異世界支配のスキルテイカー ~ ゼロから始める奴隷ハーレム ~

柑橘ゆすら

2人の罪人



 それから翌日のこと。
 スピカとの熱い夜を過ごした悠斗は冒険者ギルドの『局長室』に呼び出されていた。


 オスワン・マルチネス 
 種族:ヒューマ
 職業:ギルド職員
 固有能力:なし


「久しぶり。よく来てくれたね。ユートくん」


 局長室の中で悠斗のことを待っていたのは1人の中年男性であった。

 男の名前はオスワン・マルチネス。

 昔はシルバーランクの冒険者としてエクスペインの街にその名前を轟かせていたらしいのだが、全くそんな面影は残っていない。

頭髪は歳相応に薄く、お腹も歳相応にポッコリとしている男だった。


「今日キミのことを呼び出したのは他でもない。先日、アクアドラゴンの一件なのだが、引き取り先が決まってね。なんでも王立の博物館に置かれることになったらしい」

「本当ですか!? ありがとうございます!」


 悠斗が討伐したドラゴンは『絞殺』という特殊な討伐方法を取ったため、剥製にすることが可能な状態であった。

 ドラゴンという生物は、その神聖な外見からモンスターたちの中でもとりわけ人気の高い種族である。
 オスワンは悠斗に売却益である3000万リアを支払うという約束を取り付けた。


「そこでだ。ユートくん。ものは相談なのだが、ゴールドランクの昇格試験を受ける気はないかね?」


 オスワンの提案はかねてから審議されていたことであった。
 ここ最近の悠斗の活躍は目覚ましく、今回のアクアドラゴンの一件が決定打となった。

 だから悠斗はオスワンの言葉を何の疑いもなく聞き入れていた。


「はい。喜んで。それで、具体的に俺は一体何をすればいいんですか?」

「話は簡単だよ。キミにはこれから私が指定するエリアの探索に向かって欲しい。その奥に隠されたコインを見つけることが出来れば晴れてゴールドランクに昇進だよ」

「分かりました。コインを探してくれば良いんですね」


 ゴールドランクの昇進試験にしては簡単過ぎるのでは?
 という気がしないでもないのだが、考えてみればシルバーランク昇進の時も同じような条件を出されたことがあった。

 その時は裏でオスワンが魔族と結託していたこともあって思いがけない窮地に立たされることになったが、後にオスワンが謝罪したことによってこの一件は穏便に解決していた。


「詳しい情報はこの地図に書いておいた。なんでもこの場所は最近、『物騒なモンスター』が出現するという噂もあるが、張り切って試験に励んで欲しい」


 オスワンが悠斗に対して上着のポケットから取り出した地図を受け渡そうとした直後だった。


「待ってくれ! アニキ!」


 突如として部屋の中に男の声が響き渡る。
 声のした方に目をやると、そこにあったのは部屋のガラス窓に張り付いた小さな蜘蛛の姿であった。


 ぽわわわ~ん。


 やがて小さな蜘蛛は煙に包まれて1人の男の姿に形を変えていく。

 不自然なほどに大きな顔を持ったその男は、悠斗にとって見覚えのある人物だった。


「アニキ! その男はウソを吐いています! エドワードと結託して、アニキを嵌める気でいるんです!」


 声高に叫んだギリィは満身創痍の様子だった。

 左右の腕が刃物によって切り落とされて、ポタポタと床に血を垂らしていた。


「どうしたんだよ。そのケガ?」


 物心ついた時から戦いの世界に身をおいていた悠斗だから分かる。

 モンスターとの戦闘で受けたダメージとは思えない。
 誰かが人為的にギリィの両腕を切り落としたことは明らかであった。


「へへっ。オイラのことはいいんでさぁ。それよりそこにいる男……とんでもないタヌキですぜ」

「と、突然何を言い出すんだ! ユートくん。その男の言葉を信じなくても良いからな!」


 思いがけない乱入者の存在に誰よりも困惑していたのはオスワンだった。


「オイラ、蜘蛛の姿に変身して、ずっとエドワードの後を付けていたんでさぁ。するとビンゴでした! エドワードは今の今までオスワンとアニキを殺す計画を企てていたんです!」


 ギリィに続いてエドワードが悠斗抹殺計画のパートナーに選んだのは、ギルド局長のオスワンであった。

 腕を切り落とされ流れも気力でエドワードの後を付けてきたギリィは、計画の全貌を聞き出すことに成功していたのである。


「オスワンの言葉に従ったら最後です! いいですかい。アニキ。エドワードは洞窟の中のモンスターを……」

「あ~。そういう計画の内容とかはいいからさ。ちょっと腕の傷を見せてみろよ」

「し、真剣に聞いて下せえ! エドワードは――」


 埒が明かないと判断した悠斗は自らギリィの傍に歩み寄る。


(……15倍ヒール!)


 呪文を唱えたその直後。
 掌から放たれた絶大な光がギリィの傷を癒していく。


「ふぅ。いっちょ上がり」


 瞬間、局長室の中は水を打ったかのように静まり返っていた。

 何故ならば――。
 悠斗の回復魔法は失ったはずのギリィの腕を完璧に再生してしまったからである。


(ハハッ。信じられねえ……。これがアニキの力……!?)


 驚きのあまりギリィは乾いた笑い声を漏らすことしかできないでいた。

 強さの底がまるで知れない。
 悠斗の武術が天才的であることは既に知ってのことだったが、人体を再生するレベルの回復魔法まで有しているとは流石に予想外であった。


(そうか。オイラ……気付いちまったぜ……)


 瞬間、ギリィはどうして悪事から手を引く決心がついたのか――。

 自分の中の本当の理由を知ることができた。


 ――バカらしくなってしまったのである。


 悠斗という『本物』に出会い、自分がいかにちっぽけな存在だったのか思い知ることができた。
 他人を出し抜くために『弱者』同士で蹴落としあっている現状が途端に滑稽に見えてきたのあった。


「……おい。なんの真似だ。ユートくん。まさかキミそこにいるゴミクズの言葉を信じる気ではないだろうな?」


 悠斗の取った行動に不信感を抱いたのはオスワンだった。


「おい! 誰かそこにいる薄汚いムシを叩き出せ!」


 オスワンの声によって局長室に滞在していた警備員たちが一斉にギリィの元に駆け寄っていく。

 悠斗は警備員たちの動きを右腕1本で静止する。


「ユートくん。残念だが、その男を庇うようならゴールドランク昇進の件は白紙にさせてもらうよ」

「…………」


 悠斗は無言だった。
 ただただ呆れた表情を浮かべながらもオスワンの元に1歩、1歩近づいていく。


「お前、頭おかしいんじゃないか! その気になればお前のことをギルドから永久に追放することだって出来るんだぞ! 一体どちらの言葉に従うのが利口かもう一度……ブフォォッ!」


 顔面の形が変形するほどの強烈な拳を受けたオスワンの口からは、無数の歯が零れ落ちる。

 激しく脳を揺さぶられた体をピクピクと痙攣させたまま意識を失っていた。


「――そう言えばお前は2回目だったよな。悪いが俺は、同じ失態を2回続けて許すほど気が長くねえんだ」


 人間ならば誰しも一度くらいなら『魔が差す』という経験をしたことがあるだろう。
 だから悠斗は可能な限りで自分に歯向かってきた相手に対しても、1回目に限っては可能な限りで寛大な処置で応じようと心に決めていた。

 だがしかし。
 オスワンは悠斗の善意を土足で踏みにじった。

 前回の昇格試験では魔族と手を組んで悠斗を陥れる計画に加担して、今回はエドワードと結託して同じことをしようとした。

 即ちそれは悠斗にとっての制裁の対象となったことを意味していたのである


「ギリィ。忠告サンキューな。今日のことで貸し借りはゼロってことにしておいてやるよ」


 悠斗は推測する。
 詳しい事情は分からないが、ギリィの体がボロボロなのはオスワンの裏切りを伝えるために相当な無茶をしたからに違いない。


「アニキ……? 何処に行くんですかい……?」


 ギリィは不思議そうに首を傾げていた。

 何故ならば――。
 どういうわけか悠斗はオスワンの掌から落ちた地図を拾って、局長室の扉に向かっていたからである。


「ああ。せっかくの機会だしエドワードっていうやつにも『更生のチャンス』を与えてやろうと思ってな」


 姑息な手段を用いて、ワナにかけようとしたエドワードという冒険者は、悠斗にとって到底許しておくことができない存在であった。

 だがしかし。
 他の人間に対して与えた『更生のチャンス』をエドワードにだけ与えないというのも不公平な話だろう。

 拾い上げた地図を固く握った悠斗は不敵な笑みを零すのだった。







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コメント

  • ノベルバユーザー174141

    人物とか技の詳細とか何度も説明しなくてもよくないですか?

    9
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