異世界支配のスキルテイカー ~ ゼロから始める奴隷ハーレム ~

柑橘ゆすら

逆転のアイデア



 時折、発生する潮風が水面に細かい波を走らせている。
 悠斗とシルフィアは釣り糸を垂らしながらも、魚が釣り針にかかるのを待っていた。


「む。引いているみたいだな」


 魚の繊細な当たりを感じ取ったシルフィアは、一呼吸を置いた後、竿を上げて、釣り針を魚の口元に引っかける。


「おおー! スゲー! これで3匹目!」


 シルフィアが釣り上げたのは、20センチを優に超えようかという立派なサイズのアジであった。
 水着姿の美少女が大きな魚を釣り上げる姿は、非現実的で絵になるものがあった。


「私の方は問題ないが……。主君は苦戦をしているようだな」


 快調に魚を釣り上げるシルフィアとは対照的に、悠斗は未だに1匹も魚を釣り上げることができないでいた。


「う~ん。教えられた通りやっているつもりなんだけどなぁ」


 単に遠くまで仕掛けを飛ばすことができれば釣れるというわけではない。
 釣りというのは言語化の難しい知識、経験に加えて、時の運が重視されるのである。

 釣果に苦しんだ悠斗は、改めて釣りというレジャーの奥深さを痛感していた。


「おっ。ようやく俺の方にも当たりが……!」


 最初はゴミでも引っかけたのかと思ったが、それにしては様子がおかしい。
 注意深く釣り糸を引いてみると、海の中からはたしかな生物の気配を感じとることができた。

 大物の予感を嗅ぎ取った悠斗は、期待で胸を膨らませながらもリールを使って釣り糸を巻き取っていく。


「こ、これは……!?」


 海面に浮かできた生物は、悠斗にとっても馴染みの深い生物であった。


「タコか……! この辺りで釣れるのは珍しいな……!」


 悠斗が体長50センチくらいのマダコだった。
 サクラとの勝負の条件は『どちらが大物を釣り上げるか?』という一点のみであり、海で釣れるものであるのなら魚以外の生物でも問題がないルールだった。


「主君! タモが必要なら力を貸すぞ!」

「いや。大丈夫。これくらいなら……!」


 可能な限り他人の力を借りずに1人の力で釣り上げてみたい。
 確かな手応えを感じた悠斗は、タモを使わずに一気に獲物を引き上げる。

 だがしかし。
 この判断が迂闊だった。

 勢い良く仕掛けを引き上げた結果、引っかかっていた釣り針が外れ、巨大なタコは空高くに体が放り出されることになる。


「ひうっ!」 


 瞬間、信じられないことが起こった。
 空から落下したタコがシルフィアにぶつかり、襲い始めたのである。


(おお……! なんという絶景……!)


 ヌルヌルとしたタコの触手がシルフィアの身体の敏感な部分に伸びていく。
 水着姿の金髪美少女がタコと戯れている様子は、思わず絵画として残しておきたくなるようなエロさがあった。


「しゅ、主君……! 見ていないで早く助けてくれ……!」


 ヌメヌメとした触手に体を弄られて思うように力が入らない。
 思いがけないタイミングで触手に襲われたシルフィアは苦悶の声を漏らすのだった。


 ~~~~~~~~~~~~


 遅れてコツを掴んだ悠斗は、淡々と釣りをこなして行った。
 今のところは、悠斗が最初に釣り上げた50センチのマダコが最大サイズとなっていた。


「……恐れ入ったぞ! 一体どうやったらこの仕掛けでタコが釣れるのだ?」


 何時の間にか悠斗の周りには、絞めたばかりの新鮮なタコが山積みになって置かれていた。
 通常タコという生物は、それ専用の特殊な仕掛けを使用して釣り上げるものなのだが、何の因果か悠斗は通常の仕掛けで大量のタコを獲得していた。


「逆に聞きたい。そろそろタコ以外の生物を釣りたいのだが、どうやって釣ればいいんだよ……」


 同じ触手を操るもの同士で何か通じるものがあるのだろうか。
 どういうわけか悠斗の釣り針に普通の魚がかかることはなく、積み上げたタコの数だけが淡々と増えて行くことになった。


「……でもまぁ、この分だと俺たちの勝ちで間違いなさそうだな。見たところサクラは大した魚を釣っていないみたいだし」


 水深の深い沖の方に仕掛けを投げていく悠斗たちチームとは、対照的にサクラの釣り方は足元に釣り糸を垂らすだけの地味なものであった。

 釣れる魚のサイズというのは、水深に大きく影響されるものである。
 一般的により大きなサイズの魚を釣りたいのであれば、より水深の深いポイントを狙うのが定石とされていたのだった。


「主君。油断は禁物だぞ。おそらくサクラは何か企んでいる。このまま楽に勝たせてくれるはずが……」


 シルフィアが忠告を続けようとした直後だった。


「……む。この反応は!?」
 

 突如としてサクラの釣り竿が半月の形に大きくしなる。
 水面に浮かび上がった魚影は遠目に見ても凄まじく、何やら只事ではないことが起きていることだけは分かった。

 耳鳴りが起きるような鳴き声と共に1匹の魚モンスターの姿が露になった。


「キシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」


 バーサクシャーク 脅威LV8


 その全長は優に2メートルを超えているだろう。
 サクラは力任せに竿を振り上げ、バーサクシャークの巨体を一気に引き抜いた。


「な、なんだと……!?」


 絶対におかしい。
 バーサクシャークというモンスターは、別名『海の殺し屋』と呼ばれるほどに希少が荒く、食欲が旺盛なことで知られていた。

 今回の勝負は使用する釣具が全く同じものという条件で行われている。
 エサのイソメではここまで大きな魚をヒットさせるのは、絶対に不可能なはずであった。


「そうか……! 泳がせ釣りか……!」

「ご名答。流石はお嬢さまです」


 シルフィアの推測を聞いたサクラは、意味深な笑みを浮かべる。
 

「なんだ? 泳がせ釣りって?」

「簡単に言うと生きた小魚をエサにより大きな魚を釣る手法だ。すまない。主君。もう少し早く私が気付いていれば……」


 泳がせ釣りとは別名『わらしべ釣り』と呼ばれる、大きな魚を釣るのに適した釣り方である。

 サクラが序盤に足元で小魚を集めていたのは、全てこの瞬間を見越した準備だったのだろう。
 生きた小魚をエサにすれば、当然、イソメをエサとした時と比べて、釣れる魚のサイズはグッと大きくなるのである。


「ふふふ。そちらのチームの魚は貴方の下半身に似て短小ですね」

「グフッ……!」


 サクラに毒を吐かれた悠斗は、思いがけないところで精神的ダメージを受けていた。
 敵の言葉に惑わされて貴重な時間をロスするわけにはいかない。

 タイムリムットまでに残った時間は既に30分を切っている。

 今までと同じ方法で釣りをしていては、サクラの獲得したバーサクシャークのサイズの魚を釣り上げることは現状困難を極める。

 かといって同じ『泳がせ釣り』で対抗しようにも、エサとして使用できそうな活きの良い小魚は手元には残っていない。
 残り時間のことを考えると、エサとなる小魚を釣り上げるところから始めていては、絶望的な状況だった。


(……仕方がない。アレを試してみるしかないよな)


 悠斗は何も考えもなく釣り勝負という不利なテーマの戦いを引き受けたわけではなかった。
 いざとなれば高確率で勝利することのできる秘策があってのことだったのである。


「シルフィア。俺の水着に釣り針を引っかけてくれるか?」

「なっ。主君……? 突然何を言い出すのだ!?」

「いいから早く。もうそんなに時間が残っていないんだ!」


 状況は全く呑み込めないが、悠斗の作戦に従うより他に逆転の手はないことは、シルフィアも薄々と勘づいていた。
 シルフィアは釈然としない表情を浮かべながらも、悠斗の水着に釣り糸から伸びた針を引っかける。


「よし。そんじゃ、ちょっと行ってくるわ」


 次に悠斗が取った行動は、シルフィアはもちろん、隣で勝利を確信していたサクラの度肝を抜くものだった。
 水が入らないように鼻を摘んだ悠斗は、そのまま大きく跳躍をして海の中に飛び込んだのである。


「なっ」「えっ」


 あまりに唐突なことに開いた口が塞がらない。
 堤防の上に巻きあがった多量の水飛沫が、その場に残された2人の美少女の足元を濡らしていた。

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