召喚された賢者は異世界を往く ~最強なのは不要在庫のアイテムでした〜

夜州

第10話 新たなる火種

 
 事情が理解出来ない俺にナタリーが説明をする。

「この屋敷なら十分部屋は余っているじゃろ? わしの店の住居部分では三人で生活するのは無理じゃ。それにな……」

 ナタリーは視線をシャルに送ると、無言でシャルは頷く。

「シャルは……貴族令嬢じゃ。アルはそれを守る騎士。それだけで察してくれ。フェリスも問題なさそうだしのぉ」

 確かに、先程、フェリスはシャルの顔を見て頷いていた。この屋敷にいても問題ないということだ。
 しかし……。

「トーヤ様、出来ればしばらくの間、この屋敷に置いていただけませんか? 家事でも、出来ることならばやります」

 シャルに上目遣いでお願いされると、断りづらい。
 どうしても美人にお願いされると弱い日本人が出てしまう。

「――わかった。とりあえず、この街で生活するのに二人とも冒険者登録はしてもらえるか? 街の出入りも楽になるはずだ」
「はいっ!」
「わかりましたっ」

 二人は大きく頷いた。

「わしはこれからやる事がある。だからな……“アレ”を所望する」

 ……真面目な話が終わったと思ったらこれか。
 ため息をつき、次元収納ストレージからプリンアラモードを取り出した。
 もちろん、一つだけと言わずに三つ取り出し、二人の前にも置いた。

「前と違うやつな。今日は一つしか出さないぞ」

 ナタリーには念押ししておく。そうしないとお代わりを求められるからな。

「これは……?」

 シャルとアルの二人はいきなり出されたものに首を傾げるが、ナタリーは目を輝かせ早くも手をつけようとしている。

「甘味だ。食べてみるといい。ナタリーだけに出す訳にもいかないしな」

 恐る恐る一緒に置いたスプーンを手に取り、警戒しながらも生クリームを少し付けプリンをひと掬いし口へと運ぶ。

 その瞬間、二人は驚きの表情をし、そして次第に頬が緩んでいく。

「甘い……そしてこんなに美味しいの食べた事ありません。王城でも……」
「本当に美味しい……生まれて初めてかもしれません」

 驚いている二人に口に生クリームをつけたままのナタリーが頷く。

「そうじゃろ。わしもこの甘味に負けて屋敷まで取られたくらいじゃからな」
「おいっ、ちょっと待てよ。人聞きの悪い事言うなよっ!」

 確かに賭けして勝ったし、お代わりの代金としてこの屋敷を譲り受けたが、家賃以上の税金は取られるし、いい事だけではない。
 紅茶を飲みながらも反論する。

 綺麗に盛られた甘味たちはいつのまにかなくなっていた。
 三人ともその空いた皿を見つめ、そして物欲しそうに俺を見つめる。

「ダメ! そんなにいっぱい食べたら……太るよ?」

 その言葉が効果的だったのはシャルとアルの二人だった。
 残念そうな顔をしてスプーンを置く。
 ナタリーも今日は諦めたのか、席を立った。

「トーヤ、二人の事を任せたぞ。わしはやる事が出来た。すぐに家に戻る」

 テーブルに俺に渡す予定だった魔法書を置き、シャルの耳元で囁いた後に屋敷を出て行った。

 三人だけとなった俺はフェリスを呼ぶ。
 フェリスは俺の言葉にすぐに姿を現した。

「フェリス、これからこの二人も住む事になった。よろしくな」
「……わかった……」

 頷いたフェリスを確認し、二人に視線を送ると、二人とも――唖然としている。

「家精霊が喋った……」
「私も初めて聞きました……」

 そういえば前にナタリーからも聞いていたな。でも、俺も初めての経験だから何と説明していいかもわからない。
 二人に詰め寄られるが、逆に俺が聞きたい。
 答えられない俺に二人は大きくため息をつく。

「トーヤ様が色々な意味で規格外だと言うことがよく分かりました。でもこの事は他言しないほうがよろしいかと思います。家精霊が話したなんて広まったら……」
「確実に貴族に屋敷を取り上げられますね」
「ええ、そうなるでしょうね……」

 二人の言葉に俺は生唾を飲み込み頷いた。さすがにせっかく手に入れた屋敷を今更手放したくない。

 落ち着いた二人を部屋へと案内する。階段を登り、右奥が俺の部屋となっていることを説明し、反対側の空き部屋の好きな部屋を使っていいと伝えた。
 どの部屋もフェリスがいるお陰で綺麗になっている。
 一番奥の広い部屋をシャルが使い、その隣の部屋をアルが使うことが決まった。
 実際アルの使う部屋ですら、俺の日本にいた時の部屋より広いんだよな、とため息をつく。
 それから屋敷の中を案内していく。
 もちろん風呂についても。二人ともいつでも入れる風呂に感激していた。

 そして俺は冒険者ギルドに行くことを伝える。
 二人の登録に関しては、明日以降とする事にした。この街までくる疲れを考えたら、その方がいいだろう。
 風呂も自由に入っていいと伝え、俺は屋敷を後にした。

 
 冒険者ギルドに着くと、受付にいたミリアに声を掛ける。

「あ、トーヤさんお帰りなさい。もう調査は済んだんですか? 報告を聞きましょうか」
「その事についてだが、ちょっとサブギルドマスターに話しておきたい事がある」

 俺の真剣な表情を察し、「ここで待っててください」と一言残し奥へと入って行く。
 そして数分でエブランドとともに出てきた。

「個室に案内します」

 ミリアとともに六人ほどが打ち合わせできる部屋に案内され、席に座る。

「で、北の森はどうだった……?」

「まずはオークの集落があった。そしてオークキングがいた」

 その言葉にエブランドは立ち上がる。

「なんだとっ!? キングが出ていたか! すぐに冒険者に集合かける」
「いや、キングはもう倒したから問題はない。それよりも――」

 まず取り出したのは、冒険者カード二枚。テーブルの上に置いた。

「捕まっていた冒険者たちのカードだ。残念だが遅かった……。遺体も持って帰ってきてる」
「――そうか、ご苦労だった。手間を掛けさせたな」

 ため息をついて席に座ったエブラントは、カードを手に持ち、名前を確認した後、ミリアに手渡した。

「それともう一つある。これを見てくれ」

 テーブルの上に鎧を一つ置く。

「――――ジェネレート王国の兵士と戦闘になった」

「何っ!?」
「何ですって!?」

 俺の言葉に二人は、テーブルを叩き先程以上の勢いで立ち上がった。。

 


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