異世界支配のスキルテイカー ~ ゼロから始める奴隷ハーレム ~

柑橘ゆすら

VS アーク・シュヴァルツ2



「ようやく会えたな。コノエ・ユート」


 男にしてはやや高い声質ながらもアークの言葉は不思議と悠斗の中にどっしりと響いた。
 この時点で悠斗は目の前にいる人物が正真正銘本物のアークであることを確信した。


「オレの名前はアーク。アーク・シュヴァルツ。レジェンドブラッドの最後の1人と言った方が早いか? 貴様のことはミカエル。ソフィア。サリーから聞いている。仲間たちが世話になっているようだな」


 これまで出会ったレジェンドブラッドのメンバーとは格が違う。

 魔術師『ミカエル・アーカルド』、賢者『ソフィア・ブランドール』、 武闘家『サリー・ブロッサム』。

 いずれもそうそうたる実力者であったが、アークと比較をすると、同じグループに所属しているのが信じられないほどに見劣りしてしまう。


「そりゃどうも。……で、高名な勇者さんが俺に何の用だ?」

「まぁ、そう言うな。こう見えてオレは、貴様と会える日を心待ちにしていたのだから」


 アークはそう告げると悠斗の体を観察するように眺め回す。


「しかし、そうか。どうやら貴様の実力はオレが期待していたものを遥かに下回っていたらしい。端的に言って興味が失せたよ」

「なに……!?」

「もう1度言おうか。オレから言わせると貴様は単なる井の中の蛙に過ぎんということだ」

「…………」


 これほどまでに貶められるのは何時以来だろうか?
 アークの挑発を受けた悠斗は闘争心を掻き立てられていた。


「面白い。そこまで言うからには、あんたは俺より強いんだろうな?」

「当然だ。貴様など100人が束になったところでオレの足元にも及ばんよ」


 そこまで言われたところで悠斗の決意は固まっていた。

 悠斗は体に残っていた最後の力を振り絞り、《鬼拳》を発動。
 勢いよく地面を蹴ると、力一杯にアークに対して拳を入れる。


《破鬼》


 自らの身体能力を向上させる《鬼拳》を発動させた状態で、近衛流體術の究極奥義である《破拳》を使用するこの技を悠斗はそう呼んでいた。

 悠斗が放った《破鬼》は強烈なソニックブームを発生させて周囲の粉塵を巻き上げていく。

 目が覚めるような渾身の一撃。
 体に疲労は残っていたが、途中で休憩を挟んだことによって納得の行く威力で攻撃を放つことができた。

 だがしかし。
 そこで驚くべきことが起こった。


「な……に……!?」


 グニャグニャとした『何か』が拳に纏わりついて威力を落とす。
 どういうわけか悠斗の《破鬼》は、柔らかい透明の壁のようなものに阻まれてアークの体に届くことはなかったのである。


「――なるほど。大した打撃だ。だがそれだけに惜しい。貴様の体があと200年ほど長く生きられるようなものだったら、その牙はオレに届き得たかもしれないのだがな……」


 アークは意味深な言葉を口にすると、パチンと指を鳴らす。

 その直後。
 見えない壁が悠斗の体をはじき返す。


「グッ……!」


 洞窟の壁に体がぶつかった悠斗は鈍い声を漏らす。

 スキルでも魔法でもない。
 正体不明の力を目の当たりにした悠斗は狐につままれたような気分に陥っていた。


「教えてやる。その壁の正体は超高濃度の魔力だ」

「魔力……だと……!?」


 トライワイドに召喚されてから悠斗は魔力の扱いをそれなりに心得てきたつもりであった。

 だがしかし。
 それだけに考えられない。

 魔法でなく、魔力そのものが物理的に干渉するなど通常起こり得ないのである。


「――《転生》。結論から言うとそれがオレの持っている固有能力だ」


 転生@レア度 詳細不明
(命を落とした時、別の生物に生まれ変わる力。転生後もこのスキルは引き継がれる)


 世界広しとは言っても《転生》に勝る固有能力は存在しないだろう。


「魔力とは――魂の器。長い年月をかけて、少しずつ大きくしていくものだ。俺は1000年を超える時を欠かさず鍛錬に当てることで――魔族すらも遥かに凌駕する魔力を獲得した。お前がどれだけ強くても、攻撃が届かないのであれば無意味だろう」


 圧倒的な魔力差は、時に物理的な壁となり戦闘に大きな影響を与えることになる。

 これが悠斗の攻撃がアークに通じなかった原因であった。
 トライワイドに召喚されてから日の浅い悠斗の潜在魔力量は、未だに一般人の領域を抜け出せていない。

 それは他ならない悠斗が最も理解していることであった。


「お前の力が通用するのは、せいぜい上級魔族まで。ここから先、邪神の力を身に宿した《ブレイクモンスター》との戦闘になれば遅かれ早かれ犬死することになるだろうな」


 邪神の力を有するブレイクモンスターは、上級魔族すら軽々と凌駕する魔力量を保有している。
 生身の人間が近づこうとすると魔力の壁に阻まれて、意識を失うほどの重症を負うこともあった。


「待てよ。ブレイクモンスター? もしかしてその金色のオーガのことか?」

「――世界の破滅は近付いている。邪神の復活が近づくにつれて、このオーガのような凶悪なモンスターが次々に出現するようになるだろう」


 この時、悠斗はアークが口にした言葉の意味を全て理解できたわけではない。


 魔族たちが総力を挙げて復活を企んでいる邪神。
 邪神の復活に伴い各地に出現しているブレイクモンスター。


 これらの情報は、レジェンドブラッドを始めとする一部の人間しか知りえることができないトップシークレットであった。

 だがしかし。
 言葉の意味は分からなくても、次に自分がしなければならないことが何なのかについては自ずと理解することができた。


「分かった。なら、とっとと俺が強くなるための方法を教えろよ。何かあるんだろ?」

「……何故、そう思った?」

「――俺に武術を教えてくれたオヤジがよく使っていた手だ。誰かに物を教える時は、まずはそいつの鼻っ柱を折っちまうのが一番手っ取り早いんだ。お前のやり方はオヤジにそっくりだったぜ」


 本気で誰かを強くしたいのであれば『嫌われ者』になる覚悟を持たなければならない。

 近衛流體術の師範である悠斗の祖父が口にしていた言葉である。
 武人の『強さ』というものは、潜ってきた地獄の数に比例する。 

 真に優れた師匠というものは、一切の躊躇いなく我が子を崖から突き落とすことができるものなのである。


「……くえない男だ。神聖都市マクベールから北に100キロほど向かった場所に《エルフの里》と呼ばれる地域がある。そこにいる『ユナ』という女に会ってみろ。オレから言えることはそれだけだな」

「サンキュ。恩に着るぜ。英雄さん」


 そうと決まれば話は早い。
 悠斗はさっそくアークと別れて《エルフの里》に向かうことにした。

 無言のまま悠斗の背中を見届けていたアークであったが、そこで自らの体に起こった異変に気付く。


「ゴフッ……」


 突如としてアークの喉に血がせり上がる。
 多量の血液を吐き出したアークは服の袖で口元を拭う。


(まさか……このダメージは先程の一撃で……?)


 俄かには信じ難い。
 物理的なダメージはすべて魔力の壁によって相殺したはずであった。

 それなのに何故?
 どうしてダメージを受けることになったのかアークには理解ができなかった。


「――コノエ・ユート。見極めてやるよ。貴様の真価をな」


 自身の固有能力により1000年以上の月日を生き長らえてきたアークはこの世界に飽いていた。

 地位も、名誉も、女も、彼にとっては遊び飽きた玩具のような存在である。
 悠斗という恰好の玩具を発見したアークは、不敵な笑みを零すのであった。

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