召喚された賢者は異世界を往く ~最強なのは不要在庫のアイテムでした〜
第10話 新居
途方にくれながらも俺は預かった鍵を差し込み開錠し、扉を開け屋敷へと入る。やはり屋敷は綺麗な状態を維持しており、埃ひとつない状態であった。
「ここに一人で住むのか……あ、一人ではない……のか……」
目の前にはすぐに白い靄で出てきてフェリスが姿を現す。
「今日からお世話になるよ。俺はトウヤだ。よろしくね、フェリス……?」
日本人だった癖か、つい頭を下げる。顔を上げた俺にフェリスは少しだけ微笑んだように感じた。
屋敷を出て商業ギルドまでの途中、フェリスを含め家精霊は言葉を発することはないとナタリーから説明を受けていた。
いつの間にか家に住み着き、その家を大事に守っていくのが家精霊であり、家精霊が住み着いた家は劣化することなく維持されるという。
まったくの無害であるが、住人が変わると家精霊は家主を選び、許可が出ないと住むことは出来ない。
その前に家精霊が住み着くこと自体が珍しいことであり、この街でも他に3軒しか確認できていないということだった。
その中でこの家は、十年以上、何人もが希望したが今までに許可が出た事がなく、ナタリーが所有者となってから初めての事だそうだ。
問いかけると、言葉は理解しておりそれに答えてくれる。もちろん無言ではあるが。
しかし、なんとなくこの大きな屋敷で一人きりでは味気なく声を掛けてしまう。
「俺の部屋ってどこになるかな?」
俺の問いにフェリスは「ついてきて」といわんばかりに階段をゆっくりと上がっていく。そして二階の一番奥の部屋の扉を開けた。
フェリスの後に部屋に入ると、そこは30畳くらいの部屋となっており、大きなキングサイズの天蓋付きベッド、そしてソファーまでもが設置されていた。
「大きな屋敷だとは思ってたけど、部屋もこんなに広いのか」
部屋のあちこちを調べるように見ていると、フェリスは入り口でずっと控えたままで俺の事を見守っていた。
やはり部屋を見ても埃ひとつなく綺麗な状態が維持されていた。
ナタリーからは家精霊がいる屋敷ではそれが普通だと教えられたが、やはり日本人だからであろうか、感謝の気持ちが浮かび上がってくる。
「フェリス、この屋敷を綺麗にしてくれてありがとう。他の部屋も見てみたいから案内してもらえるかな?」
俺の言葉に少しだけ表情が和らいだ気がしたが、すぐに案内のために部屋を出てしまったため、よくわからなかった。
その後も、書斎であったり、客室など2階を案内してもらう。
そして、1階へと移動し、ダイニング、リビングそして――この屋敷に決めた最大の理由、風呂へと案内された。
脱衣室から、浴槽の扉を開けると、湯気が顔へとかかってくる。
湯気が晴れた浴室は、大人が十人くらい入れる大きな浴槽に、ライオンの顔の彫刻の口からとめどなくお湯が出ている。
「も、もしかして……いつでも入れたり……する?」
振り返った俺にフェリスは無表情のままただ頷く。
その返事に俺は両腕を上げ「やったー!」と、身体全体で喜びを表現した。
フェリスはお風呂になぜそんなに喜んでいるのかわからずに首を傾げるが、日本人として風呂は堪らないものだ。
そのままお風呂に入りたい気持ちを抑え、後ろ髪を引かれながらもフェリスの後を追う。
一通り案内が終わった俺はリビングでソファーに座り寛いだ。
「フェリス、案内ありがとう。これからよろしくね」
感謝の気持ちを伝えると、フェリスは頷きそのまま消えていく。
部屋に一人残った俺は今後の事を考える。
「とりあえず飯は自分で作れるから問題ないとして……生活基盤を整えないとな。レベルも上げたいし。次元収納の中身も試していかないとな……まずは……」
部屋を出ると向かう所はただひとつ。
浴室に向かった。脱衣室で服を脱ぎ捨てて浴場へと入ると湯気が顔を覆う。
「こんなに最高の風呂に毎日入れるなんて幸せ過ぎる……」
身体を洗い足から広い浴槽に浸かる。
「ふぅ。気持ちいいぃ……」
足を延ばし寝ころんだ状態でも問題ないと言えるほど広い風呂でのんびりと寛ぐ。もっと入っていたい気持ちを抑えのぼせる前に浴槽を出た。
脱衣室に放り投げた服は全て畳んでかごに入っている。身体を拭くためのタオルも準備されていた。
そして――フェリスが佇んでいた。
「ちょっ!!」
裸であった俺はタオルを腰に巻いた。さすがに家精霊とは言っても、少女にしか見えない精霊の前で裸でいるのは恥ずかしさを覚えてしまう。
俺の驚いた表情にフェリスは気にした様子もなかったが、少女に見せつけるのはどうかと思い、外に出てもらうように頼むとその場でフェリスは消えていく。
1人になった俺はタオルで身体を拭き、次元収納から新しい服を出し着替える。かごに畳まれていた服を出すと、すでに服は汚れが落ち綺麗になっていた。
「綺麗になってる……フェリスがやってくれたのかな……。あとで礼を言っとくか」
服を次元収納に仕舞い、リビングへと戻る。
引っ越し初日に料理をする気も起きず、次元収納の中から出来合の食事を取り出して食べ、満足してから2階へと上がり自室へと入る。
「明日からレベル上げだな。依頼をこなさないと……」
今まで味わったこともない程の寝心地のいいベッドへと寝ころんだ俺は、知らぬ間に意識は闇へと落ちていった。
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