召喚された賢者は異世界を往く ~最強なのは不要在庫のアイテムでした〜
第9話 屋敷到着
「街が見えてきたぞ」
俺の言葉に御者台の後ろの小窓が開き、アルか顔を出す。
「あそこがフェンディーの街ですね、あそこにナタリー様が……」
しかしこのまま街へ入れるのだろうか。二人は身分を証明する物を持っていると思えない。
かと言って『ルネット帝国から来たので入れてください』と言っても問題になるだろう。
一応馬車に乗る前に質素な服は持ってきたらしく、着替えてもらっている。
考えているうちに街の入り口までたどり着いた。
コクヨウがひく馬車に門兵は警戒したが、俺の顔を知っている門兵で、顔を見ると警戒を緩めた。
「なんだ、トーヤじゃねーか。馬車なんてひいてどうしたんだ?」
「いや、ちょっと依頼で出てたんだが、馬車と人を拾ってな、盗賊に襲われたらしく馬もやられたから代わりに引いてるんだ。この街に知り合いがいるらしく連れてきた。中に入っていいか?」
「一応、決まりなんだ。中を確認させてもらうぞ」
俺は御者台から降り、馬車の扉を開けた。
中では二人が寄り添い合い、泣いている。
事前に説明してあるが、こうも上手く芝居をするとは……。
思わず苦笑するが、門兵も納得してくれたようだった。
「身分証明はなしか、なら銀貨二枚だ」
俺は懐から出した小袋から銀貨二枚を門兵に手渡す。
「これでいいか。とりあえず知り合いの所に連れて行くよ。ありがとう」
「おう! 慰めてやれよっ」
御者台に乗った俺は、門兵に礼を言い門をくぐり抜け街へと入る。
少し進んだところで小窓を開けて中に声を掛けた。
「もう大丈夫だ。このままナタリーのところへ行くぞ」
「ありがとうございます。それにしても芝居まですることになるなんて」
シャルは自分の芝居を思い出し、少し照れた表情をする。
馬車を進め街中を抜け、一軒の商店の前に馬車を止めた。
「着いたぞ。ここがナタリーの店だ」
御者台を降り、扉を開けると二人が降りてくる。
俺はコクヨウに待っているように伝え、そのまま店へ入る。
扉を開けた音で、気づいたナタリーが奥から出てきた。
「いらっしゃい……ってトーヤかい。どうしたのじゃ?」
「客を連れてきたぞ……」
その言葉の後、俺の後ろからシャルとアルの二人が店にはいってきた。
「――――ナタリー様……」
二人の事を視線に収めると、ナタリーは目を見開いた。
「シャルか……? それに、アルも……なんでお主たちがここに……」
以外な組み合わせなのか、俺と二人に視線を順番に送る。
シャルは目に涙を浮かべ、今にも飛びかかりそうであった。
その表情を察してか、ナタリーが口を開いた。
「事情がありそうだな……。ここではなんじゃ。トーヤの家に行くか」
なぜ、俺の家に……?
俺の役目はここまでだったはず。
「“アレ”が食べたいのじゃ。アレが……」
そう言いながら一冊の本をカウンターの置く。
「新しい魔法書を取り寄せておいたぞ。どうじゃ? これで手を打たんか」
……魔法書、確かに欲しい。
属性魔法はすでに今までの本で上級まで使える。他にナタリーの書いた魔法の考察の本もあったが、新しい魔法を覚えられるなら、それに越した事はない。
「……わかった。すぐに出れるか? 馬車で来ているから乗せて行くぞ」
「閉めるのはすぐじゃ。外で待っておれ」
三人で店から出て、二人には馬車に乗っているように伝える。
すぐに店仕舞いをしたナタリーも出てきた。
「準備終わったぞ。それにしても――立派な馬車じゃのぉ。こんなに帝国は発展したのか?」
馬車に乗りながら聞くナタリーにシャルは首を横に振る。
「これはトーヤ様の馬車です。ご好意で……」
その言葉にナタリーは目を見開く。
「――あとでじっくりと聞かせてもらうぞ?」
ニヤリと笑みを浮かべたナタリーは馬車へ乗り込んだ。
そして馬車は屋敷へと向けて進み出す。
程なくして屋敷へと辿り着いた。
屋敷の前に馬車を止め、扉を開けると三人が降りてくる。
シャルとアルは、冒険者の俺がまさかこんな屋敷に住んでいるとは思わず、口をポカンと開ける。
「トーヤ様、もしかして貴族のご子息でしたか……?」
その問いに俺は首を振りナタリーに視線を送る。
「この屋敷はのぉ、勝負をしてわしが負けたからトーヤにやったのじゃ」
ない胸を張るナタリーだが、そのお陰で家賃より高い税金を納める事になった俺は苦笑する。
扉を開け、屋敷に入るとすぐにフェリスが姿を現す。
「フェリスただいま」
他に客がいるからか、フェリスは言葉を発する事無く少しだけ笑みを浮かべ頷いた。
「お邪魔します……って家精霊!? トーヤ様!! この家には家精霊がいるのですか!?」
「あぁ、見ての通りだ」
目を輝かせるシャルはフェリスにそっと近づいていく。
フェリスは、近づくシャルを注視し、――コクンと頷いた。
「やはりな……」
「ナタリーどうしたんだ?」
「まぁいい。後で話す。とりあえずわしは”アレ”を所望するぞ」
ナタリーは何かに納得し、我が家のようにダイニングへと向かっていく。
シャルとアルの二人を案内した後、コクヨウを厩舎に入れてくると言い席を外した。
少しだけでも、三人の時間をつくってあげた方が良いだろう。
俺は屋敷を出て、馬車を次元収納に仕舞い、コクヨウを厩舎に連れていく。
新しい飼葉を置き、軽く撫でた後に屋敷へと戻る。
「お待たせ」
俺が部屋に入ると、怒っているナタリーと涙を流している二人がいた。
何もわからない状態で話に入るのは辛い。俺は先に人数分の紅茶を用意し、各自の前にそっと置いた。
そして空いている席に座る。
「――トーヤ、お主、少しの間、二人をこの屋敷に匿ってやってくれ」
「……えっ?」
いきなりの言葉に理解が出来ない俺は、そう返事をするしかなかった。
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