帰れる日が近付いたよ。かなりね」

「!!」

 その言葉を聞いて今すぐにでも喜びを露わにしたいところだが、
 ヤミ達の下へ帰るにはこの世界の神を倒すのが約束だ。
 つまり、ヘリムの発言は神との戦闘の時がかなり近づいたとも取れる。
 大魔王の加護を取り戻し、力すら元通りになりつつあり恐れる事はないが、
 相手の力量を知らない以上は油断することは出来ない。

 確実に倒せると決まっている訳ではない為まだ喜ぶには早い。
 喜ぶ前にもっと自分を追い詰め強化して行かなくてはいけない。
 ……でも、何でそんなに縮まったのだろうか。

「詳しく聞いても?」

「うん、僕達の標的である神の名前はデゼボ、
 今の彼がどうなっているのかは知らないけど、
 昔からかなり凶暴で他種族の争いを
 見つけてはちょっかいを出す奴だったんだよ、
 恐らく前神を倒し序列時代を作り上げたのは奴だ。
 そんな奴が大規模な戦闘を見逃す訳が無いのさ、
 僕は断言するよ奴は必ず出てくると」

 ……すっかり忘れてたけどこいつ神様だったな。
 それにしても他種族の戦争に介入してくる神様ってどうなのよ。
 本当に神ってのは碌なやつがいないな。
 全く、俺が代わりに神様にでもなってやろうか

「デゼボだっけ?そいつの強さってどれぐらいなんだ?」

 神様の事は神様に聞こう。
 これである程度の力量を掴んでしまえば
 それを超える程度に自分を追い詰めるメニューにすれば良い。
 過剰な強化をしないでも済む可能性がある。

「ん~正直に言って雑魚だよ」

「は?」

 ヘリムの口からは予想もしていなかった言葉が飛び出してきた。
 ふざけてんのかこのボケ神は、と思い、
 ヘリムの顔を見てみたがその表情は真剣そのものであり、
 到底ふざけているとは思えなかった。

「と言ってもソラ君目線で言うとだけどね」

「つまり、どういう事だよ」

「奴の力は結構厄介なものでね、神の力を減少させるんだよ。
 だから僕一人では倒すことは出来ない、
 出来て動きを封じる事ぐらいかな。
 奴は対神においては最強かもしれないが、
 対ソラ君なら最強はソラ君だ。
 と言っても今の力は分からないから油断はできないけどね」

「ほうほう」

 相手が雑魚なら何故ヘリムは今まで倒そうとしなかったのか
 疑問に思っていたがこれで謎は解けたな。
 対神の神か、本当に碌な神じゃないな。

「それにね、今の僕達にはご主人様やポチだっているんだよ、
 この戦い絶対に僕達の勝ちさ!」

「おぉ……ヘリムぅ」

 今までのヘリムなら絶対に仲間意識など微塵も無かったのだが、
 エキサラ達と出会い遂には仲間としてポチ達の事をみているのだ。
 それはもう物凄い進展であり俺は物凄く感動している。
 思わず涙ぐんだ目をふきふきする。

「それじゃ、僕は風呂に入って来るよ、
 明日からまた頑張ろうね!」

「ああ、そうだな」

 帰還の目途が付き克ヘリムの成長を目にする事が出来
 満足した俺の表情は自然と穏かな物になってゆき、
 身も心も穏かになり良い気持ちのまま寝ようと目を瞑った。

『ソラが神の世界も楽しそうだな』

「……んふぅ」

 ちゃっかり忘れていたがポチと魔力を繋いだままだった。

 なんか大人しいなと思っていたけど、
 俺の思考を読んで楽しんでいやがったな!

『ふん、別に構わんだろ』

 まぁ、うん、ポチになら別に何をバレも良い気がするな。

 あの世界に帰るとしたらポチは付いて来てくれるのだろうか。
 ふと、そんな疑問が浮かんだ、エキサラは興味津々で来てくれると言っていたが、
 ポチはどう思っているのだろうか。
 此処まで親しくなったからには別れるのは少々寂しい。

『この世界にも飽き飽きしていた所だしな、
 勿論、ソラに付いていくぞ。
 ソラが嫌だと言っても噛み付いてでも付いていくからな』

 うん、それを聞いて安心したよ。
 本当にうれしいありがとなポチ。

 こんな普段言わなそうな事を言えるのは
 心の中で言葉を思い浮かべているからだ。
 実際に声に出すなんて恥ずかしくても言えない。
 この魔法は意外と便利だ

「おやすみ」

『ああ』

 結構便利だと気が付いたので魔力を繋いだまま寝ることにした。
 魔力は減るだろうが、大して気にならない程度だろう。

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