異世界支配のスキルテイカー ~ ゼロから始める奴隷ハーレム ~

柑橘ゆすら

砦の攻防(南門編)

 一方、ところ変わってここは、ロードランド国境の南砦である。
 グレゴリーの命令を受けて、南砦を落とすべく戦地を訪れたのは、堀の深い顔立ちをした禿頭の男であった。

 男の名前はエストラ。

 セバス、リズベルに続く、グレゴリー配下の《三本槍》に数えられる1人である。
 戦闘能力においてはセバスに劣り、カリスマ性においてはリズベルに劣るが、エストラには指揮官として類まれなる才能があった。

 先の大戦においてエストラは、数々の奇策を仕掛けてロードランドの軍勢を苦しめた功績を有していたのである。


(なんだ……。この違和感……?)
 

 2万を超える軍勢を率いて、南砦に進行していたエストラは戸惑っていた。

 実のところロードランドにとって南砦は、最重要防衛地点と呼んでも差し支えのないものであった。
 万が一、この砦が落ちることになれば、他国からの補給が途絶えて、弱体化を余儀なくされることになる。

 そのことを知っていたからこそグレゴリーは、この南砦攻略に関しては自軍の最大戦力を送り込んでいたのである。

 だがしかし。
 一方の迎え撃つ側の南の砦には全く人の気配がない。

 まるで意図的に人払いをして、こちらの軍隊を誘い込んでいるかのような状況であった。
 

(いや。1人、いるな……)
 

 やや遅れてエストラは平原の中に1人の男が立っていることに気付く。

 身長はおよそ170センチ程度。
 中肉中背の体形をした、取り立てて何の特徴のない、何処にでもいそうな普通の少年だった。

 けれども、何故だろう。
 歴戦の戦士としての勘がエストラに最大限の警戒を以て戦うべきだと告げていた。


「坊主。死にたくなければそこを引け」

「…………」


 少年は無言だった。

 それどころか返事の替わりに僅かに口元を緩めて、笑みを零しているように見えた。

 少年に引く気がないことを悟ったエストラは、右手を上げて攻撃の合図を下す。


「撃ていっ!」


 エストラが命令を下したその直後、無数の銃弾が青年に向かって飛んでいく。

 目の前の少年が何者であろうとも関係がない。
 エストラには今回の南砦を絶対に攻略できるという確信があった。


(ふふふ。グレゴリー様から授かった銃弾はさぞ痛かろう)


 それというのも今回の遠征で自軍の兵士たちが持っている武器が、この世界の技術を超越したオーバーテクノロジーの兵器だったからである。

 現代日本と比較をして文明レベルの低い異世界トライワイドでは、戦闘の際には剣、刀と言った武器が未だに現役だった。

 魔力によって駆動する《魔銃》と呼ばれる兵器はあるのだが、こちらは大量生産が利かずに戦争のための武器としては適さない。

 一方、今回持参したマスケット銃は《黒色火薬》の力によって鉛玉を飛ばす、100パーセント科学の力によって作られたものである。

 グレゴリーは地球から持ち込んだ現代知識を駆使することによって、短期間のうちにマスケット銃の量産を可能にしていたのだった。


「撃ていっ! 撃ていっ!」


 銃弾が外れたと見るや否や、エストラは全戦力を注いで、最大級の弾幕を展開する。

 先頭に立った2千を超える兵士たちから放たれる銃弾は、横風に吹き付けられた雨のように少年の体に降り注いだ。 

 だがしかし。
 自らの勝利を確信していたエストラは、遅れて違和感を覚えることになる。


「バ、バカな……。何故だ……。何故、攻撃が当たらんのだ……」


 エストラは絶句していた。
 既に発射した銃弾の数は1万発を下らないだろう。

 何か特別な仕掛けによって回避しているようには思えない。

 どういうわけか銃弾の嵐は、少年の体をコンマ数ミリのところで外れ続けてしまうのである。


「答えは簡単だよ。オッチャン」


 弾幕の中を平然と歩きながらも少年は告げる。
 よくよく見ると少年の手の甲には《Ⅰ》の数字が刻まれているのが分かった。


「それはね。オレがこの物語の主人公だからさ」


 ニッコリと微笑む少年の名前はシンと言った。 
 それぞれが物語の主人公級の力を持つとされるナンバーズにおいて、【01】の地位を与えられた男である。


 主人公補正@レア度 詳細不明
(あらゆる逆境を跳ねのけて、幸運をものにする力)


 異世界転生時にシンに与えられた能力は《主人公補正》。 

 どんなに弾幕を展開されたところで関係がない。
 物語において『その他大勢』からの攻撃が主人公に命中することは、絶対にありえないからである。


「あはは。その驚いた顔。まさに典型的な噛ませ犬っていう感じだな」
 

 エストラが『お前は一体、何を言っているんだ?』と疑問の言葉を口にしようとした時には、既に彼の首はグルリと回転して、視界が暗闇の中に落ちていた。

 物語の主人公であるシンにとってエストラは、所詮『その他大勢のモブの1人』に過ぎない。
 
 勝敗の行方は、2人がこの世界に生まれ落ちた時点で決定されていたのであった。




(あとがき)

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