召喚された賢者は異世界を往く ~最強なのは不要在庫のアイテムでした〜
第26話 ナタリーの過去
ローブを着た少女ーーいや、自称黄昏の賢者、ナタリーがトボトボと街を歩いていた。
トウヤに餌付けとも言える美味の料理が忘れられず、また食べさせてもらう為に屋敷に行ったら不在で、冒険者ギルドより秘密裏に護衛の仕事で街を出ていると聞き出した。
自分の住まいとも言える店に戻ったナタリーはカウンターに肘をついて思いに耽る。
「それにしても、あの料理といい、精霊に好かれる性格といい懐かしのぉ……」
◇◇◇
――十年前
「――本当に宮廷魔導師の職を降りると……?」
「そろそろ、若手も育ってきたのでの。引退してのんびりとしたいのじゃ」
当時、ルネット帝国にて筆頭宮廷魔導師を長きに渡り務めていたナタリーは、職を辞する為に皇帝ーーガネット・ヴァン・ルネットと対していた。
玉座に座り、立派な顎髭を携えたガネットは大きくため息をつく。
ナタリーの実力は国内の魔導師の中でも飛び抜けており、数十年に渡り筆頭宮廷魔導師の職に就いていた。
弟子を何人も育成し、国の発展の為に尽くしていた。
ルネット帝国は、皇帝の家系は人族であったが、人族、耳長族、獣人族に差別的なものがなく、逆に見た目が可憐な耳長族、獣人族を保護している国であった。
優秀な者は、ルネット帝国でも重要視され、要職に就く事も多い。ナタリーも魔法に秀でており、筆頭宮廷魔導師として帝国の要職に就いていた。
「そうか……ナタリー殿は長きに渡って良くこの帝国に尽くしてくれた。私が幼少の頃からずっと……な……」
「そうじゃのぉ。まだハナタレ坊主の時から其方を見守っていたが、良く育ってくれたのぉ。皇帝となり心配したが国は良くなっておる。ジェネレート王国のちょっかいも少しは落ち着いておるし、辞するなら今がいいかと思っての」
ハナタレ坊主と言われたガネットは苦笑しながらも頷いた。
「それで、今後の予定は?」
「そうじゃのぉ。少し旅をしながら、落ち着いた場所で店でも開こうかと思っておる。今までもらった給金も残っておるしの」
「そうか……今後の人生ゆるりとするがいい」
部屋を出たナタリーは何十年と務めた城を歩く。
「あ、ナタリーおばあちゃんだっ!」
「おばあちゃんと言うでない!! ナタリーお姉ちゃんと言えといったであろう!!」
ピンク色のドレスを着た、まだ五歳位の少女が笑顔でナタリーに声を掛けた。
水色の髪を胸まで伸ばし、瞳も青で将来美女に育つであろうという位可愛らしい少女だった。
「だって、お父様が子供の頃からずっとお城にいるって言ってたんだもん」
「それでもお姉ちゃんじゃ!! シャルよ、お主も皇女としてこの国に必要な存在じゃ。立派に育つのじゃぞ。お主は精霊に好かれておる。きっと精霊魔法を使えるようになるであろう」
「……? うん……わかった……ナタリーおばあちゃん」
「だからお姉ちゃんじゃ!!」
ナタリーはシャルーーシャルロット・ヴァン・ルネットを捕まえようとするが、スルリとと身をかわす。
シャルを追いかけ回していると、廊下を一人の少女が走って来た。
「シャルロット様〜! こんなところにいたぁ〜! 探しましたよぉ〜!」
金髪で肩で切り揃えた髪に、騎士服を纏い、特徴的な羊のように丸まった角を頭から生やし、シャルロットより少しだけ年上の少女、アルトリア・フォン・ミルダが息を切らして、二人の下へ駆け寄って行く。
「あ〜! アルに見つかったぁ〜!」
「もう、シャルロット様ったら。あ、ナタリー様、こんにちは」
「アルか……シャルの相手も大変じゃのぉ……」
「そうですよ……もう五才になりますから、そろそろ落ち着いてもらわないと……」
「まだ五歳ではないか。と言っても、人族は育つのが早いからのぉ……」
ナタリーが思いにふけながら考えると、シャルロットが思い出したように口を開く。
「そういえば……ナタリーおばあ……お姉ちゃん。城のみんながお姉ちゃんの事を『幼女賢者』って言ってるけど、どういう意味……?」
その言葉にナタリーの手には、炎の塊が浮かぶ。
「-―誰がそんな事言ってるのじゃ。妾が自ら教育してやらないといけないのぉ……」
黒い笑みを浮かべるナタリーに、シャルロットとアルトリアの二人はしまったと思った。以前、ナタリーがその表情をした時、弟子でも宮廷魔導師達が訓練に付き合わされ、ボロボロになって転がっていたのを思い出した。
「あ、思い出した。行かないといけないの。ナタリー……おばあちゃん、じゃあね!!」
その言葉を残し、シャルロットは逃げるように走って行く。
「ナタリー様、失礼します。シャルロット様〜!」
一人になったナタリーは浮かんだ炎を拡散させ消し、大きくため息をつく。
「だから……お姉ちゃんと言えと言ったであろう」
誰もいなくなった城の廊下で、ナタリーは呟いた。
その一月後、ナタリーは宮廷魔導師を辞し、旅立った。
国内の街を見て回り、そして隣国サランディール王国のフェンディーの街で店を開いた。
伝手を辿り格安で屋敷も購入したが、家精霊が住み着いており、住むのは認められなかったが、拒否はされなかったので、そのまま店の奥の住居に住み着いた。
魔法書や回復薬などを売りながら、たまにくる客の相手をする。経営的には赤字だが、生涯かけても使いきれない貯金を持ち、特に気にすることもなかった。道楽とも言える商売を行い、今までの経験を記していく。
――そして十年の月日が経った。
「シャルはいい子に育っておるかの……」
カウンターに肘をつき、懐かしい思いにふけながらため息をついたのだった。
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コメント
椎名ななせ
結局、回想と回想前に言った「...懐かしいの」の繋がりがよくわからなかった。
ノベルバユーザー206675
なるほどシャルといい感じになるパターンだな
伊予二名
帝国との縁がこんなところにあったとは