勇者になれなかった俺は異世界で

倉田フラト

第二回戦前

 ポチが観客席に戻ってくると当然だが、周りからの目が非常に突き刺さってくる。
 小さな声で「あの仮面集団には近づくなよ」など様々な声が聞こえてくる。
 当然と言えば当然だが、仮面集団と一括りにしないで貰いたい。
 俺はこの三人に比べれば圧倒的に優しい、優男だ。

「うー、少しスッキリしたぞ」

 席に腰を下ろしながらそんなことをつぶやいた。
 相手の四肢を切り落としたんだ、スッキリしてもらわないと困る。

「それは良かったな」

 いや、相手の事を考えると何もよくはないのだが、
 これ以上の犠牲者が出ないということを考えれば良かったのだ。
 ……といっても犠牲者が出ないか出るかは対戦表次第なのだが。
 一番良いのは俺たち同士で当てれば実力を測り為ベストだ。
 後は、あの鬼族のイケメン奴隷と言ったところか。

 それからも試合は止まることなく次々と進んで行く。
 当然ヘリムとエキサラの番もやってくる。
 ヘリムは試合開始後、敵に攻撃をさせるだけさせ、
 すべて避けて相手が疲れてきた所で仕掛け始め、

 まず相手の事を床に倒し、懐から取り出した紫色の禍々しい短剣で
 プスリと相手のことを優しく突くと何故が相手が暴れ始めてやがて吐血し、
 遂には全身から血を流した所で試合は終了した。
 後から話を聞いたところによるとあの短剣には猛毒が盛ってあったらしい。

 エキサラは意外にも相手を必要以上に痛めつけずに
 試合開始と同時に相手にワンパンチ。
 と言っても相手は場外へ吹き飛び壁にめり込むほどの力だ。
 まぁ、持続的に苦痛を伴うより一瞬の痛みだけの方が幸せだろう。

 こんな感じで俺たちの初戦は全勝で終わり、
 周囲から危ない奴らと言う認識をされ第二回戦へと進んだ。
 数時間の休憩時間を挟んで第二回戦は開始される。
 俺たちはその場にいてもやることはないので取り敢えず飯を食べに行ったりして
 時間を潰した後に第二回戦の対戦表を身に再び会場ヘと向かった。

「う~ん、妥当かな」

「そうじゃのう」

 トーナメント表なら通常勝ち上がった隣合う者同士で戦うのだが、
 闘技大会の運営の力によってトーナメント表が捻じ曲げられ
 強制的に俺たち同士で戦うように仕向けられていた。

 ラソVSチポ
 ムリヘVSラサキエ

「手加減はしないからな」

「は、はははは……お手柔らかに」

 やっと互いに実力を測りあえる対戦相手になったが、
 俺としては物凄く不安だ。
 これから戦う予定の神様もそうだが、ポチの実力も未知数だ。
 どんな技で攻めてくるのか、対処方法はどうすれば良いのか。

 ……まぁ、分かっていたとしても対処出来るとは思えないけど。

「なぁ、ポチ。一つ約束をしないか」

「なんだ」

 約束というのは大した事ではない。
 決して手を抜いてくれなどそういったことではなく。

「顔への攻撃は無しにしないか?仮面壊れたらまずいし」

「なんだ、そんな事か。構わないぞ」

 常人たちの攻撃なら問題ないが化け物級のポチ達が
 顔面を殴ってきたら幾ら頑丈な仮面でも一瞬で砕け散ってしまうだろう。
 そんなことになってしまえば折角隠した顔がこの場にいる全員にばれてしまい
 本当に面倒なことになってしまう。

 もう少しでこの世界とはおさらばする予定なので
 出来るだけ顔を覚えられたりしたくないのだ。
 ポチが同じ考えで了承してくれたのかどうかは分からないが、
 取り敢えず仮面のことは安心だ。


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