異世界支配のスキルテイカー ~ ゼロから始める奴隷ハーレム ~

柑橘ゆすら

一攫千金

 

 スピカの予想通り。
 洞窟の中には、トラバサミや落とし穴と言った冒険者たちを対象としたトラップが幾重にも仕掛けられていた。

 けれども。
 類まれな運動神経を持った悠斗は、それらを嘲笑うかのように回避して洞窟の奥に進んで行く。

 コボルトたちとの戦闘は洞窟の奥に行く度にその頻度を上げていた。

 他の魔物には見られない統率の取れた集団戦を仕掛けるコボルトたちであったが、悠斗にとっては有象無象の存在である。

 アリの群れがゾウには勝てないようにコボルトたちの大群は、次々に蹴散らされて行く。


 ~~~~~~~~~~~~


「スピカ。コボルトのボスの臭いは近いか?」

「はい。おそらくはこの先の突き当たりだと思います。かなり臭いが強くなってきました」

 スピカの嗅覚は相変わらずに優秀であった。
 悠斗の力だけでは、ボスの場所までは辿り付けなかっただろう。


「あれ……? おかしいですね。臭いは確かにこの先にあるのですが……」


 突如として行き止まりにぶつかったスピカは、怪訝な表情を浮かべる。
 悠斗は勝利を確信したかのような笑み零して。


「こういう場所には隠し扉があるものだって相場が決まっているんだよ」


 勢い良く目の前の壁を蹴り破る。
 悠斗の予想していた通り、壁を壊した先には小さな隠し部屋があった。

 そこあったのは宝の山としか形容のできない貴重なアイテムの数々である。


(やはり……! 冒険者たちから奪った装備を随分と貯め込んでいたみたいだな)


 最初にコボルトたちに遭遇したときから――。
 悠斗はこうなる事態を薄々と予感していた。

 リケルトは部下であるコボルトたちを使って悠斗たちを取り囲み「手持ちのアイテムを全て置いて行け」と命令していた。

 その一連の動作は手馴れており、これまでに何度も同様の手口を使っていたことは明白であった。

 そのため。
 これまで冒険者たちから奪ったアイテムが、この洞窟の何処かに存在している可能性が高いと悠斗は考えていたのである。

「ご主人さま。姿は見えませんが、あの壁の隅からコボルトのボスの臭いがします」

「ああ。大丈夫。俺には見えているよ」


 リケルト・ローディアス
 種族:コボルト
 職業:族長
 固有能力:透過


 おそらく透過の固有能力を使用しているのだろう。
 その姿こそ見えないが、《魔眼》のスキルにより悠斗はリケルトの体から浮かび上がったステータス画面を確認していた。

「なあ、リケルトさんよ。観念したらどうだ?」

 悠斗が問い詰めるとリケルトは透過を解除してその姿を現す。

 リケルトは透過のスキルが通じないと判断するや否や。
 頭を地面に擦りつけて土下座の姿勢を取る。

「参った! ワシの負けだ! この通り……持っている宝は全てお前に譲渡する。だからせめて……仲間の命だけは助けてやってはくれないか?」

「ふーん。自分の命よりも仲間が大切ってことか?」

「ああ。ワシにはここら一帯のコボルトたちを統括する族長としての責務がある」

「分かったよ。俺の目的は宝だけだ。お前らに敵意がないと言うのならこれ以上は、この場を荒らしたりしねえよ」

「……すまない。恩に着る」

 リケルトは悲痛な面持ちで再び頭を下げる。
 悠斗の興味は敗軍の将から、目の前の宝にシフトしていた。

 部屋の中にある大きな樽の中を覗きこむ。

「おぉ! スピカ。こいつを見ろよ! レアなアイテムが山のようにあるぜ!」

 悠斗が興奮気味に叫んだそのときであった。



「クハハハ! 死ね! 糞ガキがアアアァァァ!」



 リケルトは腰に差したナイフを鞘から抜き――。
 ネームドモンスターに相応しい凄まじいスピードで悠斗の背中に飛びかかる。

「ご主人さま! 後ろです!」

 スピカが叫んだ直後。
 悠斗の放った回し蹴りは、リケルトの頭蓋を砕く。


「ぶごっ!」


 瞬間、リケルトの体は洞窟の岸壁に衝突し――。
 地震が起きたかのように洞窟の中が揺れる。

 砕かれた頭蓋の一部が脳に突き刺さった結果。
 リケルトは、そのまま絶命していた。

 それは王国の騎士団ですら恐れる《ネームドモンスター》と戦っているとは思えない――。

 あまりにも呆気のない幕切れであった。

「ご主人さまは……この魔物が約束を破ることを予想していたのですか?」

「ん。まあな」

 いくら悠斗が戦闘の達人とは言え――。
 事前に想定をしていなければ、先のようなタイミングで反撃をすることは叶わなかっただろう。

「理由を聞いても良いでしょうか?」

「簡単に言うとコイツが……それなりに優秀なリーダーだったからだよ」

「……?」

 悠斗の言葉を受けたスピカは頭上にクエッションマークを浮かべる。

「逆にコボルトたちを率いるリーダーの立場になって考えてみれば分かるよな。宝を渡せば俺が他の仲間を見逃すって保証が何処にもないだろう? 頭の切れる奴ならそんな口約束に頼るような真似は絶対にしねえよ」

「……あっ」

「結局。こいつらが平穏を得るための道は、危険分子である俺たちを排除するより他はなかったんだ。だから口約束なんて破って当然。別にそれが卑怯なんてこっちも思っていないし」

 悠斗はさもそれが当然のことのような平然とした口調で。

「逆に俺がこいつの立場だったら仲間を守るために同じことをしたと思うぜ? 仲間の命を守るためなら汚れた手段も厭わない。それが人の上に立つ者としての当然の責務ってやつだろう?」

「…………」

 悠斗の主張はスピカの胸の中にスッと落ちる。
 そしてスピカはこのとき悠斗の中にある『人の上に立つための器』を見出していた。


(もしかすると……ご主人さまは、この乱世の時代に終止符を打つための『王』たる運命さだめを持って、異世界から召喚されたのではないでしょうか……?)


 自らの胸の動悸を抑えることが出来ない。
 今回の一件を経たスピカは、悠斗の中に未知なる可能性を見出すのであった。



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コメント

  • ペンギン

    最後のが本当ならば、これからはもっと面白くなりそうですね!w

    3
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