召喚された賢者は異世界を往く ~最強なのは不要在庫のアイテムでした〜

夜州

第21話 望まない客

 
 飛びかかってきたナタリーを再度宥め、椅子に座らせる。
 しかし息巻いたナタリーの興奮は留まることはなかった。

「二人にレベルを抜かされたじゃと……。わしが長年かけ、この世で一番じゃと思っていたのに、ここ数日で抜かれるなんて……。トーヤ! お主、二人に何をした!? ずるいぞ! わしにも教えるのじゃーー!!」

「まずは落ち着け。話はそれからだ」

 俺の言葉にシャルとアルの二人も頷く。
 ナタリーは深呼吸し、少しだけ落ち着くのに時間を要した。

「もう大丈夫じゃ。それで、聞かせてほしいのじゃ」

 説明と言っても、ただ、魔物を倒しただけだしな。どう説明しようか……。

「ナタリー様、トーヤ様はこの数日間、ずっと魔物の戦いと模擬戦を繰り返しただけでした、ですが……」
「……ですが……?」
「トーヤ様からは、多大な装備を貸していただき、大幅なステータス増加、そして……」

 シャルは自分の左手を見て頬を染める。

「愛の力かと」
「……愛の力じゃと……?」

 ……おい、へんな事言うな。
 余っていてたまたま持っていた装備を貸しただけだ。

「えぇ、愛です。この指輪を頂いてから飛躍的にレベルが上がりましたから。きっと愛の力がそうさせたのです」
「なっ!? 指輪じゃと……」

 ……いや、その指輪も貸しただけだからね?
 渡した時にちゃんと説明したよね? 

 シャルの言葉に、アルも同調し、うんうんと頷いている。
 ナタリーは目を見開き、そして視線を俺に向ける。

「トーヤ、お主。同衾する前に二人に指輪まで……。すでに娶るつもりじゃったのか」

「…………えっ?」

 ナタリーの言葉に俺は思わず聞き返す。

「なんじゃ、そのとぼけた顔は? この世では、指輪を渡すのは妻になる者に渡すのじゃ。指輪をしたら、もう婚姻も認めたのと同様じゃ」

「そんな話、初めて聞いた……ぞ?」

 視線を二人に向けると、シャルとアルは横に視線を逸らす。

 ……お前ら知っていたな……。だからあの表情を……。

「お主知らなかったのか……? 一度指輪をつけたら婚姻とみなし、それを外せというのは、婚姻を解消したということじゃ。お主、皇女と貴族令嬢を二人とも破棄すると言うつもりではなかろうな?」

 ナタリーの言葉に返す言葉がない。

「むぐぐぐ……。――わかった。さっきも言った事だ。二人娶ることにする。但し、皇帝を救い、許可を貰えたらにしてくれ」

 もう二人の国を助けると決めたのだ。知らなかったとはいえ、今更変えるつもりもない。

 俺の言葉にシャルとアルは頬を緩ませる。

「二人……? お主……わしが抜けておるぞ? 同衾したのじゃからのぉ。責任を取ってわしも娶ってもらわんと困るのじゃ」

 にやりと笑みを浮かべるナタリーに俺は大きくため息をついた。
 期待をした目を送ってくるナタリーに俺は次元収納ストレージより、もう一つの指輪を取り出す。
 アルに渡した経験値30倍のアイテムだ。
 指輪を受け取ったナタリーは満面の笑みを浮かべ、自分の左手の薬指につけてご満悦になっている。

 
「それよりも……街を出るための準備をしよう。今日はまだ足らない食材の買い出しだ。他にもーー」

 俺の言葉を遮るようにフェリスが現れた。

「……トーヤ、誰かきた」

 こんな時に。と、思いながらも俺は席を立つ。
 そして玄関の扉がノックされた。
 俺はため息をつき、扉を開けると、そこには――――。

 同じ鎧を着た兵士が十人、そして真ん中に豪華な服を着た二人が立っていた。

「――お主がトーヤか? わたしはこの街の代官をしている、ガラン・フォン・サイナンスだ。お主のところで匿っているルネット帝国の二人を引き渡してもらおうか」

 ……ついに来たか。あと数日あれば逃げ出すことが出来たのに。
 思わずため息をつく。
 そして――。

「断る。引き渡すつもりはない。帰ってくれ」

 即答した。
 これ以上の言葉はない。

「なんだとっ!? ギルド登録者がわしらに意見するのか!?」

 もう一人の豪華な服を着ている男が激昂して吠える。
 これがエブランドが言っていたギルドマスターか。

「何度も言わせるな。断ると言ったんだ」

 俺の言葉にギルドマスターらしき男は拳を握りしめ、震えている。
 そして代官のガランが手で制す。

「仕方ないの……。それではお前ら、こやつを捕らえろっ!」

 ガランの言葉に兵士が向かって来るが、最初の一人を蹴り飛ばし、俺は玄関の扉を閉め、前に立つ。

「捕らえるだと……。出来るものならやってみろ」

 右手をガランに向けると、火の球が十ほど浮かび上がる。

魔法術師マジシャンだとっ!? お前は回復術師プリーストではないのかっ!?」

 俺の登録内容は事前に調べて知っているか。

「さぁな? それで、捕らえるつもりなのか?」

 俺の言葉と同時に、兵士たちがもう一つの“モノ”に視線が移っていく。

「出てきてくれたのか。ありがとうな」

 俺のすぐ隣に黒曜馬バトルホースのコクヨウが並ぶ。
 そして――――俺の頭を甘噛みする。

「お前、ちょっと状況を考えてくれよっ!!」

 涎のついた頭をローブの袖で拭いた後に、俺はまた代官へと向き直る。

「それで……誰が誰を捕まえるだって?」

 にやりと笑う俺に、全員が顔を痙攣らせた。

 

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