勇者になれなかった俺は異世界で

倉田フラト

メイド服、襲われる

 外に出るまではメイド服を着せられ、
 恥ずかしくて泣きそう程度だったのが、
 外に出て人目に晒されると、
 もう生きていけないと俺の中から光が消えていくのを感じた。

 風がメイド服の下の方から中に入って来て
 凄く肌寒いし捲れない様に気を付けながら
 人混みの中を歩き、それに加え人目を気にしてしまう為非常に疲れる。

 ポチ、ちゃんと付いて来てる?

『心配するな』

 人混みの中をこんな格好で歩いているため、
 何時も以上にポチが恋しくなり、
 しっかり付いて来ているのか確認する。
 かれこれ、数分に一回のペースでポチが来ているか確認している。

 ポチ、もう裏路地行っていいかな?
 これ以上人目に晒され続けると泣きそうだ

 彼方此方から視線を感じ今すぐにでも逃げ出したい。
 決して此方を見て来ている全員が全員悪い奴って訳ではないのだろう。
 見た目が幼くメイド服を着て居たら大半の人は驚いたり、
 親と逸れたのかと心配の視線を送っているのだろうが、
 残りの一部は危ない視線を送って来ているのだろう。

 その中で行動に移す者はほんの一握りかこの場には居ないか。

『まだ喰いついたのは一人しかいないぞ』

 えぇ!?本当に!?やだきもい!!何考えてるんだよ
 俺男だぞ!この変態が!!ポチ、助けて!!

 まさか本当にこんな俺なんかに釣られるド変態が居た事に
 俺は驚き同時に恐怖し全力でそいつの事を否定した。

『無理だ。大人しく裏路地に入るか
 それともまだ釣るのか?どっちが良い?』

 残酷な二択を突き付けられる。
 これ以上変態が増えるよりは今連れている
 ド変態と一対一で対面した方が良いに決まっている。

 裏路地に行く!

 即答する。
 人混みを掻き分けて店と店の間の薄暗い路地へ入って行く。
 人混みから抜けたが周りに気配がありすぎて
 一体どれがド変態の気配なのか判断出来ない。

 取り敢えず奥へ進み曲がり角を曲がった。
 少し開けた場所に出たが建物に挟まれているため
 薄暗く若干じめじめとしている。

 ポチ、ド変態さんは来てるか?

『ああ、もう少しで曲がり角を曲がるから姿が見えると思うぞ』

 良く耳を澄まして聞いてみるとポチの言っていた通り
 何者かが此方に寄って来る足音が聞こえる。
 徐々に近くなっている足音と比例するように
 恐怖心も徐々に高まっていく。

 今ならストーカーの恐怖が分かる。
 ストーカーと良く聞いたが今一何が怖いのか実感がわかなかったが、
 自分が追われる立場になりその恐怖心がやっと理解できた。

 前方には建物が建っておりこれ以上進むことは出来ない。
 左右も同じく。逃げ道はたった一つしかなく、
 それは今来た道、ド変態が来ている道しかない。

『来たぞ』

「!!」

 ポチの声と同時に俺の真後ろで足音が止まるのを感じた。
 荒い息遣いが聞こえ体が未知の恐怖に支配される。
 どんな顔をしているのか分からないが、
 想像でオークの様な男を連想してしまう。

「あらあら、お嬢さん、こんな人気の無い所に来ちゃダメでしょ?」

 だが、聞こえてきたのは女性の声だった。
 その声は優しく自然と体を支配していた恐怖が和らいでいく。
 ド変態ではなく、只の俺を迷子だと思った優しいお姉さんなのかもしれない。
 そう思ったのだが――

「こんな所にいたら私みたいな怖~いお姉さんに襲われるんだよ――!!」

 優しい声が徐々に力んでいき、再び恐怖心がわき出て
 俺は思わずその場から前方に飛び跳ね距離を取り、
 警戒心をむき出しにして振り返った。
 そこには、少し赤っぽい色で腰まで伸びきった長髪、
 染み一つない綺麗な肌、眼は髪と同じ色をしており、
 此方を見て目を細め、舌なめずりをしていた。

 身長差は圧倒的で170cm程だろうか、中々に大きい。

「生きが良いねぇ……そういう子は結構耐えてくれるから大好き
 お嬢ちゃんはどこまで耐えられるのかな?ふふふ」

「変態が……先に言って置くがこんな格好しているが俺は男だからな」

 女装野郎とは言われなくないが、
 俺の事を完璧な女だと思って付いて来たのならば
 本当は男だという事をバラしてしまえば
 興味を失って見逃してはくれないだろうか。
 そんな事を願いそう口にしてみた。

「ふぅ~ん、そうなんだ……」

 ド変態姉さんは興味を失ったのか視線を下に向けて
 頭をガックシと下げた。
 見逃してくれるのか!?そんな希望が生まれたのだが、

「男の娘相手は初めてだけど、想像したら凄い興奮するわ!!」

 そんな希望は一瞬で絶望へと変化し、
 余計な事を言わなければ良かったと後悔した。

 瞳孔が開き声を荒げ顔を真っ赤にしながら
 ハァ、ハァと荒い息遣いをしながら、
 完全に獲物を捕らえた目つきで再び此方を見て来た。

「素直に言う事を聞けば気持ち良い事してあげるけど、
 抵抗するようならちょっと痛い目を見てもらう事になるわ
 まぁ、何方にしよ君に待ち受けているのは快楽だけだけどね」

「……」

 おい、ポチ。こいつの頭が可笑しいんじゃないか?
 流石のヘリムでも此処まで変な事言わないと思うぞ。

『いや、言ってると思うぞ』

 ポチに言われて記憶を遡ってみると、
 確かにそれっぽい発言をしている所が何ヵ所が思い浮かんだ。

 確かに、何でもないや。
 この世界の住民はおかしい奴が多いって事だな。

「何が快楽だ、生憎お前の様なド変態はお断りだ」

『あ、ソラよ、言い忘れていたが、そいつ強いぞ』

 ポチのその言葉を聞き、挑発的な発言をしてしまった事を後悔。
 そういう命に係わる事はもう少し早めに言って欲しいものだ。

「そう、そういう態度取るんだ……いいわ、たっぷり痛み付けてから
 泣いても叫んでも終わらない快楽地獄に連れて行ってあげる!」

「!」

 途轍もない殺気が周囲を満たし、
 思わず息を呑み込む。

「ちなみに、結界をはってあるからどんなに叫ぼうが誰も来ないわ」

「へぇ、随分と準備が良いな」

 おい、ポチ大丈夫なのか?

『問題ない、結界如き素通りしてやったぞ』

 先程まで話していたが、一応心配になり
 ポチに確認を取ったがその心配は無用だった様だ。

「それにしても、君この殺気を受けてなにも思わないんだ
 ふふふ、本当に楽しめそうだわ!!」

 生憎、これ以上の殺気を日頃の訓練で受けているからな。
 例えばエキサラとかエキサラとかご主人様とか。
 容赦なく殺しに来るから殺気にはもう慣れているのだ。

「さぁ、良い声で鳴いてちょうだい!」

「嫌だね!」

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