異世界モンスターブリーダー ~ チートはあるけど、のんびり育成しています ~

柑橘ゆすら

魔族の少女



 冒険の開始から3時間ほどが過ぎた。
 相変わらずに医薬草を自力で発見することは出来ないが、魔物の補充は順調に進んでいる。

 これまでに俺は追加で18匹のゴブリンを捕獲し、新しく合成素材にすることに成功した。

 途中に出会ったウルフに関しては、ゴブリンナイトを使って倒すことにしている。

 ウルフに関しては、ゴブリンと違って《魔物配合》のスキルを使って進化させることができない。

 最大で55匹までしか使役ができないわけだし、そろそろ枠のことを考えなければいけない時期だろう。


「はぁ~。アタシはもう疲れたわよ。ねえ、ソータ。いい加減に少し休憩しましょう?」


「そうしたいなら、お前は1人でボールの中に戻っていてくれ」

 アフロディーテが「気分転換にアタシもクエストを手伝っていい?」と言い始めたのでボールの中から出してみたものの――。

 このグータラ女神は、口を開けば不満ばかりだった。


「ゴブッ! ゴブゴブッ!」


 探索を始めてから気付いたのだが、探索に出した2匹のゴブリンナイトたちは何時の間にやら木の棒を拾って装備するようになっていた。

 どうやらこのゴブリンナイトという魔物は、武器を使って戦う習性があるらしい。

 武器か……。
 やっぱりそろそろ考えないといかないよな。

 何時までも木の棒を装備させている訳にもいかないだろうし、ゴブリンナイトたちにも武器を新調させてやりたいところである。



「ソータ!? あそこの木の上に誰かいるわ!」



 探索を開始して更に1時間が過ぎた時。
 突如としてアフロディーテが真剣な口調で声を上げる。

 おそらく崖から転げ落ちてしまったのだろう。
 彼女が指を差す方向を見てみると、大きな樹木の上に人影を確認することができた。

 よくよく注意してみると、その人影はメイド服を身に着けた女の子のようにも見える。


「…………ッ!」


 すかさず俺は木に登り、少女の体が引っかかっていた枝先にまで移動する。
 彼女の体を抱きかかえると、枝先を折らないようにゆっくりと着地する。


 キャロライナ・バートン
 性別:女
 種族:吸血鬼
 年齢:318
 状態:衰弱

 衰弱
(対象のステータスを下げる状態異常)


 鑑定スキルによると、銀髪の少女の名前はキャロライナというらしい。

 外見的には10代前半にしか見えない容姿をしているのだが、年齢は驚きの318歳。

 気を失って両目は閉じられているが、それでもキャロライナの目鼻立ちが整っていることは分かった。


「この子、魔族ね」


 キャロライナの姿を見た途端。
 アフロディーテはおもむろに呟いた。

「魔族って何だ?」

「魔族って言うのは、今から300年前。アーテルハイドに君臨していた魔王の味方をしていた種族の総称よ。強大な力を持った魔族は、アタシたち神族の存在を脅かしていた時期があったらしいわ」

「……なるほど。で、どうしてその魔族っていうのがこんな森の中にいるんだ?」

「それは分からない。魔王が滅びた後は、魔族たちはすっかり力を失って人間たちに隠れて生活をしていると聞いていたわ」

「…………」


「それにしても酷い出血ね。生きているのが奇跡的なくらい。放っておくと、1時間もしない内に死んでしまうのではないかしら?」


 アフロディーテの言う通り。
 キャロライナの出血は凄惨なものであった。

 崖から転げ落ちらときの擦り傷も酷いが、誰かに襲われたのだろう。
 彼女の背中には弓矢が刺さっていた。

「そんなことって……。なあ、お前の力でどうにかならないのかよ!?」

「無理ね。以前のアタシならこれくらいの傷は回復魔法で癒すことが出来たのだけど……見ての通りにステータスが下がっていて魔法の類は一切使うことができないもの」

 偶然にも木の上に引っ掛かったことは、彼女にとって不幸中の幸いだったのだろう。

 もし仮に――。
 彼女の体が地面に落下していたら今頃は、ウルフのような肉食の魔物の餌になっていたに違いない。

「だけど、奇妙な巡り合わせもあるものね。彼女を助ける方法が1つだけあるわ」

「……本当か!?」

「ええ。ボールの中に入っていると、強力なヒーリング効果を得られるという話は以前にしたじゃない? 本当なら魔物使いが吸血鬼を使役することなんて出来ないのだけど……ソータの持っている《絶対支配》のスキルがあれば彼女を助けることが出来るわ!」

「なるほど。その手があったか!」

 アフロディーテのアイデアを聞いた俺は迷わなかった。

 見ず知らずの女の子を使役してしまうことに対する罪悪感が全くないわけではない。

 けれども。
 このまま彼女を見殺しにすることなんて更に出来るはずのないことであった。

 俺の投げたカプセルボールは突如として眩いばかりに発光して、キャロライナの体を吸い込んでい行く。

 無事に契約が完了されたのだろう。
 俺のステータス画面には新たにキャロライナの名前が表示されていた。


 カゼハヤ・ソータ

 職業 魔物使い
 レベル 557
 生命力 252
 筋力値 95 
 魔力値 200
 精神力 2898


 加護
 絶対支配 

 スキル
 カプセルボール 鑑定眼 魔物配合

 使役 
 アフロディーテ
 キャロライナ・バートン
 ゴブリンナイト ×15
 ウルフ ×5


 正直に言って1から10まで状況は全く飲み込めない。

 彼女は一体何者なのだろう?
 どうして背中に弓を射られるような状況に陥ってしまったのだろうか?

 けれども。
 かくはともあれ、この台詞だけは言うことが出来るだろう。

 吸血鬼の美少女! ゲットだぜ!


●使役魔物データ

 キャロライナ・バートン

 種族 吸血鬼
 レベル 173
 生命力 433
 筋力値 310
 魔力値 388 
 精神力 357

 スキル
 火属性魔法(上級) 風属性魔法(上級) 水属性魔法(上級)闇属性魔法(上級)

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