勇者になれなかった俺は異世界で

倉田フラト

予兆3

 乾き切った大地がひび割れ、至る箇所にクレーターの様な窪みが幾つもあり、
 そんな大地に吹き荒れる風、その度に砂埃が宙を舞う。
 燃える様に熱く生命の気配は一切無い。
 そんな見覚えのある風景の中俺は異変を感じ取り
 手を何度も開いては閉じを繰り返し、やがて腕を上げて顔の前に持っていき、
 改めて異変を認識する。

「動……けるだと!?」

 久しぶりにやってきたこの謎の夢世界。
 これまで一度も自分の体を動かすことは出来ずに
 只々神の視点で見ていたのだが今回は特別な様だ。

『ふむふむ、これがソラが言っていた夢か』

「うん、それにしてもこんなに暑いのか此処……ん?」

『ん?』

 何だか物凄く聞き覚えのある声と自然と会話をしたような気がして
 恐る恐る横を向いてみると、そこにはもっふもっふのポチが
 当たり前の様に平然と存在していた。

「……落ち着こう。
 ポチ、何でいるんだい?」

『知らん、気が付いたらソラの夢に居た
 魔力を繋いでる影響だろうな』

「凄いなぁ」

 恐るべし騎乗とかいう名前詐欺魔法。
 まさか夢にまで影響してくるとは思っても居なかった為、
 驚きを通り越し冷静になり感心していた。

 まぁ、ポチが居ると心強いからな。

『ふっ、それでこれからどうするんだ?』

 何時もなら遠くに例の二人組の影が見えたりするのだが、
 今回の場合は何処を見渡しても影が見えず、
 只々荒れた大地が広がっており、
 燃える様に暑さが体を徐々に苦しめて行く。

『ほれ』

「お、おぉ……」

 何も言っていたかったがお互いの思考が分かっている為
 ポチが暑がっている俺に魔法を掛けてくれ、
 暑さで苦しむことは無くなり寧ろ物凄く快適な環境だと感じる。

 流石ポチ、頼りになるな。
 これからなんだけど……取り敢えず移動してみよ。

『わかった』

 俺がポチに近付くと自然と姿勢を低くしてくれ、遠慮なく背中に乗る。
 こういった行動が出来るのは親しい付き合いというのもあるが、
 互いの思考が分かっているからこそスムーズに進むのだ。

「なーんにも無いなぁ」

 ポチに乗りながらかなりの距離を進んだが、
 途中にあったのは荒れ果てた村程度で大した物ではない為
 そのまま素通りをして淡々と同じ風景の荒地を歩き続ける。

 ずっと喋らないで歩くのも退屈なので
 あえて声に出してポチと会話をしたりして暇を潰す。

『なんの気配も感じない』

「ん~この前は普通にいたんだけどなぁ
 ゾンビ見たいのもうじゃうじゃ沸いて来てたし」

『まぁ、夢だし我は幾らでも歩いても構わないがな』

「そうだねぇ~」

 多少の疲れは出るだろうがこれはあくまで夢なのだ。
 この世界で死のうが問題ない。まぁ、死ねないんだけど。
 流石に飽きてきた俺は腰を上げるのを止めて
 ぐったりとポチに抱き着く形で倒れ込んだ。

「ふぅ~落ち着く」

『そうか、だがそうしていられるのも時間の問題の様だぞ』

「……ああーなるほどね」

 どうやらポチが何者かの気配を感じ取った様で、
 それが俺にも伝わって来た。

 3人か……

『弱々しい似た気配が二つ、強大な気配が一つ』

 二対一という事だろう。
 一体に二体がやられていると判断しても良いのだろうか。

『行ってみるか?』

 勿論。

 二つの似た気配と言われれば思い浮かべる人物が二人いる。
 気配だけであの二人だと判断するのは早いが、
 この暇すぎる状況を打破できるのならばその気配が誰だって良く
 暇さえ凌げれば良いのだ。

 気配を感じる方向へ全速力で向かう。
 周りの風景が変わらないからか余りスピードは感じないが
 気配に確実に近づいている。

『見えたぞ!』

 見えないぞ!ポチは目が良すぎだろ!

 何にも見えないがポチには見えたらしい。
 確かに気配にはかなり近づいたがまだ姿を確認することは出来ない。

「おっ、あれか」

 俺にも見える距離まで近づき三体の姿を確認する。
 一体は巨大な鎚状の柄頭を備えた戦鎚を手に持った鎧。
 そしてその付近で二人して息を切らし肩を激しく上下に揺らしている
 例の二人組の姿があった。

 真っ白な肌には行くもの打撃痕があり、
 綺麗な肌の彼方此方が紫色になり、
 あらゆるところから出血している。

『加勢するか見学するか、どうする?』

 見学するのも楽しそうだけど、
 あの二人にはちょっと興味があるからな
 此処で死なれては困る。

 興味と言うのはそんな大したものではないが、
 この世界の事を聞くならあの二人しかいない。

『分かった、行くぞソラ』

「おう!」

「勇者になれなかった俺は異世界で」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く