勇者になれなかった俺は異世界で

倉田フラト

怒りの帰宅

「ふんっ、ふんっ!」

 ヘリムとエキサラに魔法が使えないなどと
 嘘を吐かれ苛立ちを覚え、
 それに気が付かなかった自分にも腹を立て街中をドスドスと歩いていた。
 もう初めの様な羞恥心など一切存在せず
 メイド服だろうがなんだろうがどうでも良くなっていた。

「ポチ!お腹空いた!何か食べさせろ!!」

「はいよ」

 擬人化(大人)になっているポチにも
 教えてくれなかったと言う事で多少の怒りがあり、
 苛立ちを隠せずに強い口調で命令した。
 ちなみに慣れない戦闘をしてお腹が空いてしまったのは事実だ。

 ポチの手をしっかりと握って出店を回る。
 幾ら羞恥心を無くしたとは言え、
 迷ってしまうのは非常に困るからだ。
 それと前回のように大量に食べさせられる危険性を減らすためだ。
 こうして手を握って大量に買おうとすると思いっきり引っ張ってやるのだ。

「ふんっぬ!」

 実際にポチが阿保の様に大量に串焼きを購入しようとしている所を
 思いっきり握っている手を引っ張てやる。
 むぅ、と声を漏らすポチだが、こうすることによって
 俺は安全な食事を送る事が出来るのだ。
 悪く思うなよ、ポチ。

「ほれ、お望みの飯だ。喰うが良い」

「ありがと」

 少しポチが不機嫌なのだが、理由は分かり切っているので無視だ。
 ポチから渡された数本の串焼きを美味しく頂く。
 相変わらず何の肉なのかは分からないが柔らかくしっかりと
 味が染みており噛めば噛むほど味が出て来て非常においしい。

 何の肉なのか知りたい気持ちもあるのだが、
 知らない方が幸せな事もこの世にはいくつもあるので
 敢えて知らないままで良いと自分に言い聞かせる。

「はぁ、何だかなぁ……なんで俺ってこんなに騙されるのだろうかねぇ」

 食事を終わらしエキサラ達に早く文句を言う為に
 来た道を引き返し人目のない場所を目指しながら
 俺はポツリと思っている事を呟いた。

「あの二人の事を信用しているのだろうな。
 悪い事では無いが、多少は疑った方が良いぞ」

「ん~そうなんけどさ」

 ポチに言われた通り、確かにあの二人の事は結構信用している。
 あの二人には色々とお世話理になり沢山の過程を得て今の信用を得ている。
 疑う事を一切していないわけではないが、あの化け物たちの発言を
 冗談なのか本当なのか見極めるのはかなり難しいのだ。

 例えばヘリムなら、「国滅ぼそうか~」とか軽い口調で言ったとすると、
 それは明らかに冗談に聞こえてしまうのだがあの神様なら
 本当にやりかねないのだ。
 エキサラも同様な感じだ。

「見極めるのは難しいんだよ」

「まぁ、そうだろうな、今度からは我が助言してやろうか?」

「おっ、それは助かる。頼んだぞポチ」

 人目のない場所に着き俺はスキルを使用する。
 転移を発動させポチと一緒に城まで瞬間移動だ。

「ヘリムとご主人様はどこじゃい!」

 玄関に到着した途端にそう叫んで怒りの元凶の二人を呼ぶ。
 ポチは獣状態に戻り俺の事を甘噛みして持ち上げ
 器用に背中に乗せてくれる。

「あっ、ソラちゃんおかえり」

「おかえりなのじゃ」

 ひょっこりと部屋から顔を出す二人。
 しっかりの今までの俺達の行動を覗いていたのにもかかわらず
 このケロッとした態度だ。

「な~にが、おかえりだよ!ただいま!!
 それより、どういう事だ!!」

 おかえりと言われたらただいまと返す。
 いくら怒っていようがコミュニケーションはしっかりと取る。

「えへへ~でもね、ソラちゃんの為だったんだよ?」

「んじゃ、そのお陰で実力が分かったじゃろ?」

「……まぁ、そうだけど」

 確かにその通りで今までの訓練の成果は発揮できたと思う。
 魔法もスキルも使わない生身での限界も大体は把握できた。
 もしヘリム達に魔法が使えないと言われていなければ
 俺は何の迷いも無く魔法を使ってあのド変態と戦っていただろう。
 そうなれば本当の実力がどんなものなのか把握することはできなかったし、
 結果的に言えば俺の為にはなっているのだが……

「俺の心は意外と傷つき易いんだぞ。
 その内俺泣くかもしれないぞ」

「それもそれで良いねぇ」

「そうじゃのう」

「……」

 本気で泣くぞ?泣いてやるぞ?

「嘘だよ、ソラちゃん。ソラちゃんが悲しむ様な事はしないさ
 ほら、もうメイド服、脱いでも良いんだよ?」

「うむ、今回はちとやりすぎたのじゃ
 良い物をみれたのじゃ、もう脱いでも良いのじゃ」

 どうやら二人はしっかりと反省している様で
 この忌まわしいメイド服から解放してくれる様だ。
 二人はニヤニヤしながら此方にゆっくりと歩み寄って――

「まて!来るな!!」

「えー、ソラちゃんじゃその服脱げないよ?」

「うむ、大人しくするのじゃ、くははは」

「くっ、ポチ逃げろ!!」

 ふっ、残念だったな二人共今回は着る時とは違って
 ポチは此方サイドについているのだよ!
 俺はポチに乗ったまま二人の間をすり抜け空き部屋に逃げ込んだ。

「ポチ、脱がしてくれ」

『うむ』

 擬人化したポチに優しくメイド服を脱がしてもらうが、
 異様になれた手つきで脱がされ、実はポチはエキサラ同様に
 メイド服作戦をノリノリでやっており練習していたのではないかと疑問に思って今う。

「って、服ないじゃん」

「本当だな、少し待てつくってやる」

「おお、さすがポチだな!」
 

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