召喚された賢者は異世界を往く ~最強なのは不要在庫のアイテムでした〜
第20話 護衛
「ここより、馬車で三日程西へ行った所に、ダンブラーの街がある。そこまで商人の馬車の護衛だ。もちろん、一人でやらせる訳にもいかないから他にも冒険者をつける。わかったか?」
資料室で国内の地図を見ており、頭にある程度は入っている。その街についても知っていたので俺は頷く。
俺が頷いたのを確認すると、エブランドは説明を続けた。
「トーヤの他に二組の冒険者が加わる予定だ。途中、森を抜ける必要があり、そこには魔物や盗賊が出るかもしれない。商人と馬車を護衛してその街に行くのが依頼だ。その街で二日間程滞在してもらい、また護衛としてこの街に戻る。出発は三日後だ。護衛料は40万ギルだ。用意しておけよ?」
賞味、八日間の拘束で40万ギル……。正直旨味を感じない。森で狩をすればその何倍も稼げるからだ。
俺が少し不満そうな顔をしたのは、すぐにエブランドも気がついた。
「正直、トーヤの稼ぎなら護衛などしなくても問題ないだろう。だがな、冒険者として色々な経験を積むことは必要だ。だからこうして時間もとっている」
「――わかった。準備しておく」
「それでいい。それにしてもトーヤ、お前はとても十六歳には思えないほど落ち着いてるな……」
そりゃ……実際三十五歳だからね。
そんなことも言えるはずもなく、ミリアから依頼表を受け取るとギルドを後にし、街を出て森へと入っていく。
理由は――属性魔法と、幼女の考えていた魔法の練習だ。
『探査』
自分の中に感じる魔力を、薄く伸ばしていくように広げていく。転職し、レベルが下がったとはいえ、それでも回復術師でレベル100まで持っていったのだ。体内に蓄えられている魔力は人並み以上だ。
「200メートルくらいか……」
自分で感じ取れる距離を図りながら森の奥へと入っていく。いくつかの反応を感じなら、その方向に進んでいくと、猪型の魔物がいた。
フォレストボアといい、肉は美味く喜んで丸ごと引き取って貰える。餌を捕まえたらしく貪っていて、まだ気づいていないフォレストボアへと向かって魔法を放つ。
『真空波』
右手から放たれた半円形の魔法はフォレストボアへと向かっていき、それに気づいた時にはすでに遅く、真っ二つへと切り裂いていた。
「初級魔法でこんだけ威力があるのかよ……気をつけないと。人に当たったら……」
少しグロテスクな想像をしながら、フォレストボアを次元収納へと仕舞っていく。
探査は継続的に使っていても、魔力の消費は微々たるもので、一度唱えると一時間は継続される。
同じように反応を探っていくと、いくつか固まった反応を見つけたので、そちらに向かう。
木々に囲まれていた所から開けたとこで、俺は足を止めた。
そこでは、数体のゴブリンと戦う四人の冒険者たちがいた。
戦闘を眺めていると、五分ほどで戦闘は終わり、冒険者たちは警戒にあたる者と、素材を剥ぎ取り役に分かれて行なっていた。
その様子を見て、俺は踵を翻す。
「パーティーか……いいかもな……」
笑みを浮かべていた顔はすぐに引き締められる。
その後も、反応があった場所へ向かい、魔物を殲滅していく。
◇◇◇
予定されていた護衛の日はすぐに迎えた。
属性魔法を確かめて満足した俺は、護衛中に使う物を揃えていき、全て次元収納に仕舞っていく。
ただ、護衛を行うのに一番大変だったのが、フェリスへの説明だった。
言われた初日にフェリスに伝えたのだが、一気に不機嫌な顔に変化し、そのまま姿を消し、呼んでも出てくることはなかった。
そして向かう当日になってやっと姿を現した。
「フェリス、行ってくるよ。予定では八日、遅くても十日で帰ってくるつもりだ。家のことは任せたよ」
「――トーヤ……帰ってきてね……?」
「もちろん、出来るだけ早く帰ってくるよ。行ってくるね」
寂しそうな表情をしながらも、フェリスは見送ってくれた。
俺は集合場所のギルド前へとコクヨウと共に向かう。そこには荷馬車が数台用意され、準備をしている商人たちと冒険者と見受けられる数人がいた。
近くに寄っていくと、コクヨウの迫力に商人は身を引く。
冒険者たちの視線も俺ではなく、コクヨウに向けられる。
「今回護衛の依頼を受けた、Cランクのトウヤです。どうぞよろしく。あと、これは俺の従魔のコクヨウ」
事前にエブラントからは名乗る時はランクも伝えたほうが良いと説明されていた。
ギルドのランクはそのまま信用も意味している。Cランクならばベテランの領域とされ、商人達からしても信用される。
「ほう。その若さでCランクとは随分と有望なのですね。これは今回も問題なさそうですな」
笑みを浮かべる商人とは違い、冒険者四人組は少しだけ気を引き締めて前に出てきた。
そしてよく見れば、先日、森でゴブリン相手に戦っていたパーティーであった。
その中の一人が前に出てくる。皮鎧を着て、片手剣をぶら下げ、いかにも戦士と思わせる恰好をしている。歳は俺よりも少し上であろう。
少しだけ敵意が見える。
「今回同じ護衛をするダイだ。後ろはうちのパーティー”草原の牙”のメンバーだ。弓を持っているのはカイト、後はシーフのミルカ、杖を持っているのはアキナだ。全員Dランクだ」
戦士、弓手、盗賊、魔法術師といい組み合わせだ。元々回復術師は数が少なく、教会に入ってしまう者が多いため、冒険者としているのは貴重である。回復術師単体では攻撃力がないことで、どこかのパーティーに入るのが基本となるが、俺は基本的に両手剣を使うから単独でも問題はない。
「トウヤだ。Cランクの――回復術師だ。よろしく」
魔法術師と言ってもよかったが、これだけの人数がいる護衛だ。やることは少ないだろう。それなら回復魔法を使えると言っていたほうが後々良いだろうと思ってそう答える。
しかし、ダイは回復術師と聞いて顔を顰める。回復術師は寄生だと思っている者も少なからずいるからだ。
「チッ……寄生組でCランクかよ……」
捨てセリフを吐いてダイは自分のパーティーへと戻って行く。
単独なんだがな、と思いながらもその事を口にすることはない。
「よし、準備は出来ているようだな。今回の護衛のリーダーのルミーナだ。Bランクになる。よろしくな」
もう一組の冒険者が来た。一組というか、俺と同じ一人なのであろう。
きっと戦士だと思う。いや――きっとそうだ。
どうやって身を守っているのか不思議な装備、――ビキニアーマーを着た女戦士。
誰もが見入ってしまうほどのスタイルの良さと、健康的に日焼けした肌、腰まで伸びた赤髪が風に靡いている。
そして……どうしても目が離せないほどに釘付けになる二つのメロン。
それは、ダイたちも同じ感想だったようで、釘付けになる男二人に、杖を持ったアキナが二人の頭を叩いていた。
各自の自己紹介が終わり、配置について打ち合わせをした後、出発の合図が掛かった。
「よし、出発するぞ!」
ルミーナの声で馬車は動き始めたのだった。
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