異世界支配のスキルテイカー ~ ゼロから始める奴隷ハーレム ~

柑橘ゆすら

釣りバトル



 寄せては返す白波が堤防の下に打ち付けている。
 必要な道具が集まったところでサクラと悠斗の最終決戦は幕を開けることになった。
 
 勝負のルールは簡単。
 日没までの間により大きな魚を釣った方の勝ちである。

 普通に戦えば釣りの経験者であるサクラの方が有利になってしまう。

 そこでサクラはシルフィアを悠斗のチームに参加させての、2対1の変則マッチを提案することになった。


「へぇ。色々な道具があるんだなぁ」


 サクラから貸し与えられた釣具を目にした悠斗は感心していた。

 異世界だからと言って侮ってはならない。
 この世界の釣具は、海中に潜んでいる凶悪なモンスターを釣り上げるために独自の発展を遂げていたものであった。

 釣り竿、リールと言った基本的な道具から、仕掛けとなる道糸、釣り針に至るまで、どの道具も魔法による強化が施されて、頑強な作りとなっている。


「主君。サクラは手ごわいぞ。ナルビアの街で育った子供は、物心つく前から釣り竿を持って遊んでいたのだ。釣れる魚の種類、根がかりするポイント、潮の流れ、この辺りの地形を全て知り尽くしている」

「――大丈夫。やるからには絶対に勝ってみせるさ」


 悠斗の返事にはシルフィアの不安を吹き飛ばすような力強さがあった。

 何故だろう。
 絶体絶命の状況であるにもかかわらず、不思議と負ける気が湧き上がってこない。

 自信に溢れる悠斗の言動には、昔から周囲に人間を勇気付ける不思議な効果があったのである。


「ところでシルフィア。この釣り糸ってどうやって結ぶんだ?」

「……はい?」


 とても冗談で言っているようには思えない。
 釣り糸に触れる悠斗の手つきは、完全に素人丸出しだった。


「悪い。実を言うと釣りをするのは初めてなんだ。色々と教えてくれると助かるわ」


 近衛流體術とは、『世界各国に存在する全ての武術の長所』を取り入れることで、《最強》を目指すというコンセプトを掲げている異流武術である。
 
 悠斗がこれまで極めた武術は実に60種類以上。
 
 更にはそこに戦闘に役立ちそうなスポーツなどを含めると優に100種類を超える技術を極めているのだが、その中には『釣り』という種目は含まれていなかった。

 何故か?
 それというのも悠斗が習得している武術・スポーツは、あくまで戦闘に役立つ可能性のあるものに限定されているからである。

 悠斗の知る限り『釣り』とはあくまで娯楽、レジャーの分野であり、それが戦闘の役に立つとは思えなかったのである。


「そそそ、それで本当に大丈夫なのか!?」

「ああ。釣りって聞いた時にピンときた。いざとなったら絶対に勝てる秘策を思い浮かんだんだ。シルフィアは大船に乗った気持ちでいてくれよ」


 表情に不安の色を滲ませるシルフィアであったが、悠斗の中の自信は揺るがない。
 シルフィアにできることは悠斗の言葉に従って、道具の使い方を教えることだけであった。


 ~~~~~~~~~~~~


 悠斗たちチームが釣道具のセットを完了した頃には、既に日没まで残された時間は3時間を切っていた。


「よし。ひとまずこれで準備は整ったみたいだな」


 先行するサクラは既に釣り糸を水面に垂らしており、足元で数匹の小魚を釣り上げていた。
 もしも悠斗たちチームが1匹も魚を釣ることができなければ、その時点でサクラの勝利は確定することになる。


「主君。最後に1つ、重要なものを忘れているぞ!」


 そう言ってシルフィアが掲げたのは、年季の入った木箱である。
 中を開けるとそこにいたのは、木屑の中でウネウネと蠢く無数の生物の姿であった。


「イソメと呼ばれる万能餌だ。少しグロテスクではあるが、これ1匹で色々な魚を釣ることができる優れものだぞ」


 得意気に語るシルフィアは、イソメの口の中に釣り針を引っかける作業に入っていく。
 イソメが口を開ける一瞬のタイミングを見計らって釣り針かけるテクニックは、慣れるまでに時間がかかりそうなものであった。


「何故だろう。私は昔、このヌメヌメがどうしても苦手だったのだが……。やはり大人になると気にならなくなるものなのだろうか……?」


 この時、本人にとって自覚はなかったのだが、シルフィアが苦手のヌメヌメを克服することができたのは、毎晩のように悠斗の触手攻撃を受けているからであった。

 まさかこんなところで『夜の訓練』が役に立つことになるとは予想外であった。
 悠斗の触手攻撃を受けることによってシルフィアは、ヌメヌメとした生物に対する耐性を強めていたのである。


「エサを付けた後は、いよいよ仕掛けを投げる番だな」


 シルフィアは剣を振るかのような軽やかな動作で、先端に鉛を結んだ釣り糸を空高くに放り投げる。

 ポチャン。
 シルフィアの投げた釣り糸は、堤防から50メートルの地点に落下して、赤色のウキを浮かばせることになった。


「これで後は魚がかかるのを待つだけだ。今回は釣れた魚のサイズを競うのだから、なるべく水深の深い遠くまで飛ばすのが良いだろうな」

「なるほど。大体分かった」


 釣りに関しては素人とは言っても、一度見た動作を真似ることに関して悠斗の右に出るものはいない。
 悠斗は先程目にしたシルフィアの動きを参考にして、エサを付けると、竿先から伸びた釣り糸をナナメ45度の角度で放り投げる。


 ビュオオオオオン! ジャポンッ!


 結果、悠斗の投げた仕掛けは、堤防から100メートルほど離れた地点にまで飛んで行くことになる。


「恐れ入ったぞ! 流石は主君だ! 私の仕掛けよりも遥かに遠くに飛んでいるぞ!」


 シルフィアは驚愕していた。 

 とても釣りが初めてとは思えない。
 悠斗の叩きだした100メートルという飛距離は、現在の装備で出すことのできる限界値とも呼べる数字だった。

 体のバネを活かした美しいフォームは、見ているものを惚れ惚れとさせるものがあった。


「いやいや。シルフィアの教え方が上手かったおかげだって」


 これ以上の力を込めて投げれば、竿先が負荷に耐えることができずに折れ曲がっていただろう。

 ただ単に相手の動きを模倣するだけではない。
 技術を身に着けた上で、常に改良を目指すことが近衛流體術の真髄だったのである。


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コメント

  • ノベルバユーザー208664

    面白い作品だけどいい加減設定繰り返されるとめんどいのだが

    9
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